喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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二話「The more the merrier」
飯をはよ食え!!


 

 

 とある朝。

 俺は早くから朝食の準備をしていた。

 作る分量の目安は二人分、味は同居している相手の趣向に合わせている。合わせなかったら食卓が赤く染まるので命懸けだ。

 昔、作り忘れたら泣かれた事があったっけ。

 まだ九歳の彼女の泣き顔には焦ったものだ。

 あれ以来、一日も欠かしたことは無い。

 

 朝食のついでに、今日の仕事で必要となるであろう弁当も用意しておく。

 やっている事が完全に主婦だが気にしない。

 気にしたら負けだ、これは将来役立つと信じて修行だと考えておく。

 コレは決してヤツの為じゃない!……っと。

 

「そろそろ起こすか」

 

 俺は廊下に出て、突き当りの壁に触れる。

 すると、忍者屋敷の絡繰仕掛けもかくやという風に壁面が回り、下へと伸びる梯子が現れた。

 梯子を伝って下階へと降りると、俺が使用する場所と似たような間取りの空間が広がっている。

 居間へと向かえば……下着姿でソファにイビキを掻く美少女がいた。誰得だよ恥を知れ。

 

 机の上には、映画作品のパッケージが散乱していた。

 どうやら、夜更けまで映画鑑賞を嗜んでいたようだ。

 確かに趣味だと聞いているし、週三回で付き合わされるが今回はやけに長いな。今日は任務だから抑えるだろうと思っていたのに。

 

「千束、起きろ」

「んー……」

 

 唸りはするが起きる気配がしない。

 朝食が無駄になるし、俺は少し早く出るので急いで欲しいのだが……。

 呆れながら、再度試みるがやはり起きない。

 こうなったら――。

 

「んぇへへ……テンったらダメだよぉ」

「ん?」

「勝負下着じゃないから見ちゃダメ……むにゃ」

「じゃあ服着て寝ろコラァ!!!!」

 

 俺は上着を千束へと叩きつける。

 こちとら既に何度も見慣れているので興奮も無い。

 流石に起きたのか、上着の下で苦しげな声が上がる。それから眩しそうにこちらを見上げて、彼女は瞬きを繰り返した。

 そして、ゆっくりと……顔が赤くなる。

 

「ね、ねえ……私何か言ってた?」

「わりかし間抜けな事を」

「むぉおおおお!?」

 

 俺の上着で顔を覆って隠れてしまった。

 いや、返せよ。それ着て出ていくんだぞアホ。

 

「朝食、作っといたぞ」

「………」

「食い終わったら流しに置いてくれ。俺はもう出るから、オマエも早く準備してリコリコに行けよ」

「えー!一緒にご飯食べないの!?」

「え?オマエと?ww」

「は?」

「すみません、ごめんなさい、申し訳ありません」

 

 全力で平謝りしながら俺は千束から上着を奪う……って離さない!?

 強、力つよ!ゴリラはどっちだよ!?

 

「テメ……そろそろ返せ!」

「えー……ならもう一回寝るね」

「良いよ別に。オマエ用に作った飯が冷める上に店長に怒られるだけだから」

「うぅ〜!起きます!」

 

 不承不承と千束がソファから立ち上がる。

 すると、何故か俺の背中に抱き着いてきた。

 ひぃっ!?

 は、背後は取った、いつでも殺せるってサインですか!?

 そのまま背負うような形で上階へと上がり、朝食を置いた居間まで運んだ。じっとしてるのが逆に不気味。

 

 寝ぼけ眼で食事をする彼女を傍らに上着を着て、銃などの武装を確認してから鍵を手に取る。

 

「それじゃ、先に行くぞ」

「…………朝ごはん美味しい」

「当たり前だろ。不味いって言ったら窓の外に放り投げたけどな」

「うへぇ、寝たいぃ……」

「まだ言うか……いってくる」

「いってらっしゃーい」

 

 ぶすーっとした彼女を置いて家を出る。

 外出するまでも一苦労なのが本当に嫌だ。いつか絶対に一人暮らしするもんね。

 いつかの日の営業時間外に店長からリコリコで過ごす事を打診されたが、それを言ったら店内なのにゴム弾で後ろから千束に三発も撃たれた。高いんだから無駄撃ちするなよ、あと痛いからガチでヤメテ。

 

 結果として千束と九年も同居生活が続いた。

 アイツもそろそろ一人暮らしに慣れた方が良い気がするんだけどな。

 それを言って関節極められたから口を閉じてる。

 同じ轍を踏まない男なのさ。

 

 俺はしばらく歩いて、近所の駐車場で足を止めた。

 そこでは、一台の車からミズキさんが手を振っている。

 

「おはようございます」

「おはよー。仕事の話は聞いてるでしょ?」

「大体は。でも俺がどうするかは未だに不明なんですけど」

「オッケ。じゃ、車の中に用意してるから着替えて」

「……着替えて??」

 

 いきなりの意図の不明な指示に、俺は小首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜千束side〜

 

 

 

 ご飯を食べてもギリギリだった。

 私は急いでリコリコへと出勤し、店内へ入る。

 中には新しい常連になった吉さんもいたが、すぐに退店してしまった。先生の旧知の仲とあって、色々と聞きたい事もあったのに。

 う、走ったから今朝のテンの朝食が……!

 

 痛みに堪えつつ、先生から受け取った特製の弾丸を受け取る。

 たきなは既にスタンバイしていた。

 

「千束、急いで準備しなさい」

「はいはい。――んで、どれくらい急ぎ?」

 

 今日の任務。

 それはあの時と同じく護衛任務だ。

 違いがあるとすれば、恐らく危険度は上がっている。なんでも、腕のあるハッカーの国外逃亡幇助だ。

 

「現在、武装集団に追われている」

「それは大変。たきな、仕事の話は聞いてる?」

「はい、一通りは」

「オッケー。あっ昨日言ってたブツ、そこに置いてあるから!帰りに持って帰ってね♪」

 

 私は机の上にある袋を一瞥した。

 たきなの為にお勧めとして厳選した作品たちである。

 喜んでくれたら夜更しした甲斐があるってもんよ。昨晩はテンも付き合ってくれなかったので私個人の意見ではあるのだが。

 それにしても、だ。

 

「先生、テンを使うときは私の許可無しなの禁止」

「まさかテンから聞いたのか?」

「昨日しつこく聞いたら白状したよ、あの裏切り者め」

「ミズキと一緒に逃走ルートの確保に動いている」

 

 むぅ、テンは私のなのに。

 勝手に使われるのは心外である。

 それにしても、ミズキが既に動いているのか。彼女にしては随分と張り切っている。

 こういった仕事でも早く動こうとはしないのが彼女なのに。

 

「報酬は相場の三倍、一括前払いだ」

「道理で」

「危機的状況ということなのだろう。敵は五人から十人、プロ寄りのアマだ。ライフルも確認した、気をつけなさい」

「了解!たきな、行こ」

 

 

 

 

 私は彼女と一緒に特急列車に乗り込んだ。

 ふ、思わず駅弁を買ってしまった。

 カバンの中にテン特製弁当があるのをすっかり失念していたのである。許して、これは任務後にありがたく頂くからっ。

 だって、駅弁はこういう機会でしか食べられない。

 日頃から食べられるテンの料理とは別だ。

 

「――逃走手順は以上です。羽田でゲートを潜ってからミズキさんに交代……聞いてます?」

 

 聞いてますよ。

 それにしても美味しいな、この煮玉子。

 

「聞いてるよ。依頼主、凄腕のハッカーなんでしょ」

「はい」

「どんな人かな。やっぱり、眼鏡で、痩せて小柄な男かな……カタカタ、ターンっ!」

「……映画の見過ぎですね」

「いやいや、キーボード打ちはそんな感じだよ!だってテンがそんな感じでやってたもん!」

「藤宮さん、ハッキングも出来るんですか?」

「うん。楠木さんの指示で叩き込まれたんだって」

 

 何だかんだで楠木さんのお気に入りだよね。

 先生の預かりじゃなかったら、きっと才能を見込まれて楠木さんに教育されて本部に務めていたと思う。優秀な子分を持てて、主人としても鼻が高い。

 試しにやってみて、と言ったら私のスマホデータをハッキングされて検索履歴を目の前で暴露される展開になったので拳骨かましたっけ。

 ホントにデリカシーないよね、ハッキングって。

 何か依頼主にも腹が立ってきた。

 

 ……ん?たきなが何かを食べている。

 

「何それ?」

「昼食です」

「えー、そんなのが?……あっ、そうだ。これ、テンがたきなにもってお弁当」

「え、本当ですか!」

 

 あれ、何か反応が良いな。

 私がカバンから取り出した弁当を引ったくるようにたきなが受け取る。

 それから口にしていたゼリー飲料らしき物をしまい、早速そちらに手を付け始めた。

 

「た、たきなってテンの料理好きなの?」

「はい、賄いでよく作ってくれます」

「それ……私、食べてないよね?」

「え、そうなんですか?」

 

 アイツ、帰ったら処す。

 私には賄い作らないなんてなんちゅー物の考え方しとるんじゃ!

 

「というか、弁当があるならそちらを食べれば」

「駅弁はこういう時しか食べれない!」

「彼の料理はいつも食べてるんですか?」

「うん、一緒に暮らしてて朝も食べてきたよ」

「え、一緒に?」

「別居したいって言ってたけど揉み消してやったわ。はははは!」

「同情します、彼に」

「倒置法で強調すな!」

 

 

 

 

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