喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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大天使たきなエル

 

 

 

 

 

 ???side

 

 

 

「うぎっ!?」

 

 鉄拳が頬を掠めていく。

 直撃したら顔面が凹むどころじゃねえな。

 後ろへと飛び退き、ひたすら距離を広げる。それでも詰めてくる――どんな体の使い方をしてるか知らねえが、数歩分の距離を一歩で詰めて来る独特の歩法は明らかに何かの拳法の一種だ。

 捻り出された肘先が、オレの首めがけて唸る。

 

「っぶねえな」

 

 転倒覚悟で後ろにジャンプし、それも回避した。

 四歩分の距離を置いて対峙する。

 オレは片腕が砕けて動かねえ。幸いにも胴体まで破壊力は浸透してないようだ。 

 非常灯の光がある以上、暗闇に紛れてってのは難しそうだな。

 武装は、銃一丁。

 だが、ヤツの体が硬ェ。

 額がブチ抜けないとなると、他の箇所も微妙だな。

 人間どれだけ鍛えようがあそこまではならねぇ。

 

 つまり、生来の強度、唯一の体か。

 基本的に別の生物って考えた方が良いな。

 

 だが、ある程度は人間共通の弱点も有効か。

 少なくとも眼球、網膜までは常人だろ。

 他にも考えうる上での急所の内で銃弾が貫けそうなところは幾つか思いつく。

 

 後は――コイツに距離を詰めさせねえ事か。

 だが、負傷したオレの機動力じゃ望み薄だな。

 

「あまり肉弾戦は得意じゃないんだけど……な!」

「嘘つけ」

 

 バケモノが前へと飛び出す。

 超低姿勢で両腕を開帳し、突進して来る。

 タックルか……たしかに、その上背と腕でこの距離を迫られたら逃げるのは難しい。

 だが――!

 

「よっ!」

 

 オレはバケモノに向けて上に飛び上がる。

 そのまま体を宙で畳み、下を通過していくヤツの背中に銃を持つ手を突いた。

 このまま前へと体を回して、背後に着地すれば――死角を取れる!

 そこで銃をぶっ放す。

 まずは脊髄、もしくは足の膕か踵の骨だ!

 至近距離から銃口を押し当てた状態で後頭部を撃ち抜くのもいい。どれだけ硬くともゼロ距離じゃ無事で済むワケが無ぇ!

 

 その未来予想図通りに事を運ぼうとしたが、オレの体に抵抗感がかかる。

 バケモノの片手が、オレのコートの裾を掴んでいた。

 そのまま身を翻し、拳を振りかぶっている。

 

 やべ………!

 

「ふんッッ!!」

「かっ!?」

 

 バケモノの拳が腹部に突き刺さった。

 めりめりと、腹筋を捻るような音がする。

 肺の奥から強制的に空気を絞り出されたみてえな苦しさを覚え、そのまま威力に圧されて殴り飛ばされた。

 硬い鉄の線路の上を跳ね回る。

 反射神経も並みじゃねえ。

 くそ、ホントに人間かよ……!

 

 仰向けに倒れて、どうにか止まれた。

 呼吸が、しづらい。

 体が重くなったように痺れて動けない。

 

「けほっ、かはっ……!?」

 

 見上げた天井を背に、バケモノが足を振り上げていた。

 やべ、踏み潰される。

 慌てて横に転がると、俺の肩があった過去位置に足が強かに踏み下ろされた。

 オレはバケモノの体を蹴って離れる。

 とにかく、距離を稼ぐ。

 呼吸を整えなきゃ何も出来ねぇ。

 

 というか、いま蹴った感触が……まるで鉄筋コンクリートの壁を叩いたような感触だった。

 

 

「撃たせるかよ」

 

 

 立ち上がって銃を構えるオレの腕が掴まれた。

 そのままバケモノが懐へと入り込んで来る。

 速い……!

 防ぐ暇もなく、顎を強烈な右フックの拳で撃ち抜された。

 

 やべ、脳が揺れる……!

 

 ぐらつく視界の中、ヤツが更に腰を落とし、オレの胸面に右肩をそのまま叩きつける動作が見えた。

 ドン、と凄まじい衝撃が胸部で爆ぜる。

 オレの体はボールみたいに後ろへと飛び、支柱に背中を叩きつけられた。

 

「がっ!!」

 

 コイツ、得意じゃねえとか言っときながらコレかよ!!

 

 こりゃ複数の拳法もかじってやがんな。

 分が悪いとは思ってたが予想以上だ。

 

「逃さん!」

「ぐはっ、ごほっ……クソったれ!?」

 

 ヤツが飛びながら回し蹴りを繰り出す。

 柱に凭れていた体が滑り、唸りを上げて鎌さながらの鋭さを持った蹴り足がオレの頭上を擦過する。

 髪が何本か切り落とされて宙を舞う。

 マジか、危ねー!

 

 間髪入れず突き足が繰り出された。

 オレはそのまま横へと転がり、ヤツの攻撃圏から逃れる。

 頭のあった位置の壁にヤツの足が軽くめり込んでいた。

 オイオイ。

 何処の世界の住人だよ、生物としてバランス取れてんのかよ。

 よたよたと走って距離を取り、立ち止まる。

 バケモノもこちらを見たまま止まっていた。

 

 完全に詰みだな。

 武装の問題もあるが、現状では刃が立たない。

 体を調べれば、おそらく肋もイってる。

 さっきの右フックで軽い脳震盪を催し、三半規管がまだ回復しねえ。オレの『強み』が活かせない状態じゃ、まず勝てない。

 敵に変な絡繰は無し。

 

 純然たる――生物としての強度に負けている。

 

「へへっ、すげーな」

「…………」

「面白いよ、オマエら。日本での仕事が楽しみになってきたが……まずはここを生き残らねぇとな?」

「安心しろ。殺すつもりは無い」

「ハッ、調子良いぜ」

 

 オレは銃を構える。

 ヤツも交差した両腕を面前に掲げる。

 

 

「「………………」」

 

 

 一瞬の静寂の後、バケモノが飛び出した。

 オレも引き金にかけた指を動かす。

 

「なっ!?」

「ああ?」

 

 その時、天井が再び崩落し、新たな瓦礫がオレ達の間に落下した。

 先を遮られてバケモノが立ち止まる。

 そのまま崩壊は続き、超えられない壁として堆積した。

 

 ………どうやら、潮時か。

 

 オレは銃をホルダーに収納し、ヤツのいる方へ背中を向けて歩き出す。

 

「また会う事もあんだろ。――じゃあな?」

「待て!!」

 

 向こう側から声がするが、今はこれ以上の戦闘は不要だ。

 認めよう、今回は敗けだ。

 だが、おまえの力は理解した。

 次だ、次こそ必ず殺す。

 

 

「くくくっ、楽しみだな」

 

 

 少しだけ、この国での仕事に興味が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 翌日。

 

 回収班に合流し、俺はDAに状況を報告した。

 その間の記憶は、正直無かった。

 ただ襲撃した首謀者らしき男の人相書きを頼まれたが、生憎と絵が下手なもので再現できなかったし、代行して貰っても似てはいなかった。

 あれから、追跡もままならないという。

 

 それにしても、アイツは手強いな。

 あれだけ拳を回避されたの初めてだ。

 アマのテロリストじゃない、相当に場数も踏んで相応の修羅場も潜り抜けている。

 腕を砕こうが肋を折ろうが怯まなかった。

 窮地にありながら顔に貼り付いた笑みが消えないところを見るに、生半な手段じゃ止められないだろう。

 リコリスじゃ、勝てない。

 

 だから俺の指揮で――何人も殺した。殺された。

 

 遺体から、リコリスも全員が即死だったらしい。

 その残酷な現実だけが残る。

 最悪だ、ホントに。

 店長には休んでいいと言われたが、セーフハウスで同じ千束に普段と違うことをして勘付かれるのも危ういし、俺もリコリコの仕事で気を紛らわせたい。

 そうじゃないと……しんどい。

 

 リコリコの明るい空気で、俺の気分も晴れてくれたら――。

 

 

 

『ぎゃあああああああ破廉恥ィィイイイイイイ!!!!!?』

 

 

 

 うるッッせえええええええええええええええ!!!!

 

 人がナイーブになってんのに、やかましいわ!

 悟らせないようにしてるとはいえ、少しは気遣えや呑んだくれ!?

 ミズキさんの悲鳴に内心で悪態をついてしまった。

 いけない、いけない。

 人に当たるなんて断じて。

 

「オマエ、とうとうやったな!?」

「違う違う違う違う違う!」

「遂に天のヤツと一線を超えたな!ならこのパンツは何なのよ!」

 

 千束とミズキさんが何やら揉めている。

 更衣室の入り口で二人は格闘していた。

 客もいるのに店中に響いているのでヤメテ欲しいのだが、コイツらは本当に喫茶店員としての心構えを疑う。

 止めるべきだな。

 

「天さん、昨日はお疲れ様です」

「ん?あー、たきなこそ昨日はお疲れ」

「いえ、その……楽しかったので」

 

 うっ、や、やめろ!

 そんな涙腺崩壊しそうなリアクションやめて!

 ようやく、この喫茶リコリコに馴染んで自分なりに楽しめるようになってきたんだな。

 DA本部への訪問以来、消極的とはいえボドゲ会にも参加するようになったし、ホント……ホントに君ってやつァ!!

 

 ここまで目に見える成長があるか?

 感動に咽び泣きそうになりながら、俺はぐっと堪えてたきなの頭を撫でた。

 あ、手が勝手に。

 でも、仕方ないじゃん!

 最近のこの子、めっちゃ庇護欲を擽るんだもん。

 もう妹だよ、喫茶リコリコの末娘だよ。

 

 ……たしか、身長的にもあの子と一緒か。

 あの任務が終われば、引退して無事な生活が過ごせたんだよな。

 代わりになんてならないけど、死んでしまったあの子を守れなかった分まで、後進のたきなも守ってやらないと。

 

「あの……?」

「すまん、気にしないで。俺が歳を取っただけ」

「はあ……(人は老化するとこうなるのか)」

 

 たきなが更衣室の方へと視線を戻す。

 

「それで、アレは?」

「ああ、気にしないで。気にしたら負けだ」

「分かりました」

 

 物分りが良くてよろしい!

 そう思っていると、千束の視線がたきなに留まる。

 げっ、やべ。

 

 

「違うちが――あ、たきなの!たきなのだから!」

 

 

 千束がたきなを指さした。

 ミズキさんの鋭い眼光がこちらを射竦める。

 これはまずい……!

 

 俺はたきなを背中に庇うように前へと出た。

 だが、それよりも速くミズキさんが脇を掻い潜ってたきなの方へ進んでいった。

 何ぃ……!!!?

 昨日のテロリストより速いだと……!?

 

 俺は何とか追い縋ろうと振り返り、腕を伸ばして………………………人生後悔した。

 

 

 

 

「……可愛いじゃねえかよ」

 

 

 ミズキさんの手によって、スカートが捲られていた。

 たきなの、スカートが。

 

 当然、立ち位置から俺と千束も見えている。

 固まる俺を見るなり、たきなの顔色がみるみる紅く染まっていく。

 あ、ああ、あああああ…………!!

 自然と膝から力が脱けるのが分かった。

 その場に項垂れて、胸を穿つ絶望に立ち上がる気力どころか生きる気力を削がれる。

 

 終わった。

 尊敬できる先輩から、下着を見た変態に降格だ……。

 

 店の表でミズキさんが何やら叫んでいる。

 千束が必死に追いかけているが、何も聞こえない。

 誰か、頼む……もう殺してくれ。

 昨日の件と、それとはまた別種の絶望に圧し潰されて土に還りたくなった。誰でもいい、この際だからミズキさんでも良いから処してくれ。

 

「天さん」

「…………はい」

「見ました?」

「はい。本当にごめんなさい」

 

 正直に白状して、俺は謝罪した。

 人生最大、全身全霊で頭を垂れた。

 

 

「では、こうしましょう。……いつもより、もっと美味しい賄いを作って下さい。それで許します」

 

 

 たきなの一言に、世界が静かになる。

 正確には、たきなの声以外の音が俺の中から消えた。

 耳を疑う言葉だった。

 ゆっくり顔を上げると……そこには、後光を背にしたたきなの姿がある。

 

 お、おお、おおおお…………!!

 

 そうか、そうなのか!

 神は、仏は、ここにいたのか!

 大天使たきなエル、いや至高神たきな!

 

「あと……早く、忘れて下さい」

 

 赤くなりながら、さっきよりも小声でたきなが呟く。

 

 

 この時、俺の中に『推し』という概念が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルミside

 

 

 ボクはネットゲームに興じている最中だ。

 閉店時間なので視線も気にせず行える。……ハズだったのだが。

 

「じー」

「なんだよ、千束」

 

 

 妙な視線は一つあった。

 さっきから、千束がこっちを恨めしそうに見ている。

 常に顔を隠して生きてきたボクも、ここに来て少しは人と一つのスペースを共有する生活に慣れたつもりだったが、こうも注目されるとまだ苦手なのだと自覚させられる。

 千束もこっそり、というか隠すつもりがない。

 

「クルミってさ」

「?」

「テンのこと気になってるの?」

「なんだ、急に?」

 

 天のことか。

 

「だって、クルミとテンって時々だけど二人でコソコソ話してる時があるじゃん」

 

 ……なるほど、嫉妬か。

 時折だが、普段の千束にしてはありえない執着を見せる時がある。

 それが不殺と、藤宮天だ。

 後者についてもボクは把握している。

 千束はミカと同様に、彼を家族の一員として見ているのだ。それも、かなり自分のワガママで振り回せる相手、いうなれば面倒見の良い兄だ。

 まあ、独占欲の強さから別の側面も垣間見えるが……。

 

 概ね、ボクに兄を取られまいかと憂いているのか。

 

 それについては思い違いと言ってやらなければ。

 ボクと彼はただのビジネスで繋がった関係だ。

 

「安心しろ、千束」

「んぇ?」

「ただ天に仕事を頼まれているだけだ。プライベートに関してもリコリコ以外で特に接点は無いよ」

「怪しー」

「やれやれ」

 

 意外と疑り深いな。

 いつもの磊落な性格の千束ならこれで納得するのに。

 

「それに、天ならばボクみたいなのはタイプじゃないだろ」

「…………」

「そういえば、シャンプーのCMで綺麗な黒髪をしてる女優を熱心に見つめてたな。アイツのタイプは、黒髪の美人なんじゃないか?」

「……むぅ」

 

 千束が自身の白髪を指でいじり始める。

 おや?

 思い当たる節があるような顔だ。

 

「天がさ、たきなをよく褒めるんだよ」

「へー」

「あれ、タイプだからかな」

「かもな。でも、アイツは同年代じゃないと燃えないんじゃなかったか?」

「うーむ」

 

 千束の顔が曇る。

 これは、年下の自分が眼中に無いから落ち込んだ?

 やれやれ、この狭い喫茶店の中でそういう物を育むのもいいが、あまりボクを巻き込まないでくれ。

 ボクの興味の指向性にも限りがあるんだ。

 こと恋愛とかいうヤツには微塵も興味が湧かない。

 

「クルミは気にならないの?」

「んー?」

「テンのこと」

「人間としては、とても興味がある。異性としては、確かに面倒見が良くて家事もできるという話だからポイントが高いが、それなら召使いとして働かせる方が良い」

「おお、クルミさん。案外ドライだね」

 

 

 人間としては興味がある。

 なんたってあの――アランチルドレンなのだから。

 

 

「テンに依頼された仕事って何?」

「……依頼人のプライバシーもある。本人が許可しないとボクは」

「テンの主人が許可するから問題ナッシング!」

「……横暴だな」

 

 千束の力技にやや呆れつつも、まあ話したとしてもテンは気にしないだろう。

 そうでなければ、依頼する際に口外しない事を約束として取り付ける筈だ。アイツの性格でそれを失念する事は無いし。

 

「アラン機関について調べてくれ、だそうだ」

「えっ………どうして?」

「何やら、リコリコを辞めた後にやりたい事が無かったら情報が必要になるんだとさ」

「…………」

 

 千束が急に黙り込む。

 何だよ、興味が唆られる反応するじゃないか。

 

「クルミ、あのさ」

「ん?」

「できれば、何か分かっても天にあまり教えないで」

「どうしてだよ」

 

 千束が真剣な眼差しでボクを見た。

 

 

「テンは、アラン機関を――――凄く憎んでるから」

 

 

 その返答に、ボクは一瞬だけ驚愕で思考が止まる。

 だが、すぐに納得した。

 情報を得てどうするか、その問に対して天は『秘密だ』と逃げている。あれは、よほど口に出来ない事情を孕んでいると予想はしていたけど、憎んでいるなら理解できる。

 つまり。

 

「復讐、か」

「そうだと思う」

「理由は?」

「それは……」

「おい、クルミ!新作の試食してくれないかー……て、どした二人とも、通夜みたいな空気出して?」

 

 話の途中で天本人が現れた。

 千束は口を噤んで、先の言葉が封じられる。

 ボクらの異変を悟ったのか、首を傾げながら彼が聞いてくる。

 

「何でもないよー。クルミに、テンはクルミがタイプだから襲われるかもしれないし気をつけろって話してただけー」

「は?」

「げッ!!」

 

 千束の言葉に、天が気まずげな反応をする。

 まさか、そうなのか………?

 

 

「悪いが天。ボクはおまえをそう見れない、諦めてくれ」

 

 

 厄介の種は芽吹く前に摘んでおこう。

 ボクが最低限の誠意で彼に断ると、彼は……。

 

「ああ、俺もクルミはタイプじゃないから安心しろ」

 

 

 なんでだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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