喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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 ミカside

 

 

 

 天が十八歳の春。

 私の下に来て四年は経つ天も、最初のような堅苦しい感じは無くなり、比較的に親しい相手として接してくれているようだ。

 出会ったばかりの頃は警戒心が強かった。

 背後に立つとすぐに気付かれる。

 厨房を担う私が刃物を手にすると、視線は向けずとも常にこちらを意識していた。

 千束にさえそうだった。

 だが、今の二人は兄妹のようだ。

 特に千束は天をとても慕っている。

 常連客も、そんな二人をどこか親のように見守っていたような気がしたな。

 

 それが変わって来たのは、この頃だろう。

 

 千束の牽制が顕著になった。

 対象は天に近づく異性に限られる。

 酷い時は、ずっと天の傍を離れない事がある。あまりにも露骨な上に天本人にも迷惑なので注意した。

 

『でも、天ってすぐホイホイ付いて行きそう』

 

 千束の幼すぎる危惧に笑ってしまう。

 それは普段から邪険に扱われている所為だろう。

 自分よりも好意的に接している客などに嫉妬したり、もしかしたら自分よりもそちらの方が親しいのではないかと不安になるのだ。

 

 だが、そんな事は決して無い。

 何故なら。

 

「店長、一生のお願いです」

 

 千束もいない早朝だった。

 店の下準備を始める私へ天が唐突に切り出す。

 深々と下げた頭の上で合掌していた。

 天から頼み事というのは度々あるが、ここまで真剣なお願いというのは初めて交わした『契約』以来かもしれない。

 私は手を止めて彼を見る。

 

「そんなに重要な事なのか」

「え……いや、その、はい」

「言ってみなさい」

 

 一生のお願い。

 そんな重い言葉を聞けば真剣味を疑ってしまう。

 尋ねてみると、少しだけ天は断言するのを躊躇った。

 覚悟はあるのだろうが、断られるのが怖いのだろう。

 頭ごなしに否定するのはいけない、しっかりと話を聞くのが子供に限らず人と過ごすに当たって最も重要と弁えているので、耳を傾ける。

 

 

「千束を、旅行に連れて行きたくて」

 

 

 ……想像してすらいない願いだった。

 だが、躊躇った理由は納得する。

 リコリスが支部を勝手な私情で離れる事は言語道断。それも千束はファーストであり、そもそもDAを出るという前代未聞のワガママすら通している。

 充分に特例中の特例。

 これ以上の欲は危険だ。

 天もその部分を理解しているから躊躇している。

 しかし、その願いを抱くに至った理由が分からない。

 そも、私もリコリスが旅行――という話自体が思いつかなかった。

 

「どうして、そう思った?」

「……笑わないなら」

「笑わないさ。おまえが一生のお願いとまで言うのだから」

「ありがとうございます」

 

 そこから訥々と天は語り始めた。

 

 ほんの些細な切欠である。

 これから迎えるゴールデンウィークに客もニュースも話題が尽きない。

 一般人ならば当然だ。

 まとまった休日を満喫したい。

 当然のことなのだが、日々この日本の治安維持の為に働くDAやリコリスには、実質的にゴールデンウィークであろうと仕事はある。

 むしろ犯罪率でいえば、増加する時期なのだ。

 比例してリコリスの仕事もまた増える。

 だから、千束はゴールデンウィークに湧き上がる世間の喧騒をどこか不思議そうに、そして羨ましそうに見ていたそうだ。

 

 そんな彼女の様子を見て、天は思いついたらしい。

 どうせ、ここはDAではない。

 だから、ゴールデンウィークの過ごし方も自由だと。

 折角DAを離れて自由なのだから、千束もまた満喫してもヨイのではないか……それが天の考えだ。

 

「でも、無理がありますよね……」

「……ううむ」

「その、代償として旅行先の地方で俺が任務に当たる……とか」

「そこは要相談だが」

 

 いや、それは兎も角だ。

 一番の理由を聞いていない。

 

「天、一ついいか?」

「なんです?」

「何故、おまえが千束の為にそこまで頑張るんだ?普段のおまえはそこまでしないだろう」

「…………」

 

 少し意地悪な訊き方だったか。

 天は案の定その顔を俯かせてしまった。

 どうやってその心の本音が聞けるだろうかと私も別の訊ね方を考えていると。

 

 

「……アイツの落ち込んでる顔が、その、あまりにも似合わなくて放って置けなかったというか」

 

 

 ……小声で天が答えてくれた。

 私はその内容に、思わず笑いそうになって堪える。

 可笑しいのではなく、嬉しかったのだ。

 そこまで想いやれる程に二人の距離が近づいていた。

 千束の想いが一方通行ではないのだと知れたので、私もその時に覚悟が決まった。

 

「分かった。私が何とかしよう」

「す、すみません」

「その代わり、旅行先や何泊の予定か、スケジュールについてもしっかりと報告しなさい」

「……一生の恩に着ます」

 

 

 それから、私は楠木に掛け合った。

 色々と制約は付いたが、一応認可された。

 答えを聞いた時の天の反応は、全力で座敷に伸びて脱力していたな。

 かなり心配していたようだ。

 

 それからゴールデンウィークに突入する二日前、天は閉めた後のリコリコで千束にパンフレットを差し出していた。

 

「千束、これを見ておけ」

「なにコレ?」

「旅行だ」

「………?」

「ゴールデンウイーク、俺たちで県外に旅行へ行こうって話だ」

「――――」

 

 その話を聞いた千束は固まっていた。

 視線はパンフレットに固定されている。

 

 あまりの無反応に、天は心配になって顔色を青白くしている。

 喜ぶと思った事が空回りした。

 だが、妙だな。

 千束にしても静かである。

 落ち着かない沈黙の中で、千束の表情がゆっくりと解れていく。

 そこに――輝くような笑みが咲いた。

 

 

「旅行!ホントに!?」

 

 

 キラキラとした目に、天が胸を撫で下ろす。

 どうやら成功したようだ。

 事の成り行きを見守っていた私としてもハラハラしたが、取り敢えず良かった。

 

「よしっ!店長、その日はリコリコも休みなんで店長も行けますよ!」

「え」

「え」

 

 私も行く予定だったのか!

 二人だけで話を通してしまっていた。

 

「……すまん、私は行けない」

「え……!?」

「二人だと思って楠木に話した。これ以上の変更は利かないだろうから、どうか二人で楽しんできてくれ」

 

 申し訳ない事をした。

 折角あの天が誘ってくれたというのに。

 きっと、千束の方も家族旅行のような物を考えて目を光らせていたのだろう……。

 そう思って、千束の方を見ると。

 

 

 

 

 

「そっか。じゃあ、色々やらないとね」

 

 

 

 赤い瞳に仄暗い光を宿し、独り言を呟いていた。

 パンフレットを眺め、その度に心配させられるような不吉な笑みを浮かべている。

 ど、どうしようか。

 本当に天を二人きりにして良いのだろうか。

 

「店長、本当にすみません」

「いや、良い。それより自分の身を案じろ」

「はい?」

 

 何も知らない天に、多くは語れない。

 その背後で、口元に人差し指を立てて秘密を促す笑顔の千束がいるのだから。

 すまん、天。

 どうか、強く生きてくれ。

 

 

 

 二日後、捕縛用のワイヤーを旅行先に持って行く千束の荷物に嫌な予感を覚えたが、二人が笑顔なので私も笑って見送った。

 …………すまん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 千束の部屋で変な物を見つけた。

 数年前の旅行で撮ったウェディングドレス写真だ。

 いつ現像したんだ、こんな物……!?

 堂々と飾られているが、たきなとの同棲生活の時にも置かれていたのかと思うと恥ずかしくて死にたくなる。

 それにしても、俺が若い!!

 まだ身長も今より小さいし。

 懐かしいなー、人間って老け込むの早いな。

 

「何見てんの?」

 

 ひょい、と横から千束が顔を出す。

 え、何って?

 いや、フツーに黒歴史っスよ。

 

「若気の至りだな」

「言ってる事がおっさん臭い」

「老けたなー、俺とオマエ」

「老けたとか言うな!成長と言いたまえ!」

 

 ハイハイ、そうだね。

 より美しさに磨きがかかり、更に悪質さは他の追随を許さない程になりましたもんね。

 これは成長という名の悪化。

 ふはははははは!!

 何処が成長してるんだよ寝言は寝て言え!

 

「テンも大きくなったね。懐かしいなぁ」

 

 俺の手から写真を取り上げて千束が感慨に耽ける。

 ……そうだな。

 あの時はかなり店長に苦労をかけていた。

 勿論、今もなんだけどね。

 

「しっかし、俺の衣装マジで似合わないな」

「そう?」

「如何にも服に着られてる感が凄い」

「今着たらきっと似合ってるよ」

 

 やっぱり、お互いに好き合う素敵な相手を作れるような男にならなければならないということか。

 これでは記念写真でしかない。

 不格好にも程がある。

 

 そう考えていると、横でミシミシと軋む音がした。

 …………んぇ?

 

 

「うん。将来の結婚式にはもっと似合ってて……相手の人も、喜んでるんじゃないかな?」

 

 

 ………あ、うん。

 その、何と言いますか。

 写真立て壊れるからそんな強く握るのやめな?

 

 凄く機嫌が悪くなっている。

 相変わらず情緒不安定で先が読めない。

 お、俺が千束の『任期』を最後まで見届けた後も誰かと結婚する事すら嫌なのか。

 奴隷契約はそこまでなんだけどなぁ……。

 

 ど、どうしよう。

 どうやって機嫌を直そうか。

 

 俺は何かないかと考えを巡らせて、ふと左手の指輪に視線を留めた。

 ……そ、そうだ!

 

「な、なあ千束?」

「ん?」

「これさ、撮り直さないか…………?」

「えっ」

 

 意表を突かれたように、千束がばっと顔をこちらに向ける。

 早っ、怖っ!!?

 

「いや、ほら今は俺たちも大きくなったし」

「………」

「もしかしたら似合うかもしれないじゃん?ほ、ほら、お誂え向きに指輪だってしてるし……?」

 

 顔色を窺いながら訊く。

 ぴたり、と写真立ての悲鳴が止まった。

 ゆっくりと千束が元の位置にそれを戻し、スマホで何かを調べ始める。

 早い、作業が速い!!

 史上最強の能力の無駄遣い!

 

「テン、ここに明日行こう!」

「あ、はい」

「えへへ。じゃあ、去年の誕生日に貰ったネックレスも付けてこー!」

 

 貰った、って何?

 そのネックレスは強引に買わされたんですよ?

 どんだけ自分の記憶を美化してるんだ。

 泣きながら財布の中ゴッソリ削られた俺の哀訴とか耳に入ってないんですねクソご主人様が!!!!

 

 ……まあ、機嫌が直ったなら何よりだ。

 

 まあ、幸いにも明日は予定が…………あ。

 

 

「そう言えば、明日はたきなと一緒に飯を食いに――ひィッ!!!?」

 

 

 突然顔面に向かって写真立てが飛んで来た。

 慌てて避けると、後ろの壁に激突してガラス部分が砕け散る。

 腕を振り抜いた姿勢のまま千束があ、と声を上げた。

 

「やっちゃった」

「へ……?」

「気に入ってたのに……写真はまた現像すれば良いけど。あ、テン!」

「はひ!」

「明日は楽しみにしてるね!」

 

 ………俺は黙って頷いた。

 そして、手の中でそっとたきなに『明日は主人の命令で行けなくなりました、ごめんなさい』の旨の謝罪メールを送信する。

 ………ふへっ、死にたい。

 

 

 

 後日。

 俺はリコリコで悶えていた。

 カウンター席に一つの真新しい写真立てがある。

 飾られた写真には、笑顔の千束。

 そして隣に、まるで全て吹っ切れたかのように不思議なほど笑顔な俺がいる。

 うん、何て明るい地獄絵図だ!!

 

 常連客がニヤニヤと笑っている。

 

「まさか、ちゃんと式まで挙げたなんて」

「何で私たちも呼んでくれなかったのよー!」

 

 違う。

 違います。

 ……ってか、何でこんな所に飾るんだよ!!

 笑顔で常連客と惚気話(嘘)で盛り上がっている千束の真意は知れない。

 うう、泣けてきた。

 

 ふと、横をたきなが通り抜ける。

 あれ、いつもならこんな時に慰めてくれたりするんだけど……。

 そういえば、今日は大天使たきなエルから一言もその美声を賜っていない。

 これは由々しき問題だ!

 そうだ!

 だから今日の俺のメンタルはいつも以上に弱いのか。

 

「たきな?」

「昨日はお楽しみだったんですね」

「あ゛」

 

 それだけ言って、たきなは去っていく。

 その後も、彼女は俺と口を利いてくれなかった。

 ………だよね。

 俺が美味しいお店があるので休日に行ってはどうかとたきなに色々と紹介したら、よく分からないそうなので俺が付いて行く事になったのだ。

 思えばナチュラルにデートの約束を取り付けてたな。

 結果はクソご主人様に阻止されたけどね……。

 色々と終わった。

 

「テン!」

「あ?」

「これ、今の私って似合ってる?」

 

 写真を手に俺の方へと見せる。

 

 ……そうだな。

 十二歳の頃に比べれば、ぐっと大人の女性になった。白いドレスと白い髪、眩しい笑顔がまるで本人を天使のように輝く存在に引き立てている。

 ……逆に俺がくすんで見える程に。

 俺だけか、成長していないのは?

 

「どうなんだよー?」

「ん?ああ、凄い似合ってるよ。主従関係じゃなかったら結婚申し込んでたくらいにはな」

「…………ホント?」

「え?あ、うん?」

 

 あれ、後半は冗談なのだが。

 千束の感情の読めない声音に思わず頷いてしまう。

 

 

「………やったっ」

 

 

 胸前で拳を握るや千束は弾けるような笑顔で帰って行く。

 何か嬉しい事でもあったのだろうか。

 いや、もう分からん。

 奴隷なんだから余計な事は考えずに働きましょ、ははははははは!!……………はぁ。

 

 もう既に疲れた。

 今日はぐっすり眠れそうだ、色んな意味で。

 

「……店長?」

「ん?ああ、いや」

 

 店長が写真立てをカウンター席のテーブルに置く。

 アンタも見てたんですか。

 千束のそこに飾るという沙汰を認めていないで、早々に撤去して欲しいところなんだが。

 

「邪魔になりません?」

「いいや」

 

 店長が強く首を横に振る。

 

 

「とても、良い写真だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「あり得たかもしれない過去」〜

 

 

 

 私――井ノ上たきながその人と出会ったのは、随分と昔である。

 サードリコリスの私に任務が下された。

 標的は情報屋として働く青年。

 名前を色々と変えており、元はDAが過去に抹消しきれなかった危険な会社の従業員だった上に、その人物が有する戦闘力や危険度の高さから無視できないので暗殺の指令が出された。

 これまで何度も返り討ちに遭っているらしい。

 ファーストが一名、セカンド八名。

 いずれも生還しているが、毎回逃げられてしまうらしい。

 

『か、彼は素早くて……その』

『べ、別に、絆されたとかではなく』

『……また会いたいな』

 

 いずれも精神状態が普通ではない。

 重なる任務失敗の数。

 集団で襲撃しても仕留めきれず、単独で油断している所を狙おうとも当たらない。

 とうとう京都支部は、次の暗殺が失敗すれば本人を取り込む形で決着させよう、と考えた。

 そして、当時優秀だと持て囃された私にお鉢が回った。

 

 ターゲットは街にいた。

 何やら道で子供たちに囲まれている。

 手品を披露しているようだった。

 

「ほいっ」

「うわ、ホントに消えたよ。何かショックー」

「ふははは!任せろ、オマエの大事なお小遣いを再び召喚してやろう――――そらっ!」

「本当だ!すげー!」

「反応が現金なヤツだな」

 

 さて、どう仕留めるか。

 あの子供たちが捌けて、青年が一人になったら撃つ。

 そう考えていたら、青年が私の方を見た。

 おもむろに立ち上がって、子どもたちに手を振る。

 

「はいよ。今日はお開き」

「「「えーっ!」」」

「悪いけど妹が来たからな」

 

 えっ。

 妹って――そんな私の戸惑いなど露知らず、さっと普段からそうしているかのように自然な手付きで私の手を取って歩き出した。

 呆気に取られていると、いつの間にか人気のない路地に着いている。

 そこで私の手が離された。

 

「おい、流石に子供の前ではやめてくれ」

「………?」

「子供に銃とか倒れる人なんて見せたくないだろ」

 

 何故か悪人のくせに常識を説いてくる。

 貴方だって、リコリスの精神を狂わせたじゃないか。

 

「悪人のくせに何様ですか」

「それは認めるけど、別に一般民衆を害する気は毛頭無い。生きるのに必死なだけだ」

「その為なら殺人も辞さないのでしょう?」

「そういうのを極力避けるよう生きてる」

「……」

「それにしても、今回は一番幼いな……DAも人手不足か?」

 

 大きな手が頭に乗ってくる。

 反射的に振り払い、銃を相手に向けて構える。

 しかし、一瞬の後には私の手から取り上げられていた銃で頭をこつりと小突かれた。

 何をされたか分からなかった。

 唖然とする私の足元に、彼は銃を落とす。

 

「だから、やめろっての」

「……!」

「さて、俺は立ち食いそば屋に行くわ」

 

 ひらひらと手を振って彼は去っていく。

 結局、その青年は捕まらなかった。

 

 

 

 

 

 後日、私は再び青年の下を訪ねた。

 どこで手に入れたのか、黒い車に乗っている。

 車窓を軽くノックした。

 

「うぇ……またオマエか」

「乗ります、開けて下さい」

「嫌だよ。車内で殺る気か」

「DAは貴方から情報が得られるなら殺さない事にしています。何度も言わせないで下さい」

 

 車に乗り込むと、彼が無言で車を発進させた。

 私を仲介人として、DAは青年に情報提供者としての役割を負わせて放置することにした。ラジアータで捕捉できない潜伏テロリストの所在などを把握している青年の情報力に目をつけ、利用する方針へと転換した。

 一月に一度の情報提供。

 それを怠る、または逃げれば私が殺す事になっている。

 

「たきな、今日は何処で飯食いたい?」

「いえ別に。情報交換をしに来ただけなので」

「昼時に一緒なんだから、何か美味い物でも食おうぜ。……あそこの天丼が旨いらしいぞ」

「それも情報屋として得た情報ですか?」

 

 苦笑した青年と共に、結局店で食事をしてしまった。

 何かと彼のペースに流される事が多い。

 

「DAで飯とかって出るの?」

「黙秘します」

「コレも駄目なのかよ。……じゃあ、好きな食べ物は?」

「秘密です」

「個人情報はもっと駄目か」

 

 店の中で話していると、店員の一人が青年を見つけて話しかけに来た。

 自然な態度で応対しながら私を妹だと紹介し、会話を弾ませる。

 ……そんな風に笑うんですね。

 私の時は密かに警戒するというのに。

 

 青年は街の人々によく声をかけられる。

 その度に手や足を止めて世間話をしていた。

 

「……人気者なんですね」

「そうか?」

「そうやって情報を得ているんですね」

「それもある。人から得る物っていうのも捨てたものじゃない」

 

 人から得る物、か。

 

「私からも何か得ているんですか?」

「え?あるぞ」

「なんですか?」

「たきながいるから昼飯の一時が楽しくなってる」

「………それだけですか?」

「えっ。あー、えと、DAの近況とか?俺をどんな風に見てるかとか……えと……はい、頑張って探したけどそれだけです」

 

 何故か恥じるように肩を落としている。

 私がいるから楽しい?

 自分を殺しに来た相手に対して、正気ではない。私の裁量で裏切りと判断したら、その時点で処刑するというのに。

 

 やはり、この人は理解できない。

 

 

 

 また一月して、私は青年の下へ向かう。

 彼はまた車で待っていた。

 ただ、いつもと違うのは。

 

「それじゃ、またね」

 

 女性が一人、青年の頬にキスを落して去っていく。

 顔を赤くした彼は、見開いた目で彼女を見送っていた。

 その後、キスされた頬をさすりながら何処か嬉しそうな顔をする。

 

 それを見た瞬間、鳥肌が立つ。

 

 分からない。

 自分でも何が不快に思ったのか。

 少なくとも原因はこの青年だ。

 

「お、たきなか」

 

 振り返った青年――のキスされた右頬を見た瞬間、私はハンカチを手渡した。

 

「え?何?」

「右の頬についてます」

「何が?」

「良いから拭いて下さい」

 

 えー、と惜しそうに拭く青年。

 何なんだ、その表情は?

 きっと私が同じことをしたって、そんなリアクションはしないくせに。

 何に自分が憤っているか分からなかった。

 ただ、青年を感情のままに睨め上げる。

 

「さっきの女性は?」

「ああ。同じ情報屋の人だよ」

「……随分と仲が良いようですね」

「おう。……どした、何か今日は一段と顔が怖いぞオマエ。腹減ってるのか?なら、まずは何処か食いに行くか」

 

 そう言って彼が笑う。

 それを見て、すっと溜飲が下がる。

 ああ、そうか。

 何て卑怯な人間なんだろう。

 そうやって、他の人間にも同じように笑顔を振り撒いているのだ。さっきの女性や、あの変わり果てたリコリスみたいな人たちを作るんだ。

 

 やはり、この人は危険だ。

 得体が知れない。

 私が見張っていないと駄目だ。

 

 

 

 私が、管理しないと。

 

「不審な密会だと私が判断した時点で執行です」

「本当にそんなんじゃないって。何なら交換した情報内容も聞く?」

「いえ。あんな人の話なんて聞きたくありません」

「え??」

 

 戸惑う彼と共に、飲食店へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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