喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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過去の因縁と今の罰

 

 

 

 俺は定休日に喫茶店に来ていた。

 勿論、リコリコではない。

 店長などには聞かれたくない話をするからだ。特に千束に限っては、聞かれるとセーフハウスに閉じ込められかねない話題である。

 

 集合時間になると、店に待ち人が現れた。

 スーツ姿で俺を見つけるなり相席する男――9番がため息をついた。

 でしょうね!

 電話で呼び出した時に奥さんが対応してくれたが、その後ろで明らかに娘と戯れてるコイツのクソ甘い声を聞いてしまったからだ。

 それを聞かれたからだろうね。

 後は娘との時間を奪われたからだ。メンゴ。

 

「それで、何の用だ」

「刺々しいな」

「いや、おまえの雰囲気がそうだから真剣に話してるんだよ」

「…………」

 

 やはり悟られていたか。

 

「俺も21番に会ったよ」

「やっとか」

「仕事でな」

「………仕事って、まさか」

 

 たった一言で、理解したらしい。

 9番の顔が凍りつき、俺を凝視している。

 今の俺がDA側だと知る彼からすれば、仕事で会う相手など概ねテロリストや犯罪者という理由になる。勿論、同じDAという考えも浮かぶだろうが、今の俺の空気を察すれば自ずと答えは決まってくるだろう。

 

「そりゃ、本当に?」

「最近のリコリス狩りもアイツだそうだ」

「リコリス狩り、だと」

「DAを潰したい連中の集団の一員」

 

 それを聞いた9番が頭を抱える。

 何故オマエがそんな風に気を揉むんだよ。

 そりゃ、真剣に聞いては欲しいがそこまで重く受け止められたら、こちらが話しにくい。

 

「マジかよ」

「9番が気に病む事じゃないだろ」

「バカ。おまえは知らないだろうが、21番とは会社でも交流があったんだよ」

「へえ?」

「主におまえがどうしたら喜んでくれるかとか相談されたりな」

「………」

 

 そんな事があったのか。

 でも、確かに納得だ。

 9番は恋愛にも積極的になれず自らを生粋の陰キャだと自嘲する程度には謙虚だが、あの社内――特に俺のいる部署や部隊では誰よりも人間らしかった。

 あそこは空気が重い。

 具体的に言うと、いつ死んでも構わないと思う連中か、いつも死に怯えてうずくまる者ばかりだった。

 その中では、一番まともだったかもしれない。

 あの21番と交流があるのも頷ける。

 

「戦ったのか」

「ああ」

「……殺した、のか?」

「……いや。ただ次に会ったら、殺さずにいられるかは分からない」

「……………」

「会って理解した。あの感じ、間違いなくクソ上司の『調教』を受けてやがる」

 

 あの妙に箍の外れた感じ。

 アレはクソ上司が何かを仕込んだに違いない。

 13番からならば殺意であろうと自身に向けられるなら幸せ、なんて昔の彼女なら間違いなく言わなかったセリフだ。

 自分の命を粗末にはしない。

 だって『約束』をする程に未来を見ていたのだ。

 

 それを歪めるなんてクソ上司にしか出来ない。

 

 しばしば、そういうのを見かけた。

 今まで戦場に怯えて任務に出向する事すら拒絶したヤツが、上司が直々に数日だけ面倒を見た後には嬉々として人を殺す人格に変貌した。

 最後は爆弾を持って敵に笑いながら突貫していた気がする。

 他にもそういう事例があった。

 

「でも、彼は死んだハズだ」

「……アイツが姿を消してから、会社が潰れてヤツが死ぬまでの間に何かを施したんだろ」

「じゃあ、21番が怪我で仕事を辞めたってのは嘘だったのか!?」

「…………」

 

 言わなきゃならない。

 9番は知らないのだ、21番がどうなったかなど。

 

「21番の事で、話がある」

「え?」

「アイツが仕事を辞めたのは確かに嘘だ。本当は――」

 

 

 俺はゆっくりと、アイツとの最後の別れに至るまでの経緯を説明した。

 

 

 

 

 話し終えた時、9番は何も言わなかった。

 ただ、また頭を抱えてしまっている。

 

「そう、だったのか」

「………」

「たしかに、おまえは一番あの人から影響を強く受けていたからな。嫌だと思っても、体は動いちまうよな」

「……ああ」

「そっか。よくおまえが笑ったり怒ったりするようになったのは、21番を撃ったからか」

 

 そう、あの出来事があったからだ。

 命令に対する拒絶感と悲しさ、今まで外に出せなかった無自覚な感情にようやく気づけて、発露する事が出来るようになった。

 だから、泣いて笑えて、堪える辛さも知れた。

 

「それで、それを俺に話した理由は?」

 

 9番が核心を問う。

 呼び出した理由、その本題。

 

 

「場合によっては、俺はDAを辞めてでもアイツと決着付けなくちゃならない。その時に、止めてくれるなよって話だ」

 

 

 それを言うと、9番に胸ぐらを掴まれた。

 ……まあ、そうなるわな。

 

「なら話さなきゃ良かったろ。何で打ち明けた!?」

「21番と接触したんだろ。なら9番にも何かしらあるかもしれないと思ったからだ」

 

 

 俺は彼の前に封筒を差し出す。

 訝しみながら、9番はそれを受け取って封を開ける。

 その中には簡潔な文章で作成した依頼書と、報酬として用意した金だ。

 それを見た9番が目を見開く。

 驚く、というより真意に気付いて怒ってるな。

 依頼書の内容にまだ目を通していないだろうが、話の流れでわかるのだろう。

 まあ、そうでしょうよ。

 

「おまえ、俺をバカにしてるのか」

「真剣なお願いだ」

「尚更質が悪いぞ」

「もう独立して、その上家族までいる9番を巻き込むわけにはいかない。――21番について、今後一切手出ししないでくれ。俺が決着を付けるまで」

 

 そう言うと、9番の拳骨が頭に落ちた。

 やっぱりミズキさんの手刀よりは痛いか。

 

「いい加減にしろ!弟と妹が殺……酷い喧嘩してるってのに看過できるか!」

 

 そう言われても困る。

 死後もクソ上司の企みが絡んでいる以上、もう被害を俺のみに留めるしかない。

 いや、もうクソ上司の下で働く1番から32番までいた者たちがいたが、今彼らが生きているか死んでいるかも微妙だ。

 その内、誰が今回のテロリストに関係しているか。

 更に9番のように友好的な者、21番同様に敵対する者がいるかも判別が付かない。

 

 無闇に巻き込むべきではないのだ。

 最悪、予定より早くリコリコを出るのも辞さない。

 

「……それで良いのか」

「家族を取れ。それこそ、9番が得た自由の象徴だろ」

「でもな、おまえだってあの喫茶店がそれだろ」

「あれも中継点だ。別にそこまで惜しくはない」

「おまえ……」

 

 9番が呆れたように俺を見る。

 何です??

 

 

「天……いや13番。おまえもまだあの人の影響が残ってるぞ。他人が至極どうでもいい、って部分が見える」

 

 

 その言葉に背筋が凍った。

 俺が、まだ影響されている――それは21番と相対した時に自覚した。

 だが、他人がどうでもいいとは思ってない、と思う。

 

「どういう意味だよ」

「俺が話しても意味はない。……とりあえず、この依頼書は受け取れない」

「でも」

「二度は言わすな。おまえは知らんだろうが、俺は21番と一緒でおまえを弟みたいに思ってる。……一緒にいたあの看板娘ちゃんが中継地点?次にそんな事を言ったらマジで殴るからな」

 

 それだけ言って、9番は店を出ていく。

 いや……せめて何か頼んで行けよ。

 喫茶店に取り残された俺は、突き返された依頼書を眺めて呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 そんなシリアスな空気は何処へやら。

 その日の夕方に悲劇は起こる。

 俺はセーフハウスの壁に磔となっていた。

 

「貴様から女の匂いがする」

「は、はひぃ……ち、違います、会ってたのは男です!」

「男だから許されると思ってるのか」

「もう、どうしろと!?」

 

 銃を向ける千束に、小さく縮こまってしまう。

 だって怖いんだもん!?

 理由としては、恐らくだが定休日なのに自分を放置した事への報復なのだろう。途轍もなく矮小な問題なハズなのだが、この俺に対してのみ器が極小化する千束ことクソご主人様ならそんなの許容しない。

 最初から詰んでるじゃんッッ!!!!

 

 今日は千束も外出していたようだ。

 着飾って可愛くはあるが、銃が似合わない。

 せ、制服じゃないと銃撃ったらダメなんだぞー!…………ひっ。

 

「これは罰が必要ですな」

「ば、罰?」

「一分単位でペナルティが発生するから、外出時間が七十三分だと……」

「ま、待て。ペナルティの内容は?」

「え、教える必要無いでしょ。これから受けるんだから」

「ひぃいいいいっ!?」

 

 笑顔で残忍な事を告げる美少女。

 この世にこれほど迫力のある物を見た事が無い。

 別に良いだろ!!

 普通の人間が一時間ぐらい外出するのにどうしてそんな罰を受けなきゃ………………あ、普通じゃなかった俺ってば奴隷だった……………。

 

「ち、千束」

「ん?」

「おおおおおオマエだって、そそ外に出てるじゃん!俺が外出したって、か構わないだろ!?」

「違う」

「へ?」

「テンが外出して、一緒にしたかった事が無くなったから、たきなとデートに行ってきたんだぞ?」

「……………」

 

 もう理不尽すぎる。

 なら最初から言っておいてよ。

 え、ていうかたきなとデートしてたの?オマエだって休日をエンジョイしてんじゃねえか!

 

「……ま、いっか」

「へぁ?」

「今日は私も楽しんだし、テンに対してイライラしてた気分も忘れてたから許してやろう!」

 

 つまり、たきなのお蔭で助かった……?

 たきなエルの尊さが天元突破しそうなんだが、大丈夫だろうか。

 次に会ったら翼とか見えると思う。

 いや、それより私服姿見たかったな。

 

「ところで、千束」

「ん?」

「俺としたかった事って何?」

「えっ?特に何もないけど」

「は?」

 

 千束がこちらを見てにやりと笑う。

 

 

「テンと休日一緒に過ごしたかっただけだよ。特別何かしたいわけじゃなかったんだ」

 

 

 …………。

 つまり、それって。

 

「俺、無実じゃん」

「………ダメかー」

「は?何が?」

「こういうのが効くかもってミズキに聞いてたのに」

「え、何?まさか攻撃してたの?あの言葉の裏に物騒な真意でも仕込まれてたの??」

「うっさい!」

 

 何故か急に少し顔を赤らめて去っていく。

 相変わらず情緒不安定でよく分からない子だ。

 頼むから俺を巻き込まないで欲しい、命令されたらサンドバッグくらいにはなるが。

 

「千束、今日の晩飯は何がいい?」

「テンの料理好きだから、何でもいいよ」

 

 お、俺の料理が好きか。

 珍しく嬉しい事を言ってくれるじゃないか。

 

「そ、そうか」

「何でこっちが効くんだろ」

「え!?これにも攻撃の意味あったの!?」

 

 ならば今日のコイツの言動全てに注意しておこう。

 もしかして……そうか!俺の料理が好きだから何でもいいというのは、詰まるところ「聞くんじゃねえよ、何でも良いからさっさと作れ」を迂遠な言い方で表しただけなのか!!

 

 やっぱり性格悪い子だよ。

 たきなならそんな事を言わなかっただろう。

 

「はあ、作り甲斐のある子に作りたい」

「私には無いって言いたいのか!」

「それは勿論。たきなとかが良い」

「ホントにたきなには甘いよね…………あ」

 

 千束が何かを思い出したように声を上げる。

 何だろう、今更ながらペナルティの内容でも思いついたのだろうか。

 やめてくれ、時差攻撃は。

 

 

「そういえば、たきなには美味しい賄いを作ってるんだってね。―――私には作らずに」

 

 

 ……………あ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「ある職員の所感」〜

 

 

 

 

「誕生日おめでとうございます」

 

 職員の私の誕生日に藤宮天は現れた。

 ……何故か巨大なぬいぐるみを抱いて。

 

「あの、それは?」

「……ぷ、プレゼントです」

「それ絶対に選んだの千束でしょう」

 

 藤宮天が沈痛な面持ちで首肯する。

 昔からそうだった。

 千束は何かとワガママが多い。

 誰よりも早くファーストリコリスになったとあり一目置かれ、悪く言えば敬遠されていた分だが構ってちゃんが激しい。

 司令官だったミカさんは特にその相手にされていた。

 ワガママに付き合わされて、DA本部を出る事になってしまったのもその結果だ。

 そして、後から彼女の下に来た藤宮天もそうだ。

 

「すみません」

「いいって。謝んないでよ」

「人の誕生日もまともに祝えないなんて」

「律儀ですね」

 

 私は思わず笑ってしまう。

 私と彼の関係は、DA本部に通いライセンス取得の為に様々な技術習得に励む頃だ。言語に関しては難航していたところで、私が気紛れに手助けしたところ大変感謝された。

 そこから数年間は縁が続いている。

 毎年、感謝として誕生日にここを訪れてプレゼントを持参するのだ。

 彼はDA本部を苦手としているのに。

 わざわざ私の為にこの日は訪ねる。

 それが嬉しくないはずもない。

 

 ただ、そのプレゼントが全て千束チョイスである事に不満が無いわけでもない。

 あの問題児に生活の殆どを支配されているらしいから。

 

「そういえば天くん」

「はい?」

「二十歳になって、もう訓練教官のスカウトが来てるんでしょ?受けないの?」

「あー……遠慮したいです」

「給料も良いのに?」

 

 そう言うと藤宮天の顔が曇る。

 やはり、経済面でも補えない苦手意識の強さだ。

 

「子供を死地に送る為に腕を磨かせるもんですし」

「死なない為の、とは考えない?」

「……少なくとも、子供に銃だったり人の殺し方を教えるってのは俺には無理ですよ」

 

 苦笑した彼がぬいぐるみを差し出した。

 私がそれを同じような表情で受け取る。

 わざわざ足を運んで来てくれた相手にさせて良い顔ではなかったか。

 

「君ももう成人だね」

「そうですねー。余計な責任が増えますね」

「そう悲観しないの。大人には大人の良いところがかるから」

「何か含蓄のある言葉のような」

 

 すっかり大人になった。

 来た時のばかりは、まだ常識すら最低限の少年だったのに。

 背丈は随分と伸びて、輪郭も大人そのもの。

 精悍な顔立ちに成長し、リコリスからは益々頼れる兄のように見られて新しい子まで懐いている。

 もう二十歳か。

 

「そういえば、もう二十歳でしょう」

「はい」

「良ければ一緒に飲まない?大人になった記念に」

「DAで、ですか?明日も店番があるんで、あまり飲めないと思いますけど」

「大丈夫、少しだけだから」

「うーん。それなら、まぁ」

「よし、じゃあ私は十八時までだから。それ以降で――」

 

 

 言葉を続けようとして、私は固まった。

 

 藤宮天の後方に伸びていく廊下で、曲がり角からこちらを静かに見つめている影があった。

 赤い瞳と視線が合う。

 その人は、私が知るいつもの溌剌とした雰囲気は無く、ただ純粋な敵意だけを向けている。まるで宝物を盗られたような子供、と形容するのが甘いくらいに刺々しく、冷たい眼光だった。

 ……錦木千束の見たこと無い姿。

 私は咄嗟にその手に銃が無いか確認した。

 撃たれる、そんな予感すらあったのだ。

 

 私の注意が自分の後ろに注がれていると気付いた藤宮天がそちらへ振り返る。

 すると、千束が笑顔で手を振る。

 さっきまでの様子が嘘のようだ。

 それを見た藤宮天が顔を顰めるけど今はやめて欲しい。

 

「もう時間切れか」

「時間切れ?」

「そうなんですよ。毎回貴方の誕生日を祝いにDAに行くって言うと必ず付いて来るんです、何もしないくせに。それなのに制限時間とか付けるとか……人権」

「そ、そうなんだ」

「すみません、飲むのはまた今度で」

 

 がっくりと彼が肩を落とす。

 それから私に一礼し、とぼとぼ千束の方へ歩き出す。

 千束は彼と合流するなり、その袖を掴んでぐいぐいと引っ張るが、一度だけ振り返って白々しく私へ笑顔で手を振る。

 ああ、苦労してるんだな彼は。

 

 その後も本部内で彼を見たが、その度にリコリスと接触させようとしなかったり、職員を彼の後ろで睨んだりする千束を見かけた。

 もしかしたら、苦労しているのは千束の方かもしれない。

 あれだけ手当たり次第に牽制しているのだから。

 

 興味本位に、千束が一人だけでライセンス更新に訪れた時を狙って尋ねた事がある。

 そしたら。

 

 

「後ちょっとだから。大目に見て」

 

 

 そう言われてしまうと何も言えない。

 そういえば、楠木司令も彼と千束が一緒にいるのをどこか諦めたように見ていた。

 きっと、それが短いのだと理解しているからだ。

 

 だから、誰も邪魔ができない。

 その終わりが悲しくないことだけを祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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