喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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幕間
こうして静かに人生は終わる(死)


 

 

 休業中のリコリコ。

 任務で千束たちが不在なので静かだ。

 何なら客も少ないので、カウンターで幾つか考案した新作メニューと睨めっこをしている。

 いつも常連さんにも味見を頼んでいる。

 だが、どうにもしっくりこない。

 大抵が千束と店長のオーケーサインで決まる。

 美味い甘味を作れる店長、現代の若者女子代表のような千束。

 その二つの意見は必須だ。

 ミズキさんは……酒で口内がアウトになっているので参考にすらならない。

 

 味見だっつってんのに酒飲むしな!!

 

 しかし、みんな任務で暇だな。

 店長に休んで良いと言われたから休んだけど。

 本当なら千束が無茶してないか心配だな。後は弾の無駄撃ちしてないかも不安だ。

 

 …………ん?

 

 店の前に誰かいるな。

 窓ガラス越しでは人相も見えない。

 体格的に男性だとは判別できるが、休業中のリコリコの前で何をしているのだろうか。

 無視するのも可哀想だし対応しよう。

 あと普通に不審者だったらやべーしな。

 

 

「おや、キミがいたのかい」

 

 

 店前に出ると、正体はすぐに分かった。

 たしか、たきなが配属されてから常連になった男――吉松シンジさん。

 店長とは旧友の仲だそうだ。

 たまに店内をヌルっとした妙な空気にするので、俺はあまり好ましく思っていない。

 

「今日は店閉めてまして」

「そうか、残念だ。ミカは不在かな?」

「少し用事で外してます」

「ふむ、彼のコーヒーを期待していたんだがね」

 

 苦笑して吉松は肩を竦める。

 うむ……それは悪いことをしたような、まあ仕方ない。

 全ては自分の運を恨みやがれェ!!

 ……なんて事を常連に言ってたら喫茶店なんてやれないし、純粋に申し訳ないな。

 

「自分で良ければ淹れますよ」

「ん?」

「これでも店長に淹れ方は教わってるんで」

「でも店は閉まってるんじゃないかい?」

「店長のご友人ですし、俺が暇してたのもあるので構いません」

「そうかい?なら、お言葉に甘えようかな」

 

 吉松を店内へと招く。

 彼はいつものようにカウンター席に座った。

 俺は早速、コーヒーを淹れる。味の深さは店長に及ばないが、本人からは旨いという言葉を頂いている。少なくともリコリコじゃ二番手の自負があるがな!!

 

 しっかし、この人は何の仕事をしてるのかな。

 

 着ているスーツもかなり上質だ。

 髪型の整え方からも身嗜みはきっちりしている。

 

「何かな?」

「いえ、この店を見つけた切掛は何かなと」

「SNSに投稿された写真に見覚えのある顔があったからね」

「あー」

 

 千束が普段から載せているヤツか。

 現代女子らしく、よく撮影するからな。

 ただ、やたらと俺とのツーショットを撮るのをやめて欲しい。毎回不意打ちだから目を瞑ってたり、単純に驚いてる顔しか無い。

 

「主にキミと千束ちゃんの仲の良い写真だけどね」

「そう見えるのか……」

「二人は兄妹なのかな?」

「いや、確かに付き合いは長いけどそうじゃないですよ」

「いつから、この店に来てるんだい?」

「十四ですね。店長に頼んで店の手伝いもしてました」

「偉いね」

 

 やたら質問して来るな、この人。

 え、なに、職質?

 実は警察署務めの偉い方ですか。

 あり得る、昔の店長の知り合いという事は警備会社関連だからな。アレ、これ俺の過去も露見している可能性あるんじゃないか?

 も、もしかしてクソ上司の関係者……!?

 

 や、やべー!!

 

 店に入れたの迂闊だった!

 これ、疑われているのか。

 いや、でも店長と一緒にいる辺りでその印象は払拭されて……というのも希望的観測か。

 クソ!

 

「そうか、キミもここでは長いのか」

「そうですね。開店間もなくからいる古参ですね」

「なら、聞いても良いかな?」

「はい?」

 

 な、何をですか?

 生憎と身長と体重以外は応えられません。

 

 

「――千束やミカと、ここでどんな仕事をしているんだい?」

 

 

 ……………。

 なるほどね。

 っハイ!終わったダッタッター!!!!

 明らかに疑われているよね、俺だけでなく千束まで懐疑的に見られているのは驚きだったが、まさかこの人はリコリスの存在に勘付いているのか?

 いや、だとしたら店長を含めて疑うような事を言ったりしないか。

 なら、俺は惚けてやるぜ!

 どこまでも!

 

「いや、見ての通りの喫茶店ですけど」

「……キミはここが長いようだけど、ずっとここで働くのかな?」

「いえ、あと二年くらいで辞めますよ」

「辞めるのか、それは残念だ。このコーヒー、美味しいんだけれどね」

「そりゃ何よりです」

「ふふ、辞めた後の展望はあるのかな?」

「まあ、幾つか」

 

 どれもしっくり来ないけどな。

 でも、散々アイツのワガママに付き合ってきたから自分勝手に生きたい。

 極力は組織に属さないような、クルミのような人生を送りたいと思っている。余計な事して命狙われてるあのリス程に派手な生き方はしないけどね。ロボ太なる意味わかんねーヤツみたいな同業者に狙われても仕方ないし。

 

 吉松は空になったカップを机に置く。

 それから、妖しい笑みを浮かべて俺を見た。

 

「良ければ私の所に来ないか?」

「………?」

「少し人手が欲しくてね」

「いえ、もう人の面倒を見るとか懲り懲りなので」

「はは。そうか、残念」

 

 誰が行くか、こんな怪しいオジンのところに!!

 大体、人付き合いに疲れてる人間が喫茶店を辞めた後にまた別の人間と密接に関わる仕事なんざやるか!

 でも、縁故採用って楽だよなぁ。

 贔屓にして貰ってる今を活用すべきなのか。

 

 俺が先の人生に一計を案じていると、吉松が席を立った。

 それから懐の財布を取り出す。

 

「さて、勘定を」

「あー、いいですよ。元から休業中だし、今後とも喫茶リコリコを贔屓にして頂けるなら」

「いや、これは私の誠意だ。美味しかったよ」

 

 ちゃっかりコーヒー代を掌の上に乗せられた。

 ううむ、律儀だ。

 すまないな、怪しいオジンとか言ってしまって。

 

「今度はしっかり店の開いている時に」

「はい、お待ちしてます」

 

 吉松が手を振って扉から出ていく。

 暫くして、俺はいつの間にか肩に力が入っている事に気づいた。

 あー、嫌だ嫌だ。

 道理で緊張してしまうワケだ。

 

 吉松の話し方や雰囲気が――どうにも、あのクソ上司に似通ったモノがあって身構えそうになる。

 

 ふと、コーヒーカップの下に畳まれた紙が敷かれていた。

 俺はそれを手に取って紙面を広げる。

 その上には、連絡先らしき物が記されていた。

 

「……妙なのに気に入られたな」

 

 俺は紙をポケットにしまってカップを片付ける。

 

 

 ま、それはさておき。

 いよいよ新作決定に本腰を入れますか。

 まずは一つずつ作って味見し、その中で良かった物を店長などに試食して貰おう。

 新作はまず第一に、自信が無ければならない。

 これならいけるかなー、程度ではなくこれでイケる!!という部類だ。

 

 では、最初に一品目を―――。

 

 

「――ただいまー!処刑の時間だぞぅ!!」

 

 

 ……やかましいのが帰って来た。

 いや、待て。

 それより聴き逃がせない言葉があったぞ。

 しょ、処刑?誰の……?

 

 店内へと入って来た千束は、任務帰りだ。

 外見から、特に怪我をした様子は無さそうである。

 しかし、何かこちらを見る目は笑っていない。

 ずんずんと、カウンターまで迫って来る。

 

「お、おかえりなさいませ」

「ただいまっ」

「えと、他のみんなは?」

「後で来るよ。だから、そーのーまーえーに!」

 

 千束が俺の面前にスマホを突き出して来る。

 見せられた画面には、リコリコのSNSが映っていた。まあ、リコリコのっていうよりかはコイツ個人のブログになり果てる直前のような状態だけどな。

 それが、どうしたんだ?

 

「ねえ、テン」

「はい」

「私さ、リコリコが盛り上がるように色〜んな写真をアップしてるわけ。そこはオーケー?」

「オッケ」

「うんうん。でさ、さっき見てみたら妙なんだよね」

 

 千束が笑みを深めた。

 あ、ロクでもねえ事を考えている顔だ。

 俺はカウンターから厨房へと後退しようとして、思いきり千束に胸襟を掴まれて制止された。

 な、なんちゅー力だ…………!?

 こ、怖いよ、手に青筋が浮いてるよ……!

 

「たきなを映した写真にだけ、何故か同じアカウントから『たきな素敵』とか『天使』とか言うコメントが来るんだよね」

「へ、へー。そうなん?」

 

 千束が指を差して示す。

 そこには、たきなを称賛するコメントを載せたアカウントがあった。

 そこに『苦労人のソラ』なんて名がある。

 うん、そ、ソレガドシタノカナ?

 

 

 

「これってさ……オマエのアカウントだよな??」

 

 

 

 ひゅっ…………。

 お、お淑やかじゃありませんわ千束さん?

 淑女たる者、そのように相手へ威圧的に話しかけるのは如何なものでして?

 わ、わたくしには思い当たる節もありませんわ!

 

「お、俺じゃない」

「………私に、嘘つくんだ?」

「ひぇ。……か、仮に俺だとしても何が悪いんだ?別に悪質なクレームでもないし、何もしてないだろ?」

「じゃあ、私の今から載せる写真に『事実です』ってコメントできるよね?」

「え、い、いや?それはどうして?」

「やれ」

「ふぁい」

 

 千束がスマホを掲げて、俺とツーショットを撮る。

 それから何やら打ち込んで、投稿した。

 ご主人様の包み込むような柔らかい、それでいて何故か冷たい眼光が向けられてくるので、俺は渋々と自身のアカウントでリコリコのSNSを開く。

 そこに、新しい投稿があった。

 

 それは――。

 

 

『婚約決定!

 狙ってた人、ゴメンちゃい♡(⁠ ⁠≧⁠Д⁠≦⁠)』

 ((写真))

 

 

 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。

 これ何て名前の処刑ですか?

 俺はこれから店に立てなくなるタイプの冗談じゃないですか?実質的にリコリコにすら居場所無くしそうなレベルの刑罰じゃないですか!?

 

 

 ちら、と千束を見る。

 キラキラした目でこちらを静かに見守っていた。

 ちょ、待ってガチで?

 で、でも、コレ、流石に悪い冗談………と、電源を落とそうとボタンに伸ばした指にギョロリと千束の目の動作が連動する。

 ふひぃぃっ!!!?

 こ、これマジだ。

 や、やらなきゃ殺られるヤツだ。

 

 

 俺は半泣きになりながら、コメントを追加する。

 

 

『事実です』

 

 

 こうして、俺の人生に幕は下ろされた。

 

「良かったね、テン」

 

 千束が微笑みかけてくる。

 ああ、きっと悪魔ってこういう顔をしてるんだろうな。

 やってる事は悪魔っていうより大魔王だけど。

 何が悲しくてわかりやすい嘘を事実だと認めさせられなきゃいけないんだよ。

 う、うう……泣きたい…………!!

 

「明日からお客さんの反応楽しみだぜ!」

 

 千束は張り切ったように虚空へ拳を突き出す。

 そうだね。

 

 

 

 

 …………辞めるか、リコリコ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吉松side

 

 

 喫茶リコリコの付近に停めていた車に乗り込む。

 運転席にいる秘書の姫蒲に目配せし、運転を促した。

 発進し、車窓の流れる景色を見ながら背もたれに体を預ける。

 あれが彼の見出した『才能』か。

 私が手にした『才能(チサト)』と同じだが異なる性質を持つ。

 

「目的の人物には会えましたか?」

 

 姫蒲くんの質問に私は首肯する。

 

「ああ、いたよ」

「何故、彼に接触を?」

「私の知人が支援した対象でね。本来は私も接触は禁じられているんだが、以前から話を聞いていたから様子を見たくなった」

 

 殺しの才能の行方を。

 千束はその本分を全うできていない。

 その為に色々と策を講じてはいる。

 問題なのは、その千束に巻き込まれて彼も真価を発揮していない事だ。

 

 ほんの一言、二言話して確信を得た。

 

 聞いていた通りだ。

 あの男――藤宮天は、奥底で他人をどうでもいいと思っている。

 先日の地下鉄脱線事故。

 彼が庇ったというリコリスの死体を秘密裏に回収して理解したが、おそらく……途中で庇うのを止めている。

 咄嗟に己の身を守る事に全能力を費やす方向へ移行した。

 

 本質は、生存本能の塊。

 頑強な肉体と、強過ぎる生への渇望がある。

 それこそが彼の『才能(ギフト)』だ。

 

 藤宮天は、警備会社が依頼を受けて暗殺する筈だった対象の息子だったそうだ。

 相手もまた強敵。

 交戦の末に爆薬で暗殺に成功したが、現場で暗殺対象の傍で爆薬との間に障害物も挟まずにいたにも関わらず、護衛など大勢が死に絶えた室内でたった四歳の子供として生き残った。

 目撃者を始末すべく銃殺を図ったが、三発発砲して二発命中したにもかかわらず皮膚で弾丸が阻まれたらしい。

 

 ここから、私の知人は『才能』だと直感して少年を回収。

 以降は、『衣・食・住』を支援して殺しの才能を育んだ。

 人を殺す事で服を得る。

 人を殺す事で家に住む。

 人を殺す事で食べ物に困らない。

 そう、根底に刷り込んだ。

 

「彼は私より徹底した支援者だった」

「その方が今も監視しているのでは?」

「死んだよ」

 

 それも、何年か前に。

 組織的な圧力によって追い詰められ、最期は自身が支援した対象にトドメを刺される直前まで陥った。

 そこで彼は、アラン機関としての情報漏洩を防ぐべく自害したのだ。

 彼は立派だった。

 

「その役目、しっかり私が引き継ぐとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近ちさたきが熱すぎる。
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