喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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男、藤宮天!覚悟を決めます!!

 

 

 

「いぃいいらッしゃいませぇえ!」

 

 全く客の来ない寂しい店内。

 そこに喧しくクソご主人様の声が響いた。

 苛立ちで貧乏揺すりを始めるミズキさんの怒りが沸点に到達するまでもうすぐだ。

 俺は彼女からそっと距離を取る。

 

「ほーら、テンも」

「え?」

「こうしないとお客さん来ないよ」

「いや、でも」

「命令」

「ヘイ!らっしゃせぇええー!!らっしゃいらっしゃいらっしゃいらっしゃい!!」

「黙れェエエエ!!」

 

 ミズキさんに殴られた。

 見事な踏み込みと共に捻り出された拳が右頬を打つ。

 元情報部という非戦闘員だとは思えない程に洗練された力運びであり、一般男性程度なら確実に昏倒させられる威力があった。

 流石はミズキさん。

 いや、普通に本気で殴ってきた。

 ツッコミの威力じゃない。

 これ、薄々ミズキさんの怒りを察していた千束による巧妙な矛先の代替では??

 

「テン!大丈夫!?」

「う、嘘クセェ……」

「はー、にしても暇だなぁ」

「心配するフリにしては、あっさり過ぎない?」

「ん〜?」

「いえ。流石ご主人様です」

 

 もうヤダ。

 これが余命二ヶ月の人間の元気さかよ。

 暗く沈んでも困るが、ここまで快活だと却って不安感がある。

 もう少し世の理不尽さを呪っても良い筈だ。

 いや、それ以上に貴様が理不尽の権化だったな。

 

「何?」

 

 いえ、何も。

 

 もう奴隷ごときの思考まで読めている。

 心の中でさえ不満を言わせてくれない。

 これが理不尽でなくて、一体何だというのだろう。

 軽く人を一人は呪い殺せるくらいの熱量の物は持っているが、一向にクソご主人様に効いた様子はこれまで一切無かった。

 健康で何よりですね、ご主人様!!!!

 

 俺が歯軋りして悶々としていると、店の扉が開く。

 久しい客の来店にぱっと千束の顔が輝いた。――が、次の瞬間には困惑の笑みに変わる。

 一体誰かと俺も入口を見てみると、私服姿の可愛いたきなが立っていた。

 え、夏服……?

 今日は予報で降雪が予想される寒さですが?

 

「おー、おかえり?」

「千束。少し話が……」

「ん?」

 

 たきなが千束を座敷席へ誘う。

 怪訝な顔で千束はそれに従った。

 何が始まるのかと、俺と店長とミズキさんで見守る。

 それにしたって私服が可愛いなぁ。

 机を挟んで顔を合わせる二人の間に、短い沈黙が流れる。

 え、何??

 

「何ごっこ!?」

「……え」

「え」

 

 これから遊戯でも始まるかと勘違いした千束に、たきなも当惑する。

 咳払いをして気を取り直した彼女が、机の上に何かを取り出した。

 見てみると、『遊びのしおり』とある。

 可愛らしい色やフォントの文字で彩られた表紙には、そう書いてあった。

 

「出かけましょう!」

 

 たきなが意気込んだ声で告げる。

 一瞬だけ放心状態だった千束は、すぐに弾けるような笑顔を浮かべて店長へと目配せした。

 店長も笑みをこぼして頷く。

 

「行って来い」

 

 許可が出るや否や、千束は更衣室へ駆けていく。

 ミズキさんも微笑みながら肩を竦めていた。

 さっきの怒りは何処へやら、まるで妹のヤンチャを優しく見守る姉のような表情である。

 やがて私服に着替え終えた千束がたきなと共に出ていく。

 

 アイツ、店に制服で来なかったっけ……?

 

 そんな摩訶不思議な事に俺が悩んでいると、ミズキさんがカウンター席で寛ぎ始める。

 手には酒瓶があった。

 ひ、日の高い内から飲む気か!?

 おいおい、気を抜くなよ。

 看板娘が不在だからって営業は停止しないんだぞ。

 

「ちょっと、こっち来なさい」

 

 ミズキさんに手招きされた。

 え、俺?

 疑問に思いつつもそちらへ向かう。

 公的に俺は千束の奴隷ではあるが、リコリコ内で俺の意思を尊重してくれるのは店長とたきなだけだ。それ以外はさも自らの手足が如くに俺をこき使う。

 

 俺は渋々と隣の席に座った。

 

 すると、俺の分の酒盃が用意される。

 まさか、飲めと!?

 共犯者を作って自身の責任を分散させようという企みだろうか。普段から一人でも昼ですら勝手に飲み始める彼女にしては人を誘うなど珍しい。

 

「あの、これは?」

「アタシの注いだ酒が飲めないワケ?」

「その文句、世間一般でダメって言われてるやつです」

「あぁん?」

「頂きます」

 

 ぐい、と一気に酒盃を乾かす。

 あー、コーヒーが飲みてぇ!

 

「一体これは何の催しですか」

「……アンタ、どうせ死ぬつもりでしょ」

「……誰から聞きました?」

「聞かなくてもアンタの見え透いた考えなんて分かるわよ。何年一緒にやってると思ってんのクソガキ」

 

 ミズキさんが舌打ちする。

 やだ、行儀悪い。

 ……とはいえ、意外だな。

 黙っていれば店長以外には誰も悟られないと思っていた部分を言い当てられて、素直に驚いている。妙に大人びていて洞察力のあるクルミなら可能性もあったが、ミズキさんに露呈するとは全く想定外だ。

 

「情けない話ですよ」

「は?」

「千束くらい強ければ抗えたんでしょうけど、俺はそうならなかった。いずれ殺人機になるので、これ以外の手段が見つかりません」

「昔の女を使って心中ね」

「……21番とは決着を付けないといけない」

「ふーん」

「これが人に依存しなきゃ生きてけなかった俺の末路です」

 

 ミズキさんがへ、と嗤う。

 ちょっとイラッとくる笑い方だった。

 

「だから、アンタはクソガキなのよ」

 

 店長の方へ視線を移す。

 店長は困惑し、ミズキさんと俺を交互に見ていた。

 

 嗤われても仕方ない。

 結局、21番との邂逅で理解したのだ。

 俺はあの日から何も成長していないと自らに突き付けられたのだから。クソ上司の声が響いた瞬間に言い訳すら浮かばなかった。

 千束は常に前を見据えて進んでいる。

 店長は隣でその背中を押し、支えていた。

 ミズキさんやクルミは見守りながら、千束が独りにならないよう並んで歩いた。

 

 そして、たきなも自分の居場所を見つけて進みだした。

 

 そう、このリコリコで変われていないのは俺だけだ。

 あの日から後退も無ければ、進歩も無い。

 だから、過去である21番を振り払えない。

 俺にとっての今である千束を理由にして、進みたい道――『これから』に対して目を背ける。

 

「肝心な所が分かってないのよ」

「肝心なところ?」

 

 俺の酒盃が再び満たされる。

 ま、また飲めと……?

 抵抗感はあるが、酒を一息矯めてから呷る。

 

「アンタって、さっきから『すべき』ばっかじゃない」

「え?」

 

 ミズキさんがイライラした様子で俺を指差す。

 

「21番と決着をつけるべき、だとか殺人機だから死ぬべき、とか……いっつもソレよ!」

 

 ……それの何が悪いのだろうか。

 俺が小首を傾げると、ミズキさんに胸倉を掴まれた。

 

 

「アンタの『やりたい事』って何!?これまで千束の傍にいて、何でそれしか考えられないのよ!やりたい事最優先で生きて、それで失敗しても自分に正直に生きてるアイツみたいにしようって思わないの!?」

「………」

「すべき、じゃない。アンタは21番をどうしたいか、よ!自分がどう在りたいか、よ!」

 

 

 そう言われて、俺は固まった。

 やりたい、事……。

 だが、それをするには途轍もない労力を要する。周囲も多大な迷惑を被るし、何をしたいかなんて浮かばない。

 どう在りたいか。

 21番をどうしたいか。

 考えて、考えて……考える程に遠ざかる気がする。

 どうも、自分の願望について沈思すると暗闇を彷徨している気分になる。

 

 思わずちら、と助けを求めて店長を見た。

 

 しかし、店長が首を横に振る。

 どうやら、自分で考えろ――との事だ。

 

「俺は、13番は嫌です」

「ん」

「俺は……人間でいたい」

「そう!そこをまずやりなさいよ!」

 

 びしっ、とデコピンされた。

 その指を震わせて、ミズキさんが痛がる。

 すみません、頑丈なんで。

 

「アンタ、この九年で何を学んだわけ」

「え?」

「千束の奴隷になって、人に強制される事の苦労と嫌な部分をずっと感じて来たんでしょ?」

「…………」

「普段から人の世話ばっかりしてんだから、たまには自分優先でいきなさいよ。それくらいの迷惑に堪えられないアタシらだとでも思ってんの?」

 

 …………。

 俺のしたい事、か。

 

 21番はどうあっても俺を殺しに来る。

 足を失おうが腕を失おうが、息の根を止めない限り。

 過去という名の彼女と決別が出来ないから、俺は今も苦悩しているのだろうか。

 それなら。

 

「ミズキさん」

「ん?」

「俺、ミズキさんのキープやめたいです」

「おう」

「21番と決着付けてから、リコリコとまた向き合いたいです。だから死にたくない」

「おう」

「……迷惑かけますけど」

「ばっちこい!」

 

 ミズキさんに背中を叩かれいってぇえ!!

 もう酔ってます?

 力加減が明らかに出来ていない。

 

「店長」

「それが、天のしたい事か」

「はい」

「……良かったよ。また死ぬべきと言い出したら、今度こそ手足の骨を折って地下に閉じ込める予定だったからな」

 

 ……………え、怖い。

 もしかして、店長も千束と同類ですか。

 この親にしてこの子あり、的な……う、嘘ですよね?嘘と言ってくださいよ!!?

 

 俺が内心でガクブル震えていると、横でイビキが聞こえ始める。

 まさか、もう寝たのか!!

 言いたい事だけ言って寝やがって。

 

 ……でも感謝します。

 やっぱりミズキさんは素敵な女性ですよ。

 世の男の見る目が無いだけだ。

 

「覚悟は決まったかー?」

 

 いつの間にか座敷で寛いでいたクルミが声を上げる。

 

「クルミ」

「ん?」

「依頼内容を変更してくれ」

「………」

「もうアラン機関とかどうでもいいので、千束の事を助けて下さい。助力は惜しまないんで」

「報酬は?」

「何がいい?」

「ボク任せかよ」

 

 クルミが苦笑した。

 それから、うーんと唸って手元のPCを弄る。

 交渉として相手任せなのは禁句だ。

 どれだけの無理難題でも許容する構えだという事になってしまう。

 だが、今回はそれも辞さない。

 全部を擲つ覚悟での依頼だ。

 

 暫く思考した後、噴き出すようにクルミは笑った。

 

「千束の事、幸せにしろよ」

 

 ……随分とらしくない事を言う。

 こういった話題とは最も無縁そうな人物だ。

 

 千束を幸せにしろ、ね。

 俺はカウンター席の写真立てに視線を移す。

 最近撮ったばかりの華々しい衣装で着飾った俺と千束は、あの頃に比べて色々と成長した。……したのか?

 それでも全くあの頃と同じ、というワケではない。

 

 まあ、指輪を買ってから色々と覚悟はした。

 たとえ嘘だろうが何だろうが、男として責任を取ろう。

 千束の態度から分かる。

 流石に誤魔化しきれない。

 自惚れとか関係無い。

 ただのブラコンであそこまで拗れる事は無い。

 今まで色々と言い訳したが、もう目を逸らさず、男として受け止めるべき……じゃない、受け止めたい。

 

「ま、任せろ」

「ふ」

「でも、まだ千束には黙っとけよ。調子に乗るから」

「ヘタレ」

 

 うるせっ。

 

「そういうワケで、店長」

「……何だ?」

 

 俺は店長の方へと向き直る。

 カウンター席を離れて、座敷席に正座した。

 呼吸を整えて、この気持ちの伝え方を必死に探す。

 いや、探すな。

 思った事、やりたい事、言いたい事をそのまま口に出せ。

 ミズキ先生の教えを!!

 

 

 

「その、アレです。……む、娘さんを、俺に下さい」

 

 

 

 暫く、店内が沈黙に包まれた。

 ……………ぅううううううううううん恥ずかしぃいいいいいいいいいいいい!!!!

 し、死にたい!

 軽く三十回は死にたい!

 い、良いよね!?やりたい事だから自分を殺しても良いですよね!?

 

「私からもお願いしよう」

 

 店長が微笑んで、俺にそう返答した。

 

「が、頑張ります」

「…………私も、覚悟を決めなくてはな」

 

 これで当面の目的は決まった。

 俺は21番と戦い、真っ直ぐ別れを告げる。

 その方法が殺し合いしかないのは仕方ないが、もう有耶無耶には終わらせない。

 俺は未来を、千束とリコリコを選ぶ。

 

 それが、俺の『やりたい』事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、千束が家に帰宅した。

 余程たきなとのデートが楽しかったのだろう。

 満面の笑みで帰った千束が、下階にある自分のスペースではなく、俺の使う居間に直行して来た。

 ソファーに座る俺の隣に、ドカッと腰を下ろす。

 

「たきな、DAに行くって」

「知ってる」

「オイ、ご主人様に報告しないとはどういう了見だキサマ」

「たきなが自分で言うって言ったんだ」

「たきなの所為か?」

「もうどうしたら良いんですか!?」

 

 やっぱり理不尽だ。

 でも、俺はコイツを選んだのだ。

 これから長く付き合うのだから、今さら何を言ったって仕方がない。

 ふひ、何か泣けてきた。

 

「千束、あのさ」

「ん?」

「俺、DAを辞めようと思う」

「えっ……」

「色々と問題は起こるだろうけど、リコリコに勤められないか交渉してみるわ。そしたら、オマエにも言いたいことがある」

「プロポーズ!?」

「いや違う」

「えぇ〜……」

 

 違くはないけど。

 

「でも、それ私が生きてる時にしてよ?」

「……勿論」

「看板娘だからお店に化けて出るつもりだから、その時でも構わないけど」

「オマエは邪霊の類だから聖なる塩でも撒いとくわ」

「命令」

「どうぞ、ご自由にいらして下さい」

 

 死なせるつもりはない。

 

「あーあ、結婚式やってみたかったなー」

 

 応とも。

 開いてみせる。

 

「因みに、誰を呼びたい?」

「楠木さん」

「俺への嫌がらせか??」

「リコリコと常連さん、後はフキ。それから……吉さんも」

「……招待状作るの大変だな」

「そこはウォールナットの出番だよ」

「ハッカーの出番か、ソコ??」

 

 俺が作るから良いか。

 やりたい事が絶えないのか、千束は次々と願望を口にする。

 俺はその全てを肯定した。

 わかってる。

 必ず全部叶えてやる。

 その為の時間を、リコリコ総出で作る。

 たきな一人に背負わせたりしない。

 

 伊達に九年も奴隷やってないからな。

 オマエの願望を全て叶えるべき……じゃない、叶えたい。

 奴隷根性なめんなよ。

 

 まだ千束が助かる保証は無い。

 ウォールナットでさえ足跡が掴めないのだ。

 奴らが提供した人工心臓の出処を探るのもまた至難だろう。確率としては絶望的と称しても何ら不思議ではない。

 だが、千束は必ず生かす。

 そして、千束をもう言い訳にしない。

 俺は過去と――21番とケジメを付ける。

 

「あ、そうだ」

「ん?」

「オマエ、21番に会っても戦うなよ」

「………まだ庇うんだ?」

「そうじゃなくて、俺の手で指輪は取り戻したいんだよ。金輪際近づかないでくれって交渉も込みでな」

「………」

 

 ちょ、そんな光の無い瞳で見ないで。

 嘘なんて付いてないから。

 神に……は誓えないが、たきなに誓って嘘ではないと言える。

 

「じゃあ、訊くけど」

「ん?」

「21番さんと私、どっちが――」

「千束」

「……へ?」

「千束」

「………………そ、そか」

 

 迷い無く即答した。

 してやった。

 人の事を翻弄するつもりだったのだろうが、貴様の愚考など見え透いている。案外イレギュラーに弱いコイツならば効果抜群だろ。

 どうだ!?

 

 果たして――千束が隣で赤くなってそわそわし始める。

 

 うん、狙い通り。

 は、ザマー無い。

 実は初心であることは知っている、

 少しは年上の余裕という物を見せてやったわ。はー………顔熱い。

 

「て、テンは正直者だな〜」

「俺は嘘なんてついた事は無い」

「は?」

 

 あれ?

 またハイライトが消えた。

 ど、どうした……何処で何を間違えたんだ?

 

「マッチングアプリ、合コン、恋人一号、ナンパ、恋人二号、たきなとのデート……他にもあるけど?聞く?」

「え、あ、それは嘘っていうより、隠してたのと伝え忘れてただけで……」

「疚しい気持ちがあるからだろ」

「オマエが怖いだけだよ!!」

 

 

 怖いよおおおおおおおおおおおおおお!!!

 た、頼むよ一々心臓に悪い!!

 詰めてくる千束に対し、恐怖で思わず体を抱いて小さく縮こまった。

 早まったかな、俺!?

 この人を未来の嫁さんにしたいっていうの、早まったかな!?

 挫けそうなんだけど!

 

「も、もう隠してる事は無いから!」

 

 あ、いや、隠してる事は現在あります。

 何なら今日のリコリコの事も隠してます。

 

「分かった。信じようじゃないか」

「………ほ」

「じゃあ、コレは何だ?」

 

 千束がソファーの下に手を入れて、何かを取り出し――――………………ひぇ。

 

 彼女の手には、エロゲがある。

 正確には、友人から押し付けられるように勧められたゲームのパッケージである。

 ストーリーが最高という評価らしく、夜に秘密で遊んで感涙してしまって以来、慎重に、大切に、ゆっくりとプレイしている。

 そ、それはー、そのぉ……。

 

「何?と訊いてるんだよ」

「えと……と、友だちから勧められ、まして」

「これも隠し事だよね?」

「べべべべ別に!?隠してたんじゃなくて言う必要が無いと思ってただけだ!だ、第一こういうので遊んでても俺ぐらいの男ならフツーだってたきなだって言ってたじゃん!?」

 

 ヤケクソになって思わず力説してしまった。

 千束はそれを聞くと、パッケージを指差す。

 

「黒髪美少女がヒロインっぽいね」

「っ………」

「これ、タイプでしょ」

「………」

「正直に言いなよ」

「た、タイプです……」

 

 無言で膝に踵落としを食らった。

 痛い。

 この九年間で何気に俺が痛いと感じる部分を把握している所為で、コイツからの折檻は尋常じゃなく酷いと感じるときがある。

 やっぱり早まったな、俺。

 

「幻滅したよ、テンくん」

「酷すぎる」

 

 もうそろそろ、呼吸しているだけで殴られそうな予感がある。

 そこまではないか。

 いや、あるか?

 

「テン」

 

 千束に呼ばれて、恐るおそる彼女を見た。

 

 

「私と一緒にいる内は、コレ禁止」

 

 

 そう言って、ゲームは千束に没収された。

 それなら一生出来ないじゃん、という声を押し殺し、涙に堪えて遠ざかるゲームを見送った。ソレ、友だちから借りたヤツだから後で普通に返してね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のテン君ほぼ衝動書き。
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