喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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六話「Opposites attract」
アホです、嘘つきです、奴隷です


 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 

 暑さも厳しくなってきた季節だ。

 外であろうと内であろうと、身体的にかなり影響を受けるので難しい時期である。

 そういう時こそ穏やかに過ごしたい。

 なのに、世の中はそれを許さなかった。

 

 

「リコリスが?」

 

 

 DA本部から入った連絡に、俺は首を傾げた。

 電話の相手は楠木さんである。

 それより、何故このセーフハウスの番号を把握しているんですか。色々と訊きたい事が山程あるんですけど。

 それはさておき。

 話題はかなりの重要案件だ。

 

 今月に入って四人ものリコリスが殺害された。

 

 それぞれが単独任務中に襲撃されている。

 大勢による犯行と言われているが、死因自体はナイフによって急所を切り裂かれた事による失血性ショック死らしく、体中に刻まれた銃創は見せしめの意味が強いという考察が検死した者の見解だそうだ。

 見せしめで、何発も子供に撃ち込んだのか。

 今回の相手は、かなり容赦ないヤツらだ。

 

「こうなると、狙いは判然としますね」

『分かるか』

「明らかにDAを狙ってます。リコリスは所詮手足です、彼女らを派遣する組織そのものを認識した上での攻撃行為でしょう」

『敵に思い当たる節は?』

「………」

 

 DAを狙う、か。

 つまり、以前にDAの手を逃れた犯罪者だ。

 リコリスの存在を認知しているなら、彼女らの攻撃を一度は経験していないとならない。

 

 正直に言うと……思い当たる節しかないな。

 

 千束は不殺を誓っている。

 相手を殺害しない分、禍根を残しやすい。

 だから同じ相手や関係者による再犯もあり、大体は恨みを買うのを覚悟で仕事をしている。

 それら全員が容疑者だ。

 後は。

 

 ――また会うこともあんだろ。じゃあな?

 

 あの男くらいだ。

 生き残っていたら、の話ではあるが。

 それにリコリスはナイフでの殺傷とある。

 つまり、彼女らに悟られず接近して行為に及んでいるのであれば、敵には相応の実力者がいると考えるのが妥当だ。

 あの男にそこまでのスキルが有っただろうか。

 

「……分かりません」

『そうか』

「連絡はそれだけですか?」

『リコリスとしての責務を果たさないとはいえ、我々の一員だ。千束にも注意を促しておきなさい』

「直接言った方が喜びますよ」

『今は忙しくてな。切るぞ』

「ご苦労さまです」

 

 通話を切られる。

 やっと肩の力が抜けたもんだ。

 

 しかし、リコリスを襲撃する輩か。

 国民が知らずとも日本が穏やかだった日など無いが、ここ最近は輪をかけて酷い。

 こうも次々と危険な事態に直面するとはな。

 未だにたきなの復帰を懸けた銃取引事件の真相にもたどり着けていない。

 あるいは、それ関連なのか?

 

「極力頭は使いたくないんだけどな」

 

 俺はリコリコに行く準備を開始する。

 流石に奴らも白昼堂々と犯行には出まい。

 千束の身辺において、移動中はセーフハウスからリコリコまでの道を護衛した方が良いのかもしれないが、俺の場合は逆効果になる。

 

 仮に、一連の襲撃の首謀者が『地下鉄の男』だとする。

 

 ヤツにはリコリスを指揮していた者――つまりDAの人間だと認識されてしまった。

 そうなると、リコリスより俺本人を狙う方が効率的と考える。

 以前の戦闘で多少は警戒されると思うけどな。

 それに、ヤツなら俺への対策も考えているだろう。

 幾ら防御力が高くとも、所詮は人間だ。

 毒を盛られたら倒れるし、な。

 

 念の為に別のセーフハウスに移動するか。

 俺は最低限の荷物を手早くまとめる。

 別のセーフハウスにも着替えや生活品は揃えてあるので、困る事は無いだろう。

 

「ふぃー」

 

 全てバッグにコンパクトに収められたな。

 意外とこれだけでも重労働だ。

 後は、千束に今後は自炊するようにだけ後で言っておこう。……これで暫くは誰かの為に飯を作ることなんてしなくていい!

 後は、千束の映画に付き合わず好きな時間に寝られる。

 いやあ、素晴らし――

 

 

 

「何してんの?」

 

 

 

 背後からかかった声に凍りついた。

 お、おかしいな。

 まだ寝ているハズの時間だ。

 振り返ると、俺の荷物をまとめたバッグを片足で踏み押さえている寝巻き姿のご主人様がいた。

 表情は無い。

 まるできょとんとした顔だが、バッグを踏みしめる足が違和感バリバリで一見愛らしい顔立ちと合致せず、不気味にしか見えない。

 

「えと、拠点を移すんだよ」

「何で?」

「DA、からの指示で(ということにしとこ)……しばらくは別行動、な?事情は後で説明するし、というかオマエの方にも連絡入ってない?」

 

 俺は取り敢えず正当性を訴える。

 極力、自分の意思じゃないよ!?と。

 

「ふーん」

 

 千束は、納得いってない様子だ。

 

「何処のセーフハウスに行くの?」

「に、二号を使う予定」

「………本当に?」

「逆に何でそんな疑うんだよ」

「本当は21番さんの所に泊まる気じゃないよね?」

 

 …………何でここで21番?

 人伝で聞いただけであの娘が生きている保証は無い、と俺はまだ半信半疑だ。

 そもそも居場所すら知らない。

 それに、今更どんな顔をして会えと……。

 

「違う」

「……………」

「ほ、ホントに違いますからね?」

「そっか」

「俺が移動するのは、あくまでオマエの安全の為だから」

「やだ」

「……いや、嫌だとかじゃなくて」

 

 千束が俺のバッグに抱き着く。

 それから頬を膨らませて睨め上げてきた。

 こ、この流れはまさか……。

 

 

「じゃー私もバッグに入れてけー!!」

 

 

 出たよ、またかよ。

 千束流だだっ子の始まりだよ。

 出会った当初から俺が意に沿わない事をすると、最終的に駄々を捏ねて阻止しようとするのだ。

 他の人間にはやらず、俺だけに訪れる災害と言っても過言じゃない。

 はー…………メンドくせぇんだよ!!!!

 

「オマエが来たら意味無いんだって」

「やっぱり私にバレたら困る所に行くんだ!」

「どんな場所だよ、ソレ」

「他の女と邪なモノを育むつもりだな!?」

「オマエ以上の邪悪なんて知らな――ッぶな!?」

 

 千束の振り上げられた足を間一髪で躱す。

 なんて鋭い蹴り、流石はファースト……って違う!!

 

「やだやだ!私も行く!」

「えー……」

「……私の事、嫌いになったの?」

「いや、元から嫌い―――ぐばぁッッ!!!」

 

 今度は命中した。

 それも回し蹴りが見事に顎を捉えた。

 あんな小柄な体でどうやって生み出しているのか不明な衝撃に、俺は後ろへと仰け反る。

 すると、俺の横へと滑り込んだ千束は踏ん張る俺の膝の裏を軽く踵で蹴り上げながら、俺の襟の後ろを掴んで地面に引き倒した。

 なんと流麗な体捌きか。

 それはここで活かす物じゃないだろが!!!!

 

「イダっ!?」

「連れてけ連れてけ連れてけ!」

 

 即座に馬乗りになった千束にぐんぐんと襟を引っ張られる。

 揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる揺れる。

 勘弁して下さい、マジで。

 

「す、少しの間だけだって」

「やだ!!」

「っ、ああもう!」

 

 俺は千束の両肩を掴んで自身に引き寄せた。

 

 

「オマエに怪我して欲しくないだけだから!!」

 

 

 厳密には違うが、簡潔に伝えておく。

 すると、至近距離にあった千束の顔がだんだんと赤らんでいく。

 ひっ、な、泣かれる!?

 そんなに嫌なの、別居!?

 

 俺が萎縮していると、体を離した千束が俺の上でにへへと笑みをこぼす。

 

 え、もう何?さっきから意味がわからない。

 頼むから何か言って欲しい。

 

「ホントに私の為なんだ〜?」

「あーうん」

「でもヤダ」

 

 うん。

 もうオマエの相手するの、俺もヤダ。

 

 

 

 

 

 

 数時間後、俺はリコリコに出勤していた。

 朝から色々ありすぎた。

 本来なら速やかに終わる筈だった生活拠点の移動も、結局は千束の説得にかなりの時間を要して早くも折れかけている。

 でも、今日から暫く一人生活!

 やったぜ。

 

「藤宮天、入りまーす」

「来たか、天」

「あ、店長。例の件、聞きましたか?」

「ああ。だが詳細な情報は極秘と言われてな」

「そうですか」

 

 確かに、俺も詳しくは聞いていない。

 意外とシビアだな。

 それとも警告してくれただけでもマシと言うべきなのか。

 

「それで、リコリコはどうします?」

「クルミが情報を収集している」

「こういう時は滅法強いヤツですよね」

 

 今やリコリコの解析力の要ですらある。

 俺が依頼した仕事は結構後回しにされてるけどな!!!!

 まあ、ここはDAじゃないし。

 俺以外は今のところ狙われる要素もほぼ皆無だ。

 何より、あの千束だ。

 そうそうテロリストなんぞに負けはしない。

 たきなは俺が全力で守る!

 

「あー、テン遅かったじゃん」

「オマエのせいでな」

 

 出迎えた千束を思わず睨む。

 

「今日から飯は自分で作れよ」

「え?あー、うん」

「何その反応?」

「実は今日からたきなと同棲始めたから。しーかーも!たきながずっとご飯作ってくれるの!」

「……………………」

 

 コイツは何を言ってるんだ?

 とうとう気でも触れてしまったのだろうか。

 俺が居なくなった途端にたきなが住む、だと。

 何でそんな楽しげなイベントが俺が住んでいた時には起こらなかったのだ。

 いや、そもそも何でたきながコイツの家に??

 

「まさか、例の襲撃事件で」

「たきなが警戒した方が良いってさ。だから家に泊まってお互いを守るの」

「いい子だなぁ、ホントに」

「たきなは素直に褒めて、普段なぜ私は褒めない?」

「純粋に褒めるところが無いからだ」

 

 お盆で叩かれた。

 痛くないから良いけど、やっぱり褒められた子じゃない。

 俺が呆れてため息をついていると、何故か片腕に抱きついてきた。

 急に何?

 肩に顔を埋めているので表情がわからない。

 今日はいつも以上に奇行が激しいな。

 

「あのさ、テン」

「ん?」

「今日、そっち行っていい?」

「何で」

「あの……その」

「ん?」

「さ、寂しい、です」

「まだ初日だけど!?」

 

 言い訳が苦しいにも程がある。

 耳が真っ赤なのは、相当恥じている証拠だ。

 

 どうせ召使いが恋しくなったんだろ、戯けが。

 今度から家事は自分でやるんだな!いや、極力は自分でやらせてたけど、朝昼晩の料理や起床なども人に頼らずやってくれ。

 なんと自立精神の薄い子なんだ。

 俺が甘やかしすぎた所為だな。

 たきなには厳しく見るよう頼んでおこう。

 

「良いだろ。そっちはたきながいるんだし」

「う~!」

「何が不満だ!?言え!俺なら泣いて喜んでるぞ」

「最近アンタの情緒もヤバいわね」

 

 うるさいですよ、ミズキさん。

 お酒を飲まずともブレーキが無くなってきている貴女よりは自分を制御できています。

 

「まあ、頑張れ」

「テンは寂しくないのかよー!」

「すげー開放感ならあるが?」

「もう知るか!テンのアホ、嘘つき、奴隷!」

 

 俺を罵りながら千束が歩き去っていく。

 はいはい、そうですねー。

 

 それにしても、寂しいね。

 嘘でもそんなセリフが出るとは思わなかった。

 かなり歪んではいるが、一応は俺を慕ってくれているのだろうか。

 やれやれ、厄介なご主人様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テロリストside

 

 

 

 日本に来て数ヶ月。

 目立った成果は未だ得られず膠着状態。

 これまで四人ほどリコリスを仕留めたが、そこから先の進展は捗々しく無い。

 それに比して増大するオレたちの被害。

 このバランスを如何とするか。

 港に留めた一隻の船を拠点にしているオレは、そこで迎えた協力者からの情報に今は耳を傾けている。

 

『明治政府樹立以前に組織された女系暗殺部隊『彼岸花』!その学名から現在は『リコリス』と呼ばれている』

 

 ほーん。

 裏から日本を操ってる連中は、随分と昔から存在してるようだ。

 だが、妙だな。

 オレはそんな情報は求めちゃいない。

 歴史の勉強じゃないんだよ、今すべき事は。

 

 協力者となったハッカー――奇妙な被り物をしたロボ太なる人間は意気揚々と目の前で語っている。

 ソイツが画面に移したのは、一人のガキの横顔。

 ………おいおい。

 

『コイツが次のターゲット。基本リコリスは都市迷彩服として制服を――』

「おいおい」

『え?』

「違うよな?」

 

 オレが目配せすると、ハッカーの後ろに立つオレの部下がヤツの座るソファーを爪先で小突く。

 その揺れでハッカーの身が縮こまる。

 

『いや!コイツはリコリスの中でもトップクラスの――』

「捨て駒はどうでもいい。オレの目的を、おまえが理解してるか確認していいか?」

『に、日本に入国した雇われテロリスト達全員が忽然と姿を消す、その原因の究明と解決』

「わかってんじゃねえか。そのDAとやらをぶっ潰す」

 

 そう。

 分かってるなら、何で有益な情報を持ち込まない?

 それで協力者なのかよ。

 

 オレは苛立ちに思わず机に食っている途中だったバーガーを叩きつけた。

 飛び散った具とソースで汚れるそこには、リコリスってガキ共から奪ったスマホが並べられてある。

 

「おまえがガキ共のスマホを持ってくればDAの本拠地が判るって言うから持ってきた」

『み、民間回線と違うから、そこからIPアドレスを探したけど時間が……』

「――オイ」

 

 オレが目配せすると部下二人がハッカーの腕を拘束する。

 コイツ、本当に協力者かよ。

 使えねえ。

 オレは動揺しているハッカーの眉間――と思われる位置に銃口を押し当てた。

 

「もう一ヶ月だぞ」

『え?』

「おまえの指示で、オレの仲間が13人死んだ」

『で、でも、そっちには優秀な部下がいるみたいだし……』

 

 ちら、とハッカーがオレの後ろを見る。

 そこには、オレの座るソファーの背もたれに腰掛けてリンゴを齧っている女がいる。

 ハッカーの声に反応したのか、白と黒、左右で二色を宿した瞳がこちらを映す。

 至極興味が無さそうだ。

 

『被害が出たのは計算外だったけど。それが最速だし、こっちのリコリスだって面白いだろ?』

「ダメだ」

 

 オレは銃口を更に強く押し当てる。

 コイツ、こっちを軽んじてやがる。

 それじゃあ、バランス取れて無いだろうが。

 

「こっちは指示通りに動いてこのザマだ。このままじゃバランスが悪い――あと三日でDAの場所を探し出せ」

 

 腕を拘束していた仲間がそのままハッカーを部屋から放り出す。

 地面に倒れたであろうヤツの悲鳴が聴こえた。

 クソ、まだ体が痛ェ。

 

「体、大丈夫なのー?」

「あらかた治ったけどな」

「キミがやられるなんて意外だよね。そこまで凄いかな、リコリスって。四人ともそんな感じはしなかったけど」

「おまえみたいに軽々とはいかねんだよクソ女」

 

 後ろで呑気にリンゴを齧る女を睨む。

 どこ吹く風のヤツは、始終こんな感じだ。

 

「それに、オレをやったのはリコリスじゃねえ」

「………」

「DAをやるなら、いずれあのゴリラとも対決になる。その時の準備はしてるが、どうなるやら」

「そこは僕の出番でしょ」

 

 オレの肩を叩いて女がソファーを離れる。

 そうだな。

 バケモノの相手はバケモノがお似合いだな。

 

「そういえば、逆にDAがリコリスを囮にして僕らを炙り出そうとしてるみたいじゃないか」

「ああ」

「どうする?消す?」

「相手にすんな。ハッカーがあの程度だとリコリスも大した情報源にならねえ。避けられなきゃ殺れ」

「はーいよ」

 

 女は返事だけして外へ出ていく。

 

「さて、どう潰してやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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