喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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始めました、茶番。


一話「Easy does it」
リコリスの盾、ご主人様との出会い


 

 

 これから、ある少女の家を襲撃する。

 そんな任務を請けて、俺と仲間は目的地の目前まで迫っていた。夜の深まった暗闇の中を音もなく移動しながら、人に見られたら即通報物の怪しさで入口前に集合する。

 仲間の一人が扉のピッキングを始めた。

 全員、マスク越しに緊張した面持ちなのが分かる。

 

 ……いや、気持ちはわかるよ?

 これから女の子の家に入るんだもんね。

 

 しかし、ただの女児ではない。

 去年の電波塔事件でテロリストを単身で制圧したバケモノだと聞いている。

 そんな眉唾ものが存在するか?

 正直、俺も仲間も半信半疑だ。

 女の子を襲うという任務内容――相手があのリコリスとはいえ――に若干の疑問視もある。それに、自宅ですよ。

 

「開いたぞ」

「仕事辞めたい」

 

 仲間の一人が解錠の完了を伝える。

 全員が拳銃を構えて、扉の隙間へと身を滑らせた。

 最後尾から俺も屋内へと侵入する。

 

「突入!」

 

 さあ、寝込みを襲いにきました!

 大人しく死になさい!!

 

「…………何だ、これは」

 

 意気込んで突入した先で、俺たちは立ち尽くす。

 入念な事前調査で、この家である事は特定した。間違いなんて事は絶対にない。

 なのに……目の前の光景はそれを疑わせる。

 生活感の無い、まるで普段から証拠を残すまいと本格派な殺し屋がやっているような何も無い部屋がそこにあった。

 てっきり、そこでグースカ寝ている女の子がいると思って鼻息荒く土足で踏み入った俺たちは唖然とする他なかった。

 

 部屋を見渡して、思考する。

 ………ふつーに部屋間違えたかな?

 

「おい、目標がいないぞ」

「何処だ一体」

 

 敵の不在に慌て始める仲間を他所に、あらゆる可能性について考察した。

 ここに出入りする目標の生活は確認済み。

 平均就寝時間も外窓から計算が完了している。

 目標はいない、けれど今日もここへ帰宅する姿は確認している。

 何も無い部屋。

 

 …………あれ、これってもしかして。

 

 

「おい!みんな、これはダミー――――!」

 

 

 俺は急いで気づいた可能性を皆に伝達しようと叫ぶ。

 その眼前で――仲間が頭から赤い煙を噴いて吹っ飛んだ。

 え、死ん??

 倒れる一人を見て、一同が混乱に陥る最中に発砲音が連続する。

 一人、また一人と体の一部から赤い粉を吹いて倒れた。

 ええええええええええ!?

 

「うひゃあッッ!?」

 

 慌てて屈むと、俺の頭があった位置の壁で赤い煙が舞う。

 これ、非殺傷弾!?

 

「おおう、やるねぇ〜」

 

 この場に似合わない間延びした声に俺は振り返る。

 そこにやや金を帯びたような色素の薄い髪色の少女が立っていた。

 あ!!

 コイツ目標じゃん!

 

「待て、落ち着け!」

「えー、人の家に不法侵入しといて?」

「お、俺たちはただオマエを殺しに来ただけだ!!他意はないんだよ!」

「なら問答無用!」

 

 少女が容赦なく発砲を再開した。

 俺はその場から走って弾丸を回避する。普段から掃除もしていないのか、埃被ったフローリングは滑りやすい。

 いや、それよりも!

 コイツ、未来でも視えているかのように俺が次に動く方向へ次々と照準を合わせて弾ブチ込んで来る上に、何か狭い室内でも追走して来るんですけど!?

 

「だから嫌だったんだよ、女の子の寝込みを襲うとか!!」

「ふははは、既に未遂では済んでいないのだよ!大人しくお縄にかかれい!」

「このガキ余裕だなクソ!?」

 

 ええい、やられっ放しは癪だ!

 コイツでも喰らえ!――俺は振り向きざまに拳銃を構えて三発ほど発砲した。

 彼女との距離は二歩分。

 それも不意打ちな上に、狙いは良い!

 これなら躱せるわけが………

 

 

「何で避けられるの!?バカじゃん!?」

 

 

 涼しい顔で少女が弾丸を躱す。

 うおおおおおおい、オマエ世界線間違えて生まれてきたタイプの人間か!?この世にはそういう事ができる人間はいたらアウトなタイプなんだよ!

 

「はい、残念っ」

 

 少女が内懐へと踏み込んで来る。

 小柄な上に速い!

 運動能力も年齢の割に段違いかよ!

 踏み込むと同時に肘鉄を俺の胸めがけて叩き込もうと少女が体を更に押し込んで来る。

 ――が。

 

「だがな、それは愚策だ!」

「おっ?」

 

 俺は少女の肘を掌で受け止めた。

 そのまま握力任せに捕まえて動きを止める。

 さあ、お縄にかける前にご臨終しやがれ!

 

「年上の男の子の力を甘く見るな!」

「どうかな」

 

 少女の眉間に銃口を押し当てる。

 

 

 流石にこの距離じゃ躱せ―――ごぼばびぶべっ!!!?

 

「逆に何で撃たれないと思ったの」

 

 少女の呆れるような声を聞きつつ、俺は後ろに飛んだ。

 いいい痛ぇえええええええ!!

 非殺傷弾ってこんなに痛いの!?

 

「ぐぐぐ、やりやがったな」

「え、六発も叩き込んだのに気絶しないの凄いね」

「男の子だからな!?」

 

 ほぼ根拠になってない反駁をしつつ、俺はちらりと周囲を見渡す。

 倒れた仲間が復活する素振りは無い。

 この状況、そして少女の戦闘力からして勝機は皆無だ。というかハウスダストすごくてさっきからクシャミを我慢しているので集中も出来ない。

 

 ………頃合いか。

 

 俺は拳銃を床に置いて、その場で両手を挙げる。

 

「降参だ」

「あれ、良いの?」

「俺の事は好きにしてくれていい。その代わり、仲間たちは逃してくれ――頼む」

「あなた達って、リリベル?」

「いや、単に裏社会で賞金懸かってる君の首を求めたヤツに雇われた小会社の殺し屋です」

「……にしては、若くない?」

「わかる?今年で十四なのよ」

 

 少女はつぶらな瞳をパチクリとさせる。

 

「何で働いてるの?」

「孤児だった時に拾われたんだ。まあ、その会社の子飼いってやつ。でも結構ブラックというより上司がクソ中のクソだから……今回の任務失敗だけでもクビ飛ぶ」

「…………」

 

 そう。

 俺はこれまで会社に貢献してきた。

 任された仕事は全て上司が満足する形で遂行した。

 だが、一度の失敗ですらアンチクショウな目に遭う。最悪はクビと称して秘密裏に処理されるなんていう事もザラにあるのだ。

 俺は別にいいよ。

 戸籍も無いくらいにロクでなしに拾われたから、死んだところで社会的な影響は無い。

 でも。

 

「た、頼む。俺は良いけど仲間はやっと成人したばっかりで、人生これからなんだ!特にそこに転がってるのは、恋人持ちなんだよ!かなりの陰キャだけど念願叶ったばっかなんだ!」

「………」

「そ、そうだ!俺が実はアンタに内通してて任務を失敗させたってのはどうだ!?そうすれば仲間は責任取らなくて済むし、死ぬのは俺だけだ!俺も会社の情報をアンタに売る、だから、頼む!」

 

 

 仲間は悪くない。

 これからの人生がある。

 倒れた内の二人は、俺に仕事を教えてくれた恩人だ。もう二人は趣味の遭う友だちで、片方が恋人ができた日に喜びを分かち合って泣きながらお祝いした仲なのだ。

 

「本当に頼む、俺はどうなっても――」

「いいよ」

「………え?」

 

 少女が銃を下ろして、俺を見つめていた。

 腰を折って、ぐいと顔を近づける。

 こわ、至近距離で見る赤い瞳怖。

 

「ほ、ホントか?」

「うん。じゃあ、今回の一件は君が内通者。仲間には後でそう伝えてね?」

「た、助かる!悪魔とかバケモノとか怖いタイプの座敷童子とか思ってて悪かった!アンタは天使だ!」

「ああん?もう三発ブチ込んだろか己ェ」

 

 怖い、性格も悪い。

 

「なら、俺は……出頭するか、不法侵入と銃刀法違反、殺人未遂もしたな」

 

 常識的な状況ではないけど、常識で考えたらマズイ事ばかりしている。

 まあ、拘置所内なら流石に会社の手も届かない。

 刑期が終わった後で殺されるだろうけど。

 

「あ、それなんだけど」

 

 ふふ、と俺がこれからの人生に想いを馳せていたら少女から声がかかる。

 何だよ、今いいところなんだよ。

 

 

「実はさ、ウチも人手不足なんだ。良かったら来ない?」

「嫌です」

 

 

 差し伸べられた少女の手に、俺は全力で首を横に振る。

 誰がこんなバケモノと一緒に働けるか。

 日に四回は死ねるわ。

 いや、というよりリコリスって女の子しかいないって聞いた覚えがあるんだけど。俺とか完全に対象外じゃん、性別制限で門前払いどころかゴミ箱行きじゃん。

 

 ……とか考えていたら、眉間に銃口が押し当てられていた。

 

「ゴメン、拒否権無いんだよね」

「あ、ハイ」

「よし!今日から君はリコリコの奴隷だね!」

「ど、奴隷!?君、その歳でどこからそんな言葉覚えたの!?扱いとしては仕方ないけどアンタの教育どうなってんの!?」

「映画です」

「そういうの年齢制限ありませんでしたっけ!?」

 

 

 

 そんなこんなで、俺はこの日――六歳も年下の女の子の奴隷になりました。

 軽く死にたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………九年後。

 

 東京のとある場所で、俺は喫茶店の窓を清掃していた。

 ステンドグラスって綺麗だな。

 毎日磨いてきただけあって愛着もある。

 

 さて、今日も一日が始まるのだな。

 俺は雑巾を片手に、よしと頷いた。

 

「あ、お勤めご苦労さまでーす」

「じゃかあしぃ!!ぶっ殺すぞご主人様!!」

「おいおい、そんな口を利いて良いのかキミィ。また荷物持ちにしてモール内を引きずり回すよ」

「おはようございます、千束先輩!」

 

 俺は腰を直角に折って挨拶した。

 それを受けた遅刻気味出勤の先輩である少女――錦木千束が満足げに頷く。

 あの頃から随分と大きくなったものだ。

 成長しても残念な性格なのが珠に疵だがな。

 

 

「今日も元気に行こうか、テン!」

 

 

 そう少女に言われて、俺――藤宮天は元気よく返事を返すしかなかった。

 いつかここも辞めてやるゥ!!

 

 

 

 

 

 

 




高評価なら続きます、多分。
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