喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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幕間
止まってしまえ


 

 

 

 

 千束side

 

 

 私がテンより早く起きるなんて稀だ。

 その時は、気紛れに一階へと上がってテンを寝床にして二度寝するのが通例だ。

 まだ朝の五時。

 リコリコ出勤は随分と先だ。

 私と違って、ちゃんとベッドで寝る事が習慣のテンはその体格もあってやや大きめのベッドを使っている。

 私はその横に転がった。

 

「ん、んー……21」

「………」

「ごめん、約束……ごめん」

 

 今日は魘されている。

 時折、テンが口にする『21番』とは誰なのか。

 昔は『13番』と彼も名乗っていたので、同じように番付された人間だというのは理解できる。

 いつも夢に現れるその人。

 一体、誰なんだろう。

 

 テンにとって、誰よりも大切なのかな。

 今ここにいたら、私よりも優先するかな。

 

 不安が紛れるように、私はテンの胸に顔を寄せてその心音を聞く。

 こうできるのは私だけの特権。

 他の誰にも、21番にだって許さない。

 

「21……」

 

 もし私以外の所に行ってしまうなら、と考えるといつも思ってしまう。

 

 この心臓が、止まれば良いのになんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 

 朝から居た堪れない状況だった。

 リコリコで看板娘が全く仕事をしないのだ。

 それだけなら軽く叱声でも飛ばして本人をその気にさせるのだが、今のアイツに俺は一切触れたくない。

 触れたところでロクな事が無いのだ。

 何故なら。

 

 

「いひひひ」

 

 

 奇妙な笑い方をして薬指を見つめている。

 そこには、銀色の指輪が煌めいていた。

 可哀想な事に、それは俺が先月購入させられたペアの婚約指輪の片割れそのものである。アレが光を照り返して輝く程に、俺の前途が真っ暗になっていく気がする。

 同じ物をはめた指が痛いような感じが、しなくもない。

 うわー、嫌だぁ。

 血迷った末にもう最高の自虐と化している。

 千束の指輪に視線が集まると、俺の精神に追加ダメージが間断なく押し寄せる。

 え、拷問?

 もしかして、今が地獄か?

 幼少期の罪を今精算されてるのか、閻魔チサトさんに。

 

 ちら、と千束が俺を見てきた。

 

 その視線はきらきらと子供のように輝く。

 俺はそれに対し、感情を殺して左手を見せる。

 すると、千束の表情が幸せそうに綻ぶのだ。

 あー、死にてぇ。

 

「たきな、助けて」

「自業自得です」

「その通りですね」

 

 また、たきなは冷たくなった。

 う゛っ、素っ気ない推しを楽しめるほど俺はまだ経験が多くないのだ。

 ただでさえ状況はカオスなのに。

 客からも訝しまれる始末だ。

 早く厨房に引っ込んで延々と頭を使わない機械作業に没頭したい。あー、厨房も頭メチャクチャ使うんだったチクショー!!

 

「天くん、ホントに指輪買ったんだ」

「よくやった、男の鑑だよ」

「俺もそういう潔さがあればなぁ」

「血迷ってただけです」

「ダーリン♪」

「うるせぇ!!」

 

 横からご主人様の甘ったるい声に俺は怒声で返す。

 

 しかし、本当に指輪なんて買っちまうとは。

 突き返す事も出来たが、それをしたら千束がどんな反応をするか分かったもんじゃない。

 クソ、地下鉄の任務終わりで落ち込んでた隙に一生レベルの不覚を取るなんてな。

 

 これ以上は何も起きませんように。

 マジで俺が発狂するから。

 

 

 

「よう。来たぞ、13番!」

 

 

 だからヤメロって言ってんだろうがあああああああああああああああ!!!!!!

 

 意気揚々と現れた男に、俺は思わず拳を握る。

 お客様にこんな事をするのは失礼だし、彼はまだ何もしていないが強制退店させてやろうかと思った。

 殺意すら込めて睨んだ俺は――その後、一瞬で驚愕に呆けることとなる。

 

 店内に現れたのは、9番その人。

 先日の件で俺を轢き飛ばした非道な人間だ。

 よく人のいる店に顔を出せたな恥知らずが……そうやって罵りたいが、その後ろには綺麗な女性と小さな少女が一緒にいる。

 握った拳固が自然と解けてしまう。

 

「だ、誰!?」

「言ったろ。嫁と娘だ」

「本当にいたのか!?」

「信じてなかったのかよ。…………ん?」

 

 9番の視線が俺の左手に注がれる。

 あ、ヤベ。

 これは一番いけない誤解を生むかも。

 

「おまえも結婚してたのかよ、ったく」

「違う違う違う違う違う違う違う!」

「何が違うんだよ。薬指に綺麗な物を飾りやがって、人を妬む必要無いじゃねえか」

「妬む権利あるわ!」

 

 俺がカウンター越しに9番と騒いでいると、店長の咳払いが聴こえた。

 うっ……そうでした、喫茶店は静かにですよね。

 俺は前のめりになっていた姿勢を正す。

 すると、彼が紹介した女性――奥さんが、俺の方へと歩み出た。

 

「初めまして。妻の紗夜です」

「ご丁寧にどうも。彼の元同僚の藤宮天です」

 

 礼儀正しい人だ。

 何年も前に存在は耳にしていたが、この人は9番には勿体ないくらいにきちんとしている。

 その足元には、彼女のスカートの裾を握って不安そうにこちらを見ている少女。利発そうな顔立ちだが、初対面で怒鳴ってしまったのが悪かったな。

 

 店長へと目配せをする。

 意図を汲んでくれた店長が頷いた。

 

 俺はカウンターを離れて少女の傍に屈む。

 相手を怖がらせないように、視線は同じ高さを意識しなくては。

 

「初めまして。パパの友達のソラって言います」

「………未来」

「そっか、良い名前だね」

「パパとママが私の為に頑張って考えてくれた名前なんだよ!」

「素敵なパパとママだ」

「うん!」

 

 よし、掴みはオッケー。

 未来なる少女は、俺に笑顔を向けてくれた。

 齢は六歳のようだ。

 初めて出会った時の千束よりも幼い。子供って可愛いな、こんなにも小さいのか。

 

 未来ちゃんと話していると、隣からつんつんと指でつつかれる。

 

 ……まさかとは思うが。

 

「どうした、千束?」

「えー、テンってば気が早い」

「文脈が読めない。俺が何を逸ったんだよ」

「私似かな、テンに似るかな」

「黙ってて、敢えて分かんないフリしたのに台無しだよ」

 

 そこまで暴走してたまるか。

 俺は楽しげに話しかけて来る未来ちゃんに対応しながら、三人を席へと案内する。

 子供の相手は昔から得意だからな。

 いや、嘘です苦手です。

 何となく接していると気に入られてグイグイ来られるので、大体は気圧されて俺の方が引いてしまう。

 

 席へ案内した後、俺はカウンターへ戻った。

 

「昔の同僚と言っていたが」

「ええ、あの会社の生き残りです」

「そうか」

「どうします?報告しますか?」

「天の友人だ。別に良いだろう」

 

 さすがは店長、寛容だ。

 俺の独断だったら楠木さんに報告していたな。

 轢かれた上にバイクまで壊されてるんだからな、そのお蔭でこの前は嫌味をタラタラと長時間聞く羽目になったんたからな!!

 感謝なんて一欠片も無い。

 しかも綺麗な奥さんとお利口さんな娘さんまで披露してきて、どこまで俺の恨みを買えば気が済むんだコイツ?

 

「なあ、13番」

「ん?」

「おまえの嫁はどれよ」

「どれ、とか言うな。てかいないから」

「じゃあ、その指輪は何だよ」

「呪縛だよ」

「離婚前の重いタイプのセリフか」

 

 絶対に俺の口から言うもんか。

 

 そんな細やかな抵抗も、注文を伺いに現れた千束によって無に帰す。

 9番の視線が、彼女の手に注がれた。

 同じ指輪がある時点で察したのだろう。

 

「君、名前は?」

「看板娘、錦木千束です!」

「高校生?」

「そうです、華の女子高生ですよ〜?」

「13番……じゃなかった、この野郎に変な事されたんだな?」

 

 おい、俺を疑うな。

 全てこの美少女面した邪智暴虐の魔王の仕業なんだよ。

 

「既成事実でも作ったんだろ、クズめ」

「深い事情があるんだよ、俺がそんなヤツに見えるか?」

「見えるわ。さっきから店内の女性客の視線が集まってるの見て普段からモテてるの分かるわ。どうせ他にもいるんだろゴミめ」

「オマエが既成事実とか物騒な単語言うからだろうが」

 

 俺は何も悪くない。

 何か悪くても何も聞こえない。

 

 そんなプレイボーイな事をしていたら、今頃は千束によって処刑されていただろう。

 いや、実際にコイツの策略によって破局しているので凄惨な罰は受けているんだけどな。

 どうやってもリア充への道程は遠い。

 

「しかし高校生で結婚か、大変だね」

「いえ!もう付き合いも長いし、同棲してるのでお互い知り尽くしてる感じですよ!」

「同棲!?そうなのか!?」

「ああ。コイツのひん曲がった性格も理解してる」

 

 足を踏まれた。

 はは、だって本当のことじゃないか。

 

「しかし、九年も経てばそうなるか」

「何が?」

「いや。おまえの事だから、未だに21番の事を吹っ切れてないんじゃないかと思って」

「…………」

 

 その話題は、タブーでしょ。

 具体的に言うと、隣のヤツに聞かせたくない。

 ちらりと横を盗み見れば、案の定笑顔で固まっていた。

 俺の昔話とかしたくないんだよな。

 奴隷だから拒否権も黙秘権も無いし、少し興味が湧いてしまえば根掘り葉掘り過去を聞き出されるんだよ。

 

 そう思っていたら、服をグイグイと掴まれた。

 力が強すぎて思わず二度見してしまう。

 

「その21番さんって、誰ですか?」

「ああ、コイツの初恋の子だよ。明るい子でさ、無愛想なコイツをよく引っ張り回してたな」

「…………」

 

 あの、千束さん。

 笑顔のまま停止しているのは怖いのでやめて。

 俺の服を掴む力が、段々と強くなっているのは気の所為だろうか。

 ひぃっ!?

 血管が手に浮き出てる!!

 血の気が引いて白んだ手は、明らかに限界に近い力が込められているのが分かる。

 

「お、おい。そろそろ、その辺で……」

「あ!あと結婚の約束もしてたな!」

 

 ゲッ!!

 それ言うなよ!?

 

「事故で引退して以来会ってないけど……君によく似た子だったな」

 

 懐かしむように9番が千束を見る。

 

 事故……21番の事は、俺以外にはそんな風に伝わっているのか。

 ホントに……クソだな、あの上司。

 

 

 いや、ちょい待て。

 おいおいおいおい。

 待てよ、そういう面倒くさい話をするな。

 

 不意に隣の千束が俺の右脇腹を鷲掴みにしようとする勢いで服を掴んできた。

 思わず上げそうになった悲鳴を堪えた俺は偉い。

 そこは昔、21番を手榴弾から守った時の古傷があるところなんだけど……………。

 

 

 

「私は代わり?」

 

 

 

 …………えっ、どういう事?

 あ、あと、もしかしてマジギレしてない?

 

 もう既に営業スマイルすら無い千束の顔に、俺は後退りしたが掴まれた服のせいで距離も稼げない。

 ここに銃があったら、容赦なく傷跡にゴム弾が叩き込まれていただろう。

 これは……嫉妬?

 いや、ただの嫉妬でここまで迫力が出るのか?

 無い。

 じゃあ、何なんだよ。

 分かんなくて怖い!!

 

「ち、違い、ます」

「ホントに?」

「あ、ああ」

 

 ひ、否定はしきれない。

 何処かで重ねている部分は、ある。

 

 俺が千束に詰問されているのをニヤニヤと眺めていた9番が思い出したように手を叩く。

 なんだよ、またロクな事言う前に口閉じてろ。

 

 

 

 

「そういえば、この前だけど21番に会ったぞ!」

 

 

 

 

 ………は?

 

 その言葉に、今度は俺が凍りついた。

 隣の千束の怖さも気にならない。

 9番の言葉の真意が知りたくて、思わず彼を凝視してしまう。

 

 いや、嘘だ。

 

 だって、21番は俺の手で。

 目の前で、血を、噴いて。

 

「仕事でこの辺りに来てたんだとよ」

「…………」

「いつか会えるといいな」

 

 俺は、震える自分の右手を握る。

 思い出すな、感触を。

 

 

 

 

 

 

 この時、俺は気づかなかった。

 動揺する俺を隣でじっと見つめる、いつもより鋭く剣呑な眼差しに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「結婚するなら」〜

 

 

 

 

 

 閉店後、ミズキさんと俺は話していた。

 

 どんな相手と結婚したいか。

 それこそ、まず最初に考えるべき事だろう。

 自然な流れで結婚に繋がる者もいるが、その機会が訪れずに苦悩する者にとって最初に迎える壁こそ結婚相手に求める条件である。

 基本的には収入、容姿、性格が主だ。

 人間は性癖や実利を重要視する。

 

「その点で言えば、ミズキさんは理想が高い」

「高収入のイケメン」

「イケメンも現代では多様ですからね。具体的な好みとかは無いんですか?」

「そうねー。高身長もポイントよね」

「それ必要なんですか」

「当たり前よ!経済的や人格的には勿論、体格的にも包容力があってアタシを甘やかしてくれる男じゃないと絶対嫌よ!!」

「力説するほどか」

 

 このように、理想が高過ぎる故に結婚を自らで難しくしている者もいる。

 良い例が傍にいて、俺はそれを痛感していた。

 逆に、俺は特に結婚願望は無い。

 いや、恋人は欲しいよ?

 甘酸っぱい生活とかしたいし。

 普段から奴隷扱いする少女の面倒ばかり見ていると、そういった甘えたい存在というのを欲してしまう。

 

 恋愛ドラマとかは……見れないケドね。

 

 基本はドラマも映画も観ないし、大体が千束に付き合う形なので彼女の好きな物――アクションだったりが主なので触れる機会が少ない。

 逆に恋愛系を見ようとすると、千束の機嫌が悪くなる。

 いい加減に認めてくれ、俺の自由恋愛。

 

 まあ、怒る理由も分からなくはない。

 俺と千束の交流は長い。

 彼女の中で奴隷という位置付けではあるが、きっと本質は身近な異性であり、ワガママを言いやすく接するのも気楽な兄のような存在なのだ。

 それを知らない他人に取られて、自分の都合が通らなくなるのが不満なのだろう。

 年頃なのにベタベタしてくる辺りで分かる。

 かなりのブラコン気質なのだ。

 だから、俺の恋愛への意欲を快く思わない。

 

 ……じゃあ、逆に誰なら良いんだよ!!!!

 

「なら、天はどんなのが良いのよ」

「俺ですか?」

「アンタのタイプって、容姿?人格?経済?年齢?経歴?」

「経済面や経歴は別に。性格は……まあ、俺を甘やかしてくれる人ですね。容姿は……綺麗な黒髪ロングの美しい人」

「アタシは対象外かよ!」

「ミズキさんからの俺もそうでしょ」

「そうね。JKに口座を支配されたヤツは論外」

「それは不可抗力なんですけど!?」

 

 俺だってあんな事になるとは思わんかったわ!!

 

「でも、アンタのタイプってさ」

「はい?」

「モロにたきなじゃない?」

「言わぬが花ですよ」

「認めたわね」

 

 初対面からもうどストライクでした。

 ただ、最近は恋愛面ではなく『推し』だ。

 何よりも食事はいつも上品に食べているたきなが、俺の飯を食べている時は美味しそうに小さく頬を膨らませて咀嚼する姿は可愛くて、もうリコリコで唯一の妹と言っていいほど大事にしている。

 これも邪な感情と言えるのだろうか?

 まあ、良い。

 幾らでも穢れてやるよ!!

 

「じゃあ、たきなが大人になったら?」

「いや、たきなが大人になる頃にはDAと無縁な生活を送りたいので」

「無理くない?」

「難しくはあります」

「で、結婚的には?」

「そうですね……」

 

 そんなの答えは一つしかない。

 

 

「たきなが大人になって、もし会う機会があったら即座にプロポーズしてますよ」

『ガシャンッ』

「ん、ガシャン?」

 

 

 会話中に響いた物音に俺とミズキさんは振り返る。

 そこに、食器を運ぶ途中のたきなの背中があった。

 

「たきな、大丈夫か?怪我してないか?」

「いえ、大丈夫です。ご心配なく」

 

 たきなが落として割ってしまった食器の破片を、手伝う隙すら与えないほど迅速に片して去っていく。

 掃除スキル高すぎね?

 何今の、達人みたいな動きしてたぞ。

 

「アンタは年下キラーね」

「向こうからしたら都合の良い年上って感じですよ、きっと」

「あ゛ー、結婚じだいー!」

「晩酌には付き合いませんよ」

 

 酒瓶を手にしたミズキさんへ先に断っておく。

 ていうか、帰って飲め。

 

「大体!アンタには千束がいるでしょ!」

「アレは有って無いようなものです」

「殺されるぞアンタ」

「最近はいっそ死んで解放されたいとすら思い始めてます」

「末期かよ、踏み留まれ」

 

 踏み留まってるよ、紙一重で。

 その脆い状態でもクソご主人様は容赦無いからな。

 特に十二歳の時、俺の脇腹の傷の話をしたときなんかは俺も殺されるのかと思った。

 眉間と頬に殴るようなゴム弾四発。

 普通に訴えて良いレベルの仕打ちだ。

 常日頃から死の恐怖に堪え、理不尽な要求を苦心しながら解消していく辛酸を味わう日々に限界は近い。

 

 ………もう解脱してやる。

 

「じゃあ、逆に訊くけどさ」

「はい?」

「千束に恋人ができたらどうすんのよ」

 

 千束に恋人ができたら、か。

 想像が付かないな。

 確かに外観だけなら美少女だが、俺からすれば食虫植物のようにしか見えない。可憐な容姿に寄ってきた蝿こと男どもを無惨にもその内面に秘めたダークな暴力性で虐殺する。

 ふ……何処のホラーだよ!!

 

「でも恋人か」

「そうよ」

「まあ、九年間の誼なんで良い人間とくっつけば文句はありません。……まあ、嫌ですけど」

「お?お?」

 

 だって。

 

「アイツが恋人とか作ったら、まずその恋人に失礼だから俺はセーフハウス出る為に引っ越しとかしなくちゃいけないし。後はアイツの事なので夜に延々と惚気話とか聞かされますよね、無視すると殺されるから怖い。その手間とか考えると、面倒臭いです」

 

 嘘偽り無い本音をこぼす。

 すると、ミズキさんがゴミを見るような目……何だ、俺はそんな風に見られる謂れは無いぞ!?

 ちょいちょい、と俺の後ろを指差す。

 後ろ?

 何かあるの…………か……。

 

 

「なーにー?私に恋人ができると嫌なの、テンさんってば〜」

 

 

 うーわー、帰れよ……マジで。

 また調子に乗るぞ、コイツ。

 

 ニヤニヤと笑いながら見上げてくる千束は、俺の片腕を抱いて振り回すようにその場で踊る。

 なに、これ何のゲーム?

 

「ちゅーする?」

「はっ!誰がするか。オマエとするくらいならミズキさんと――ィィいいだだだだだだだだだ!!!?」

 

 俺の親指が捻り上げられる。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!?

 

「帰れ、リア充クソが!!!!」

 

 ミズキさんにも怒鳴られた。

 何でよ。

 あー………地獄でも良いんで、早く俺を何処かに連れ去って下さい。あ、千束のいない場所でお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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