ほわほわとした顔で受付に座るナナリーを見つけたロックマンが壁ドンする話です。
ロクナナは婚約済、体の関係になっています。ギリギリR18にならない程度にはエッチです。
聞こえてくるのは波の音。
柔らかな白砂の上に水色の髪が散らばり、遠い夜空には丸い月が輝いている。
金糸が胸を撫でるのがくすぐったい。月の女神が丹精込めて作り上げた彫刻のような美しい肢体から汗が滴り落ちる。月明かりに縁取られた陰影が揺れ、瞳だけが魔力をはらんで
荒い吐息とともに、うわ言のように彼は何度も私の名前を囁く。その声は少しかすれていて、とろけるように甘かった。
* * * * *
「────!!」
ナナリーはパチッと目を覚ますと飛び起きた。あわてて周りを確認すれば、女子寮の自室の寝台であることがわかった。一人用の寝台に、独りで寝ている。ちゃんと寝間着も着ている。
…………恥ずかしい夢を見てしまった!!
真っ赤になった顔を両手で覆って布団の上をゴロゴロと転がった。なんて破廉恥な夢を見てしまったのだろう。もしかして欲求不満というやつだろうか。
……ただの夢ならまだマシだったかもしれない。そう、ただの夢や妄想ではないのだ。二週間ほど前にアルウェスと二人で旅行に行ったときに実際に起きたことが夢に出てきた。
水色の髪を優しく
──僕が月なら、君は太陽。
寝台に転がったまま枕をぎゅっと抱きしめて、朝日が降り注ぐ窓を見上げる。洗濯したばかりの枕カバーからはお日様の匂いがする。ボフッと枕に顔を埋めた。
旅行の後アルウェスは遠征に行ってしまい、まだ帰ってこない。
「太陽はあんたでしょ……」
呟く声はどこか切なさを含んで、枕に小さな染みを作った。
◇ ◇ ◇
「ナナリー、熱でもあるの? 風邪引いてるんじゃない?」
この言葉を聞くのは何度目だろうか。特に体調は悪くないのに、ハーレの同僚から、受付に来る破魔士から、果ては騎士団のニケからも心配されてしまった。
「別に、熱もないし、風邪も引いてないわよ」
「でも、顔は赤いし、目元が潤んでるわ」
「体調は悪くないのよ? そんなに酷い顔してるのかな?」
ナナリーは頬に手を当てて首を傾げた。ニケとゾゾさんが顔を見合わせている。
「はっきり言って目の毒なのよね……」
ハァーとゾゾさんが溜息を吐き、ニケが頷いた。カウンター越しにニケが身を乗り出し、声を潜めて囁いた。
「殿下からの伝言よ。隊長は今日の午後には帰って来るんですって。なるべく早くハーレに向かわせるから、予定を空けておいてほしいって」
「え?」
「じゃあね、伝えたわよ」
にっこり笑って、ニケはハーレを出ていった。
「決まりね。ナナリー、
「は? お迎え? 体調も悪くないのに早退なんてできません」
「いいから、ちゃんと治るまで三日くらい休みなさい」
「そんな、今月はすでに休みを頂いたのに、そんなことできません」
「元々の休日に加えて二日休んだだけでしょ? 気にしなくて大丈夫よ。ナナリーはもっと休むべきだわ」
ゾゾさんが腕を組んで真顔で言う。おまけに休憩はハーレの裏庭で取るように厳命され、お昼ご飯も買ってきてくれた。まるで病人扱いだ。そんなに熱があるように見えるのだろうか?
今朝起きたときは変な夢を見たせいで顔が赤くなったりしたが、体調は至って普通だ。ニケから殿下の伝言を聞いたときは少し動揺してしまったけど。
……午後には帰ってくるのか。何かご飯でも作ってあげようかな。
「やっぱり熱があるでしょう」
「ゾゾさん?」
「仕事中にそんなにふわふわした顔するなんてナナリーらしくないわ。本当はすぐ帰らせたいところだけど、お迎えが来るまで待ったほうが安心ね」
パッと氷を出して頬を冷やす。ゾゾさんはやれやれと呆れたように息を吐き出した。仕事中だと言うのに緩んだ顔をしていたようだ。これは私的なことを考えてしまった自分が悪い。
「すみません! 気が抜けてました!」
「ナ、ナナリー?」
両頬がキンキンするほど氷で冷やし、気合を入れ直して仕事に向き直る。書類をさばき、いつも以上に丁寧に依頼人や破魔士に対応し、気がつけば窓の外は茜色に染まっていた。
ハーレの扉を開ける音がして、突如歓声が上がる。何事かと扉を見遣れば、人混みの向こうに頭ひとつ飛び出した金髪がいた。
一瞬目が合ったような気がしたが、ナナリーはすぐに仕事に意識を戻した。もうすぐ引き継ぎの時間である。今対応している破魔士の案件が終われば交代だ。
きゃあきゃあと騒ぐ黄色い声が受付にまで聞こえてくる。黒い騎士団のローブの周りを色とりどりの服装をした女性たちが取り囲んでいる。
集中、集中と自分に言い聞かせながら書類をまとめ、引き継ぎに不備がないかもう一度確認する。
「ナナリー」
「ナナリー?」
こんなところで名前を呼ばないでほしい。夢の中にまで出てきたあの声と重なってしまう。
ナナリーはそろそろと顔を上げる。このときばかりは頬が赤く染まっていることを自覚せずにはいられなかった。
艷やかな金糸が揺れ、炎のような瞳が驚きで見開かれる。ナナリーの顔よりも大きな手が
「いだっ!」
「……熱があるね」
「いだいってば!! 熱なんてないし!」
「無理して倒れたら職場に余計に面倒かけるんだよ? 大人なのに体調管理もできないのかな、受付のお姉さんは」
「ちょっ、離してよ! 熱なんてないって言ってるでしょ!?」
「すみません、パラスタさん。この病人を帰らせたいのですが」
「ええ、お願いするわ。もう交代の時間だし、治るまで休ませるよう所長の許可が下りてるわ」
アルウェスとゾゾさんの間で勝手に話が進んでいく。ギリギリと顔を掴んでいた手が離れ、痛む頬を揉んでいるナナリーをゾゾさんが受付から押し出した。いつの間にかアルウェスがナナリーの荷物を持っていて、当たり前のようにハーレの裏口へ向かっている。
ナナリーの手首を掴む手は温かいのに、無言のアルウェスが纏う空気は冷たい。扉を開けてもらうときにチラッと顔を見上げると、一瞬だけ目が合って、スッと細めた目を逸らされる。
ハーレの裏庭でアルウェスは金の杖を出し、魔法陣から放たれる光に包まれたナナリーは、瞬きをする間にロックマン公爵邸に来ていた。
◇ ◇ ◇
肩を抱くなんて可愛いものじゃない。指が食い込むくらいに肩を掴まれて、アルウェスの部屋まで連行される。
まるでナナリーを隠すように屋敷内を移動するアルウェスに腹が立った。転移魔法で突然現れたナナリーたちを迎えてくれた執事さんにもろくな挨拶ができなかった。
「ね、ねぇ、遠征から帰ってきたばかりなんでしょ? 家族に顔を見せるとかしないの?」
「病人は黙って」
「病人じゃないわよ!」
「うるさい」
ナナリーを部屋に押し込み、アルウェスが後ろ手に扉を閉めて鍵をかける。ようやく肩から手を離したと思えば、ナナリーに向き直り、勢いよく両手を扉に突いた。ナナリーの顔の横に手の平が叩きつけられる。廊下にも聞こえそうなくらい大きな音がした。ナナリーの肩がビクッと跳ねてしまう。
これはあれだ、条件反射で体が動いただけだ。決して怖いとかではない。断じてない。
アルウェスを見上げれば、
「君、それで睨んでるつもりなの?」
「何よ、それ?」
「……まったく、なんて顔してるんだか」
「変な顔で悪かったわね」
「……そうじゃないよ」
アルウェスの顔が近づいてくる。晴れた日に干したふかふかのお布団のような、暖かな香りがナナリーの鼻腔を抜けていく。深く息を吸い込めば、肩の力が抜けて眉間の皺がほぐれた。
金色の前髪が鼻の頭をくすぐり、額と額がぶつかった。ナナリーよりも高めのアルウェスの体温が伝わってきて、ふわっと頬が緩んでしまう。
アルウェスの喉仏が上下して息を呑む音が聞こえた。
「熱はないでしょ? アルウェスのほうが体温は高いじゃない」
「そんなのわかってるよ。だからなおさら
何を言っているのかよくわからない。むむっと唇を尖らせるとチュッと音を立ててアルウェスの唇が触れた。
「は……?」
トン、と背中が扉に当たる。顎を掬い上げられて、覆いかぶさるように唇を重ねられる。
少し乾燥したアルウェスの唇。遠征帰りのせいだろうか、などと頭の片隅で考えられたのは最初だけ。何度も角度を変えて唇を吸い上げるアルウェスにナナリーは翻弄されてしまう。
「……ん……ぁ…………」
ナナリーの吐息が漏れれば
不意にアルウェスの舌が止まり、唾液に濡れた唇が離れていった。ナナリーは黒い騎士団のローブの袖を掴んだ。
「わかってないでしょ? 僕がハーレに着いたときからこんな顔をしてたんだよ?」
「こんな顔……って……?」
「僕を欲しがってる顔」
「え……?」
「僕とこういうことしてるときの顔」
「まさか……」
「どんな顔かはわかってるみたいだね」
ナナリーの頬が熱くなる。アルウェスは苛立ちと欲を含んだ眼差しでナナリーを見つめ、また顔を近づけてきた。無意識に目を瞑ったナナリーの唇を奪い、口内をアルウェスの熱い舌が愛撫する。歯列をなぞられ、上顎を
手で頭と顎を固定され、執拗にアルウェスの舌がナナリーの口内を擦り上げる。
頭が白くなって何も考えられなくなる。ぼんやりとした意識の中、ナナリーからもアルウェスの舌に擦り合わせて、濃厚な口付けはどんどん深まっていく。
「……んっ……ふっ…………んちゅ………」
お腹の奥がきゅんと疼いて、とろりと滲み出る感覚に腰の力が抜けてしまう。ローブの袖を掴んでいた手に力を込めるとアルウェスがナナリーの腰を支えてくれた。
いつまでも続く口付けにとろとろに溶かされて、与えられる快楽を味わった。
透明な糸を引きながらアルウェスの舌が引き抜かれる。アルウェスが自分の唇をぺろりと舐めて、荒い呼吸を繰り返すナナリーの口の
「いつから? いつからこんな感じなの? まさか僕が遠征に行ってからずっとじゃないよね?」
「ちがう……」
口付けの余韻でまだ足元がおぼつかないナナリーはアルウェスの胸に寄りかかっていた。その頬に手を添えて、額に、頬に、瞼に、顔中にアルウェスが口付けを落としていった。
「こんな顔でハーレの受付に座っていたの?」
「だから、ちがうの……」
「なにが違うの?」
大きな手が水色の前髪をかき上げる。火照った顔がアルウェスの眼前に晒された。
「ねえ? ナナリー?」
触れるだけの口付けは続いている。口付けは優しいのに、紡ぎ出されるのはナナリーをなじる言葉ばかり。
「こんな顔をしていたら男がどんな気持ちになるか、わかってる?」
何か言い返さなきゃと思うのに、頭の芯が痺れて考えがまとまらない。
「ゆ……夢よ、夢! 今朝、変な夢を見たの……! それを思い出して……」
「夢?」
首を傾げるアルウェスにこくこくと頷いた。
「どんな夢?」
夢の内容を思い出し、カーッと顔に血が上る。
「僕が関係しているのかな?」
パッと顔を背ける。しかし、すぐに己のしくじりを悟った。これでは肯定したも同然ではないか。
「ふふ、そっか」
ナナリーの顎を撫でながらアルウェスが愉快そうに喉を鳴らす。弓なりに細めた
「だったら期待に応えなきゃね」
耳元に吐息がかかり、甘い声音で囁かれた。艶めいた低音が
ナナリーは腕を伸ばしてアルウェスの背に縋りつき、広くて温かい胸に頬をすり寄せた。