喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

41 / 77
リベンジャーズ

 

 

 

 喫茶リコリコ『閉店』。

 扉の貼り紙を見て俺は実感を得た。

 九年間も維持した生活に一区切りの終止符が打たれた衝撃は、千束に宣告された時からじわじわと滲むように感じていたが、今ようやく大きな衝撃となって胸に響いている。

 ……しかし、何か腹立つな。

 特にこの『ありがとうございました』の横に可愛らしく描かれた千束らしきヤツの顔が真面目さに欠ける。

 

 俺はカウンター席へ戻ろうとして――。

 

 

「ぐぼぁッッ!!!?」

「ちょっと!どういう事よコレ!?」

 

 

 勢いよく開け放たれた扉に殴られた。

 床を二転三転し、壁に激突する。

 

 へ、閉店の貼り紙したのに……何で、ひ、人が……?

 

 突然現れたのは、どうやら常連客の漫画家である伊藤さんだった。原稿締め切りギリギリ程ではないが、悲壮な面持ちでカウンター席に座る千束へ詰め寄っていく。

 いや、俺の心配しようね。

 まるでいない者扱いやめようね?

 

 俺が立ち直る頃には伊藤さんはいなくなっていった。

 マジで嵐みたいな人だな、物理的にも。

 こちらの身を案じるような店長の視線に手を振って大丈夫だと伝えながら立ち上がる。

 やれやれ、とんだ目に遭ったもんだ。

 

 最後だからってこの仕打ちは――――。

 

 

「ちょっと、急じゃない!?マスター!」

「ぐぶッ」

「閉店なんてやめようよー!」

「ごぼっ」

「ま、マジで!?」

「うごッッ」

「ええ!?」

「うばっ!!?」

「ごれがら私ば何処でゴービー飲めば良いん゛でずがぁああああ!!!!」

「うげぇッッ!!」

 

 

 次々と来店しては、閉店に悲鳴を上げる常連客たち。

 その来訪の度に俺が扉とクラッシュする。

 特に最後の明山さんのは強烈だった。

 

 え、もしかして今日だけじゃなく俺って普段からこういう扱いだったのか。俺が自覚してなかっただけで普段から蔑ろにされてたのかな?

 いつも笑顔で俺に話しかけてたのは演技か。

 やべ、人間不信になってきた。

 

 痛みに堪えて立ち上がる。

 もう、ボロボロなんですけど。

 リコリコだけじゃなく俺にも終止符打つ気か!!

 

「つ、疲れたー……」

「い、痛い」

 

 千束は精神的に、俺は肉体的に。

 体を引きずってカウンター席に移動し、千束の隣に腰掛ける。

 それにしても、あんなに嘆いてくれるとは。

 この店も随分と愛されていたと分かる。

 常連客から伝わるモノを感じ取ったのは俺だけではなく、同様に心で受け止めた千束は疲れた表情から一転して嬉しそうに相好を崩す。

 

「何か、嬉しいね!」

「そうだな」

 

 ふ、俺が吹っ飛ばされた事はスルーか。

 雰囲気を壊すのもあれなので黙っておくが不満だ。

 

 ここは二人で始めた店だ。

 若干この場に俺だけ残っている場違い感が否めない。

 本来なら、さっさとミズキさん達みたいに千束から言われた時点で諦めるべきなのだろう。

 でも……コレだしなぁ。

 

「ん?」

 

 ん?とつぶらな瞳で見上げてくる。

 その片手は、俺の腕をぎりぎりと握っていた。

 昨日から、とにかく千束に警戒されている。

 ミズキさん達をリコリコ閉店宣言と同時に解き放ったのが本人的にはやはり寂しかったのか、俺は残れと命令されたものの少し席を外したり姿を見ないと連絡入れてくる。

 具体的にはトイレに行くだけでスマホにメッセージを入れるくらいだ。

 

 特に酷かったのは……。

 

 ――テン、何処に行くの?

 ――買い物。

 ――おっけー、一緒に行く!

 ――ちょっと今日発売の雑誌買うだけだぜ?近くのコンビニにあると思うから大人しくしてろ。

 ――離れたいの?

 ――ゔぇ?

 

 その後、関節をキめられて拷問された。

 結局一緒に行く事になったけど、よもや別行動にあそこまで拒絶反応を示されるとは思いもしなんだ。

 これでは先が思いやられる。

 ますます21番云々の話ではない。

 本気で最期まで俺を縛り付けるつもりだろうか。

 

「俺も行きてーなぁ……バンクーバー」

「えー!海外行くならワイハでしょ!」

「オマエはドイツじゃねえのかよ」

「うーん……正直、海外なら何処でも良いんだよね。戸籍ないリコリスには無理だからって理由で諦めてたけど」

「………」

 

 ハワイ、ねえ。

 この一件が終了したら海外に行くか。

 ………ん?

 な、何か腕掴む力が余計に強く……!?

 

「海外?やっぱり、そこに次の女がいるんだねー」

「まだ疑ってたのかよ!?」

「前なら許してあげたんだけどさ」

「へ?」

 

 ま、前なら許してた?

 何か許可されてたっけ。

 俺そこまで自由を与えられていた気がしない。

 

 

 

「今はもうダメ。私以外と笑ってるの考えるだけで我慢利かない」

 

 

 

 ………………ひっ。

 に、逃げるつもりは毛頭ない。

 でも、予想以上に―――ガッチガチに束縛するじゃん。

 えへへ、と笑っている。

 いやー、スゲー可愛くない。

 今そんな表情をされても嬉しくない。

 

 片腕を抱き締められ、肩にアイツが愛おしげに顔を寄せて来るけど、触れている部分に鳥肌が立っている。

 あ、アレ。

 俺は覚悟決めたハズだよ。

 お、落ち着け。

 一時的な物だ、誰だってこんな事言われたりしたらビビるよな?ビビるな俺ェ!!

 

「もー、安心しなって」

「え?」

「一緒に逝こう、とか流石に言わないから!」

「あ、そう、なんだ?」

 

 うん、と千束が頷く。

 あれ、案外優しいのかな。

 千束も常識的な部分があるようで……極僅かにあるようで安心したよ。

 はははははは!!

 ……って思ったのも束の間。

 

 

「私以外のになったら、祟るだけだし」

 

 

 もうヤダ、コイツ!!!!

 俺の事、好きなのか嫌いなのか分からん!

 店長の方を見ると、苦笑していた。

 いや、そんな生易しいリアクションで済ませるレベルじゃないよお宅の娘さん。既に深淵の扉開いて何かに目覚めてるよ。

 思えば、昔からそうか。

 あれ、じゃあ……おかしいのは、慣れていない俺なのか……。

 おかしいの、俺?

 

「テン、少し手伝ってくれ」

 

 店長が手招きする。

 助け舟が遅すぎるよ!!!!

 

 俺は半泣きになりながら、千束の拘束を抜け出して店長についていく。

 彼の行き先は地下の納戸だった。

 多様な品々が収納された場所だが、まだここはあまり片付いていないようだ。

 

 店長に案内され、並び立つ棚の一つの前に着く。

 最上段には、埃をかぶった長い紫檀の箱が置かれていた。

 そういえば、昔からあるよなコレ。

 俺も何度かここの整理をしていたが、この箱に触れた機会は一度たりとて無い。

 俺は脚立を立て、箱を取り出しにかかる。

 

「それだ」

「これ、なんですか?ライフル?」

「良いから」

 

 中身は依然謎のまま、地下から運び出す。

 てか、へくしっ!

 埃が凄すぎてくしゃみが止まらん。

 

 一階の座敷席に置くと、店長が丁寧な手付きで表面の埃を拭っていく。

 奥からは年季を感じさせる色褪せ方をしながらも、紫檀特有の艶が現れ始めた。

 俺と千束は後ろで作業を見守る。

 良かった。

 どうやら興味が俺から逸れたらしい。

 千束は箱の中身が気になって仕方ないようだ。

 ……まだ腕を放して貰えないけど。イタイ。

 

「開けてみろ」

 

 店長が千束へと振り返る。

 すると、彼女は不安そうに扉の方を見た。

 どうやら、千束も武器だと思ったらしい。さっきみたいに客が来て目撃されるのを不安視しているようだ。

 俺は鍵を締めに扉へ向かうが、それを店長に止められた。

 

「武器じゃない。安心しろ」

「いいの?」

「ああ」

 

 促されて、千束が箱を開ける。

 中から出てきたのは……着物だった。下駄や他にも色々と一緒に入れられている。

 たしかに千束の物なのだろう。

 でも、箱は埃を被るほど随分と納戸の奥で触られず保管されていたようだ。

 

「これは?」

「千束の晴れ着だ。……成人式にはちょっと早いがな」

 

 晴れ着――そうか。

 俺が成人した時も店長が用意してくれたよな。

 千束はまだ成人年齢ではないのだが、現状を鑑みれば……着せるべきか。

 きっと成人した時に、と温めていたのだ。

 確かに、今こそだ。

 

 肝心の千束は――――呆然としている。

 

 自身の着物を見て、自身の晴れ着が用意されていたと知って、言葉が見つからないようだ。

 固まって動かない千束を店長は静かに見つめる。

 そのまま永遠に動かない、と思っていたら飛び上がったと見紛う勢いで身を翻した千束が店長の首筋に抱き着く。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 声にならない声を上げていた。

 顔を店長の胸に押し当ていて表情は見えない。

 でも、何を言いたいか分かって店長は微笑んだ。

 

 ……良かったな、千束。

 

「ん?誰だこんな時に」

 

 二人を見守っていた俺のポケットでスマホが震える。

 着信時のバイブレーションだ。

 知り合いにしか着信音を付けていないので、登録していない番号からなのだろう。

 俺は店長に目配せし、通話の為に裏の座敷へ移動した。

 

 ったく、本当に空気の読めないヤツめ。

 

 こんな時に連絡するとは。

 ソイツに良くない事が起こるぞ、きっと。

 

「もしもし」

 

 文句を垂れつつも、俺はイヤイヤ応答する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に繋がった!耳元から13番の声がする!』

 

 ………。

 いや、そんなまさか。

 

「21番……」

『あの日のデート以来だね。ははーん、その声……さては僕が恋しかったな〜?』

「あながち間違い、ではないな」

 

 そう言うと、21番がえへへと笑う声がする。

 あっちでもこっちでもえへへ、って。

 物騒な照れ笑いしかしないのな、俺の周囲にいる女の子って。

 ……この通話は大丈夫なのだろうか。

 ラジアータに知られてしまえば、直ちにDAが俺を殺処分しに来る。

 

「ただ世間話したいワケじゃないだろ?」

『そうだね。今じゃなくて良いか』

「今じゃなくていい……?」

 

 含みのある言い方が気になる。

 まるで、後で話す機会があるという口振りだ。

 

 

 

『最後だよ。――僕か、赤いリコリスか』

 

 

 …………。

 あの時と同じ、二者択一を迫ってきた。

 だが、以前ほどの動揺も逡巡も無い。

 答えは、俺の胸にスッと降りてきている。

 

「悪い。俺はもう13番じゃない」

『…………そっか』

「ああ」

『スマホ、見てみて』

「………?」

 

 俺は通話で耳元に持っていたスマホの画面を見る。

 すると、そこに刻一刻と減っていくタイマーが表示されていた。

 危機感を煽るかのように赤く点滅している。

 これがテレビドラマなら、爆弾の起爆時間を示しているんだがな。

 果たして、これの真意は何か。

 

「……これは?」

『君がこの時間内に僕の所に来なければならない時間だよ』

「…………」

『僕は知ってる。君が僕と同行したあの日からDAに行動を監視されているのも。僕に接触した時点で裏切り者扱いになるのも、ね』

「耳が良いこって」

『えへへ』

「因みに、この時間が経過すると?」

『僕らが拘束している吉松を殺す』

「ッ……!」

 

 そう来たか。

 何も無いなら、別にどうぞと差し出せた。

 脅迫にもならないどころか、俺にとっては怨敵も同然のアラン機関のエージェントだから喜んですらいただろうな。

 だが、それは千束の命の手掛りだ。

 失うには惜しい価値がまだある。

 

「……」

 

 要は、俺の命か千束の命か――だ。

 

「場所を教えてくれ」

 

 迷わない。

 21番にも教えてやるべきだ。

 もう過去に人は戻れない。

 今をどう生きて、どう未来に繋げていくかだ。昔のオマエや千束のように、前を見据えて生きるしか出来ない。

 

『……迷いなくあの子を選ぶんだ』

「オマエが考える時間をくれたしな」

『ムカつく』

「そう。昔よりも生意気になったんだよ、俺」

『昔もまあまあムカつくクソガキだったよ?』

「オマエほどじゃねえだろ!?」

 

 良い思い出として記憶に保管してはいるが、よく思い返すと俺が嫌だと毎回断ってるのに全面的に否定して引きずり回してただろ。

 あれの何処がクソガキでないと??

 

『えへへ』

「ん?」

『君が来たら、またこうやって話したいな』

「…………」

『お、揺れた?』

「うるせ」

『じゃあ、待ってる。後の指示は僕らの手下のハッカーがするから』

「分かった」

 

 ぷつりと通話が切れる。

 昔のように接してくるから緊張が解かれてしまう。

 残り時間的には、都外でなければ大丈夫だ。何処であろうと多少の準備をして向かえる。

 さて、この事をどうやって店長に伝達するか――。

 

 

 

「誰と電話?」

 

 

 

 …………あ。

 

「誰と電話してたの?」

 

 ………えと。

 

「あれー?隠し事かな?」

 

 や、やばい。

 いつの間にか晴れ着姿の千束が後ろに立っていた。

 本来ならここで感想を言ってやるべきなのだろうが、俺に詰め寄る彼女の迫力がそうはさせてくれない。

 ど、どうしよ。

 

「えと、敵方からの連絡」

 

 俺は仕方なくスマホを見せた。

 21番という事は伏せて。

 

「……テンも来たんだ」

「俺も?ってどういう事だよ」

 

 俺は店の表へと案内された。

 そちらへ向かうと、カウンターに設置されたテレビ画面に報道番組が流れている。

 内容は――『延空木をテロリストが占拠』。

 画面に堂々と映る真島に俺は唖然とした。

 やりやがった!!

 あの野郎、ラジアータの報道カバーもすり抜けた上で全国民が注目するイベントを逆手に取ってまず自分の存在を印象付けるとは。

 

 まずいな。

 これでは、どれだけ隠蔽しても違和感が残る。

 あの上で延空木を爆破でもされたら、いよいよ収拾がつかない。

 本気でDAを潰しにかかってやがる……!

 

「私たちの方にも、延空木に近づくなって敵のハッカーから来たんだ」

「……マジか」

「これから、吉さんを助けに行く。旧電波塔に来いだって、テンも一緒に」

 

 ……敵の武器は、吉松という人質。

 だが、これ以上なく千束には効果覿面だ。

 十年前のように失敗するワケにもいかないとなれば、真島も千束が接近するのを何としても未然に防ぎたいだろう。

 指定されたのは旧電波塔。

 延空木とは真反対に位置する。

 

「罠だな」

「それでも、行かなきゃ」

「でも、ヤツは」

「先生に聞いたよ。私がどんな使命を背負ってるかって」

「………その上で、か?」

「それでも私は行きたい。――吉さんに聞きたい事があるから」

 

 千束の決意の眼差しに俺は口を噤んだ。

 こうなったご主人様を止める事はできない。

 大人しく従うのが役目だ。

 

「なら、俺も武装を調えて行くか」

「天、行くのか」

「ええ」

「……分かった、裏にオマエ用のが用意してある」

「俺の?」

 

 店長が武器庫の方へ行き、暫くすると服やら弾薬やらがカウンターに置かれた。

 と、取り敢えず千束がリコリス制服に着替えた後、服を受け取って俺も更衣室で着替える。

 

 店側に戻れば、武装が店長とお揃いだと分かった。

 上着は前身頃が袷に似た黒いジャケットである事を除くと全く一緒である。

 まあ、俺の場合は防弾装備も要らないし、軽装の方が戦いやすい。

 

 大量の弾薬が入った鞄を持ち上げる。

 どうやら、今日で全部使うつもりらしい。

 そうだな、それなら遠慮なく使わせて貰おう。

 

「テン」

「ん?」

「命令」

 

 千束が俺を見上げていた。

 赤い瞳から、既に戦闘に臨む心構えが整っているのが分かる。

 何だろうか。

 もしかして、敵を全滅させろとか?

 

 

 

「絶対死なないで」

 

 

 

 ………そうですか。

 てっきり、戦闘での立ち回りについての注意事項かと思っていたんだが、命大事にといういつもの注意を口にして再び促しているようだ。

 流石に今回は無茶するしかないと思っていたが。

 まさか、死ぬなとはね。

 普段から命令されずとも心がけているのだが、千束の口から聞くとまた違う意味を有する。

 

 命令されたなら仕方ない。

 

 

「了解、ご主人様」

 

 

 絶対に生き抜いてみせる。

 千束のためにも。

 

 

 

「ところで、さっきの電話は敵の、誰?」

 

 

 …………早速死にそうです!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「ナンバーズ」〜

 

 

 

 

 俺――かつて9番と呼ばれてた人間は、カフェである人間と落ち合っていた。

 眼の前に座っているのはリコリコ常連客の明山さん。

 俺とは旧知の仲なのだ。

 昔、小さい頃に世話になっている。

 

「明山さん」

「今は1番で良いよ。その方が呼びやすいだろう」

「…………」

「それで、相談って?」

 

 そう、呼び出したのは相談があるから。

 俺一人で考えて、動いてもどうしようもないかもしれないという不安に胸を締め付けられている。

 軽率に行動すれば全てを失う。

 だが、無関与を決め込めば大切なモノが崩れる。

 そんな危うい予感が頭を離れなかった。

 

「1番が売られた後の後輩の話なんだ」

「後輩」

「リコリコに務めてる藤宮天。彼は13番と呼ばれる子だ」

「……そうか。私の後輩だったか」

「はい」

 

 どうやら明山さんは知らなかったらしい。

 俺よりも長く、会社を出た13番と知り合っていたというのに。

 まあ、語れる事情ではないし、1番は13番が拾われる前に海外の傭兵団に売られたからな。当時は一番強くて、誰よりも頼れる兄貴分が1番だった。

 

 だから、彼がいなくなってからは俺がその代わりになるんだと努めた。

 

 13番も、21番も、他の連中が孤立しないように。

 ただ、環境が破滅的だったので救えたのも極少数だ。

 見殺しにしてきた数の方が遥かに多い。

 

「そして、信用できる情報筋で手に入れたのによると……日本を今じわじわ侵食してるテロリストの一味に、妹分の21番がいる」

「………」

「13番と21番は兄妹みたいに仲良かった。ただ、あのクソ上司は13番に期待してて、アイツを完璧に冷徹な人間に育てる為に21番を殺す命令を下してる」

「ああ、なるほど」

 

 1番は理解したらしい。

 誰よりも先に、『教育』を受けた身だからだ。

 あの上司のそれは――一種の洗脳教育だ。

 人を人としてではなく、完全に一機能を備えた武器として再構築する。培われた価値観があれば破壊し、必要な分だけを伸ばしてその用途に違わない完全な機械に仕上げた。

 13番への教育は、その中でも群を抜いている。

 

「完全な殺人機械にする、と」

「21番を殺せば、間違いなくそうなる!アイツが自覚してる以上のモノが体に仕込まれてる」

「9番。君は、二人に何がしたい?」

「………」

「そうだね。彼の事だ、21番という子にもまた避けようの無い物を施しているに違いない」

 

 ……どうすれば良いんだ。

 こんな事なら、いっそ知らなきゃ良かったとさえ無責任に思ってしまった。

 今の俺には家族がいる。

 巻き込みたくない。

 でも、折角あの喫茶店で幸せを掴んだアイツと、アイツを支えてくれたあの子がみすみす殺し合うなんてのは嫌なんだ。

 

「助けるのは難しいだろう」

「ッ……!」

「どちらにも教育が施された以上、どちらかしか選べない」

「どちらか……?」

 

 1番が指を一本立てる。

 

「13番より先に21番を殺す事」

「………!!」

「生きている限り21番が向かって来るなら、そうせざるを得ない。藤宮くんを救うなら、それがベストだ。――次に二つ目」

 

 二本目の指が立てられる。

 

「解決を諦め、両者に結果を委ねる」

「そんなの……!」

「これは二人の問題。我々は完全に部外者だ……だからこそ、君も出来る事が少なくて悩んだのだろう?」

「…………」

「それしか私にも思いつかないな」

 

 1番が苦笑して、延空木を見上げる。

 

 すると、緊急事態警報が街中に響き渡った。

 何事かと思っていると、周囲の人間が手元のパソコンやスマホに注目しているのが分かる。

 俺も自分の物を取り出して見た。

 速報で、テロだと報道されている。

 

「1番、コイツです」

「ん……これがテロリストかい」

「21番は、コイツの所に」

「そうか」

 

 1番は穏やかな笑みのまま、数秒思案する。

 

「狙いはリコリスかな」

「え?リコリスって……確かあのクソDAの」

「恐らくソイツは延空木にいないね。恐らく制圧に現れたリコリスを世間にバラすつもりさ……空振りに終わって立ち往生してる子供たちを衆目に晒す、ね。中々に良い作戦だ」

「…………」

「だが画面から高層階にいるのは推察できる、それも延空木並みのね。見える雲の高さ等から読み取れば……………旧電波塔か」

「え、そこに?」

「21番がどれほどの戦力かは分からない。ただ少なくとも標準的なリコリスよりはある筈だ。番付されるというのは、それだけ実力があると認められたからだ……リコリスを世間に公表するには過剰戦力だから、彼女も旧電波塔だね」

 

 1番の言う通りだ。

 会社に存在する少年兵――「ナンバーズ」。

 番号を与えられたのは、数多くいる会社が秘密裏に抱えた少年兵たちの中から選りすぐりの人間だ。

 番号が無いだけで、他にも兵士の子供はいる。

 21番もまた番号を与えられた存在だ。

 リコリス程度ならば、容易くあしらえるだろう。

 

「こうして隠蔽工作させず、延空木を乗っ取れた辺りから敵に優秀なハッキングの腕を持つ人間も付いてる」

「…………」

「旧電波塔にリコリスは向かえないね。誰の邪魔も入らない……そこで21番は、藤宮くんと死合うつもりだと読めた」

「ッ……!」

「では、行こうか。――9番」

「へ?」

 

 1番がおもむろに立ち上がる。

 あのクソ上司に似て穏やかな笑みだ。

 

「私は概ね二つ目にする意見ではあるが……彼のコーヒーが飲めないのは、残念だからね」

「………」

「弟分の君がここまで辛そうにして、加えて事情を知ったから私もソワソワしている。それに――」

「それに?」

 

 俺は先を聞こうとして、思わず固まった。

 1番の表情から笑みが消えた。

 これは……ブチギレてる。

 

 

「お気に入りの店が閉店になって、私もイライラしてるところなんだ。これ以上、私の機嫌を損ねるならテロリストだろうが容赦はしない」

 

 

 ……………やべぇ。

 

「9番、ここで我々に出来る三つ目だ」

 

 1番が三本目の指を立てた。

 何もできないんじゃ……?

 

「せめて見守る事。その傍でね」

 

 そう言って、1番が席を立った。

 俺も目の前にあるコーヒーを飲み干して、思う。

 

「確かに、アイツのコーヒー美味いし」

「ふふ」

「行きましょうか、1番」

「ええ。教育なんて知りませんよ、人間は積み重ねだ。……上司、育て親だからといって死んだ後も私の人生これ以上狂わせられるなんて許しませんよ」

 

 1番が何に対して言ったか、俺にも分かる。

 そうだ。

 これ以上、あのクソ上司の言いなりにはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。