喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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追い詰めて、戻って

 

 

 

 千束side

 

 

 私は電波塔の上層部まで来ていた。

 幾ら呼びかけても吉さんは見つからない。

 進む内に、だいぶ敵の数は減ってきたけど……まさか素通りしちゃったかな。

 ロボ太から送信された画像では口までは拘束されていなかったから、声に気付いてあちらからも答える事ができるはずだけど……。

 眠らされてるのか、容易に応答できない状況か。

 どっちにしろ、早くしないと。

 

『13番は帰ってくる』

 

 行き道で会ったアイツの声が脳裏に蘇る。

 ムカつくくらいの不敵な笑みだった。

 ふん、絶対にテンは負けないから!

 

 

「千束!!」

 

 

 ふと、上から私の名前を叫ぶ声がした。

 これは――吉さんだ!

 階段を駆け上がっていくと回廊に出た。ガラス張りになった外から漏れる光で、これまで通ってきた場所よりは幾分か明るい。

 たしか、この階から聞こえた筈だ。

 何処だ……?

 警戒しながら歩いていくと、曲がり角の奥で椅子に拘束された吉さんを発見した。

 それを見て、私は安堵した。

 良かった、死んでない。

 

「………!?」

 

 回廊全体の窓に、シャッターが降り始めた。

 屋内が暗くなっていく。

 私は見失う前に、吉さんの傍へと移動した。

 回廊の方へと警戒して銃を向けていると、角から黒コート姿の男が姿を現した。

 な、アイツ……!?

 

「よう。――ヒーロー?」

「っ、真島!」

 

 飄々とした挨拶の後、真島が二発発砲した。

 問題ない。

 私はそれを回避して――!?

 

「ぐあっ……!!」

「吉さん!」

「避けると大事な吉さんに当たっちまうぜ?」

 

 私の回避した銃弾が当たったのか、吉さんから悲鳴が上がる。

 椅子ごと倒れた音もしたので、慌てて駆け寄ろうとしたが真島がそれを許さないと再び発砲する。防弾仕様でもあるリコリス用のサッチェルバッグを盾に構えて防いだ。

 

 しん、と発砲が止む。

 

 私はバッグから取り出した小型の懐中電灯で前方を照明する。

 ……真島はいない。

 後ろを確認すると、拘束用のロープを切られ、椅子だけを残して吉さんは消えていた。

 いつの間に……。

 いや、それよりも。

 

「アンタ、何で………!」

「ここにいるかって?」

 

 私を嘲笑う声が闇に響く。

 くそ、馬鹿にしやがって。

 吉さんが心配だけど、アイツが大人しく探させてくれるワケがない。

 ここで撃ち合うしかないか……。

 

 私は通路に設置されていた棚を背中で回廊まで押し出す。

 その物陰に隠れて銃を構えた。

 

「………?」

 

 電波塔が揺れている。

 暗闇の中、私は真島と対峙している最中だった。

 かなり近い場所で爆発が起きている。

 これは――テンとアイツの戦いだ。

 ここまで派手だとは思いもしなかったけど、テンを殺める為の用意となれば、確かに人間を想定した火力では不可能だ。

 本気で殺しに来てる。

 

 でも………にへへへ。

 

 戦ってる。

 テンが戦う事を選んだってことは、アイツにテンは奪えなかったって事だ。

 千束さんの大勝利。

 きっと今も吠え面かきながら戦ってるに違いない!

 でも、中々に激しい様子だ。

 全く、21番は予想以上に重い人らしい。

 

「くくく」

 

 私と同様に、下の苛烈さを察したのか暗闇に真島が笑い声を響かせた。

 だー、くそ!

 反響して何処にいるか分かんない!

 視えないと弾丸も避けられない。

 シャッターの閉め切られた現状では、迂闊に近付いてもこっちが負傷する可能性がある。

 コイツ、私の能力を理解してやがる。

 

「悪ぃが、ウチのバケモノが勝つぜ?」

「ふん。こっちの旦那の方が強いっての」

「どうだか」

 

 何でそんな余裕なんだ。

 本気のテンが戦えば、アイツだって楽勝だ。

 そして、勝って私の所に帰って来るんだ。

 私は私で、コイツを倒して吉さんを――。

 

「見ろよ」

 

 指を鳴らす音。

 次いで、壁に等間隔で設置されたモニターにニュース番組が流れる。

 延空木のリコリス達が映されていた。

 

『延空木からの中継です。武装した少女が、発砲しています……!』

 

 完全に晒されてる……。

 負傷したリコリスをフキ達が移動させている。

 ここに真島がいた事といい、あっちは騙された上で晒し者にされているらしい。リコリスがバレたって事は、DAもかなりの大打撃を受けてるんだ。

 ラジアータは何してるの……?

 やっぱり、ロボ太に妨害されてるのかな。

 どちらにしろ、悪い事尽くしだ。

 完璧に真島の策で全員が翻弄されている……DA、私、テンまでもがアイツの手中の上か。

 

「あっちのリコリスは全国デビュー中だぜ」

「フキ……」

「ははっ、これでオマエらは終わりだ」

「この……!」

 

 私は棚から体を出して銃を構える。

 それを待ってたとばかりに、暗闇から真島が発砲した。

 慌てて身を引いてそれを躱す。

 幸いにも、アイツが付けたテレビの光でぼんやりとだが姿が把握できた。

 これなら銃撃も……!

 私が反撃に一弾を発砲する。

 でも、その直後にテレビ画面が全て消されて辺りが再び真っ暗闇に包まれた。

 うわ、くうう……見えん!

 

 仕方ない。

 

 私は懐中電灯で再び前を照らす。

 すると、既に接近していたアイツが棚を蹴り倒すように跳躍しながら迫っている真島の姿があった。

 真島は倒した棚を器用に足場にしつつ、私の手から懐中電灯を蹴り飛ばした。

 

「この暗闇で、見えてんの……!?」

「聴こえるのさ」

 

 後ろの死角から首筋を肘で打たれた。

 衝撃で思わず前に倒れる。

 いった……!

 コイツ、乙女に何て事しやがる……まあ私も撃ってるのでお互い様なんだけども、なんだけども!

 

「……相手の微細な動きで射線と射撃タイミングと判断する?スゲー能力だ、アランが興味持つわけだぜ」

 

 暗闇にアイツの足音だけがする。

 この中で、アイツは自由に動けているんだ。

 まるで、こっちの位置だけが筒抜けかのように……どうやって?

 こんな視覚が機能しない状況で相手の位置を捕捉するのは不可能だ。

 でも、この足音でアイツが見えない環境でも何ら痛痒を覚えず自由に移動しているのが分かる。

 足音……足音……音?

 

「音か……!」

「正解」

「!!」

「確かにオマエのソレは強力だな」

 

 背後から声がして、私は後ろへ発砲する。

 だー、当たったかすら分かんない!

 ムシャクシャしていると、目の前で砂を噛む靴音が聞こえた。

 これは……踏み込み?

 音から私も探ろうとしていた瞬間、脇腹に長い足が突き刺さった。

 

「だが――視覚が全てだ!」

「ぐ……!」

 

 痛い。

 でも、ただでは済まさない。

 アイツの蹴り足をそのまま抱え込むように受け止めつつ、直ぐ様愛銃で反撃した。

 一発……当たった様子は無い。

 引き金を引くが、弾倉は既に空だった。

 

 止めていた真島の足が再び動く。

 細そうに見えて凄い筋力で私を欄干に叩きつけた。

 腹を蹴られた上に背中を打って呼吸が一瞬止められる。

 ここまで敵の攻撃を受けるのは久し振りだ。

 21番といい、コイツといい……!

 私は再び抱き込んだ真島の足ごと欄干を蹴って体全体で回る。捻り上げると悟った真島も自ら回転するが、無理な体勢だったのか呻き声を上げて転倒していた。

 よし、ここだ!

 アイツが手放して宙に飛んだ拳銃を掴み取り、至近距離でぼんやりと見えるアイツの眉間にかざす。

 

 だが、真島はにやりと笑った。

 

 

「良いのか。そりゃ実弾だぜ?」

 

 

 ぐ、コイツ……。

 引き金が重くて指が動かない。

 私の動揺を察した真島の蹴りが私の右脇腹を打つ。

 凄い威力に、私の体が鞠のように転がっていく。胴体に響く鈍痛で吐きたくなる。

 

「聞いたぜ、吉さんから。つまんねー縛りで才能枯らしてんだって?」

「………」

 

 つまんねー縛り……不殺の事か。

 暗闇の中でまたアイツが動く。

 位置は分からない……取り敢えず、音に耳を澄ませて少しでも接近のタイミングと位置を測れるよう気を配りながら手元で愛銃のリロードを行う。

 次こそ仕留める……!

 

「でも、オレはオマエのそういうところ好きだぜ?人に生き方を強要されるのはオレも嫌いだ――」

「一緒にすんな!!」

 

 思わず怒りのままに発砲して声を遮った。

 誰がアンタと同一視されて喜ぶか!

 私はやりたいようにやるけど、誰かを殺したりして他人の時間を奪うようなヤツと同じだなんて思われたくない。

 そんな私だから、テンだって私の傍にいてくれる。

 これは――指輪は、その証だ。

 私は自分の左手の薬指に飾る物に触れた。

 

「――二人でアラン機関を叩かねえか?吉さんは痛めつけても中々口を割らねえんだ」

「は?」

「オマエとなら組めるかもしれない」

「………!」

 

 今度はすぐ後ろで声がした。

 振り向きながら撃つが、やはり当たった様子は無い。

 どうすれば良い……このままじゃ埒が明かない。

 

「ついでに、あのゴリラも入れて良いぜ?」

「絶対アンタだろうと渡さない」

「まあ、もう下で死んでるかもしれんがな!」

 

 苦しい状況に歯噛みしていると、吉さんがいた通路でぱっと光が上がる。

 視線をそこに運べば、スマホがあった。

 どうやら、何処からか着信しているらしい。

 三コール辺りで切れた………再び着信、しかし今度は一コールで切れる……。

 

「…………!」

 

 まさか。

 でも、このタイミングは……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 

 轟音と熱と風。

 全てで段々と意識がチカチカしてきた。

 それでも体は動く。

 まるで昔のように――生き延びる為だけに。

 

「ははっ、凄いすごい!」

「く……!」

「残り十五分!」

 

 21番との近接戦が続く。

 会社にいた頃よりも格段に速く、強くなっている。

 一緒に仕事をした頃だって、俺が指導する程度には実力差に開きがあったのに、今では逆転していた。

 コイツが強く……いや、俺が弱くなった?

 あるいは、その両方。

 コイツは戦場で生きてきた。

 対して、俺は比較的に平穏な日々を送っていた。

 殺しの技術において、今は圧倒的に21番にこそ分がある。

 だからって。

 

「負けるかよ!!」

「おっと」

 

 後ろに飛びながらショットガンを撃つ。

 体をわずかに右へ傾けた21番の髪の一房を切って銃弾は飛んでいく。

 この距離でも躱すかよ!!

 それから何発も撃つが、当たる気配は無い。

 優れた聴覚から得た情報を冷静に分析する高度な洞察力、そこから正確な回避行動を算出する判断力と全てを可能にする反射速度。

 何もかもが高水準だ。

 まるで千束を相手にしているようだぜ。

 

 だが、アイツ程じゃない。

 

 本気で戦う千束の赤い瞳に射竦められた瞬間の恐怖に比べれば平気だ。

 その分、21番の部下による援護射撃の所為で状況は壊滅的だが。

 

「……!?」

 

 21番のマチェットが突き出される。

 刃先が目指すのは俺の心臓。

 胸骨の隙間から通すように狙っている軌道だった。

 俺はその刃を両側から掌底を打ち付けて折ったと同時に、アイツの顎めがけて膝を振り上げる。攻撃直後、如何に音で次の動作が予測できようと体勢によっては躱せまい。

 しかし、その確信も裏切られる。

 その直前――21番は飛んでいた。

 軽く上へ跳ねるようにし、畳んだ足で振り上げられた俺の膝に両の足の裏を付ける。そのままそこを足場にして再度跳躍し、俺の顎を蹴り上げた。

 

 いてぇ。

 でも、こんなの爆弾に比べたら軽い衝撃だ。

 この程度の打擲で俺の意識は刈り取れない。

 それを21番も理解しているんだろう。

 膝蹴りの直後、跳ね上がった俺の頭を抱き込むように足で挟み、さらに腰からもう一本のナイフを引き抜いた。

 固定された俺の頭部……殺られる……!

 

「ふんッッ!!」

「がっ!?」

 

 俺は、全力で頭を下げて礼をするように前に上体を傾けた。首元に捕まっている21番を吹き抜けになった上階を支える柱に叩きつける。

 相手が背中を強打して怯んだ隙に、俺は21番の片膝に手を当てた。

 

 膝蓋骨――いわゆる膝の皿を抓み、一気に捻り上げた。

 

 ごぐり、と筋が擦れて骨の移動する音が俺の耳朶を打つ。

 密着しているので聞こえた。

 膝の皿がズレた痛みと感触で察した21番が一瞬だけ顔を歪ませ、俺の顔面を蹴って宙で回りながら跳んだ。

 そこへ俺はショットガンで追撃を図る。

 逃さん!!

 

「っ、クソが」

 

 別方向でロケット弾が発射された音。

 俺は舌打ちしながらも、その場から支柱の影へ飛び込む。

 次いで過去位置を焼き払う勢いで熱が弾けた。

 盾にしていた支柱も吹き飛び、瓦礫に塗れて俺も地面を跳ね転がる。

 いてぇ。

 もう、死んでいてもおかしくない。

 やはり、上階の援護している連中から片付けるべきか。

 起き上がった際に体に違和感を覚える。

 どうやら、右肩の骨が外れたらしい。

 舌打ちしつつ、俺はすぐに直して構え直す。

 

 DA支給のスタンドグレネードを手に取った。

 

 クソ、化け物みたいに強い。

 仮に千束を殺す場合を想定した戦法で21番に挑んだ。

 回避のしようが無い制圧射撃は俺一人だと不可能なので、単純な肉体強度で勝負――という頭は悪いが効果的な策のハズだった。

 だが、ここまで多勢に無勢。

 まるで意味が無い。

 21番を止めるまでに俺が爆撃で揉み潰される。

 

 ヤツの能力の秘密は聴覚。

 まず不意を衝いたスタンドグレネードで21番の動きを封じる。

 次に速攻で腕輪を破壊。

 同時に相手を無力化できれば良いが、それが叶わずとも爆弾の停止こそ最優先。すべてが吹き飛ばされてからでは話にならない。

 腕輪の破壊が最優先。

 それからでも21番の相手はできる。

 後は上階の連中を一人ずつ―――――?

 

 思考しながら立ち上がっていた俺は、ふと瓦礫の一部に紛れていた物体を目にする。

 それは。

 

「――C-4!?」

「ボカン」

 

 呑気な声を合図に、瓦礫が爆散する。

 いつの間に設置してたのかよ……!

 爆風で銃弾と同等以上の凶器に変身した爆弾の破片も千々に飛び、命中した俺の体を突き飛ばす。

 地面を転がって、俺は激痛に思わず声が漏れた。

 破片は体に刺さっているが、どれも貫通していない。

 つくづく自身の頑丈さに笑えてしまう。

 

「く!」

 

 横へと跳ね起きる。

 俺の寝ていた場所に穴が穿たれた。

 一瞬の油断も命取りか。

 久し振りだ、この感覚。

 急いで吹き抜けの広場を離れて階段を駆け上がる。待ち構えていた真島の部下数名をショットガンで仕留め、上階へと一気に辿り着く。

 敵の数は確認できた内でおよそ十人。

 21番が上階まで来て挟撃される前に片を付けたい。

 

「………!」

 

 階段を上がった瞬間、横の壁を銃弾が削る。

 広間を狙撃していた連中が待ち伏せていたようだ。

 俺はDA支給品の特製スタンドグレネードを相手の位置へと放り込んで即座に壁へと隠れ、耳を塞ぐ。

 耳を劈くような音と光が溢れた。

 男たちの悲鳴が上がる。

 

 光が収まってから廊下へと躍り出て、広間まで一気に駆け抜ける。

 床で蹲っている一人にトドメを刺し、近くにいたランチャー持ちの頭を撃ち抜く。

 その直近の短機関銃持ちの一人が拳銃に武装を変えて俺に発砲する。

 先刻トドメを刺した一人を盾に掲げて走り、拳銃を持つ腕を掴んで止めながら相手の首に肘を突き込む。叩き付けられた支柱と挟まれた事で脊椎が折れて首が力無く垂れていた。

 

「くそ……体力が――ぐあっ!」

 

 疲労で気が緩んでいた。

 いつの間にか背後にいた一人に背中を撃たれた。

 致命傷ではないが深い。

 クソが!!

 

「チッ!」

 

 今倒した敵から奪った拳銃で振り向きざまに撃つ。

 眉間に命中し、一発で事切れた。

 皮肉だな、実弾を使うとたきな程ではないにしろ命中精度が高いなんてな。

 

「っ………!」

 

 近くの物陰から上背の男が現れる。

 デカい。

 盛り上がった筋肉で甲冑でも着込んでいるかのような巨体が、俺めがけて突進してくる。真島め、こんなヤツまで飼ってたのかよ!

 武装は短機関銃一丁。

 俺は相手が撃つ前にショットガンで一発撃つ。

 大男がそれを銃でガードしたが、その拍子に銃身がへし折れて破損した。――それでも尚、突っ込んで来る。

 純粋な肉弾戦を所望か。

 確かにここまで銃弾が通用しないなら、打撃で動けなくなるまで叩くのもまた有効的だろう。

 

「むぅん!!」

 

 男が踏み込むと同時に拳を突き出して来る。

 その巨体が発揮する威力は、きっと人の頭蓋骨を容易く粉砕するのだろう。

 確かに、直撃したら俺もヤバいな。

 ……だからどうした!?

 俺もその攻撃に対し、腰を落として体の円運動を利用した肘を向かってくる拳骨めがけて放つ。

 激突した瞬間、男の顔が一瞬歪んだ。

 手応えあり!

 引き戻された男の拳は、中手骨と基節骨の一部が皮膚を突き破って露出している。

 悪いな、拳骨自慢の人間の鼻っ柱をへし折る技だ。

 下手をすれば本人の肘も破損してしまうのだが、俺の場合は特別体が硬い人間だから、そういう反則も許される。

 恨んでくれるなよ。

 大男が潰れた拳を引き戻し、もう片方の手で俺を捕まえようとするが、その前に股間を蹴り上げて動きを止めた。

 

「しッ!!」

 

 怯んだ隙に拳銃の銃口を相手の口に突っ込む。

 上顎に押し当て、そのまま引き金を引いた。

 銃声と共に飛び散った脳漿が俺の頬に付く。

 頭から血の間歇泉を吹かせながら、巨漢は床にくずおれた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……くそ」

 

 一瞬、目の前が暗くなった。

 よろめいて近くの支柱に凭れる。

 ……幾ら頑丈とはいえ、流石に攻撃を受けすぎた。爆撃を受けた背中や腕も火傷を負ったし、破片があちこちに浅いとはいえ刺さり続けていて痛い。

 先刻受けた傷の手当てもしたいな。

 残り時間は、あと十分程度か……?

 さっさと済ませないと。

 あの強敵相手に十分は足りないかもしれない。今気にしても仕方ないが、この後にはDAの処刑人たちとの戦いだって控えているのだ。

 四方八方敵だらけ。

 孤軍奮闘にしては過剰な敵対戦力だ。

 しかし、弱音は言ってられない。

 やらなければ千束だって死んじまう。何の為にここで戦う事を選んだのか、その意味が無くなってしまうんだから。

 

『絶対死なないで』

 

 はいはい、勿論ですとも。

 奴隷として最後の命令くらい果たさないとな。

 爆弾でご臨終なんて堪ったもんじゃない。

 それまでに、腕輪を破壊しないと。

 千束を助けるのに躍起になっているたきなの努力だってある。俺の依頼に乗り気だったクルミも、千束を長く見守ってきた姉貴分のミズキさんだって悲しむ。

 絶対に負けるわけにはいかない。

 死なせない。

 俺は深呼吸して、残る敵戦力の出方を推し量る。

 21番は足を負傷して容易には動けないはず……大男と階段の連中を除けば、下の広間から見えた限りでは残り五人になる筈だ。

 後は奴らを………?

 

「な……!?」

 

 俺は広間の方へと視線を巡らせる途中で固まった。

 広間を挟んだ対岸で、俺に向かって五人がそれぞれランチャーを構えている。

 ったく、あんだけブチ込んで来たのにまだ尽きないのかよ……!!

 春の武器取引でそんなに得ていたのか!?

 どちらにしろ、逃げないとヤバい!

 

 俺はその場から走って逃げようとした。

 だが、背後ではそれを待たず発射されたロケット弾の接近する気配がある。

 

 

 

 

 

 次の瞬間、俺のいる場所に爆弾が畳みかけられて意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「あり得たかもしれない過去⑶」〜

 

 

 

「……契約を切る、か」

 

 私は見慣れた街の道中で呟く。

 今日が最後の日。

 DAは長らく13番を協力関係にある情報屋として繋ぎ止めていたが、もう不要だと判断したらしい。仲介役を務めた私も本部がある東京に異動となったから、確かにタイミングとしては丁度良いのかもしれない。

 でも、彼は別だ。

 要は用済み、死ねと言われたようなものだ。

 これから多くのDAの刺客に襲われるのだろう。

 過去にも多大な被害を出しているので、より対策を練って襲撃されるに違いない。

 でも、同情の余地は無いのだ。

 最初から決まっていた事だから。

 

「ここにいたんですね」

「ああ、久しぶり」

 

 

 私が声をかけると、13番が手を挙げる。

 呑気にスマホを眺めながら、停めた車に凭れて待っていたようだ。

 もう随分と長い付き合いになる。

 昼時に合流するので、いつもなら話しながら食事する運びなのだが、今日はそんな風になれない。

 きっと、これから話す内容で彼もそう思う。

 

「例の倉庫街での事件ですが」

「あいよ」

 

 13番からUSBメモリを投げ渡された。

 私はそれを受け取って、まじまじと掌の上で眺める。

 相変わらず情報収集の早い男だ。

 情報屋としては、しっかり有能である。

 彼を切り捨てるというDAの判断は、まだ時期尚早なんじゃないだろうか……。

 

「相変わらず仕事が早いですね」

「そうじゃないと、今時稼げないんだよ情報屋」

「DAに転職してみては?」

 

 そうなれば、という思いも込めて勧誘してみる。

 勿論、私一人の意見が通る組織じゃない。

 幾ら真剣味を含めても、相手にはほとんど冗談にしかならない誘い文句だ。

 

「絶対に殺されるからヤダ。こうやって情報を売る事で追手の数を減らしてんだからさ」

 

 嫌だと顔を歪めて拒絶された。

 私はUSBメモリをポケットにしまう。

 これが最後の情報提供。

 これが……最後の会話。

 私は特にそうしようとも思っていなかったが、自然と同じように彼の隣に移動して車体に背中を預ける。

 取り敢えず、報酬の入った封筒を渡した。

 

「実は、今回追っているテロリストの件が片付けば東京支部に転属になるんです」

「へー、おめでとうと言うべきか?」

「はい。本部行きは全リコリスの夢ですから」

 

 私も憧れていた。

 本部に行けるのは力を認められたリコリスだけ。

 皆が憧れるのも当然の理である。

 褒めてくれるだろうか。

 いつもの彼なら、きっと――。

 

 

「なら、俺とも今生の別れだな」

 

 

 っ…………!

 どうして、褒めてくれないんだろう。

 いや、分かっている。

 仲介役が異動になって、以降の仲介役が誰に引き継がれるのかについて話を出さないところから、彼も自身の進退について察したのだろう。

 誰かを気にしている余裕は無い。

 でも……今生の、別れ。

 そんな風に言われて、胸が裂けるような痛みを覚える。

 分からない感情が、溢れ出しそうだった。

 私は自分の胸襟を握りしめる。

 

「……付いて来ないんですね」

「個人契約は結んでないだろ」

 

 契約じゃないと、付いてこないんだ。

 私にあんな甘い言葉を囁いて、いつも頑張ると笑って褒めたりして、自慢だとか言っておいて。

 

「東京に行っても会える確率が低いだろ」

「たしかに、東京支部となれば更に忙しいので会う事もないかもしれません」

「逆にそうなる事を祈るばかりだよ」

 

 そうなる事を祈る、ばかり。

 確かに、次会うときがあれば彼は抹殺対象だ。

 でも……でも!

 会わない事を祈る、なんてその口から聞きたくなかった。

 

 不快。

 不快。不快。不快。不快。不快。

 

 私をこんな風にしたくせに。

 防げないような毒で、あのリコリス達みたいにおかしくしておきながら。

 何でそんな潔く別れられるんですか?

 私以外でも貴方は生きていけるんですね。

 

 ああ……堪らなく、不快。

 

 私は今にも銃を手に取りそうな片手で拳を握って堪える。

 駄目だ、今は駄目だ。

 

「もし東京に俺がいたら、その時は抹殺の命令だろ」

「では、私の手で」

「怖。そこは数年間の友情とかないの?」

「私たちは友人なのですか」

 

 友人じゃ、ない。

 私は貴方の管理者だ。

 何処に行こうと、何処に居ようと、私以外の手中に落ちてはならない。

 私にするように下らない発言で、下らない所作で、下らない気遣いで私みたいな被害者を増やす。増やしておいて責任なんて全く取らない。

 何て悪人だろう。

 処理するなら、絶対に私の手で果たす。

 

「なら、達者でな」

「精々殺されないように」

「変な事やらかして左遷とかされんなよ」

 

 彼が笑いながら車に乗り込む。

 最後に憎まれ口を叩いて、去っていった。

 それだけ、ですか。

 

 私は走り去っていく車を、睨み続けた。

 

 

 

 

 

 

 あれから一年半が経過した春。

 私は楠木司令の執務室で異動を言い渡された。

 

「転属ですか」

 

 東京支部に来ていた私は、先日の銃取引事件でのミスを理由に本部から出されるらしい。

 合理的判断に基き、敵を殺しただけの事。

 それをどうしてこんな形に落とし込まれなければならない――という不如意を押し殺し、司令に指示されたままキャリーバッグを手に本部を出た。

 

 それから、私は転属先となったカフェ『リコリコ』で予想以上の苦難を強いられる事になった。

 楠木司令が優秀だと言うのが信じられないくらい破天荒なファーストリコリス、飲んだくれの元情報部所属ミズキさん、彼らを野放しにしている店長ミカ。

 本当にここで私は頑張れるのか、そう不安になっていた。

 

 そして、リコリコに努めて一月が経った頃だ。

 

 

「あっ、そういえば店に新人来たんですよ!」

「可愛い子かな?」

「目移り?」

「それで、どんな子?」

 

 ホールから千束さんの声が聞こえる。

 更衣室からも聞こえていたけど、話している相手は私の知らない常連客のようだ。

 答えているのは、若い男性の声。

 この声……何処かで。

 

 私は着替えを終えて、ホールへと向かった。

 そこで目にしたのは、カウンター席に腰掛けて呑気に珈琲を飲んでいる男だった。

 彼はこちらを見るなり、目を大きく見開いて固まる。

 

 

「えっ、たきな?」

 

 

 ………ああ。

 

「……何でここにいるんですか」

「なんでも何も、常連客」

「東京で仕事はしないんじゃなかったんですか?」

「大人にも色々と事情があんの」

 

 その生意気な返し方。

 その不真面目な態度。

 全てが、一年半だけの間隔だというのに懐かしく思う。

 でも、なぜ東京に……彼は追われる身の筈だ。

 曲がりなりにもDA支部なのだから、千束たちが彼を見逃すのはおかしい。

 

「たきな、知り合い?」

「ええ。京都支部の時に少し」

「あっ。もしかしてDA勤務?」

「いえ。複雑ですが、むしろ追われている方の人間です」

 

 動揺を隠し、私は平静を装って答えた。

 千束さんは、すぐに13番へと向き直って会話を続ける。

 

「えー、そんな悪い人だったのテンさん!」

「そう見える?」

「いや見え……あれ、見えてきた気がする」

「オイ」

 

 千束と談笑している。

 その雰囲気は柔らかくて………見ていて不快だ。

 ああ、そうだ。

 そういえば、彼の好みは白髪の女性だった。

 千束さんはその特徴に該当している、だからあんなに嬉しそうにしているのか。

 卑しい。

 本当に、不快。

 なぜ、あれだけ私に言われてまた別の女性に飽きもせず手を出せるのか。

 

「なるほど、千束さんにもですか」

「違うって」

「驚きました。歳下でも容易に手が出るんですね」

「え、えー……」

「見損ないました」

 

 これ以上は抑えているモノが全て表出してしまいそうで、私は厨房へ戻る振りをしてその場から逃げた。

 それから、壁に背中を預けて胸を押さえる。

 早鐘を打っていた。

 体が熱い。

 

 これは仕方ないことなんだ。

 偶然とはいえ彼は私の手の届く範囲に来てしまった。

 呪うなら自分の運を呪って欲しい。

 私は悪くない。

 

 管理する。

 貴方がまた、そうやってみだりに犠牲者を増やすというのだから。

 絶対に、逃さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




管理者。
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