喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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十一話「Diamond cut diamond」
殺意高めの闘技場


 

 

 

 

 楠木プレゼントバイクNo.7。

 それが今の俺の相棒だ。

 

「――着いたか」

 

 旧電波塔。

 日本で最後の大事件の舞台となった場所だ。

 倒壊した瓦礫は、今なお凄惨な過去の爪痕にして平和の象徴として立っている。

 千束にとっては縁深い地だ。

 俺は事件が起こる前に、21番とここへ一度遊びに来た事がある。報道で知った時は、少し寂しく感じたんだがな。

 今度は、ここで殺し合いか。

 愛車を旧電波塔前に停車させる。

 すると、先んじて到着していた車の窓が開いて店長が顔を出した。

 

「行くんだな」

「はい」

「千束が先行している」

「ええ、急ぎますよ」

 

 タイムリミットはリリベル到着。

 それまでに21番との事を決着させる。

 容易にはいかないだろうし、正直に言って生存率も高くはない。

 だが、退路もまた無い。

 リコリコを出た時点でそれは潰れた、潰した。

 

「……リリベルも直に来るだろう。こうして顔を見せ合うのも、これから難しくなるな」

「ですね」

「………」

「まさか、恩返しせずリコリコを辞める事になるとは」

 

 店長の表情が曇る。

 やめてくれよ。

 そういう顔されると行きづらくなるだろう。

 ……虎杖司令は既に動いている。

 俺は裏切り者として追われる身になった。

 つまり――俺も今日で、リコリコの一員ではなくなったのだ。

 千束にはクソ怒られるだろうけど。

 まあ、それも仕方ない。

 

「親不孝な息子ですみません」

「……千束と待ってる、いつまでも」

 

 押忍!

 そんな風に返してやりたいんだけどな。

 やっぱり俺も寂しく思う。

 そう感じられる程には、俺も人間になれたのだろうか。

 なっていたら良いな。

 

 この九年間は無駄じゃなかった。

 

 千束との時間が終われば終わる物。

 そう解釈し、それ以降には全く希望も見出さなかった。

 抗わずに受け容れようとした。

 でも、千束の生きる可能性がある。

 まだ先に、アイツといられる時間があると知れたなら悪足掻きだろうと存分に足掻いてやろう。

 アイツだけじゃない。

 店長やみんなとの時間もこれから先がある。

 

 

「いってきます」

「ああ。行って来い」

 

 

 店長と拳を打ち合わせて電波塔内へ向かう。

 さ、気を引き締めよう。

 ガラス扉を押し開けて中へ入る。

 塔内は異様なほど静かだった。真島達が占拠しているのだから容赦なく銃器をぶっ放せるだろうが、一応は無関係な人間の事も考慮しよう。

 

 それにしても、何処まで行ったんだアイツ。

 

 一応、店長の提案で二人にも秘密で行動していると誤解させる為に俺が後から出たのだが、千束が21番と先に鉢合わせていたら大変だ。

 俺が先に出たかったが、そうなるとリリベルの行動開始も早くなるしな。

 一緒に入る千束にも迷惑がかかる。

 アイツには吉松の救出があるし。

 

 エレベーターで上階まで上がる。

 途中で停止してしまったのは、恐らく折れてしまったが為にこれ以上の上昇ができないからだろう。

 仕方なく、非常階段から進んでいく。

 薄暗い階段室の中に響く足音は一つだけで、伏兵の気配は無かった。

 だが、進むに連れて倒れる人影が増えていく。

 なるほど、千束の仕事らしい。

 スムーズに進めるのは良いが、この数を相手にアイツは大丈夫だろうか。

 

 進んでいく。

 進んでいく。

 

 旧電波塔を集合場所とした。

 だが、詳細な位置までは指定されていない。

 それでも、導かれるように塔内を歩く。

 第六感的な物とは思えないが、それでも不思議と足先の運びに迷いが生じることは無かった。

 

 非常階段が途絶える。

 塔の中層外部に広がる悪路を辿って、旧電波塔の半ばにある侵入可能な場所を見つけた。

 中を覗けば、そこは荒廃した売店の区画だ。

 ここに昔、土産を買いに来た。

 千束もここから入ったのかもしれない。

 

 俺は壁に立てかけられた鉄骨を伝って内部のやや傾いた床に降りた。

 天井は吹き抜けとなっていた。

 上階から銃声がする。

 おそらく、千束がそこにいるな。

 俺は周囲を見回す。

 確か、俺が土産を買ったのはここだよな。

 意味不明なミニ電波塔とやらを買わされて、DAに身柄を確保されるまで大事に持っていた。

 

『僕とお揃いだね!』

『必要か?』

『必要!僕と君の思い出、一生忘れない』

『……またここに来る時は、二人で幸せになる時だよ』

 

 思い出の中の21番が俺に手を差し出す。

 俺はその手を、握ったと思う。

 

『これも約束!』

 

 朗らかに21番は笑った。

 将来を誓い合って、未来のここで会う約束もした。

 殺ししか知らない俺に人を教えてくれた彼女との果たせなかった夢の話である。

 もう、叶う事は無い。

 ここで果たすのは――。

 

 

 

 

「やっと来たね。――藤宮天」

「待たせたな。――21番」

 

 

 

 21番が薄闇の中から現れる。

 そこで俺は、アイツのまとう空気感がいつもと違う事を察知した。

 以前と違うのは、ナイフ数本や銃器の武装が豊富だ。

 そして――呼び方。

 13番ではなく、藤宮天。

 今の俺が気に食わないアイツが、絶対に呼びたくない名前だ。

 つまり、読み取れる事実は一つ。

 本格的な戦闘態勢だ。

 

 成る程、千束襲撃の時も本気じゃなかったか。

 あれで手加減、となると厄介だな。

 本気で死ぬかもしれん。

 

「千束がここを通らなかったか?」

「通ったね」

「逃げられた口か」

「少し話はしたけど、止めはしなかったよ」

「看過したってのか……?」

 

 21番が笑う。

 

 

「僕は誰かさんみたいに目移りはしないんだ」

 

 

 俺の体がぶるり、と震えた。

 刃物のように鋭く、それでいて蛇のように絡みつく黒と白の眼差し。

 あの目は、分かる。

 

 ………昔の俺と同じだ。

 

 戦場で生きてきたヤツの瞳。

 希望は見出さず、あるのは目の前の外敵の倒し方と自らが生き残る為の活路を探る以外に眼中の無い、執念の目だ。

 足下に落ちたガラス片に映る俺を見た。

 21番に比べて、気の抜けた面構えだ。

 これで覚悟を決めたというのが笑い話だな。

 

「……千束とは何を話したんだ」

「僕に他の女の話をさせるんだ?」

「そうだな。悪いが俺はアイツに夢中だから、デリカシー云々は期待すんな」

「ふふ、生意気だねー」

「昔のオマエに倣ってんの」

「そうなん――だ!?」

 

 21番が腰のホルダーから抜き取ると同時に撃つ。

 回避は出来なかった。

 俺は胸に直撃する寸前で銃弾を掴み取る。……イテテテテ。

 手を開いて足元に落とす。

 やはり――俺を殺せる威力は無い。

 目や体の柔い部分に撃ち込めば結果は違うだろうが、俺との対決に臨むとしては些か火力不足だ。

 

 どうやって、俺を殺す?

 どうやって、俺を追い詰める?

 

「アイツも生意気だったよ」

「…………」

「君は絶対に僕の物にならない、とかほざいてさ」

「それを否定できる自信はあるのか?」

「あるんだねー、こ、れ、が!」

 

 21番が微笑む。

 その片手が一振りのマチェットを手に取った。

 ぞっとする。

 間違いない、俺が死ぬとしたら死因はあの刃だ。

 俺は装備していたショットガンを床に落とす。

 それからスタン警棒を腰のベルトから引き抜いた。

 大抵の刃物なら徒手空拳で挑んでも問題無いが、前回の戦闘で痛い目を見たので今回は警棒で対処するしかない……殺傷力に差はあるが、得物的に五分五分。

 後は、持ち主の手練のみ。

 

「僕は、君が好きだよ」

 

 …………。

 感謝しかない。

 生意気な昔の俺を肯定してくれて、今なお道を違えてさえそう思ってくれる。

 俺には勿体ないくらいだ。

 でも。

 

 

「ありがとう。――指輪返せ」

 

 

 俺は欲張りだから、オマエ以外を選ぶ。

 今できてしまった、更に大切なモノの為に戦う。

 

「そっか。……行くよ、藤宮天」

 

 21番の姿勢を低く駆け出す。

 飛びかかる前の肉食獣が如くに地を這う低さで接近してくる。

 マチェットは腰元に、銃を面前に構えて発砲。

 俺は横へと走りながら、近くのU字型のレジカウンターの影へと飛び込んだ。

 着地と同時に片手で拳銃を抜き取って、21番へ発砲する。

 牽制の三発――いずれも躱された。

 左右へ体をわずかに揺らす回避行動だった。

 

「やっぱ、当たらねぇ――よな!!」

 

 俺は近くにあった破損したレジスターを21番めがけて蹴る。

 それを狙って、もう一発発砲した。

 

「っ!」

 

 21番の前でレジスターが粉砕され、粉々に拡散する。

 破片に視界を覆われた彼女が足を止めたのを見計らい、俺もまたレジカウンターの影から躍り出て更に発砲する。

 アイツの能力の正体は――耳!

 千束のように視覚による洞察力ではなく、相手の骨の音などから動作を予測している。

 異常に優れた聴覚だ。

 だが、千束ほど正確じゃない。

 視界を覆われた上に、破片が降りかかる煩わしい状況で同じように弾丸が避けられるかな!

 

「うお!?」

 

 ――という策を読まれていた。

 俺が銃撃で破砕したレジスターの影からナイフが一本飛来して来ていた。

 お見通しかよ!!

 慌てて後ろへと左半身を引く。

 ジャケットの襟を裂いてナイフは飛んでいった。

 

 レジスターの破片が全て床に落ちる頃、そこに21番はいなかった。

 一瞬だけ姿を探して視線を奔らせる。

 すると、レジカウンターを挟んで下から跳ね上がるように突き出された足が現れた。

 銃床と手を強かに蹴り上げられ、構えていた拳銃が頭上へと飛ばされた。

 蹴られた際に跳ね上がった右腕に21番の足が絡みつく。捕まった瞬間、伸ばした肘をがっちりと固定された。

 驚く暇もなく、レジカウンターに腰掛けるような体勢から至近距離で撃たれた。逃げる事ができず、二、三発を肩に受ける。

 

「く……!」

 

 右腕に絡み付く足を掴もうとしたが寸前で逃げられた。

 横へと転がりながら、彼女はなおも発砲を続ける。

 ……コイツ、動きが捉えづらいな!

 思わず舌打ちしたくなる。

 猫のように俊敏で非力だが術理がある。

 肘関節を固定された時もそうだが、人体という物を熟知した動きだ。

 間違いなくクソ上司の教育の賜物。

 それが更に長い戦闘経験で練磨されている!

 

 俺はレジカウンターに隠れるほど身を低くしながら床を滑って21番を追い、その襟を掴む。

 驚いた彼女を振り回し、商品の陳列する棚の一つへと叩きつけた。

 背中を強打して短い悲鳴を上げた彼女へ、更に突き足を畳み掛けようとして――間に割って入ろうとしたナイフに急制動をかけて足を引き戻す

 靴先を突き出されたナイフが掠めた。

 危うく爪先が串刺しになるところだった。

 

 俺に叩きつけられた事で倒れる棚の上を後転し、跳ね起きるように更に後ろへと飛びながら21番が発砲する。

 俺は直近の商品棚の物陰へと飛び込んだ。

 その道すがらで先刻蹴り飛ばされた銃を拾い上げて新しい弾倉をリロードする。

 

 

 ………強い。

 分かってはいたが、想像以上だ。

 

「楽しいね!」

「…………」

「実弾を使ってくる辺り、かなりの覚悟があるね」

 

 呼びかける声に答えない。

 耳が良いアイツには、些細な音でも位置を特定されちまう。

 互いに姿を隠しても直ぐにバレる。

 せめて息を整える時間程度は欲しいので、声がけには応えない。

 

 そう、俺の武装――弾丸は非殺傷弾ではない。

 21番との勝負で手は抜けなかった。

 殺してでも、アイツを止めなくてはならない……だから、今回は実弾を使用している。 

 

「僕は考えたんだ」

「………?」

「どうすれば藤宮天を殺せるか。どうすれば13番が生き返るか……今の君は昔より弱くなったけど、流石だね」

 

 死人扱いかよ。

 随分と酷い話だ。

 まあ、実質的に千束という存在にあった衝撃でショック死したも同然だけどな。

 

 ふ……もしくは奴隷生活の過労で息絶えた!!

 

 悪いが、今の俺は13番の屍を踏み越えた生き汚い人間だ。

 理不尽な要求に堪え、容赦ない仕打ちに歯を食いしばり、蓄積していく羞恥を噛み殺してきた。

 精神力で言ったら、間違いなく13番と雲泥の差。

 ただ弱くなったんじゃない!

 

「生存本能の権化、死に瀕するような状況じゃないと13番は目覚めない……ので」

 

 ピッ、と電子音がした。

 何の音だ……?

 

 

「時限爆弾を起動した。この旧電波塔が吹き飛ぶヤツだよ」

 

 

 …………は?

 お、おいおいおい。

 待てよ、それじゃ吉松どころか千束……加えて電波塔麓の住人すら危うい。

 ハッタリ………だよな?

 

「この時限爆弾の解除法は一つ。僕がしてる腕輪には心拍数を測る機能がある……これと爆弾が連動してるんだ」

「………!?」

「簡潔に言うとね。僕の脈が止まれば、爆弾も止まる……逆に言うと、制限時間内に僕を殺さないと全部が吹き飛ぶよ?」

 

 …………コイツ、本気だ。

 声色から躊躇いの色が全くない。

 一時の昂りに命すら擲つ危うげな狂気を感じさせるそれに、俺は21番の本気を悟った。

 つまり、アイツを殺さないと止まらない……か。

 甘く見られたものだな。

 俺は、21番の殺害も辞さないつもりで来ている。

 

 俺は選んだんだ、千束を。

 

 でも。

 

「脈が検知されなきゃ、爆弾も止まるんだろ?」

「………」

「なら、その腕輪壊せば解決だな!」

 

 位置を悟られる覚悟で声を張れば、21番が沈黙した。

 ビンゴ。

 どうやら解決法は他にもあるようだ。

 

「それをさせると思う?」

「………」

「僕は君を死ぬ寸前まで追い詰める」

「………?」

 

 

 ふと、21番の声とは別方向から音がした。

 俺はそちらへと振り返る。

 吹き抜けとなった上階――俺を見下ろせる位置から、つなぎ服の男がロケット弾発射器を構えていた。

 

 ウソ、やべ―――――!!

 

 

「そう、徹底的に」

 

 

 ロケット弾が発射された。

 その場から慌てて飛び出すも、もう遅い。

 

 俺の三歩後ろで、強烈な強烈な熱と爆風が炸裂した。

 商品棚ごと吹き飛ばされ、瓦礫に揉まれながら地面を転がった。

 しこたま体を打った痛みで頭がチカチカする。

 何とか起き上がって周囲を見回した。

 敵は21番だけじゃない!

 一騎打ちだと心の何処かで決めつけていたが、俺を追い詰める為にアイツは自分ひとりではなく、部下まで使ってきてやがる!

 倫理観を捨てれば戦場に卑怯なんて言葉は無い。

 勝つか負けるか、それだけだ。

 

 来る、次は何処から……!?

 

「うげっ!?」

 

 爆煙の中から手榴弾が飛んで来る。

 俺はその場から慌てて走って逃げた。――が、その行く手の床に穴が空く。

 見上げれば、ライフルを構えているヤツがいた。

 この距離で――確かに俺を殺せる武装かもな!チクショウ、手抜かりなくて笑えてくる!!

 

 四方八方が敵だらけ。

 恐らく千束に対しても姿を隠してたのだろう。

 

 21番に協力し……俺を叩く為に!

 

 だが、これだけ爆撃などを続けていれば21番も容易に俺には近付けない。

 ここは、一人ずつ敵を処理していけるチャンス。

 

「――だと思ったでしょ」

「ッ!?」

 

 21番のマチェットが振りかざされる。

 俺はそれをスタン警棒でいなす。

 勢いそのままに隣を過ぎていくように駆けた21番が俺の足下に手榴だ――また手榴弾!?を転がしていく。

 俺も腕で頭を庇いながらその場から飛んだ。

 遅れて起爆し、爆風と破片を背中に受けて地面をもんどり返る。

 

 イダダダダダダ……………!!!!

 

 ほ、本当にヤベェな。

 俺は肘を立てて床から起き上がる。

 四方八方から高火力の弾の雨と爆弾たち……一人ずつ処理しようにも相手は上階だ。

 本当に厄介な……。

 

「さあ、起きる時間だよ13番――!?」

「やかましいわ!」

 

 突っ込んできた21番に向かって――俺はショットガンを発砲する。

 肩を掠めた彼女が、慌てて後退して爆煙の中へと姿を隠す。

 多少は移動していたが、最初に落としておいたショットガンが役に立ったか。瓦礫に隠れていた上に、周囲で騒音が反響していたのもあってあの聴覚に悟られず奇襲できた。

 でも、これだけでは駄目だ。

 

「おらっ!」

「なっ!?」

 

 振り向きざまに、撃とうとしていた一人のランチャーをショットガンで撃つ。

 発射前のロケット弾の弾頭に命中し、その場で爆発した。

 

「悪いな……リコリコを辞めた男に容赦なんて無いんだよ」

 

 ふらふらするが、何とか立ち上がる。

 晴れた煙の中から笑顔の21番が現れた。

 

「ここからが勝負だよ」

 

 そうだな。

 俺は無言で頷いて、構え直した。

 

 

 

 

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