喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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私の主観が爆発した。


十三話「Recoil of Lycoris」
またな、ご主人様


 

 

 

 

 ミカside

 

 

 

 子供たちは自分の選択に命を賭けていた。

 たとえ、その行いが報われずとも、失敗したとしても後悔という字だけで終わらせない何かを獲得し、私には予想だにしない物を見せてくれる。

 それがとても眩しく、尊く私には感じた。

 彼らはいつも教えてくれる――自らがする『選択』の重要性を。

 そして、私たちの想像を超えて強く成長していく。

 だから大人は、親の私は尊重し協力する。

 あの子たちの行く末を見守りたいから。

 

 

 ――私の仕事も、このお店を始めたことも全部わたしが決めた事。それをさせてくれた先生と吉さんへの感謝は、今の話を聞いても全っ然変わらない。……二人とも、私のお父さんだよ

 

 

 本来なら堪え難い真実も千束は受け止めた。

 私の告解した、千束が長らく育んだ期待と尊敬、生きる理由の根幹すら揺るがしかねない残酷な過去も、優しく笑って私の苦悩ごと包み込んでくれた。

 泣いて、挫けると思った。

 二度と立ち直れないと感じた。

 でも、そんなのは私の中の千束だけだった。――もう立派に成長していたんだ。

 

 

 ――いってきます。

 

 

 あれだけ苦悩しても、天は向かって行った。

 今ある大切な物の為に自分を捨てる覚悟すらしていた。

 破滅するかもしれない罠が待ち構えている。

 あの子を九年間も見ていたから分かっていた。

 決断にどれだけの苦辛を伴ったか。断腸の思いという形容ですら生温いとさえ感じさせる、暗く重い過去に由来した心の痛みに耐えて選んだ。

 それは、後悔しない為に。

 自分の選択を無為に陥れない為に戦う。

 子どもが、私が想像する儚い幻想のような存在ではない事を証明してくれた。

 

 

 ――私、DAに戻ります。千束の生きる可能性が、少しでもあるのなら。

 

 

 たきなもまた、自らの道を進んだ。

 自分の居場所で、自分を導いてくれた千束を今度は自ら救けるが為に離れる覚悟を決めた。

 あの瞳には、私に無い物が宿っていた。

 何を失っても願いを成就させる――選択する事の恐怖を乗り越える、未来の渇望。

 初めて来た時の面影はもう無い。

 悪く言えばDAのリコリスらしく、命令に忠実で個人としての意思を無視する……そんな当初からは見れるとすら思わなかった程に、自身の考えで動いている。

 

 子ども達は見せてくれた。

 

 子ども達の選択を見守る……それが大人の役目と考えていた私に、彼らは教えてくれた。

 大人だから、子どもだからなど関係無い。

 私にも、決めるべき自身の選択がある。

 

 だから、私も――戦わなくてはならないんだ。

 

「………ミカ」

 

 夕闇に沈んでいく電波塔の上層部。

 私は杖を突きながら、その中を歩いていた。

 足は重い、それでも進ませる。

 やがて、行く手に二つの影が佇んでいるのが見えた。

 一人はシンジ、私の探し人だ。……もう一人、シンジに肩を貸してナイフを構えている女は知らないが、シンジの手の者だと考えれば自ずと正体が知れる。

 たきなが言っていた。

 千束の心臓が破壊された現場に女がいたと。

 シンジと行動を共にしているなら答えは分かり切っている。

 そう。

 

 

「シンジ。――そいつが千束を襲った女か」

 

 

 我知らず声に険がこもる。

 敵意を敏感に感じ取ったのか女が飛び出した。

 ナイフを片手に肉薄する軽快でしなやかな動きは猫のようで速い。

 私の首へと一閃された刃先を、振り上げた左の杖で弾く。

 火花を散らして凶器が天井へ弾き上げられた。

 武器を失った……が、女は怯む様子がない。

 何年振りだろうか。

 子供に任せ、実際に人と戦うのは。

 千束や天、たきなに任せてばかりで私には懐かしくも歯痒い――戦場での危機感が蘇る。

 空振りするや、勢いを利用して体を回転させ新たに取り出したナイフで私の顔へ振りかぶる。

 上体を軽く反らして避け、私は踏み込みを決めた。

 

「ぬぅうあ!!」

「かッ!?」

 

 下から振り上げた杖で女の脇腹を捻り打つ。

 無防備に入った一撃の効き目は、相手が浮かべた苦悶の表情で理解できる。

 まだ……コイツは反撃してくる!

 杖を振り抜いた方向に女が転がるが、すぐに立ち上がろうとした。

 私は振り抜いた杖を勢いのまま抛って自由になった左手をショットガンに添える。

 

 起き上がって間もない女へ、間髪入れず発砲した。

 

 命中。

 女が吹き飛び、欄干に衝突する。足りない。

 発砲。

 命中。

 発砲。

 命中。

 発砲。

 命中。

 

 ………銃撃で欄干に縫い留められていた女は、私が手を止めると床へと滑り落ちる。

 意識を失い、そのまま床に草臥れた。

 敵の沈黙を確認して、私もショットガンを床に落とす。

 少し離れた位置で見ていたシンジが瞠目していた。

 

「おまえ、足は」

「戦士は全てを見せないものだ。愛する者には、特にな」

 

 守る為に武器は隠しておく。

 いざという時、敵を沈黙させる為に。

 

 私が歩み寄ると、シンジが失笑する。

 分かっている、私は嘘つきだ。

 千束にも、シンジにも……事実を隠していた。千束には約束を理由に知りたいと願う彼女には秘密にし、シンジには約束そのものを反故にしている事を秘密にした。

 我ながら度し難い人間だと思う。

 だが、これが私の決めた選択だ。

 

「おまえは、嘘ばっかりだな」

「すべて千束の為だ。そうだろう、シンジ?」

「私は分かって貰えなかったよ。……見ろ、返されてしまった」

 

 シンジが悔しさを滲ませる笑みで何かを掲げる。

 その手には、千束のペンダントがあった。

 シンジと千束を繋げる証、彼女が後生大事にして肌見離さず持っていた物だ。

 そうか、それが千束のした選択なんだな。

 

「私はもう要らないみたいだ」

「…………」

「藤宮天もそうだ。……まったく、子どもというのは想像を超えていくものだな」

 

 その言葉に、今なら深く共感できる。

 子どもは私達に縛れる存在ではない。

 

「シンジ。導いてくれるのは子供たちなんだ、私たちの知らない世界に」

 

 彼らの見せてくれる鮮やかな景色は、いつだって私を感動させてくれる。

 未知の喜びと、可能性を与えてくれる。

 だから。

 

「彼らの選択を、邪魔してはいけない」

 

 シンジもまた共感したのか、私の言葉にふっと噴き出す。

 それから諦めたように、ペンダントを地面に置く。

 私も懐中に手を入れて――拳銃を一丁取り出す。

 いつかの日、千束の為に覚悟を決めたと嘯いていながら、結局は引き金を引けなかったあの時の銃だ。

 

「つまり、ここでお別れか」

「――そこに、あるんだろう?」

「……千束は、信じなかったぞ」

 

 私が胸元を一瞥すると、シンジは胸襟を引いて隠す。

 私には分かっている。

 そこに心臓があると脅して、千束の背中を押そうとした事など。

 きっと、理想の救世主として見ている千束にはそれが嘘だと感じたのだろう。

 でも、私が知るシンジは。

 

「シンジは嘘を言わない――!」

 

 何処までも、理想に直向きな男だ。

 やる事は常に真剣で、決して人を弄ばない。

 私には分かるよ。

 その胸に、あるんだ。

 

「……今さら嬉しくないな」 

 

 あの優しく、包み込むような瞳が私を見上げた。

 本当に変わらない、あの日と同じ目だ。

 私は拳銃を構える。

 向けられた銃口に、彼は微笑んだ。

 

 

「狂わされたな、お前も………あの子に」

「…………そうだな」

 

 

 手元が震える。

 だが、選択したのなら戻る道は無い。

 私は選んだ――千束の未来を。

 

 

 

 

 銃声が轟く。

 頬を伝う涙は止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 

「知らない天井だ」

 

 俺は目が覚めて起き上がる。

 片腕には点滴が打たれ、病衣に変わっていた。

 個室の為か室内には俺以外の人間が見当たらない。窓から夜が明けてばかりなのだと理解する。

 正確な時間を知ろうとしたが……。

 

「……何じゃ、こりゃ」

 

 寝台のサイドテーブルに粉砕された時計があった。

 寝起きから物々しい雰囲気に戦慄する。

 思い出せ、何があったのか。

 たしか俺は病院で意識を失った。

 眠るというよりは気絶に近い。

 相当の疲労を蓄積していたらしく、泥のように眠ったので千束達がどうなったかを知らない。武器も取り上げられているようで日時も不明だ。

 そういえば、片腕が動かない。

 

「………ひっ」

 

 悲鳴が漏れた。

 見た瞬間にヤバイと理解する。

 だって、片手がベッドの端に手錠で繋がれていたからだ。

 がっちり、と。

 病人に施す処置にこれは無かったと思う。

 やろうと思えば引き千切れるし解錠もできる。

 問題は、誰がやったか……だ。

 こんな事をやりそうな人には思い当たる節が二つ、というか二人いるので特に思考する必要は無さそうである。

 

 真島の事件は、もう終わっただろう。

 

 果たして、店長は人工心臓を入手できたのだろうか。

 それだけが気懸かりだ。

 俺のいるこの病院で、恐らく千束も匿われている。二ヶ月という期限が短い以上、店長が入手できたならすぐにでも移植手術が行われる。

 ならば、他の病室だろうか。

 術後、すぐでアイツも動けないだろうが……様子が気になる。

 いや、そもそも……入手していない場合もある。

 見に行くのが、怖い。

 

 ……取り敢えず、何にしても手錠は外そう。

 

 俺は粉砕された時計の長針と短針を外した。

 破壊された時の衝撃で良い具合に尖端が歪んでいる。

 二本の針を口と手で扱い、手錠の鍵穴へ入れ込んで解錠を目指した。

 ふははははは!

 昔、千束に手錠を嵌められた時が懐かしいぜ!

 お蔭で脱し方は身についてるのさ。

 何て悲しい経験だ、役立つだけで涙出てくる!!

 

「っし、解けたぜ!」

 

 かちり、と手錠が解ける音と声が重なる。

 俺は自由になった手首を擦りつつ、ベッドから離れた。

 傷は治っていないが、多少痛むだけで問題無い。

 

 病室の扉を静かに開け、通路を確認する。

 

「もう起きたのか」

「ぇひゃいっ!?」

「そう驚くな、こっちも驚く」

 

 扉の横の壁に凭れるように立っていた男――9番から声をかけられて変な声が出た。

 おまッッ、ざけんなよコラ!!

 誰かに聞かれてたら二度と日本に帰る気失せてたぞ!!責任取って結婚しろよ奥さんいたんだったなハイスミマセンね!!?

 

 ……いかん。

 驚きすぎて動揺していた。

 9番となんか結婚したくもないし、相手が誰で、嘘であろうと知られたら千束に殺される。

 ようし、よく踏み留まったな俺!!

 

「あー、昨日はすまんな9番」

「いや、あれから二日も経ったぞ」

「ヴェッッ!?そんなに経ってたのかよ……だから手錠なんてあったのか」

「手錠?ああ、たきなちゃんが色々と部屋に持ち込んでたな」

「たきなかー……」

 

 いよいよ堕天使に磨きがかかってきたな。

 俺の所為で推しが曇る……ネットとかで聞いた事はあったが、我が身の事となるとこんなにツライとは思わなかった。

 いやいや、それよりもだ。

 

「9番、今日にも国を出たいんだが」

「良いのか?リコリコの人たちに挨拶しなくても」

「店長やミズキさん、クルミには済んでる。……たきなに会ったら、出られなくなるし」

「恋しくて、か?」

「いや物理的に」

 

 即否定した。

 今のたきなを甘く見てはならない。

 たきなの中で、俺は凄く心配させるし忠告も無視して突っ込んでいくバカ野郎だと認識されている。頼りになる尊敬すべき先輩像なんて当初の印象は崩壊したのだ。

 もし国外逃亡がバレたもんなら監禁される。

 でも国内にいたら間違いなくDAに狙われるだろう。

 俺を匿っているんじゃないかと真っ先にリコリコは容疑がかかるから、絶対に居られない。

 

 逃げの一択、それが最善。

 

「ほらよ、これ荷物と着替え」

「え?」

 

 9番に投げ渡された物に俺は驚いた。

 コレ、用意していた脱走用の荷物だ。

 軽めのリュックに詰めたのは、必要最低限の物ばかり。実は旧電波塔の近くに停めたバイクに入れっ放しで、21番と決着が付き次第戻って回収し、そのまま逃走ルートに入ろうと計画していたのだ。

 そっかー……あの後、病院に直行してすぐ寝たからすっかり忘れていた。

 

「しっかりしろよ、これからDA相手に逃げるんだからよ」

「へいへい」

 

 俺は一旦病室に戻って、受け取った服に着替える。

 素早く準備を終えて、再び通路に出た。

 さあっ!

 これでいつでも出られるぜ!?

 

 やる気に満ちた俺の顔に……なぜか9番は顔を顰めていた。

 何が可笑しいってんだよコラ。

 

 

「……おまえ、千束ちゃんの事は聞かないのか?」

 

 

 9番の一言に思わず動きを止めてしまう。

 ……俺は首を横に振った。

 

「知ってどうするよ?どうせ、俺はこれからアイツと離れて国外に行くんだから」

 

 苦し紛れに言うと、9番が無言で病室の一つを指さした。

 病室前のプレートは無地、誰がいれば名前が書かれている筈の所に何も記されていない。つまりは無人………のハズだが。

 

 俺が怪訝な顔で振り返ると、9番が入るよう促してくる。

 お尻を蹴るな。

 

 渋々と扉を開いた。

 

 

「……………千束」

 

 

 ベッドの上で、すやすやと安らかな寝息を立てている千束がいた。

 俺と同じように病衣に着替えている。

 普段は軽く結われている左の髪も解かれていた。

 

 俺はベッドに歩み寄って、近くで顔を確認する。

 もしかして。

 

「よく分からんけど、手術してたな。成功したらしいぞ」

 

 9番が背後から説明してくれる。

 そうか。

 そうか。

 そうか………!

 

 安心感に膝から力が抜けて、その場に崩れる。

 俺は近くにあった千束の手を握って、感情のまま額に寄せた。

 温かい。

 生きている。

 これからも生きていく。

 

「なあ」

「何だよ」

「ガールフレンドが生きてると分かってほっとしてるけど、そんな状態で本当に出ていくつもりなのか?」

 

 9番に問われて胸が痛…………まない。

 

「ああ」

「良いのかよ」

「……正直に白状すると寂しいが、これが今生の別れじゃないと信じてる。俺がコイツとまた会う為に、必要な事だ」

「……そうかよ」

 

 9番が笑って病室を出ていく。

 俺は一度だけ千束の寝顔に手を伸ばした。

 白い頬を撫でて、その感触を噛み締めてから離れる。

 

 

 

「またな、ご主人様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「IF:もし見つかっていたら」〜

 

 

 

 手錠を解除できた!

 

「っしゃあ!」

 

 歓喜に声を上げて、拘束されていた手首を擦る。

 しっかし、日時が把握できないよう時計を破壊するとは中々に恐ろしいな。まず知らない場所で起きた人間が知りたがるのは位置情報、ここに至る経緯、時間の経過だ。

 二つは理解できている。

 問題は最後だ。

 コレがわからないと、下手に動いていいか分からなくなるしな。

 うん、現に分からなくて病院を脱した後はどうするかも悩む。

 

 せめて、一人くらい協力者が欲しいけど。

 

 

「今なら、千束の気持ちが少し分かります」

 

 

 かちり、と鍵の音がした。

 えっ。

 恐る恐る振り返ると、扉を背にして堕天使――たきなが立っていた。

 背中に隠れた片手は、多分鍵を閉めている。

 片手には……こ、拘束用のワイヤーガン、です、ね……。

 

 たきなは微笑んでいた。

 

 慈しむように優しい眼差しである。

 

「昔、爆弾で貴方が吹き飛ばされた瞬間を見た千束がDAの任務から頑なに遠ざけた話を聞きました」

 

 あ、それ監禁されて助けられた時にミズキさんが話してたヤツね。

 うん、で、でもさ……今と関係ある?

 

「死んで欲しくないのに、貴方は自分から地雷原に踏み出すような事をしますね。……千束が、みんなが……私が、こんなにも心配しているのに」

「………」

「貴方を自由にしていると、ロクな事が無い」

 

 たきながゆっくりと歩いて来る。

 俺はその一挙手一投足に、目を光らせた。

 な、何を仕出かすか分からない。

 取り敢えず、右手のワイヤーガンに注意しよう……俺の体格的にも的が大きいが、幸いにも障害物は多い。初撃は躱しつつ、扉を蹴破って逃げる事も……。

 いやいやいや。

 たきな相手に何を考えてるんだ。

 

 逃げるって、たきなから?

 だって、たきなはいい子で――。

 

 

「だから……もう全部管理しますね、貴方の人生」

 

 

 はい!!

 いい子じゃなかった!

 キレてる子だった!!

 

「たきな、落ち着け」

「私は冷静です」

「冷静な子は他人の人生管理するとか言わないから」

「……貴方の所為ですよ?千束も死ぬかもしれないなんて時に、自分から敵と一緒に死ぬなんて言って…………私がどれだけ、どれだけ、どれだけ心配して心配して心配して!!冷静じゃない?そんなの分かってます、でも貴方がそうさせたんですから!!」

 

 たきなの叫びに気圧されて思わず固まる。

 瞬間――たきなのワイヤーガンが火を吹いた。俺の手足を拘束する三連射が放たれ、回避もできなくて床に転がる。

 病床の横に倒れた俺を、すかさずたきなの足が踏み押さえた。

 

 

「ごめんなさい。後で幾らでも謝るので……大人しく、飼われて下さいね」

 

 

 

 人生オワッタダッタッタダー。

 

 

 

 

 

 

 DEAD END………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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