喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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私はガキでした

 

 

 

 席に着いた吉松シンジ。

 あの……俺を挟んで座るのやめて。

 店に来た当初から、妙に店長とヌルっとした空気になるのはお約束になってきたので慣れたが、間に俺を入れるのだけは勘弁して下さい。

 そんな俺の心の悲鳴など露知らず、隣から微笑みかけてくる。

 な、何だろう。

 産毛がぞわぞわと立つ感覚がする。

 助けを求めて店長を見ると苦笑していた。ワロてないで助けなはれや!!!?

 

「リコリコ以外では初めてだね」

「え、ああ、そうですね」

「そう固くならなくていい」

 

 無理です。

 無理ムリむり!助けて千束!!

 

 もう駄目だぁあ……!

 俺、この空気に堪えられない!まだ大人な吉さんと店長についていけてない、ガキだって痛感しました!

 格の差は知れたでしょ!

 良いでしょ、充分でしょ!

 

 盗聴器のスイッチをオンにしてはいるが、千束たちが危惧したような事態ではない。

 話題が『千束の今後について』。

 どうしてそんな事を吉さんと話すのかは疑問だが、千束の進退を左右できる重要性があるとはとても思えない。

 聞こえてるだろ、千束。

 もう、ここに用は無いぞ。

 だから助けて!!

 

「ミカも。すまないな、急に呼び出して」

「いいさ」

「君に、尋ねたい事がある」

「……改まって何だ?」

 

 俺たちの前に一杯が供された。

 コイツを一気に飲み干してトイレという態で離脱するか。

 マジで逃げたい。

 何で俺を挟むんだよ!

 

「その前に、天くん」

 

 ひっ、お、俺かよ!

 思わず噎せそうになりながらも堪えた。

 ただでさえ心的負担が大きい状況下で、この静かなバーで咳き込む声とかが響いた時はもう生きていけない。

 明日辺り、千束やミズキさんにイジられる。

 

「はい」

「君は“才能”をどう思う?」

 

 ……急に何の話ですか。

 思わず固まる俺に、吉松は真剣な表情である。

 意図は不明だが、答えるしか無さそうだ。

 

「……人生を豊かにする素晴らしい物、とか」

「そうだね。その考えは正しい」

「……?」

「天才は神からのギフトだ。どんな形であれ、それは世界を発展させる大きな力となる」

 

 何か語り始めたよ。

 俺はこの人の声とか口調が嫌いなんだよな。

 すごく失礼なのだが、過去にいた最も嫌悪した存在と似通っていて思わず耳を塞いで目を背けたくなる。

 特に、天才は神のギフト。

 その言い回しもそうだ。

 

 ――キミは神に選ばれたんだよ。

 

 そんな風に、アイツも言った。

 だから、積極的に色々な殺しを俺にさせた。

 望む、望まないではない。

 役割であり、使命であり、機能だと宣った。俺個人がその所業にどんな所感を抱こうと、行為の意義を蔑ろにしてはならないと厳命された。

 殺しの才能ってなんだよ。

 神のギフトってなんだよ。

 願ったワケでもないのに、選ばれたとか知らんわ。

 

「そうだろう、ミカ?」

「…………ああ」

 

 ……店長もそこに同意するのか。

 意外だと思うし、正直ガッカリした。

 

「ミカ、約束を破っているだろう」

「………」

「手術後、私はキミにあの子を託した。――その意味を忘れたのか?」

 

 その声色は冷たかった。

 微かに裏切られた悲壮感を匂わせながらも、静かな憤りを含ませた一言に店長が眉根を寄せる。

 吉松は批難するような眼差しを向けていた。

 ……挟まれている俺の場違い感が半端ない。

 

 しかし、どういう意味だ?

 千束の手術後――とは、つまりコイツは千束の心臓の件に関与しているという事なのか。

 

 

「何の為に千束を救けたと思っている?あの心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ」

 

 

 吉松の言葉に総毛立つ。

 アランの才能の結晶――そこまで知っているのか。

 千束を救ったという言い回しから、彼女の恩人という事だ。

 あの高性能な人工心臓を提供した謎の人物であり、千束がDAを離れてまで探そうとした張本人が、この吉松シンジ。

 こんな身近にいたというのか。

 

 ならば、これまでの情報から推察するに吉松は………いや、この野郎は『アラン機関』の人間というワケか。

 

 

 そうか、あのクソ上司と同じ。

 道理で声や雰囲気まで似ていると思ったよ。

 個人の意思は介在せず、ただ能力によって人の道を決定し、自分勝手な幸福論に従って他人を幸福にしたような気になっている奴らの仲間……。

 

「天、やめろ」

 

 隣から店長に肩を掴まれた。

 その感触ではっとする。

 無意識に、手が吉松の首元へと伸びていた。

 ……そうか。

 だから、店長は先に謝っていたのか。

 俺が憎悪する対象を知っていて、これから会う吉松とどんな状態になるのか予見していたのだ。

 殺すかも、しれないと。

 

「……キミは憎んでいるのかい?我々を」

 

 吉松の問に、鎮まりかけていた怒りが再燃する。

 そうだよ、憎いよ。

 今の自分があるのは、紛れもなくクソ上司が大きい。ヤツがいなければ21番にも会えず、リコリコにすら辿り着けなかっただろう。

 だが、感謝なんて欠片もあるかよ。

 その所為で、好きな人を一度は殺し、また再会してまで再び敵対しなくてはならなくなったんだ。

 

「当たり前だろ」

「キミを支援した男と私は知己でね。以前から13番という才能の結晶について話は聞き及んでいた」

「…………」

 

 クソ上司について、吉松は語る。

 誰よりもアランの思想に殉じた男だった、と。

 その敬虔な姿勢のあまり、自身が発見した才能を使ってまで一つの才能を磨き上げる事すら厭わない。

 俺の能力向上の為に投じられたのもまた、本来なら支援するか否かを審議すべき対象だったという。

 知るかよ。

 

「キミは優秀なチルドレン……だった」

 

 そうだろう。

 俺本来の使命は『殺人』だ。

 だから、会社で俺に回される任務は主に暗殺ばかり。

 それを嫌とはいえ、千束と会うまでは忠実にこなして来たのだから優秀という評価も付く。

 今はリコリコの方針に従って辞めている。

 きっと、クソ上司ならば如何なる手段を用いても現状を変えようとして来ただろう。

 

「ミカ、なぜだ」

「…………」

「天くんがそういう存在だと知って引き取りながら、なぜ千束のように遊ばせている?彼らには使命があるんだ」

 

 俺は一度引いた手で拳を握った。

 ダメだ。

 何を聞いても虫唾が走る。

 良いよ、わざわざ俺の目の前に姿を現したという事は命が惜しくないということだよな。貴様らは神のギフトの為なら命も惜しまないというのは理解している。

 なら、使命でも果たしてやろうか、今ここで。

 

 俺は店長の手を振り払って、膝の上にあった拳固を振り上げる。

 もう迷わない。

 今、ここで――――。

 

 

 

 

「吉さんなの?」

 

 

 

 止まる。

 血も凍ったかと思った。

 俺はその姿勢で停止したまま、視線だけ横に動かした。

 ……そこに、気まずそうな千束がいる。

 彼女の目が、俺の拳を見た。

 やろうと思えば、本気の一撃で人の頭蓋を砕ける凶器を。

 

 ――テンは今、私の奴隷なんだから!私がダメと言ったら、ダメ!

 

 ……命令、がある。

 俺はゆっくりと、呼吸を整えながら拳を下ろした。

 千束が安堵したのが分かる。

 彼女の後ろからはたきなも現れた。

 二人の登場に店長が瞠目し、吉松は厳しい目で彼を見つめる。

 

「千束!?」

「ミカ……!」

「いや違う!」

 

 二人の行き違いが始まった。

 だから、俺を挟んでやるなよ。

 

「ごめんなさい。先生のメールをうっかり見ちゃって……」

「司令と会うのかと」

「おまえたち……」

「でも、今の話。ちょっとだけ……ちょっとだけ吉さんと話をさせて!」

 

 千束が必死に店長に嘆願する。

 

「千束、こんなクソと話す意味なんて」

「テン、お願い」

「……………………わかった」

 

 止めようとした。

 でも必死な赤い瞳に見られて、そこに映る自分の表情を見て気分が落ち込む。

 そうだな、千束にとっては恩人か……。

 アレだけ忌避しながら、熱くなって殺そうとした俺が一番この場で情けない。

 

「……すみません、頭冷やしてきます」

 

 俺は店を早足で出ていく。

 取り敢えず、あの場にいたくはなかった。

 

 外の空気でも吸いに行こうかと、取り敢えずエレベーターを使う。――が、扉が閉まる直前にたきなが慌てて乗り込んできた。

 お互いスーツ姿なのが、妙にいつもと違って不思議な空気を醸し出している。

 

「……天さんも、アランチルドレンだったんですね」

「千束から聞いてなかったんだな」

「はい」

 

 取り敢えず不貞腐れた俺と一緒に外まで同行してくれる辺りが天使だ。

 本来なら口に出しているくらいだが、生憎と気分が良くない。

 俺とたきなは外に出てまず体を同時に伸ばした。

 それをお互いに見て、笑ってしまう。

 どうやら、緊張感で体が強張っていたのは俺だけじゃなかったようだ。

 

 さて、どうしたものか。

 

 積年の恨みを晴らしたい相手……の一人に会えた。

 昔から、どうやって復讐しようか考えていた。

 まず一人を捕縛し、アラン機関の正体を審らかにする。世間が言うように個人の可能性という線はなく組織だと知っているので、本拠地を聞き出して全滅させるつもりだった。

 アレが、アラン機関の人間か。

 眼の前にしたら、我を忘れてしまった。

 復讐どころではない事になっていたな。

 

「天さんは、彼が憎いんですか?」

「……吉松本人じゃない。アランそのものだ」

「彼らに何かされたんですか」

 

 遠慮なく尋ねるたきな。

 いや、うん、凄い胆力だなキミ。

 

「今は話せない」

「わかりました」

「……意外とあっさりだな」

 

 あまりの潔さだったので反射的に訊いてしまった。

 すると、彼女はくすりと笑う。

 

 

「いつかは、教えてくださいね」

 

 

 ………………天使か。

 俺が話せるようになる心の準備を待ってくれるというのか。

 そんな日が来るかは分からない。

 でも、その心遣いが今は凄く有り難い。

 俺の意志をいつも汲んでくれるのは、たきなくらいだ。

 だからこそ、いつかちゃんと答えたい。

 

「ありがとう、たきな」

 

 感謝を口にすると、たきなの頬が少し赤くなった。

 素直にお礼を言われるのに慣れていないのか。

 どこまで可愛いんだコイツ。

 

「今日のポニーテール、超イケてた」

「……そうですか?」

「うん。いやぁ、まさかあんな魅力もあったとはな」

「……心配して損しました。その調子なら大丈夫そうですね」

「いつものツインテールも可愛いぞ」

「怒りますよ」

 

 耳を真っ赤にして睨んでくる。

 そんな事をしても迫力なんか出ないのにな。

 

 俺たちが話していると、目の前に一台の車が停車した。

 ……たきな達が乗ってきた物だろうか?

 だが、助手席には知らない女性が乗っている。

 きっと、誰かの連絡で迎えに来たのだろう……相当なVIPによる仕業だな。

 気まずいので、俺とたきなは横へと退く。

 

「おや、ここにいたのかい」

 

 そして、嫌な声を耳にした。

 うるせ、話しかけんな。

 

「キミもまた、貴重なアランの宝だ」

「…………」

「努々忘れないで欲しい。我々はキミの味方だ」

「千束に変な真似したら、その時点でタダでは済まさないので。そのつもりで」

 

 一応は警告しておく。

 ヤツは千束の支援者だ。

 きっと本来の目的は千束にある。

 

 吉松の登場に際して、車の扉が開かれた。

 どうやら、コイツだったらしい。

 

「あの!」

 

 たきなが吉松を呼び止める。

 

「先程はお邪魔してしまって……でも、千束喜んでました。またお店でお待ちしています!千束はずっと貴方を――」

「キミならば分かる筈だ。……千束の居場所がここではないと」

 

 その一言に、たきなも口を噤む。

 図星、なのではない。

 否定されたことへの静かな動揺だ。

 数瞬の間だけたきなと視線を交換した後、吉松はあの妖しい笑みを浮かべて車に乗り込んだ。

 扉を閉めるや、車が発進する。

 たきなは、それを怪訝な眼差しで見送った。

 

「……ああいう連中だ」

「…………」

「ところで、ミズキさんとクルミは?」

「駐車場で待機です」

「なら行くか」

 

 俺はたきなの肩を軽く叩いて、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一夜明けた。

 俺はソファーでぐでーっと寛いでいる。

 既に出勤時間は経過していた。

 しかし、動く気力は一切ない。職務怠慢ではあるが、今日はリコリコに行ける気力が湧かなかった。

 千束もどうやら今日は行く気が無いらしい。

 あの野郎に何か言われたショックかね。

 

「…………」

 

 ようやく見つけたアラン機関。

 叶ったらラッキー程度の目的だったが、実際に目の前に現れると判断に迷う。

 

 吉松を足掛りに奴らを追うか。

 それとも吉松一人で手打ちにするか。

 

 仮に前者だとすれば、DAを敵に回す事も辞さない。最悪はテロリスト共にだって加担する。

 後者だと……そうだな。

 吉松には何が苦痛になるかを考える。

 やはり、物理的な尋問だろうか。

 吐くだけ吐かせて、体を痛めつける。原形が留まらないくらいが丁度良いかもしれない。

 だが、アランの連中がその程度で怯むか?

 あのクソ上司のように、最後まで笑っているかもしれない。

 

 ……そうだ。

 ヤツらは神のギフトを世界に届ける事こそ至上。

 なら、吉松の希望である千束を――。

 

「……何を考えてんだか」

 

 こういう所だよな。

 きっと9番が言っていた『影響』というのは。

 

「……そういえばアイツ、何してんだろ」

 

 朝食は叩き起こして食わせた。

 だが、その後の行動が一切不明だ。

 また映画でも視聴しているのか、それともただの二度寝だろうか。

 ……まあ、どうでもいいか。

 

 そう思って、俺も二度寝しようかと瞼を閉じる。

 寝るのは簡単だ。

 休息は取れる時に取る――海外の戦争に駆り出された時にも会社で教わり、修得した技術だ。ほんの目を閉じて数秒あれば、敵襲を察知できる余地を残した上で脳を休ませられる深さの睡眠すらできた。

 今は……ぐっすり寝たいところだ――ぐぁッッッ!!!?

 

 

「おーい。厨房役が呑気に二度寝〜?」

 

 

 寝ようとしたら千束が腹に座ってきた。

 全然気づけなかった。

 衰えたかもしれない、こんな気の抜けた敵襲すら察知できないなんて。

 

「……今日は行く気になれない」

「私は行くのに?」

「オマエが何しようと関係ない」

「テンがいないと寂しいよ?先生も、ミズキもクルミも、お客さんとかたきなも。……あ、勿論私も!」

 

 ………そんな事言われても。

 あと、最後のヤツは別に。

 

「昔のテンに何があったか、先生から聞いた以上の事は知らないよ」

「………」

「でもさ、テンが今得ている物って……過去に比べたら、そんなに価値がない?」

 

 その言い方は卑怯だろ。

 価値があるから、捨てるのも惜しくなる。

 店長と話した時にそう言った自分の言葉に自信が持てなかったが、捨てる時に何も思わない事は無いだろう。

 紛れもなく、リコリコでの時間は財産になっている。

 

「……価値はある」

「だよねっ!私という主人は一生の宝だよ」

「あーはいはい。素敵な人生ありがとうゴザイマス」

「オイ」

 

 自然と棒読みになってしまった。

 千束を押し退けて起き上がる。

 どうせ動かないと、ずっと話しかけられるのだろう。

 だいぶ遅刻だけど、店長なら謝れば許してくれそうだ。

 

「行くか」

「よし!………あ、そうだ」

「ん?」

 

 千束が思い出したかのように声を上げる。

 何だ、まだ続くのか。

 

「昨日の私のドレス、可愛かったでしょ」

「……あー、あれか。露出が激しすぎ」

「ぬぁっ!?ひ、人を痴女みたく言うな!」

「一端の乙女なんだぞ。男の視線とか気にしろよ、全く……こちとら気になって上着を着せるかどうか悩まされたわ」

 

 そう言うと、千束がきょとんとした顔になる。

 おい、人の言ってる意味分かってないのかよ。

 理解力の無さにため息を漏らすと、何故か次第に千束がニマニマと気色の悪………気持ち悪……じゃなくて、不気味な笑顔を浮かべ始めた。

 

「なんだよ?」

「うひひひ」

 

 え、マジで何?

 恐怖すら感じて俺が見ていると、千束が体をツンツンとしてきた。

 

 

「他の男に見られたくなかった、とか?」

 

 

 …………………。

 ……………。

 ………。

 

「ほら、行くぞ」

「あー、照れた?照れた!?」

「ウザ」

 

 

 図星じゃない、決して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「カワイイ悪魔」〜

 

 

 

 

 千束――十一歳

 テン――十七歳

 

 

 いやー……全ッッ然、客が来ない!

 

 客足の絶えた時間帯、俺はもう自らが客であるかのように座敷席で寛いでいた。

 店長も暇しているのか、自分にコーヒーを淹れてテレビを見ながら飲んでいる。千束は裏側へ行ったっきりで、何をしているかよく分からん。

 一生引っ込んでろ!!

 暇な時間に来られるのが一番迷惑だ!

 休ませろ。

 

「なあ、天」

「はい?」

 

 店長が俺に声をかける。

 俺は顔だけそちらに向けた。

 店長の視線はテレビに固定されたままで、画面には思春期の娘について語る芸能人たちのトークバラエティ番組が映っていた。

 確かにリコリコにも年頃の娘はいるよ。

 常軌を逸してるけどね!!

 

「天は、千束をどう思う?」

「どう、とは?」

「ううむ……恋人にしたい、と思うほどに好いているか?」

 

 店長がようやくこちらを見て問うてきた。

 

 ここで大爆笑しなかった俺を褒めて欲しい。

 本来なら、微塵たりとも可能性として有り得ないと笑い飛ばしていたところだが、生憎と店には千束本人もいる。笑い声が響いてしまったら、何事かと聞きつけて来るだろうし、事情を聞いた後に俺が笑った事実で処刑台が作られかねない。

 いやー、恐ろしい。

 

 そう、落ち着いて返せばいい。

 何事も無いように、軽く答えれば。

 

 

 

「いや?人として大嫌いですよ」

 

 

 よし、言えた。

 俺の返答に店長が固まっている。

 店長としては立場上、やはり同じ従業員として仲良くして欲しいのもあるのだろう。他にも驚いている理由として、さっぱりと嫌いと言われたら普通にビビるだろうな。

 

 でもね……奴隷扱いされて悦ぶ手合じゃないんですよ!

 

 俺にはそんな趣向も無いので今もストレスだ。

 だから、好きになる要素なんて無い。

 あんなヤツ、誰が好きになんて――――。

 

「天、冥福を祈る」

 

 へあ?

 唐突に店長から哀悼された。

 いや、哀悼、されたって何?

 何で俺が死んだような言い方するの?

 

 戸惑っていた俺の首に、後ろからするりと抱き着いてくる温もりを感じる。

 え、何?

 

 

「千束さんには聞こえなかったなー。…………………………………………もっかい言って?」

 

 

 ちょっ…………と待って。

 聞こえてはならない声がしたよ。

 

 

 

 

 声が聞こえた一瞬の後、俺は地獄を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

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