喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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どこかの幕間で更新しようとして忘れてたヤツです。


おまけ
盗られたくない


 

 

 

 

 クルミside

 

 

 ボクは過去最高にどうでもいい事案に直面した。

 原因は、目の前で正座している千束だ。

 真剣な面構えでこちらを見て、背筋をしゃんと伸ばした姿からは、これから口にする内容が少なくともコイツにとっては重大な事であるというのは察せた。

 それも、頼ったのはミカじゃない。

 このボクなのだ。

 人生の先達として日常の人間関係や戦術についてはミカが適任と見做され、ボクに対する相談事といえば専ら調査、情報収集だったりする。

 もう慣れっこだけどさ。

 

「クルミ」

「なんだ?ボクも忙しいんだけど」

「そう見えないから頼られたんじゃないの?」

 

 横からミズキが茶々を入れてくる。

 うるさい。

 ボクだって、働く時は働いている。

 この小柄な体では配膳などで品数が多いと重心が安定せず、よく物を落としてしまうので引っ込めと言われているのは常日頃から心外だ。

 人間には適材適所という物がある。

 ボクは電脳戦専門だというのに。

 

「それで、ボクに頼みって何だ」

 

 ボクが再度尋ねる。

 すると、千束が決然とした表情で唇を開いた。

 

 

「本当に私のこと好きか知りたい」

 

 

 その一言に、その場の一同が絶句する。

 ミズキは口元に運んでいた湯呑を傾けたまま停止し、その膝に緑茶が垂れ流されていた。膝から湯気が立っているが熱くないのだろうか。

 ボクの隣のたきなも固まっている。

 そういう反応になるだろうな。

 だって、物凄く。

 

「「「どうでもいい」」」

「ちょいちょい、も少し興味を持て」

 

 千束に両肩を掴まれる。

 さっきより距離が縮まって、その意思が強固であると真剣な眼差しで察せた。

 だからこそ言いたい。

 よくそんな頼みでそこまで真剣顔になれたな。

 愛を疑うな――とか軽い文句で済ませられる程度ではないのが表情で分かる。

 

 まあ、本人には由々しき問題なのだろうか。

 

 年を経るに連れて互いに興味の薄れる夫婦もいる。

 些細な諍いや、より密接に繋がる事である種の拘束感を抱き摩耗していく仲が悪化していく事で不倫や離婚といった終末点に行き着く。

 ただ、なあ……?

 千束はそもそも恋人でも夫婦でもない。

 現時点で疑うレベルか……しかも、その関係で既に天が自分を好きであるという前提があり、それを確認するような内容の依頼だ。

 

「そもそも天って千束が好きなのか?」

「んなっ……!?」

「そうねー。どっちかって言うと、わがままで手の付けられない妹って感じで応対してるわよね」

「う………」

「確かに。そんな関係に見えます」

 

 ボクらの見解を聞いて千束が床に撃沈する。

 なんだ、自覚があるんじゃないか。

 

「妹じゃないし!」

「まあな」

「そ、それに、結婚指輪だってしてんだよ?」

 

 確かにそうだ。

 天からは千束への好意という物が感じられない。

 ただ、如何に横暴な千束の命令とはいえ指輪やウェディング写真を撮影する展開になるだろうか。少なからず本人の意思がなければ叶わない。

 妹、と片付けるのも複雑だ。

 二人を長く見ているミズキはどう思うのだろう。

 

「ミズキ、どう思う?」

「ん?」

「少なからず天は好意を持っているか?」

「あー、アレは千束の願望を叶えてあげたいってだけで、特に好意みたいなのは無さそうね。だって写真とか見なさいよ、全て捨て去ったみたいな清々しい笑顔よ?」

「…………」

「指輪だって指摘すると目が死ぬし」

 

 分かった。

 もう分かった、ボクが悪かった。

 だから、それ以上はやめてくれ。

 さっきから床に伏せて意気消沈している千束が、もう溶け出して畳の隙間に浸透していってしまうんじゃないかと思わせるくらいグロッキーだ。

 可哀想……とは思えない。

 普段の天の方が酷い仕打ちを受けてるしな。

 

 さて、改めて依頼された身として考えよう。

 

 まずは最も重要な好奇心の面から……無いな。

 色恋沙汰は、全くと言っていいほど嗜好を唆られない。

 第一、好意の確認なんてそれこそ野暮だ。

 第三者の手を借りず本人たちて行うべきだろう。

 

 

「悪いけど、ボクは受け――」

「しばらくリコリコのホールスタッフとかせず遊んでて良いから!」

「受けよう」

「「ちょっと!!?」」

 

 

 すまん、つい口が滑った。

 あまりに魅力的な提案で脊髄反射が起きた。

 千束め、まさかこんな隠し玉を用意していたとは。

 く……一度口にした事を翻すのは仕事人としてもいけない行為だ。

 致し方ない。

 

「よし、やってやろう」

 

 仕方なく、ボクは茶番に臨む事にした。

 

 ……報酬の為に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 俺はこれから拷問を受けるらしい。

 閉店後のホールで、座敷席にミズキさんがいる。

 睨めつけるような視線は俺に固定され、酒瓶を卓に置いている。

 用意された酒盃は三つ。

 二つは恐らくミズキさんと、同席してる常連客の警察庁勤務の阿部さん……の後輩の三谷?とかいう俺と歳の近い男性だろう。

 ただ、もう一つは一体……考えたくない。

 

「なにボサッと突っ立ったんのよ」

「あ、はい。じゃあ、お疲れ様でしたー」

「なに逃げてんのよ!!」

「えー……」

 

 やっぱり俺だった。

 えー、やだよ晩酌とかしたくない。

 酔ったミズキさんの介抱は一番面倒臭いんだよ。俺の二十一の誕生日だったか、泥酔した時に家まで背負って運んでいたら項にゲロをぶち撒けられた事がある。

 やだ、絶対やだ。

 俺は視線で拒否を訴えかけた。

 それでもミズキさんは揺らがない。

 暫くにらめっこ状態になっていたが、三谷さんが柔らかい笑顔で手招きしていて、気付いて俺は卓に着いていた。

 

 ………奴隷根性ゥゥウウウウ!!!!

 

 やってしまった!

 普段から酷い扱いだから、優しくされるとすぐ靡いちまう!

 そうやって他人の頼み事もつい聞いてしまうのだ。

 だからお人好しとかいう名の汚名を着せられる。

 千束許すまじ。

 

「今日はおれ達で飲みましょう」

「良いわね、華の二十代の集まり!」

「この面子に華あります?」

「うるせえぞ小僧!アタシを年増呼ばわりしたら冷蔵庫に閉じ込めんぞ!?」

「怖」

 

 俺の酒盃に透明な水が注がれる。

 傾けられた酒瓶に貼られた紙の上に俺は素早く視線を走らせ、必要な情報のみを収集する。

 品名は『泥酔』、度数……度数……度数………44!?意外と高ッ!!!

 ミズキさん、十中八九酔うヤツじゃん。

 俺ら歳下に飲ませて一体何しようってんだよ。

 俺はそれとなく三谷さんのスーツの裾を小さく引いた。

 彼の視線がこちらへ向く。

 俺は顔を寄せて小声で話した。

 

「度数44って……明日の勤務大丈夫ですか?」

「自分、酒は強い方っす」

「いやいや、強くてもすぐ潰れちゃいますよ」

 

 駄目だ、三谷さんはすっかり飲む気だ。

 これ二人も介抱したくない。

 最悪は俺も潰れそうだけど。

 いや、それより疑問がある。

 

「ミズキさん、何でこの三人?」

「へっ?いや、そりゃアンタ……ねえ?」

「うん?」

「そ、そう!私の愚痴が聞ける相手だからよ!」

 

 あからさまにとって付けたような理由!

 しかも、それだと三谷さんも適当な扱いだ。

 何を企んでやがる……?

 何しても碌でもない事なのは確かだ、付き合ったところで得られる結果は散々だろうし、酒のせいで明日のリコリコ勤務にだって支障が出る。

 どうやって潰すべきか……。

 

 店内を見回すが、まるで計ったように店長もいない。

 この時間もうだうだぐだぐだしている筈のクルミだって引っ込んでいる。

 千束もたきなも先に帰ったらしいが……。

 

 明らかに全員グルじゃね?

 人選、環境、何から何まで不自然すぎる!!

 俺をどうしたいんだ、みんなは!?

 

 俺は取り敢えず酒盃をちびちび飲む。

 こう見えてリコリコの外に友人はいるが、毎日忙しい上に千束に拘束されて誰かと飲むのも稀だから、誤魔化し方とか分かんねえ……。

 どうやって切り抜けよう。

 ミズキさんが何を意図してこの状況を作りたいのか分からないが、概ね手段が酒である事から俺を酔わせた先に何か目的があるのだろう。

 見え透いてて草。

 

「ねー、ねー。アンタら彼女とかいないの?」

 

 ミズキさんが話題を提供する。

 このおば……お姉さん、早速これかよ。

 普段の俺を見てその質問するかよ。

 何なら春先に念願の恋人をどこかの誰かの仕業で破局して心の傷もまだ新しいんだぞ。

 喧嘩売ってるのか?

 

「いえ、自分はいないっす」

「ホントに?」

「その、学生時代から警察になりたいって努力してたからそういうところに目がいかなくて」

「真面目にも程があるだろ!?」

 

 照れ気味に三谷さんが告解する。

 へー、熱中できる物があっていいね。

 こちとら、何かに関心を寄せる前にクソご主人さまからの横暴を叶えるのに奔走してるから目がいかないんだよ。

 わかるか?

 興味があるからよそ見しないんじゃない。

 興味が無くてもよそ見したら殺されるから何も選んでこなかったんだよ。

 

 ……駄目だ、コンプレックスが刺激されて荒んできた。

 

 俺の青春、リコリコしかないから。

 悪い思い出ばかりじゃないけど、穏やかな日常の有り難さを知ると少年兵時代とかを窮屈だったんだと自覚して胸が痛くなる。

 思い出を共有した21番を自分の手で殺そうとして、しかも先月は敵として再会……。

 やべ、すげー落ち込んできた……。

 

「顔暗いぞー」

「いえ別に」

「アンタは過去に二人も恋人を作ったんでしょ?三谷くんに何かアドバイスとかないワケ?」

「お、自分も気になります」

 

 三谷さんが身を乗り出してきた。

 いや、二人とも即別れた俺の助言って何だよ。

 ただの反面教師にしかならねえだろ。

 それに。

 

 

「特別な事は何も。話してる内に仲良くなって、悩み事とか相談されるようになって、気付いたら告白されていた……というか」

 

 

 ほら、中身のない話だろ?

 俺の恋愛なんざスッカスカのスカですよ。

 デートだって、一人目は何回か行ったけど二人目は初デートを迎える前に関係が白紙になったからな。

 交際経験が浅いにも程がある。

 俺から何を学べと言えるんだよ。

 はっきり言って、先輩面できない……所詮は女性に呆れられる道端のクソなんスよ。

 

「何かもっとあるでしょ」

「いえ」

「じゃあ、どう告白されたのよ」

「えーと、一人目は一緒に食事に行った帰りに……別れ際で抱き着かれて『友だちじゃ満足できません、これからずっと誰よりも傍にいて欲しい』って……嬉しかったなーアレは」

『ガシャンッ!!』

「ん?何の音だ?」

 

 裏の座敷の方で物音がした。

 少し確かめようかと腰を上げたが、三谷さんとミズキさんに両肩を掴まれて止められた。

 

「面白いとこで止めんな。続き早よ」

「えー……?」

 

 仕方ないので座敷に座り直す。

 俺としては苦い記憶でしかないんだがな。

 

「二人目には何て告白されたの?」

「元々常連さんで仲良くなって何回か遊んだ後、元カレに絡まれてるところに割って入って仲裁したんです。それから彼女がリコリコに来て、店裏に呼ばれて『もう貴方しか見えないんです、責任取って下さい!』って……震えたなーアレは」

『メキメキメキメキ』

「だから何の音だよ?」

 

 裏の座敷で何かが軋んでいる。

 今度こそ確認しようとして、また二人に止められた。

 だから何なんだよ。

 さっきから店を破壊するかのような物音がしているし、本当に無視して大丈夫なのだろうか。もしかして聞こえているのは俺だけなのか?

 え、怖い。

 逆に行きたくなくなってきた。

 

 

 それからも、俺の恋愛話は続いた。

 より詳細を求めるミズキさんの絡みにはウンザリだったが、期待の目で見る三谷さんの眼差しに罪悪感を覚えて渋々と説明した。

 何が楽しいんだよ、俺しか話してないし。

 そうこうしている内に、俺も乾く喉を潤そうとして何杯目かになる。

 もう数えてないな。

 

 あー、熱い。

 頭が少しふわふわする。

 三谷さんは……案の定寝落ちした。

 

「ねーねー、天〜」

「はい?」

「アンタと千束って、兄妹みたいよね」

「そうですかね」

 

 まあ、周囲によく言われる。

 

「でも年頃の男女だから何かあるでしょ」

「そういうの期待しない方が……」

「最近、千束を見てドキッとしたとかないわけー?」

「質問内容が恥っず」

 

 俺は思わず顔を顰めてミズキさんを見た。

 千束にドキっとした瞬間なんて、正直無い。九年間も一緒に暮らしていたら、もう殆どの事に慣れてしまう。

 おかげで下着姿で寝ているアイツを普通に起こしに行ける図太い精神になってしまった。しかも、それをアイツも良しとするし。

 それくらい気心が知れている。

 ここまで来ると、自分の分身みたいなものだ。

 ……いや、あんな分身あってたまるか!!!!

 

「無いですね」

『ドンドンドン!!』

「あ、可愛い……ってふと思うのも?」

「言動が残念すぎて」

『メキャ、ベキベキ』

「何でも良いのよ、捻り出しなさい」

「もう悩む時点で底が知れるというか」

『ズドォンッッ!!!!』

 

 ………今度は雷でも落ちたのだろうか。

 裏の座敷の物音は未だに続いている。

 

 しかし、千束の可愛いところか。

 どれだけ考えても中々思い浮かばない。

 見目麗しい少女であることには間違いないのだが、如何せん言動の所為ですべてが台無しになっている。思い浮かばない俺が悪いのではなく、根本的に対象の残念さにこそ落ち度がある。

 俺に責任なんか無い!!

 

 可愛いところ、可愛いところか……………………………………………………………あ。

 

「一個ある、かも」

「へー!何よなによ!」

 

 興味津々といった様子でミズキさんが詰め寄ってくる。

 そんなに期待されると逆に不安だ。

 

「アイツ、注射が苦手なんです」

「うんうん」

「だから、毎回検診に付いて行かされるんですけど……」

 

 そう。

 千束はとても注射が苦手だ。

 真っ向からの銃撃にも怯えない大胆不敵な少女が、これだけは苦手らしい。

 いつも打つ時はかなり怖がっている。

 そのため、俺は毎回注射の時は傍にいるよう厳命されるのだ。

 担当医の山岸先生もこれには苦笑いしていた。

 

 そして、俺が……その、可愛いと思うのは注射を打つ時だ。

 

 怖いと思って何かに縋りたいのか、千束が俺に手を伸びして来るのだ。

 いつもの態度から思えないほど弱気で、涙目で俺を見てくる。

 

 

『ごめん…………手、握ってて』

 

 

 俺が手を握ると、ぎゅっと強く握り込んでくる。

 震えが伝わって、コイツもただの女の子なんだなと心底から理解させられる。

 あの瞬間は……うん、多分可愛いと思う。

 

 俺が話し終えると、ミズキさんがニヤニヤとしていた。

 

「あるじゃないのよ〜」

「うざ」

「アンタが手を握ってるから堪えられるのね。じゃー」

「ん?」

 

 ミズキさんがにやりと笑う。

 

 

「アンタ以外の男にそれ頼んでたらどうする?」

「嫌です」

「………え」

「へ?」

 

 

 ミズキさんに質問されて、何故か俺は即答していた。

 思わず二人で間の抜けた声を出して見つめ合う。

 

 

 

 それから暫くして、二人で寝落ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルミside

 

 

 タブレット端末の画面に映る二人の寝顔を見て、ボクは嘆息した。

 隣では、たきなが眠っている。

 さすがに長過ぎたか。

 千束はかなり集中しているが……ボクらは一体何を見せられていたんだ、全く。

 まあ、作戦は成功したようだが。

 

 作戦と呼べるほど嗜好を凝らしてはいない。

 単に酔わせて本音を吐かせるだけだ。

 その手順として、アイツが話しやすい環境を整えただけである。

 最初は不自然でも、自分の事を話している人間というのは案外注意力が低下するものだ。

 自分の過去について話していく内に、より詳細を思い出そうと思考を巡らせ、その中で提供すべき情報と話したくない事柄を選別、そして後は相手にどう伝えるか……それで手一杯になる。

 

 そうして、最初は控えていた酒を飲む手が進み始める。

 

 あとは押しの強いミズキが余裕を与えないよう質問攻めにして、冷静さを欠いたところで核心を突くのだ。

 結果はご覧の通り。

 

 

「自分以外の男には盗られたくないってさ。――千束」

 

 

 ボクが振り返ると、千束は顔を手で覆っていた。

 表情は見えないが、耳が真っ赤である。

 

 

「ほんっと………好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




暴走。

手始めに新婚の二人か『たきな√』を展開していきますが、基本的にはおまけ……でやっていた話を最初から力入れて詳細に書くか、続きを投稿するかで悩んでます。

あとは、ぼざろの二次創作も明日か明後日かに書いてる、かも。


たきな√は別作として出すか、ここで出すか。

  • ここで書けよ、メンドい。
  • 別で書けよ、見にくい。
  • 貴様に委ねる、責任は持たん!
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