〜21番side〜
僕は目の前の男を見ている。
縛られた男は、穏やかに笑っていた。
知っている、この笑顔。
心の奥底まで見透かしていながら全てを包み込むような安心感を与える柔らかい眼差しも、人を警戒させない口角の上げ方も既視感がある。
そうだ。
スーツに付いたボタンにも見覚えがある。
あの老人も付けていた。
いつも13番が持ってたペンダントと同じ。
「こんにちは、21番」
当然のように僕を知っている。
ああ、本当に気持ち悪い。
安心するくらいに気持ちが悪い。
「ボス。何でコイツ捕まえたのさ」
「作戦だ、作戦」
「必要〜?」
僕はボスの襟を掴んで揺すった。
だって、だってコイツ嫌なヤツでしょ絶対!
必死に訴えかけるけど、真島――ボスは僕の頭を掴んで引き離そうとするだけで真面目な返事も無い。
いやいやいやいや!
僕はこんなのと組むの嫌なんですけど!
ボスは誘拐した後に何やら話し込んで、僕にはほとんど事後報告だった。
作戦って何さ。
コイツにどんな活用法があるのだろうか。
話によれば、あの赤いリコリスを支援した敵側の人間じゃないのか。
忌々しい。
DAとの対決にアラン機関の力が必要ってどういう状況なんだよ。
その作戦とやらの詳細を教えて下さーい。
「僕にも次から事前に連絡してよね」
「まあ、見てろ。オマエにもしっかり、あのパワーゴリラ……何つったか」
「13番!」
「そう、藤宮天の相手させてやる」
「13番!」
「そーそー、13番な」
ボスに拳銃の銃床で頭頂部を叩かれる。
この野蛮人ッ!
痛いじゃないか、さっさと髪切れ!
僕が頭を押さえて睨んでいると、可笑しそうに笑うだけだった。
藤宮天は――嫌いだ。
赤いリコリスに奪われた13番の姿だから。取り返せば13番になるし、無理なら自ら赤いリコリスを捨てさせて13番に回帰させる為に僕の死を刻みつける。
ボスの作戦は、そこも配慮しているのだろうか。
どうやら、ボスは赤いリコリスにご執心だ。
話によれば仲間も連れずに家を訪問したらしいし、情報収集もDAより熱心に見ている部分がある。
JKのお尻を追いかけるのに必死か!
この変態め!
僕の13番だって凄いんだぞ。
「ま、もう良いけどさ」
「なあ、21番。コイツがおまえの言ってた上司の同僚だぜ?」
「薄気味悪い」
「な?オマエから聞いた上司だって、オレからすりゃ同じ感想だ」
「あの人は、色々怪しいけど良い人だったよ?」
「くく、ソレも『教育』の賜物か」
何が可笑しいんだコイツ。
ボスの膝を枕にしながら、購入した本を読む。
すると僕の額の上で頬杖を突きやがる、痛い。
「DAの次はアランだ」
「マジ?」
「やる気出るだろ」
「いや別に」
肘でぐりぐりされる。
乙女の額になんちゅー事するんだ。
でも、アラン機関は秘密の多い連中だ。
僕だって、あの上司の人相以外の情報はほとんど無い。名前や年齢、普段は警備会社で何をしているのかさえ謎だった。
世間でもそんな感じらしい。
天才を支援する謎の組織。
僕らの足で追えるのかどうかも疑問だし。
「21番くん」
「何?いま本読んでるんだよ」
唐突にアランの男が会話に割って入って来る。
うるせっ、アンタとは話してませーん。
「13番を取り戻す方法を教えよう。もし、そうしてくれるのなら協力は惜しまない」
「胡散臭いなぁ」
「まずは話を聞いてみてくれ」
「本読んでるから勝手に話して」
それから男が一人で語り始める。
僕はそれを聞き流しながら読書した。
うん、やっぱりあの上司に似ている。他にどんな作業をしていても、よく声が聞こえる。声量だとか話し方の問題じゃない、そういう“声”なんだと思う。
内容をすんなり頭で理解した時、僕は気が変わっていた。
コイツの提案は悪くない。
それなら、13番は余所見をせず僕に集中する。
きっと、僕以外を選べなくなる。
他に選択の余地なんて無いハッピーエンドだ。
「いいね。ソレいいね!」
「おまえマジかよ」
「ボス、作戦的にこれって不都合?」
「…………ま、おまえなら上手くやるだろ。しくじる事だけはすんなよ」
「イエス!ユーの右腕を信じなよ」
任せなよ。
しくじる事なんて無いさ。
この前の戦闘でも確信したんだ。
今の13番が全力を出して殺し合ったとしても――僕には勝てない。
平和な日本で狩りだけしていた彼は、完全に昔に比べて弱体化している。僕の知る頃の方が、もっと狡猾で冷徹で卑劣だった。
戦いたくない相手の概念を権化したようなバケモノだった。
今は、ただの『人間』である。
本当に、あの頃は戦慄させられた。
13番をリーダーに小隊で動いた時、敵に包囲された。
小さな建物に籠城していた時、13番は仲間に安全ピンを抜いた手榴弾を複数個抱えさせて、包囲網へと突き飛ばした。
蜂の巣にされた仲間が爆発したのを合図に突っ込んで行き、敵を全滅させた姿には言葉も無かった。
敵兵の死体に対人地雷を仕掛け、更にかなり敵の追撃隊に距離を詰められながら戦地から離脱する途中にある補給地点では仲良くなった仲間を殺して全滅を偽装したりと凄まじい。
『なんで、あんな事を』
『……俺が生き残る為だけど?』
あの頃はまだ仲良くなかった。
僕の事も、平然と囮にするつもりだったし。
それから暫くして仲良くはなれたけど、結局は――。
『ごめん。約束、守れなかった』
追い詰められた僕に対し、泣きながら彼は叫んだ。
『俺は生きてやる!オマエみたいにならない!』
彼は生存本能の怪物。
生きる為ならどこまでも非道になる。
何よりも自分の命が大事。
それでも、僕はそんな13番を愛している。
いつか、そんな状態から僕が本当の人間にしてあげるんだ。その役目は、誰にも絶対に譲らない……譲らない、つもりだったのに。
あの赤いリコリスに汚された。
だから、リセットする。
13番に、過去に戻してあげるんだ。
仮にその過程で僕が死んでも、一生存在は刻まれるだろう。
僕で苦悩し、生き残ろうと奮闘する都度に僕が脳裏を過る。
「えへへ」
僕に勝つには、圧倒的に足りない。
人を人と思わずに殺す戦場でずっと身を削ってきた僕には勝てない。
この前は説得に力も意識も割いていたから腹に一撃を受けてしまったけど。
全力で殺しに行こう。
そして、用意した作戦に嵌める。
誰もが瀕死に陥る寸前の状況に追いやれば、そこで自分の命の為にと足掻く『13番』へと戻る。
「僕が手に入れるんだよ」
思わず笑みが溢れる。
今は勝った気でいるがいいさ、アランリコリス。
彼の全てを手に入れたつもりで胡座を掻いて、喜んで、最期に途轍もなく絶望してくれ。
あのリコリスが命よりも大事、なんて馬鹿げた事になっていなければ僕が勝つ。
彼の殺意も、記憶も、心の傷も、痛みも全部が僕で染まる、僕の物になる。
藤宮天side
「どしたの?」
「い、いや別に」
千束が俺に振り返る。
今、ものすごい悪寒がした。
こういうのは、千束が俺に対してロクでもない悪戯を思いついた瞬間にクるヤツ。間違いない、心配する素振りしてその内心で下卑た笑みでも浮かべているのだ。
なんて性悪な!
こんな時までそんな事を考えていたとは!
「見送りの時に難しい顔しないでよ」
「はいはい」
「全く」
俺たちは店先に立っていた。
目の前には一台のタクシーが停まっている。
後部座席には既に準備を終えてリコリコを出る事になったクルミとミズキさんが乗り込んでいた。
やれやれ。
ミズキさんとの付き合いも長いけど、こんな形で別れる事になるとは。
クルミに至っては、まだ半年かそこらの付き合いなのに名残惜しく感じる。
「今度はケースに入らず空港に行けるね?」
開いた車窓から千束がクルミを見る。
たしかにな。
護衛の時は、偽とはいえそういう形で国外逃亡を図っていた。たきなには入っているケースごと防弾用の盾に使われたりして大変だったのも、今では懐かしい。
千束の声に、クルミは振り返らない。
普段に比べてその表情は何かに堪える苦さが滲んでいる。
変化を悟った千束は、その柔らかい頬を軽く抓った。
「どーした?かわいい顔が台無し」
「……世話になった」
その声は、ちょっと鼻声だった。
「……ふふ、なーに?らしくないな」
千束はその反応に笑みを深める。
クルミに別れを惜しんで貰えるほど、楽しい記憶として自分が刻まれた事が嬉しかったのだろう。
そして、赤い瞳が奥のシートに座るミズキさんに移る。
彼女へ軽く拳を突き出した。
「ミズキも達者でな」
「……おうよ!」
優しく打ち合う拳骨同士。
軽く乾いた音は、長い付き合いに反してあっさりと別れを認める二人の気質を表しているようだった。
拳の挨拶が終わるやミズキさんが店長と俺を見る。
「――じゃ、千束のこと任せたから」
……つくづく、この人は千束の姉というか母というか。
店長とは違う立場で、千束を一人の大人として導いていた貴重な人だった。
「ああ」
「ミズキさん。バンクーバーの彼氏にはフラれませんように」
「やかましい!……千束、あんま無理言うなよ?おっさんは歳だし、小僧はもう労ってやれ」
「へいへい」
おい、千束!
俺を労れって部分でそんな軽い返事するな!
重く受け止めろ。軽くこれまで蹂躙してきた俺の被害を慮って、今後は慎ましく、優しく俺に接してくれ。
心の中で不平を訴えていると車の扉が閉まる。
そのままタクシーが走り出して行った。
別れ際まで騒がしい人達だな。
しかし、どうしようか。
依頼の件、クルミには継続して貰えるのか不安である。連絡手段も、リコリコに居たから容易だったが追われる身のクルミにおいそれと情報共有を図れない。
どうすっかなぁ。
「それじゃ、片付け始めましょう!」
意気揚々と千束が店内へ戻っていく。
「天、今日は思い詰めた顔をしている」
「……店長にはバレますか」
「どうした?」
「……真島関連の案件に介入した場合、上層部に殺すと脅されました。どこからかは知りませんが、監視の目があるそうです」
「なに!?」
いや、うん、驚くよね。
俺はそれとなく周囲を見回す。
きっと、何処かのカメラからラジアータが俺の動きを把握して上層部に伝えている。爆発物や銃器を所有する者を検知する機能があるが、それよりは警戒度が低い犯罪者と近い扱いだろう。
いやー、八方塞がり!!!!
「なので店長」
「……私に出来る事はあるか?」
「まあ、奇しくも当初から俺が計画してた通りになりそうです。店長は、『何も知らない』を装って下さい」
「…………」
「安心して下さい。死ぬかもしれないけど死ぬ気は無いですよ」
今の状態じゃ千束の為に出来る事が少ない。
せめて吉松の件は片付けたいものだが、21番の妨害で間違いなく俺は雁字搦めになる。
せめて、21番が吉松と連携して動いていれば俺も千束を助けつつ自身の事に決着を付けられるが、それは都合が良すぎるし有り得ないかもな。
「……天、これを渡しておく」
「これは」
「クルミに頼んで用意して貰っていた物だ。これを使って、生き延びなさい」
「……どうも」
店長から渡された物を受け取る。
流石はウォールナット、こんな物まで用意できたか。
「こーら!二人とも何コソコソ話してんの怪しいなー?」
いかん。
これ以上はご主人様の余計な詮索を招くな。
俺と店長は肩を竦めて、店内へと戻った。
それから片付けの作業は夜まで続いた。
閉店を宣告されてからも少しずつ進めていたし、元からそんなに物を置いていなかったのもあってか、あまり疲れる量は無かった。
あっさりと終わった店内だが、暗くなった後に見回してみると更に物寂しく感じてしまう。
九年間の名残ってスゲーな。
片付け中もただの椅子なのに思い出がある。
床だって、「あー昔はそこで皿落としてブチ撒けたな」とか、机も「初めての時はあの卓に別の人の注文した品を持って行って困らせた」とか。
危うく手を止めて浸るとこだったわ。
「千束、そっち片付いたか?」
「んー?」
何サボってんだ貴様。
ご主人様は呑気にカウンター席に座ってアルバムを見ていた。
隣に行って中を覗けば、懐かしい写真ばかり。
「見て、私たちまだ小さい」
「本当だな」
「きゃーっ!昔の千束ちゃんプリチー!!」
「え、そうか?かなり生意気なガキ……何でもありません」
「ほら、テンも。寝顔が可愛い!」
「本当だ、昔の俺ってこんな可愛かったのか!」
「オイ」
「ぐえ」
な、何で自分を褒めただけで首シメるの……!?
昔の千束なんて、俺にとってはトラウマを刻んでまだ間もない頃なので可愛く思えないのだが。
それに比べて、昔の俺はこんな時期があったのかと思う程に若い。
思い出って美化しがちだけど、これは贔屓目無しにも可愛いのでは?ばりばり贔屓目でしたね、ハイ。
「こら、片付けてるんだぞ」
二人で盛り上がっていたら店長に怒られた。
いや、見てみなって!
昔の店長だって若くて凄いんだぞ!?
あ、写真の一枚には昔の俺をひたすら噛んでくれた犬――リキがいる。
俺以外には優しく可愛い柴犬だった。
「あ、リキだ。可愛かったなー」
「そうだな。噛まれた臑が疼く」
「最後まで好かれなかったよね」
「生意気なヤツだった。俺の手からは餌も貰わないくせに昼寝してるといつの間にか隣にいたし……あれで俺はツンデレの概念を理解した」
可愛かったよなぁ。
あと、リキの隣で笑ってる店長もカワイイぞ。
「……ねえ、先生」
「ん?」
「この店、バイトとか雇って続けたりしないの?」
「……そうして欲しいのか?」
「………」
千束の顔から笑みが消える。
店長は黙々と作業を続けていた。
何だろうな、俺がいた九年間でもこの二人がこんな空気感になるのは珍しいと認識している。
アルバムを閉じて鞄にしまうと、千束が店の外へと出ていく。
そこで店長がようやく手を止めた。
「次は天が店長でも務めるか?」
「リコリコ第二店舗って事ですか?」
「充分、その腕なら任せられるぞ」
「それは嬉しいし、確かにDAを辞めたらいつかやってみたいですね。……ただ、リコリコはアイツが始めた物なので、アイツの意思に関係なく動かせませんよ」
「………そうだな」
リコリコは、千束の願いの結晶。
店長は、そのサポートに徹してきていたのだ。
吉松との約束として、千束の上司として、親としてその行く末を見守る為に。
千束がやめると言ったのなら、リコリコもそこで終わり。
どんな形であれ、千束の意思を尊重するのが鉄則だ。
俺たちの独自の形に変えてはいけない。
「天、死ぬなよ」
「それは出来ない保証ですね。でも努力しますよ」
「…………」
「昔は、何が何でも生き残る事がベストでした。命の瀬戸際になれば泣いて命乞いもするし、裏切って仲間の首を差し出したりしてでも生き残る為に頑張る」
自身の安全と引き換えにあの会社を売ったように。
クソ上司を殺し、9番や仲間を危険に晒してでも生き延びようとした。
「他人なんてどうでも良かった」
「…………」
「でも、今は何でだろ……まだ不安はあるけど、心底俺の命より大事な物ができた気がします。ちゃんと人間生活送れてるとか、余裕があるからとかじゃない。虎杖司令やら21番に命狙われてるって分かっても、優先したいヤツがいる」
俺は店の外を見た。
そう、別に今自分の命が最優先じゃなくなった。
店の外にいるアイツが、一番大事だ。
その為なら命も惜しくない、と考える程に。
死にたくないという考え方も、自分の為にではなく千束と居る為にと風変わりしている。
「だから、俺の事も見守ってて下さい」
そう言うと、店長が微笑んだ。
これが今の俺だ。
もう、知ったからには決して13番には戻れない。21番はきっと俺の現状を嫌悪しているだろうが、彼女もまた藤宮天を作ってくれた一人だ。
だから逃げない。
目を背けない。
「……ところで、店長」
「ん?」
「コーヒー飲みたいです」
「なら、千束も呼んで来てくれ」
「はい」
〜おまけ「あり得たかもしれない過去⑵」〜
「絶ッ対、たきなは将来美人になる!」
ファミレスで彼が食事中にそう言った。
行儀が悪いので静かに食べて欲しい。
確かに、ファミリーレストランの名の通り家族や友人同士で来て楽しく会話しながら食べているけど、私――井ノ上たきなと彼はそんな関係ではない。
単なる仕事の協力関係だ。
それと、DAから出る食事以外は不必要な物が多く後のリコリスとしての活動に支障が出そうだからあまり食べたいとも思わないのに。
どうして、来てしまうんだろう。
「私が美人だと貴方に何か良い事でも?」
「そりゃあるさ!自慢できる!」
「自慢……?」
「俺の知り合いには、こんな美人がいるんだって言えるんだぜ?紹介したら誰だってイチコロよ」
「それで貴方に何が還元されるんですか」
「分かってないなー!」
くくく、と彼は笑う。
本当に私が知らないことなのだろうか。
普段から不真面目で他人を苛立たせるところがあるけど、時折だが誰もが見落としている真理を言い当て、盲目的な人間には正鵠を射た発言で正気に戻すような時がある。
もしかして、今回もその通りなのか。
変な期待もあって、思わず耳を傾けてしまう。
「誇らしいだろ」
「……」
「美人と知り合い、それだけで人生豊かになるのが男って下らない生き物なんだよ」
「獣ですね」
「コラ。折角そういう表現を避けたのに言っちゃダメだろ」
「正確に伝達して下さい」
そうやって。
そうやって。
額面通りに受け取れば、彼は美人の知り合いを沢山作って不思議な幸福に浸っている。
それで人生を豊かにしているのだろう。
どうして何人も作る必要があるのか。
幸福なら一人いれば充分。
……将来、彼が言う通りになれば私ひとりで充実するのだろうか。
「つまり、将来は私一人で幸福になれると」
「確かにそうだが、人間欲深いからなぁ」
「浅ましい」
「堅い!もっと適度に力抜かないと仕事も上手くいかないぞ、ファースト昇進も遠くなる」
適度に力を抜く?
それは殴打や足運び、体捌きに関連したものか。
「人間関係だよ」
「……?」
「社会的な昇進ってのは、一番は貢献度だ。利益を上げるってのが最もだけど、人間は集団生活しなきゃ生きてけないのが太古からの慣わし。独力じゃ限界が来るから、他と円滑に連携できる力も求められる。他の人の発揮できる効果も上げる事で貢献度ってのは上がるのさ」
そういうものなのだろうか?
リコリスに関しては、単純な実力性と思われる。
いや、ファーストは単体の実力もそうだけど作戦行動における統率力も求められていた気がする。
「つまり、上手く人を使えるようになれと」
「いやー、そうなんだけど……」
「……?」
「真面目すぎると周囲が疲れて置き去りにしてしまうって話。……ま、たきなにもいずれ分かる」
「逆に貴方はもっと普段から力を入れて物事に取り組むべきでは?」
「ぐはっ!」
彼が胸を押さえて苦しむ。
一々リアクションが大袈裟だ。
真面目にしろという私の言葉を彼も理解できていないんじゃないか。それなら、上から目線で物を語るのはやめてほしい。
「それだから女性関係も――」
「説教は懲り懲り!」
「美人なら誰でも良いんですね」
「そんな事は無い……俺のタイプは白髪の女の子だからな」
「白髪?」
「ん……まあ、思い出もあるし」
私は……黒髪だ。
人の事を美人だの持て囃しておきながら。
「そんなヤツ滅多にいないケドね」
「………」
「ど、どした?怖い顔して」
彼がオロオロと動揺している。
人の顔を怖いとは、また失礼だ。
「そんなに俺が節操無いって怒るなら、将来たきながとびきりの美人になって他に目がいかないようにしてくれよ。――なんてな」
「貴方に注目されても嫌です」
「うぐ、ストレート……!」
逆に、真剣に取り組んだ時はどうなのだろう。
何度もリコリスを撃退しているのは誑すだけでは駄目だろう。実力が無いと容易には躱せない。
「貴方って強いんですか?」
「いやいや。体が頑丈なだけだって」
「はあ」
「知り合いにはとんでも無いのもいるよ。9番って……渾名のヤツは狙撃の腕が半端ないし、昔は1番なんてバケモノがいたらしいし。それに比べたらな」
「……」
「あ、でもたきなにはまだ勝てるくらい強いかもな〜?」
それからも、彼との下らない会話が続く。
適度に力を抜く、というのは理解できない。
仕事は常に全力で、真剣に取り組むべきだ。
……けど、彼といる時は呆れて力が抜けていたような気がする。
今日の標的は一人。
情報屋の女だった。
彼女の中の情報に価値は無いので、殺せとの指令だ。
とうとう空き家に追い詰めた私は、目の前で怯えている女に銃口を向ける。
引き金を引く――その途中で、私は気付いた。
この女は確か……以前、あの人の右頬にキスをしていた女だ。
……確かに、この女も美人と呼ばれる部類か。
恐怖に歪んだせいで台無しだが、美人好きの彼がキスされて喜ぶというのも分からなくもない。
そう。
他にもいるから、目移りする。
真剣に人を見ない。
私を見ない。
「要らないんです」
撃った。
女の頭が後ろに弾けて倒れる。
任務完了。
……いつもやっている事なのに、今日だけは何故か手応えが妙に残る。少し震えて、安堵が心の底から湧き上がる。
彼が不真面目なのも、一つに集中しないからだ。
美人の知り合いが多くてもロクなことがない。
彼はDA協力者として真剣でなければいけないのだから……私に注目すれば、良いのだ。
管理する。
他に余分な物は要らない。
「……何か良い事でもあった?」
翌月、彼は私の顔を見てそう言った。
対照的に彼の表情は明るくない。
「貴方は落ち込んでますね」
「まあね。知り合いにいた美人さんが拠点移したらしいんだよ……まさかDA関連とか?」
「知りません」
私は惚ける。
他は要らないし、消えた物はもう見なくていい。
隣の私を見て下さい。
それだけで充分でしょう。
このように、13番状態ではどうあっても他人と繋がれないので、過去では21番を分岐ルート化できない……。