喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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13番という名の死人に鞭打ち

 

 

 

 ――対話を始めよう。

 

 顔は見た事がない。

 マジックミラー越しに声が聞こえるだけだ。

 最初は理解できなかったが、俺に『支援』されたのは『理解者』という名の隣人である。

 本来は直接関与しない。

 名も、顔も、声も届けない。

 影から支え、世界へと届ける。

 それがヤツらが自身に課す鉄則だ。

 

 ――今日は何人殺した?

『目標、六名全員』

 ――仲間は?

『脱落した』

 ――その死をどう感じた?

『戦力の低下』

 ――その通り。……今回の反省点は?

『複数名による作戦の遂行』

 ――完璧だ。

 

 ソイツは穏やかな声で俺を褒める。

 ただ、幼い俺に如何なる感情も抱かせない。

 俺の行為が正しいと肯定するのみ。

 親としての感情、ましてや友情など無く、どこまでも平淡で俺の『理解者』でありながら他人という立場を貫く。ときには他人を使い、俺一人が如何に優れているかの証明の為に消耗する。

 その時、俺がまともな情操教育を受けていれば外道と罵っただろう。

 

 でも、俺は機械だった。

 

 男の言う通りにする。

 それ以外にしたい事も、やるべき事もなかった。

 何もかもが欠落していた。

 そう――彼女に出会うまでは。

 

 

『はじめまして、21番です。やるからには仕事を頑張るけど、基本やりたい事最優先です!』

 

 

 正直に言うと、最初は興味が微塵も無かった。

 俺と同じく拾われた孤児。

 いずれ消費させられる命の一つだ。

 あの上司なら、この娘も俺の能力証明、または訓練の道具の一つとして使うに違いない。

 いつか消えるだけなら関心を持つ必要も無い。

 そう思っていた。

 

 ただ、この娘は予想以上に俺へ刺激を与えてくれた。

 

『見て、このパフェ!食べたいなー』

 

 パソコンで調べたパフェを見せられて俺は沈黙する。

 この時、初めてパフェなんて食べ物を見た。

 

『美味いのか?』

『ばっか!美味いに決まってるでしょ、こんなにクリームふんだんに使ってんだよ!?』

『勝手に食べれば良いだろ』

『僕のお給料じゃ無理ぃ……』

『なら諦めろ』

『ね?奢って、ね?』

 

 結局、休日に引っ張り出されて食べさせられた。

 これはクソ上司の『教育』にはなかったので、店員との会話もタジタジになっていた記憶がある。

 俺と同じ孤児で、上司たちによって恣意的に選択された範囲しか教育を受けていなかったはずの21番が上手く対応してくれたっけ。

 それから度々、ヤツには振り回された。

 

『どうよ、可愛くない?』

 

 そういえば、ファッションにも敏感だったな。

 頭髪を左右で白と黒に分けて染める――ツートンカラーにしていた。

 元から黒と灰色のオッドアイだった彼女が、自身の髪色もそれに合わせたのだという。

 

『いや、分からない』

『そういうのはモテないよ』

『モテるって?』

『うわー』

 

 軽い情操教育も、された、気がする………。

 

『えーん、サイン会行きたい』

 

 21番は読書も趣味だった。

 俺より給料が低くて懐も寂しいのに欲深い。

 特に本はよく買って読んでは心苦しそうに売って手放していた。毎回、売りに行く時は俺が付き添いをさせられるのだが。

 

『サイン会?』

『僕の好きな著者のサインだよ!ほしくない?』

『本音は?』

『有名人に会いたいんだよね』

『行って来い』

『キミも来るんだよ!』

『任務外での無駄な体力消費は――』

『そんなんで人生って言えるのか、キミは!?』

『え、いや、でも仕事が』

『分かった!じゃあ、君は僕と一緒にサイン会に行く事が任務だ!良いね!?』

 

 そう言われて俺は渋々と付いて行った。

 クソ上司には特に何も言われない。

 私生活においては自由だと、仕事以外では基本的に放置されている。金の使い方などについては、常識的な部分を最低限教わってはいるけどね。

 

 そうして、サイン会には行けた。

 ただ、問題はあった。

 それはサインを受け取る時――。

 

『サインお願いしまーす!』

『はい、元気だね。えっと君たち、名前は?何て書けばいいかな?』

『―――えっ………』

 

 その時、21番の顔が凍りついた。

 それを見た相手も固まる。

 そうだった――俺たちに、名前は無かった。

 

 数秒の沈黙の後、これを不味く思って俺が横から口出しする。

 

『彼女は豆子です』

 

 それを聞いて、固まっていた相手が慌てて笑顔を作り直し、サインをしていく。

 すぐに俺たちは感謝だけ伝えて、列から退いた。

 21番はずっと黙っている。

 未だに動揺しているのだろうか……?

 

『おい、どうし――』

『ぷっ、くくくく…………!』

『は?』

『ま、豆子て。と、咄嗟に浮かんだのソレ……!?あはははははは!』

 

 俺のレスキューを笑われた。

 この時、俺は人生で初めて……………イラァッッッときた。

 大爆笑する21番を見る顔を我知らず険しくさせた。

 ひぃひぃと腹を抱えて悲鳴を上げる姿は、本当に心の底から笑っているのが分かる。

 俺が人生で、一度も体験したことのない感覚だ。

 

 

『ありがとね!』

 

 

 人に感謝されて、何だか顔が熱くなったのも初めてだったかもしれない。

 こうして21番の奔放な部分に付き合わされたり、任務で一緒に生き残ったりと長い時間を共にした。

 

『次は何しようかなー』

『いい加減他のヤツも誘えば?』

『やだなー。13番と一緒だから良いんじゃん!』

『……?』

『僕ね、今はこんな仕事してるけど……いつか好きな人と結婚して、私が産んだ子を幸せにするって夢があるの!』

『ふーん』

 

 結婚、というのは分からなかった。

 実際、きっと俺の人生とは無縁だと思っていたし。

 でも、彼女の目は輝いていた。

 

『好きな人って、その前に恋愛するって事だろ』

『うん』

『まず、そこが難関だろ』

『そうでもないよ?もう好きな人いるし』

『そうなのか』

『うん。だから、将来は13番と結婚して子供産む』

『そうか。………………は?』

 

 えっ、俺の話!!!?

 その時、感情が希薄と言われていた俺でも目を見開いて驚いた。

 すると、悪戯が成功したような笑みを21番は浮かべてみせた。

 

『約束!これからも生き残って、いつか結婚するぞ!』

『……俺にも相手を選ぶ権利がある』

『他にいるの?』

『……い、いないけど』

『ふひひ、じゃー決定!約束ね!』

『…………生きてたらな』

 

 この時は照れ隠しで素直になれなかったし、悪い気はしない程度の認識で自覚はしてないけど、多分これが初恋だったと思う。

 21番といる日々は楽しかったから。

 何よりも鮮やかだったから。

 だから、約束を果たせるその日まで続いて欲しいと願ったのも嘘じゃない。

 

 そして、そんな日々は二年で終わりを告げた。

 

 

 ――彼女を殺しなさい。

『え?』

 ――それが次の任務だよ。

『殺す……何か、彼女は規定違反でも犯しましたか?』

 ――違うよ。

『では、何故』

 ――理由を考えてはいけない。殺す、それだけだよ。

『…………』

 

 

 後で気付いたが、理由は最悪な物だった。

 21番は、上司が最初から俺に殺させるよう準備した道具だったのだ。

 俺と21番が普段から行動を共にし、一緒に外出する事を看過していたのも、そういった理由からだ。

 

 仕事となれば、仲間であろうと殺せる。

 そんな殺し屋に育てる為の訓練。

 

 ただ、物心つく頃から刷り込まされた『教育』は俺が自覚する以上の効果を発しており、多少の疑問を覚えはしたが命令に従った。

 そして、路地裏に追い詰めて俺は瀕死の21番に銃を構える。

 21番は……力なく笑っていた。

 

 

 

『ごめん。約束、守れなかった』

 

 

 

 まるで、それは謝罪だった。

 この時、俺は叫んでいた気がする。

 指は仕事に真面目で、引き金をちゃんと引いていた。弾け飛ぶ21番の頭は、涙で歪んでよく見えていなかった。

 

 この頃から、俺は自分の中の『人間』を自覚し、俺という人間性を育めたように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くかぁーっ……かぁーっ……」

「あ?」

 

 目が覚めると、俺はソファの上で寝ていた。

 何だか体が重い……。

 起き上がろうとしても、まるで重りでも付けているかのように体が重かった。あれ、もしかして金縛り!!?……にしては指先も普通に動くんですが。

 俺はふと、盛大なイビキを聞き取れて音の正体を探った。

 そして、すぐに悟る。

 

「……おい、退け」

「んごっ!……んぅ、眠し」

「退け!!」

「まだ寝る!」

「重い!」

「酷い!」

 

 

 俺の上で寝ているクソご主人様――千束に怒鳴った。

 いや、寝る!!じゃねえよ。

 てか、なんで俺の上で下着姿のまま安眠を貪っていらっしゃるんですかねえ………?

 普通に常識を疑うんだよ。

 

 あ、アレ……もしかして、俺が何かした?

 

 もしや、朝チュン?

 いやいやいやいや、千束相手に限ってそんな過ちを犯すはずがない。

 

 俺は周囲を見回した。

 散らばった映画ディスクのパッケージと、つけっぱなしのテレビ。

 あー………映画見て寝落ちしただけか。

 そっか、そっかあ。

 

 …………………………………。

 

 

 

 ビビったぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はリコリコに出勤した。

 いやぁ、嫌な夢を見た上に朝から肝を冷やした。

 ったく、千束とそんな事があり得るはずも無いのに。でも、アイツも一端のレディだから、わずかな危険でも排除しなければ。

 

 常識のある大人としてなァ!!

 はい、ここ重要!

 

 とにかく、そんなこんなで朝から疲労困憊だ。

 リコリコの扉を開ける手も重い。

 

「おはようございまー―――」

「天誅ッッッ!!」

「ぐふぉあッッ!?」

 

 扉を開けた直後だった。

 ミズキさんの手刀が首を刈り取る勢いで走った。

 油断しきっていたところに命中し、思わず変な声が漏れる。

 痛くは無いけど驚いた。

 

「ど、どゆこと……?」

「アタシを嗤いに来たんでしょ!そうなんでしょ!?」

「え、朝から面倒くさ……どんだけ飲んだの?」

「絶対に許さん!!」

 

 ミズキさんに膝を蹴られる。

 だから何!?

 最近さ、よく分かんない理由でキレて俺に当たる人多くない!?いい加減にしてよマジで、何で俺ばっかこうなのさぁぁぁぁああ!!!!

 

 俺が独り悲嘆に暮れていると、店長と視線が合う。

 眼鏡の奥で、その瞳が――え、潤んでる?

 何で泣きそうになってんのあのオッサン?

 

「店長?何で泣きそうなの?」

「すまん。子供の成長は早いな、と」

「いや、今さら何?」

「私は見守っている。おまえの好きにしなさい」

 

 そう言って、店長は厨房へ入っていった。

 

 …………だから何!?

 ワケ分からん理由でキレられても困るけど、泣かれても怖いんだよ!!!!

 

 

 

 

 何も理解できないまま時間は進む。

 千束が来てから、ミズキさんの視線は一層鋭くなった。

 あと一歩で人殺しになりそうな眼光である。

 も、マジで何………(半泣き)?

 

 店長も俺を見ると涙ぐむし、ミズキさんには罵られるし、クルミも微妙にいつもと距離感が違う。

 そして……たきなは何故か、いつもより声が刺々しくて俺との話を最低限で済ませようとする。

 ど、どうして?

 推しにそんな態度されたら悲しくて逝くよ?

 

 困惑させられるまま、営業開始時刻を迎えて……俺はようやく、真実を知った。

 

 

 

「あ、千束。この度はおめでとう」

 

 

 店に来るなり、千束に祝辞を言う常連客で漫画家の伊藤さん。

 千束はそちらへと駆けてニヤニヤとしていた。

 

「ありがとうございます!」

「いやー、やっとだね。長かったねー」

「そうですよ、大変だったんですよー」

 

 何の話だ?

 俺にはさっぱり分からない。

 だが、二人の会話を聞いていたミズキさんが舌打ちし、店長が目元をハンカチで拭い、クルミが嘆息する。

 そして、たきなは……また顔を背けられた。

 ま、まさかアレが………!?

 

「あ、天くん」

「いらっしゃいませ、伊藤さん」

「天くんもおめでとう!」

「へっ?」

 

 何故か俺も祝われた。

 俺の肩を叩きながら、伊藤さんが笑っている。

 

 

「千束を幸せにするんだよ!男の子なんだからしっかり守りなさい!」

 

 

 うん、へえ、まあ、リコリスの盾ですから。

 …………えっ?

 幸せにする?

 まるで結婚した相手に言うヤツみた………………………んっ?ん?んん?

 

 そこでふと、頭に引っかかったのは昨日の出来事だ。

 

 それは、店のSNSに載せた俺のコメント……。

 

「あ、あ、ああ………!!」

 

 俺は、ようやく理解した。

 

 

 

 

 

 この度、千束と婚約しました!!

 ウっソでえええええええええええす!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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