千束side
「……ウソ」
私はクルミから伝達された内容に固まった。
手足の先から、冷たくなっていく。
数分前に、テンからの通信が途絶した――暗殺者を追跡中に、突如として反応が消失したらしい。
でも、そんな事は……そ、そう、あのテンが死ぬはずない。
想定外の迎撃を受けて通信機を破壊されただけで、本人はまだ生存している。
きっと、スマホも壊れて連絡手段が無くなってしまっただけだ!
「クルミ。……テンは?」
『少し待て。――確認した、道路に破損したバイクが転がってる。事故……とは、このタイミングで考え難いな。襲撃を受けたかもしれない』
「テンはそこにいる?」
『姿が見えない』
「ねえ、無事?無事だよね……!?」
クルミは応えなかった。
小さな声で、カメラで確認しただけでは……と。
その場で脱力しそうになるのを、直前で肩に置かれたたきなの手が止めた。
険しい面持ちで、こちらを見ている。
そうだ。
私が動揺してたら、松下さんも不安になる。
ダメだ、落ち着け、冷静になれ。
でも。
『とにかく、この状態じゃジンにもバレてる。ミズキは離脱しろ』
「………」
『予定変更だ。依頼人を避難させてこちらから一人打って出るべきだ……!?』
「ど、どうしたのクルミ?」
『ジンにドローンを破壊された。いよいよだ、本格的に来るぞ。すぐにミズキと予備のドローンで追跡する』
『……わかった』
緊張で喉がカラカラに乾く。
テンがやられてしまうなんて有り得ない。
銃弾で殺す事だって難しい相手なのに、一体敵は何を使って彼を殺したん……違う違う、死んでなんかない!
まだ生きてる。
作戦が終われば、ひょっこり現れる。
そうだ、敵を捕縛すればテンがどうなったかだって分かる筈だ。
そう、今は依頼に集中しないと……!
「千束?」
「大丈夫、いける」
私は深呼吸して、自身の中から混乱の熱を吐息と共に排出する。
護衛に集中しよう。
敵はとりあえず、松下さんの安全第一。
まずは、相手を再捕捉する為のドローンの再投入と、ミズキが車を用意するまで警戒態勢でいなきゃならない。松下さんも不安がらせないよう取り敢えず明るい感じを心がけなきゃ。
私とたきな、松下さんは美術館へと入る。
とにかく一箇所に留まるよりは常に動き続けて相手にまだ仲間がやられている事を悟っていないように演じなくてはならない。
わ、私、演技下手なんだけど〜?
と、取り敢えずテンを襲ったヤツは許さんとして、そのサイレントさんをどうにかしないと。
『……ミズキと連絡が途絶えた』
「え、ミズキとも!?」
『ジンはマズいな。テンを襲ったのはジンでないとすると、集団の可能性も否めない。……最初はジンが仕掛けて来るぞ』
み、ミズキまで……。
テンがやられる相手って想像つか……私スペック!?
「私が出ます」
「ちょ、たきな!?」
『どうかしましたか?』
「えっとォイレに行ったみたいです!」
誤魔化し方下手くそか!
普段からテンにも諦めろとは言われてるけど、演技ってやっぱり無理だよ!
たきな一人で大丈夫かな。
ミズキと連絡が途絶えた以上、ここは自分で移動するしかないよな。
たきなが抑えている間に行こう。
テンをやった方にも注意しなくてはいけないし、クルミがまた新たにドローンを送ったと通信が入ったけど、それでも到着には時間がかかるから敵の位置も読めない。
ううう、超ピンチじゃん!
藤宮天side
「知らない天じょ……天井無い」
目を覚ますと、俺はオープンカーに乗っていた。
後部座席で仰向けに寝かされている。
寝起きから事態が明らかに尋常でないのは自明の理だが、運搬するにしても何故こんな人目を引くオープンカーなワケ?誘拐してる事を喧伝して回るアホがこの世にいるのか。
俺は起き上がって車内を確認する。
運転席に男が一人、それ以外は誰もいない。
意識を失う前に、たしか轢かれたよな。
幾ら俺でも、移動中のバイクと横合いから高速で突っ込んで来た車の激突で起こった衝撃には耐えられないわけか。
でも、体を動かした感じでは怪我は無さそうだ。
……頑丈過ぎるってのも悩みだな。
これだからクソご主人様が何をしても壊れないと調子に乗ってお仕置きの時にゴム弾をブチ込んで来るんだよ…………か弱い乙女に生まれたかった!!!!
しかし、この車は何処を走っているのだろうか。
インカムは……無い。
スマホも粉砕されてバリフォンになっている、電源も付かない。
武装は――解除されてるな。
「九年振りだな」
運転席の男が唐突に話しかけて来る。
九年振り……知り合いなのか。
その時期となると、千束とも会って間もない頃だ。あの『会社』やクソ上司の関係者なのか?
もしそうなら、マズい。
任務中に昔の事情とかマジで邪魔でしかない。
「誰だ」
「この顔を見ても、分からないか?」
男がこちらへと振り返った。
コイツは…………!
「誰だ」
「いや分かれよ」
「ごめん、マジで思い至らない。本当に知り合いか?俺の知り合いに車で突っ込んで来たり、誘拐したりするようなヤツなんて……いっぱいいたけど、取り敢えずオマエみたいなのは知らん」
「昔、一緒に働いていただろう」
「誰だ」
「マジかよ」
話が噛み合わない。
男もこちらを見て唖然としていた。
そんな自信満々に相手が自分を記憶している前提で話しかけて来ても、実際にそうじゃなかった場合まで考えていなかったのかよ。
そもそも車で轢いた相手と昔話から始めるとか正気の沙汰じゃない。
いや……正気な人間なんていたっけ。
会社で国外の戦争に駆り出された事もあった。
俺はまだ子供なのに意気揚々と送り出す連中も、その下で働いていたヤツもまともなワケないじゃないか。
「九年前、か」
でも、九年前。
それは『あの子』と会った以降だから、少なからず人間に関心は持っていたし、顔や名前だけでも記憶はしていた筈だ。
特に、仲のいい面子も数人はいたし。
うん。
まあ。
でも、分かんねえええ!!
「いや、九年前に錦木千束の作戦で一緒にいたろ」
「ヴェっ!?」
「作戦前に念願叶って、おまえにも恋人ができたって一緒に泣いて喜んだ仲じゃん」
「………―――――あ!」
も、もしかして。
「オマエ、9番かよ!」
「やっと思い出したか」
「へー、老けたなぁ!」
そう!
コイツはたしか、9番だ!
俺と共に長く仕事をしていたヤツで、同僚でもかなりの陰キャとして名を馳せていた。クリスマスになると泣き出す奇病を患っており、恋人ができて遂に快癒したビックリ人間だ。
最後に会ったのは、たしかに千束を襲撃する作戦だ。
一番最初にゴム弾でノックアウトされてたっけ。
なーんだ、オマエだったのかよー!
じゃあ。
「何で俺を轢いたんじゃコラァアアアアアアア!!!!!?」
後ろから頭を鷲掴みにして全身全霊で握り潰しにかかる。
勿論、人間の頭蓋を握力で完全破壊できるワケがない。ちょっと後頭部の形が変わるくらいの圧力程度だ。
おんどりゃあああああああああ!!!!
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!悪かった、悪かったってええええ!」
「ごめんで済んだら俺たちや警察やリコリスは要らねえってんだよアホがァァァあ!!!?」
「い、依頼だったんだよ!」
「誰からの!?」
「知らん!!二週間前に素性の知れん女が訪ねて来た!現金先払いで、オマエを捕獲して最低でも二時間は拘束しろって契約で!」
「なにィ!?」
変な依頼だな。
制限時間付きの拘束、それも今日このタイミングで。
あまりにも不自然である。
その依頼人は、まさかサイレント・ジンとやらを差し向けた人間と同一人物なのではないだろうか。そうでないなら、生まれて来た事を後悔するレベルで俺の運が悪いって話になる。
素性の知れない女性、か……。
「いや、そもそもさ」
「良いから頭から手ェ離せっての!」
「あ、悪い。……依頼って言うけど、『会社』はクソ上司ごとリコリスが襲撃して潰れたろ。あの後、よく生き延びたな」
「あー、3番と18番、それから10番は死んだな」
「オマエはどうやって」
「何とか逃げ延びて、今は個人営業。昔と変わらねえ仕事だけどな」
「…………」
昔と同じ、か。
なら、俺も人の事は言えない。
DAによって『会社』は潰され、俺を支援していたアラン機関の関係者を見つけ出せたが、あと一歩のところで自害された。
それも、俺の眼前で。
――君はちゃんと、完成してるよ。
嘲笑うように、自分の頭を撃ち抜いた。
よく分からないが、凄い敗北感があった。
だって、『あの子』の仇だったから。
「……そういや、恋人はどうした?」
「ふ……もう、一児のパパだぜ」
「マジで!?何で俺が誰かの奴隷をしてる時に人生の勝ち組になってんだ貴様ァァァア!!!?」
「まあ、仕事の内容は言えてないんだけどな」
「え…………何とかしろよ」
「だよな、ヤベェよなぁ」
「当たり前だろ。小学校には親の職業について調査した後に作文するらしいぞ。『パパは人に頼まれて人をぶっ殺す仕事です!』なんて話せるか!?」
「何とかするわ」
お、俺も人に言えた仕事はしてないケドね……。
「……取り敢えず、降りて良いか?」
「……別に良いぞ」
「良いのかよ?」
「既に報酬は前払いで貰ってる。それに、ノルマの二時間は達成したしな」
「ゲッ!?そんなに経ってたのかよ」
運転席の男――9番が車を停める。
俺は慌てて降りて、ふと疑問に思った。
コイツ……オープンカーに乗ってるって事は、かなり儲かってるんじゃないか?
その上で、結婚してパパ?
「……いつか私怨で殺しに行ってやる」
「なあ、奴隷って言ったけど……まさか、リコリスのか?」
「ああ。それも、あの錦木千束のな」
「うえ、ご愁傷さま」
「轢いた事絶対に許さんからな!?それだけだ、後で奥さんと娘に会わせろよ!」
「おい、少し待て」
「何!?忙しいんだけど!」
俺が思わず怒鳴って振り返ると、カバンを投げ渡された。
随分と重いが、何だろうか。
確認してみると、中身は取り上げられたであろう俺の武装である。
インカムは……壊れている。
スマホはご臨終したし、どう連絡を付けるか。
「じゃあな」
「呪ってやるからな!」
「奴隷、頑張れよー!」
走り去っていく9番に向かって俺はブーイングを送った。
……さて、ヤバいな。
二時間も眠った挙げ句、これで加勢にすら間に合わなかったらクソご主人様に怒られる。
きっと壮絶な苦行を強いられるに違いない。
オマケに、DAから提供されたバイクもお釈迦……また楠木さんに謝らないと。
もう!もう!!世界が俺に優しくない!!
俺は周囲の景色から現在地を把握する。
それほど離れては、いないようだ。
近くに公衆電話ボックスが見えたので、俺は早速駆け込んだ。
取り敢えず、クルミに連絡だ……!
『はい、こちらリコリコ』
「クルミ!すまん、今から復帰する!」
『おー、生きてたか。良かったぁ』
「え、珍しいな。オマエが俺を心配してたなんて」
『いや、オマエが生きてないと千束がどうなるか分かったもんじゃない』
「生きてても俺殺されない?」
『知らん』
何と無責任なリスだ。
後でメチャクチャにシバいちゃる。
『今まで何してた?』
「えっと……捕まっていたが、逃げ出せた。意味不明だが敵は目的を達成して離脱してる!これ以上の横槍は無さそうだ」
『了解』
「それで、そっちの状況は?」
『ミズキが東京駅にいる依頼人を迎えに行ってる。天も早くそっちに向かって加勢してくれ』
「暗殺者はどうした?」
『たきなが応戦中だ』
「ッ、分かった!」
俺は電話を切って、外へと走り出す。
東京駅までの最短ルートを脳内で選び、その道順を全速力で辿った。
店長が認めるベテランの殺し屋。
優秀なリコリスといえど危険な相手だ。
取り絶えず間に合わせないと!
千束に殺される!!
「ひぃ、ひぃ、へぇ、ひぁ」
全力で走っていたら、前の方から情けない声が聞こえてきた。
よれよれと走っているのは――ミズキさん!?
汗だくで瀕死寸前になっている。
「ミズキさん!」
「んぁ、天?い、生ぎでたのね……!」
「だ、大丈夫ですか」
「いや、無理、死にそう」
「あ、東京駅見えましたよ!」
「無視すんな!?」
すまない、ミズキさん。
悪いが俺も命が懸かっているんだ!
『たきなは工事中のスペースで交戦中だ』
「了解!」
ミズキさんに軽く手を振って、俺は東京駅の裏側へと回り込んだ。
形振り構わずスタッフ用の入り口を突き破り、工事現場の中を駆け巡る。交戦中となれば銃声が聞こえる筈だが、一般人もいるこの状況ならばサプレッサーを装着している可能性も考えられる。
早く見つけないと!
その時、近くで硬い音を耳にする。
具体的には、鉄筋を弾丸が跳ねるような音だった。
音の聴こえた方へと駆ければ、物の多い区画を疾駆するたきなの姿がある。
それを追い縋る黒い影も確認できた。
意識を失う前に捕捉した時はコートを着ていた上にヘルメットもしていたが、あの体格と銃で武装した姿からジンであるのは間違いない。
「たきながヤバいな」
応戦――にしては妙だ。
たきなはその手に銃を持っていなかった。
ただ逃げの一手に専心しているようである。
まさか……失くした?
「どちらにしろ、逃げなきゃヤバいってことだよな!」
俺はたきなを追って走る。
入り組んだ道を走っていく内に、銃弾を脚に掠めて転倒するたきなを発見した。
いよいよマズい!!
彼女は物陰に隠れたが、再び銃撃できる位置へとサイレントも移動している。
急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ!!
たきなを見下ろす位置へと回り込んだサイレントが、銃を構えた。
たきなもそこにいるのか!
「ぬおおおおおおおお間に合ええええええええイッタああ!!!?」
サイレントとたきなの直線上に飛んで割り込む。
その瞬間、発射された三発が俺の体に命中した。
皮膚にめり込む弾丸の激痛に耐えて、たきなを抱きしめて覆う。
背中に受けた弾は、どれも皮膚で止まった。
い、痛い……けど最小限で済んだ!
いや、安心するのは早い。止まっている場合じゃないのだ。
即座にたきなを抱えて走る。
「ッ、たきな無事か!?」
「そ、天さん!いま撃たれて……!」
「大丈夫!」
めっさ痛いけどな!!
逃げる俺を後ろからまだサイレントは狙っている。
再び発砲しようと、彼が引き金にかけた指を動かし――それを遮るように、赤い粉を噴いてゴム弾がその近くの地面に命中した。
あの弾丸を使っているのは、俺以外に一人しかいない!
「来たか!」
予想通り。
千束がサイレント・ジンに接近していた。
即座に加勢を察知したジンが迎撃するが、持ち前の運動能力の高さと卓越した洞察力で銃弾を回避しながら千束は距離を詰める。
それは映画の一幕のように鮮烈だった。
どれだけ撃とうが、当たらない。
千束は新たな弾倉の再装填を済ませながら、足を止めたジンの懐に深く踏み込み――その腹部へ、銃口を叩き込む。
「ぬぅッ!!」
至近距離で全弾発射。
ジンの鳩尾の辺りにすべて炸裂した。
そのまま後ろの欄干まで突き飛ばされた彼は、数秒の間だけ痛みに悶えると、静かにその場に倒れる。
いやあ、お見事……。
たきなを支えながら、俺は千束へ歩み寄る。
すると、彼女が目を見開いてこちらを凝視した。
何だよ、死人でも見るような顔しやがって。
「……………テン?」
え、何その反応。
まさか、本当に死んだと思ってたの?
…………これは、惜しい事をしたな。あのまま死んだ事にして雲隠れしておけば、解放されていたんじゃないか!?
うううんんん!
千載一遇のチャンス逃したぁぁぁあ!!!
……いや、そんな別れ方しても後味悪いし。
俺はそんなにクズじゃないので。
「テン、だよね?」
「それ以外の何に見えるんだよ」
「ッ…………」
唇を噛んで、何かを堪えるような表情をした千束がその場にへたり込む。
え、本当に何なの。
少し怖くて近づけない。
「…………ち、千束さん?」
「……許さない」
「え」
「奴隷の分際で心配させたこと許さないぞー!!」
千束がうがーっ!と牙を剥いて俺の足をポカポカと殴り始めた。
この子、情緒不安定だな。
心配、してくれたのは嬉しいが奴隷の分際という言葉を聞いてそんな感情も引っ込んだ。あのまま雲隠れして死ぬまで気に病んで貰った方が良かったかもしれない。
『殺すんだ!』
不意に聞こえてきた声に、千束の動きが止まる。
そこにいたのは、物陰から車椅子で進み出て来る松下さんだった。
〜おまけ「IF:逃亡生活日記」〜
○月×日
遂にリコリコを辞めてやった。
店長にも恩返しは済んだので、早々に潜伏先を見繕った後に怪しまれない程度で少しずつ私物を減らしていって、千束に気付かれずにセーフハウスを脱出した。
今は石川県に隠れている。
DAが気付く頃には、国外に逃げられる準備をしておこう。
◎月✕日
遠隔操作でDA職員の端末から情報を抜き取っているが、俺の不在について騒ぎ始めているようだ。
情報漏洩阻止の為に、リコリスでの抹殺も辞さない予定が組まれている。
……ただ、何か妙だ。
最初に発見したリコリスがその身柄を自由にしていい権利を得るらしい。
俺を自由に、ってどうするんだろうか。
自分で言っても悲しいが、利用価値なんてほとんど無いだろう。
………錦木千束についての情報は、何か嘘っぽい。
千束が血眼になって俺を探している、とか。
いやいやいや、有りえないね。
まあ、ヤツには見つからんよ。
●月△日
未だにリコリスには見つかっていない。
ただ、ラジアータの力を侮ってはならない。この潜伏先も長いし、付近で活動するリコリスの姿もちらほら見受けられる。
そろそろ拠点を移動しないと。
そういえば、白髪のファーストリコリスを見たような気がするけど気の所為だな。
東京のアイツがここにいるワケない。
□月○日
拠点を移したが、全支部でもリコリスは平常の任務に兼ねて見つけ次第俺を殺す命令を受けているようだ。
実際に俺の身柄を自由に〜というのは、俺の顔を知る本部所属のリコリスだけなので、当然と言えば当然なのだろう。
さて、そろそろ国内も危うくなってきたな。
そういえば、デリバリーサービスでご飯を注文した時にかわいい女のコが届けに来てくれた。
少し聞き覚えのある声だったけど、誰だったか……。
まあ、良い。
取り敢えず、準備を進めて日本とはお別れだ!
☓月☓日
では、これから日本を出る。
密輸船に乗って海を渡るつもりだ。DAの仕事に関わって来たので、何処の港ならば監視の目が少ないか、そういった場所にどんな船があるかは把握済みだ。
ふふふ、入念な下調べの成果!!
これにてドロン。
さあ、俺の明るい未来が待っ
△月○日
随分と久しぶりに日記をつける。
俺は今、牢屋の中にいる。
ああ、でもDA本部の地下牢ではない。あそこよりも明るくて、ご飯も美味しくて、それでいてベッドも柔らかい素敵な場所だ。
ただ一点、看守に問題がある。
俺を見る赤みがかった瞳に光が無い。
あと、ゴム弾を装填した後の銃を格子の隙間から突きつけて来ている。
驚いたよ、セーフハウスの地下にこんなのがあったなんて。
具体的に言うと、違法出国を敢行しようとした日に千束によって捕まえられた。
日記をつけている最中だった。
扉を蹴破って来た彼女に何発も何発もゴム弾を叩き込まれ、スタン警棒でひたすら殴られ、その上で更にワイヤーで縛られ、またゴム弾でメチャクチャ撃たれた。
始終「許さない」しか言わなくて話も通じない。
ただただ、怖かった。
あの日から、俺の知らないセーフハウスに移送されて千束の管理下にある。
トイレとシャワーも付いている豪華な牢屋。
後は刑罰なのか、帰って来た千束と四六時中一緒にいなきゃいけない地獄。
俺が外に出たいなー、とか言うと首を絞められるから何も言えない。
俺の人生、詰んだ。
おしまい