喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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犬としての自覚・後編

 

 

 

「たきな、隙だらけだぞ!」

「ちょ、千束っ」

 

 海と戯れる美少女が二人。

 実態が魔王と閻魔だとしても端から見れば目の保養になる光景ではないだろうか。

 そして、二人を見詰める俺が変質者。

 うむ、どうして世界はこうも残酷なんだ。見ているだけで変態扱いだし、何なら俺を奴隷だったり犬扱いしている彼女たちの方がそれに該当していると常々思ったり思わなかったり。

 

 千束は心の底から楽しそうだ。

 たきなも勢いに圧されているが表情は柔らかい。

 

 最近は下らない内容での喧嘩が多いが、やはり大きな信頼を寄せ合う相棒同士だ。

 一年前と比較したら温かみが違う。

 短い時間で二人の絆は強固になった。

 きっと、俺がいなかった間もそうして仲を深め会ったのだろう。それを傍で見れなかったのは少し寂しいし、首輪をされた現状を鑑みれば国外逃亡が英断だったとは言い難い。

 生きる為に逃げたら犬にされた。

 奴隷なのに夫扱い。

 もう頭が混乱しています。

 

「テンもおいでよー!」

「あいよ」

 

 呼ばれたので砂浜から腰を上げた。

 膝まで浸かる深さに行くと、千束がさっそく水をかけてきた。――可愛いなんてレベルじゃない量を浴びせられる。

 コイツ……本気だ。

 千束は『作戦』の内容を知っている。

 これも必要作業とはいえ、明らかに俺より本気度が違う。

 顔にかかった水を掌で拭って千束を見ると、笑顔ではあったが例の如くに目は真剣そのもの。重点的に首の辺りめがけて水で攻撃してくる。

 俺も足下の水を掬って応戦した。

 

「そらァッ!!」

「痛ぁ!?」

 

 俺が弾き出した飛沫が千束に命中する。

 その威力に悲鳴を上げ、彼女は後ろに尻餅を突く。

 

「何その威力!?」

「え、相手が痛がる水の飛ばし方を」

「そんなんあるの?」

 

 まあ、昔21番に教えて貰ったヤツだけどな。

 アイツと海に遊びに行った時に、これでコテンパンにされた。

 良い思い出だぜ……と。

 危ない、他の女の子を想起していると千束は勘が鋭いので直ぐに察知して怒る。……というか、もう既に気付いたのかキレてる。

 あ、やべー……。

 でも……これは日頃から散々痛め付けてくれた礼だ。足が水に浸かっていて動きにくい上に、散弾のように弾けてる飛沫までは避けられまい。

 如何に目が良くてもな!!

 

「くらえ千束!!」

「何で私ばっ――うきゃ!?」

 

 容赦なく水飛沫を弾き飛ばす。

 立ち上がった直後に食らって千束は後ろに転倒した。

 ふははははははは!!

 いい気味だぜ、このまま蹂躙し――ぶばァ!!?

 

 横合いが凄まじい水圧の一撃を食らった。

 まるで細く束ねたかのような水に驚いて俺が振り返ると…………水鉄砲を構えるたきながいる。

 水、鉄砲……だと?

 いつの間にそんな武装を用意していたのか!

 

「千束、援護します」

「よっしゃ!」

「ちょ、何で俺が敵の前提なのぶッ!!」

 

 顔に水を射出された。

 てか、この水鉄砲の威力強くね!?

 よく見れば銃身に何ら変哲な部分は無いが、射出口に細工された形跡が見受けられる。

 あの、たきなさん。

 もしかして、遊びにガチで臨んでません?

 

「たきな、その水鉄砲……!」

「威力が不充分だと思い、整備しました」

「整備って……」

 

 眉間に水を食らって思わず仰け反った。

 殴打ほどはなくとも、痛めのデコピンに匹敵する。

 やられたままなのも癪なので、水鉄砲による射撃を受けながらたきなに接近し、横抱きにして頭上に持ち上げる。

 

「天さ……!?」

「おおおおおおおおおおお――どらぁっ!!」

 

 俺は更に深いところまで走り、たきなを放り投げた。

 彼女はそのまま海に落ちた……が、直前で落下姿勢を変えて綺麗に着水したので、水飛沫も最小限である。

 流石は訓練されたリコリス。

 迅速な判断力とそれを反映する体……こんな場面で発揮する能力じゃない!!

 

 水面下を魚のように滑らかな動きでたきなが泳いで来るのが分かる。

 ハワイの透明度の高い海ならではだな。

 ……見えてるのが逆に怖い!!

 

 俺の足下に来ると、片足を抱き込んでそのまま回転した。

 ちょ、ヤバ……!?

 

「ほぶっ!」

 

 姿勢を崩されて俺も水中に入る。

 やりやがったなコイツ……!

 たきなが足から離れた瞬間、俺は立ち上がろうとしている彼女の細い体を再び頭上に掲げながら水上に出た。

 これでもう抵抗できまい。

 俺はこのまま、たきなを投擲するべく一歩踏み込んで腕を引く。

 

「天さ、まさかまた……!」

「ふははは!さっきのお返―――」

「いつまで私抜きで遊んどるんじゃあああ!!」

「うおお!?」

 

 いざ投げようとした時、背後から千束の強襲を受けた。

 俺の胴体を挟むように足を回して、首筋に抱き着いてきた彼女の行動に動揺して、思わずたきなを後ろの海に落としてしまった。

 千束に拘束されたところに、たきなが体勢を立て直して水鉄砲を構える。

 容赦なく俺の顔面に連射された。

 いだ、ちょ、遊びのレベル超えて……!

 

「おら!」

「いたたたたた!?」

 

 たきなの連射から逃れるべく、俺はたきなに背中を向けた。

 当然、後ろから貼り付いていた千束に全弾命中するようになり、背中から悲鳴が上がる。予想外の威力に千束の拘束が緩んだので、首に回っている腕を掴んで水の中に振り落とした。

 そして。

 

「二人、まとめて――!」

「ちょちょちょちょい!?」

「待っ」

「飛べええええええ!!」

 

 片手でそれぞれ持ち上げて、深いところへ投げた。

 小さな水柱を上げて二人が沈む。

 ふ、細いとはいえ流石は人だ……やっぱりちょっと重い!

 

 それから数時間は水の中で格闘した勝負は、結果的に俺の惨敗で幕を下ろした。

 

 あ、遊び疲れた。

 たきなと千束が座る横で俺は仰臥している。

 疲労度が桁違いなんですよ。

 何せ二人がかりで俺を仕留めに来るし、水中での立ち回りとなって体にかなり負荷がかかる。泳いで逃げようとしても千束たちの訓練された滑らかな動きと言ったらもう……。

 まあ、二人も多少は体力が削られただろう。

 これで千束は夜に大人しく寝てくれる筈だ。

 

「楽しかったねー」

「疲れました」

 

 ちら、と千束が俺に目配せした。

 それに対し、俺は頷く。

 

 よし――――作戦は成功した。

 

「さて、そろそろ上がりましょう」

「もうちょい私は休憩してるね」

「俺も」

 

 たきなが先に戻っていく。

 千束はそれを見送ってから、にししと笑みをこぼした。

 俺も起き上がってウェットスーツの前を閉じているチャックを胸まで下げた。

 晒した首輪に触れる。

 

「どう?」

「間違いなく壊れてる」

「ふふふ、今頃たきなは慌ててるね」

 

 作戦というほど頭は働かせていない。

 単にウエットスーツで隠したまま、海中にチョーカーを入れて壊すだけ。

 いかに毎日のシャワーにすら耐える防水性といえど、この環境はその耐久度を超える。加えて、毎晩千束の手で行われる破壊行為のダメージが蓄積しているので幾らでも言い訳が立つ。

 ただ、たきなは几帳面な性格だ。

 海に入る前にチョーカーを外すよう指示されたり、海水浴そのものをチョーカーが理由で許可されなかったらアウトだ。

 だから、誘うのも千束が突拍子も無く当日に連絡を入れ、集合場所だけ決める。

 壊すだけなら、たきな不在で海水浴をしてもできる。

 だが、それでは甘い。

 このチョーカーは高性能なのだ。

 壊れた時点でたきなに知られてしまう。

 たきなを現地に誘えば、海に入る事を想定してスマホなどを別の場所に置いて来る。本来なら通知がいく筈のスマホが手元に無いので、破壊されている状況をリアルタイムでたきなは知る事ができない。

 クルミの端末にも同期しているだろうが、たきなに連絡できない以上はどうしようもない。

 仮に壊れている事を後で詰問されても『すまん、外し方がわからないし付けっぱなしだったの忘れてた』とシラを切れる。

 

 俺は千束と拳を突き合わせた。

 

 完璧な作戦だ。

 しかも、ハワイで同じ物を調達するにも時間がかかる。

 その前に自分で代替品を用意するんだ。

 そう、取り外し可能で且つ変なシステムも付いてないヤツ。

 それくらいなら二人も妥協してくれる筈だ。

 

「じゃあ、俺たちも帰るか」

「えー、もう一回海に行こうよ」

「いや、オマエと一緒にすんな。こっちは疲労困憊だっての」

 

 千束が俺の上に倒れ込み、心音を聞き始める。

 ここでもソレやるのかよ……。

 まあ、嫌ではないのでそのままにしとくか。

 

 

 

 それから一時間経ってから、俺たちは一旦家に戻った。

 シャワーを浴びて潮を落とし、再び外行きの服に着替える。

 この後はリコリコのメンバーで食事をする予定なので、また夜に出掛けなくてはならない。

 あー………キチぃ……。

 

「ん、誰か来た?」

 

 玄関扉を叩く音がする。

 俺は疑問に思いながらも、服の中にスタン警棒を忍ばせて裏口へと向かった。何ぶん、ナンバーズ時代の恨みで何度も襲撃されているので用心があるに越したことはない。

 裏口から出て、玄関側へと回る。

 家の影から様子を窺えば、玄関扉前に誰かが立っていた。

 誰か、というか……。

 

「(げーッ!!たきなじゃん!!)」

 

 扉の前で仁王立ちしているたきながいた。

 ……めっちゃキレてない?

 恐らく要件は首輪の故障についてなんだろうが、あんなに慌てる程の事だろうか。

 嫌な予感しかしないんだが、無視すると後が面倒だ。

 俺は仕方なく物陰からたきなのいる路地へと躍り出る。

 

「たきなか。どうした?」

「……謀りましたね」

「え、何のこと?」

 

 千束と違って腹芸はできる方だ。

 たきなの厳しい視線に自然な惚け方とやらを演じる。

 だが、依然としてたきなの発する空気の冷たさが変わる事は無い。

 

「……そんなに嫌ですか」

 

 たきながぽつりと呟いた。

 その内容に思わず我が耳を疑う。

 誰に付けられても首輪は嫌です、それを悦べる嗜好ではないから遠慮したい。

 そう言いたいが……何か落ち込んでいる。

 俯いて、辛そうに自分の片腕を握っていた。

 う、ううん……気の利いた一言でもかければ良いのだろうか。

 

 

「私に飼われるのは駄目で、どうして千束の奴隷は良いんですか」

「どっちも良くない良くない良くない」

 

 

 思わず食い気味に即否定してしまった。

 いや、だってそうでしょ。

 だから、たきなさん?その、そんな悔しげな顔しないで下さい。

 飼い犬に慕われなくて辛い飼い主みたいな顔やめて。

 

「今回のは事故だって」

「では、嫌ではない……?」

「話聞いてた??」

「天さんは千束にだけ甘いような気がします」

「いやだって、嫁だしな」

「え」

「え」

 

 たきながきょとん顔になる。

 まさか、知らなかったのか。

 俺はもう既に店長にも千束と添い遂げる意思を伝え…………そういえば、あの場ではクルミと店長しか聞いてなかったよな、酔い潰れたミズキさんを除いて。

 思えば、千束もたきなも知らなくね?

 だって二人には公言していないし……この反応を見るに、恐らく店長たちは何も語っていない。

 あれ、じゃあ千束のヤツは……?

 

 ま、まさか……アイツまだ俺が独り身だと思った上でこんな事してるつもりなのか!?

 

 まずい、その誤解は何としても解かなければ!

 俺は裏口へと走って回り、家の中へと入って着替えを終えた千束を見つける。

 

 

「千束!結婚してくれ!!」

 

 

 そう言った瞬間、千束が丁度持っていたコップを床に落とす。

 ちょ、破片危ないって。

 俺が駆け寄って足下の破片を集める間も、千束は一切動かなかった。いや、下手に動いて破片を踏まれるよりは有り難いけど不気味だな。

 回収したコップの残骸を処理して戻ると、裏口から勝手に入ったであろうたきなが訝しげに千束を見ていた。

 

「千束、どうしたんです?」

「プロポーズしたら何故か固まった」

「…………!?」

 

 え、何その信じられない物を見るような顔は?

 隣にいるたきなから心外な反応をされつつも、千束の肩を軽く叩いてみる。

 ゆっくりと、駆動部が錆びついているかのようにぎこちない動作でこちらに千束の顔が向いた。

 

「けっこ……?」

「おう」

「ほんとに?」

「おう」

「わた、し?」

「ああ。すっかり俺の口から言うのを忘れていた……店長には旧電波塔に行く前に『千束をください』って言って認可されている。本来なら最優先事項なんだが悪かったと思う……後は千束本人の意思だけだ」

 

 危ないあぶない。

 親の許可よりも先に、一番重要である千束の意思を聞いていない状況はマズいにも程がある。

 勝手に夫婦だと思い込んでいたが、実際にまだ千束から認められていないのだ。

 誤解したままだと厄介の種にしかならない。

 千束の場合は特に暴走する。

 既に手遅れなのだが、自分の口から伝えるのが一番身の潔白を表すのに効果的だ。

 

 さて、千束の反応は……か、輝くような笑顔だ。

 

 よたよたと、俺の方へふらつきながら近寄って来る。

 何か怖い……大丈夫かよ。

 逃げるとまたお仕置きが酷くなりそうなので待っていると、俺の胸に抱きついて小さく震えている。

 

 

「やっと……堕ちた」

 

 

 ヴェ……?

 全身がぞわりとした。

 どうして、そういう怖い言葉チョイスしか出来ないのだろうか。

 俺が両手を挙げて、ちらりとたきなを見る。

 すると、小さくため息をついていた。

 

「テン」

「ん?」

「じゃあ、これからもう私以外を見ないし私以外は要らないって事でオーケー?」

「ひとつ目はともかく、二つ目はキツいです」

「え」

 

 今度は千束に信じられない物を見る目をされた。

 何でだよ、至極真っ当な事を言ってますよね俺?

 千束がたきなの方へと顔を向ける。

 

「つまり、たきなの首輪も要らないって事だね!」

「そうですね。千束自身が首輪になりますね」

「そ、そう、なのかな?」

「では――」

 

 たきなが俺を睨む。

 え、何、怖い。

 

 

「私は二人が離れない為のリードになります」

 

 

 その一言に、俺と千束は首を傾げる。

 離れない為のリード、とは何だろうか。

 

「千束」

「え、あ、はい」

「今回のように、天さんは物事の順序を間違えてしまうような人です。本来ならプロポーズこそが先だと個人的に思います」

「た、たしかに?」

「私達はずっと勘違いをさせられていました。必死に繋ぎ留めなければ、また逃げるかもしれないと思ったから首輪などもしました」

「な、なるほど?」

「このような事がまた起きないとも限りません。その認識の齟齬で、再び天さんが勝手に行動し、その結果で天さんが何処かへ離れるとも考えられます」

「…………」

 

 傍で聞いていた俺には、意味が分かるようで分からない。

 しかし、隣で千束はどこか得心顔だった。

 何を納得したんだこいつ?

 不用意に口を挟むと事態が悪化する予感があったので固唾を呑んで見守っていると、二人の視線がこちらを刺す。

 

「つまり、逃げたらたきなが捕まえて」

「千束が懲罰を加えれば良いんです」

 

 うん、待って。

 認識の共有が済んだのか、今まで喧嘩していたのが嘘だというように二人は笑顔だ。

 役割分担をしただけじゃね?

 結果的に俺はたきなの犬扱いだよな、それ。

 ………今すぐにでも逃げたい。

 俺がそっとその場から離れようと足音を消して玄関に向かっていくと。

 

 

「あ、早速逃げた。はい、たきなヨロシク!」

「はい」

 

 

 もう形振り構ってられない。

 取り敢えず、俺はダッシュで逃げ出した。

 

 

 

 

 

 後日、新しい首輪をプレゼントされ、犬としての新たな人生を歩む事になりました。

 これからは誠心誠意、飼い主たきな様に尽くして行こうと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あと一つ書いたら、たきな√ですね。多分。

たきな√は別作として出すか、ここで出すか。

  • ここで書けよ、メンドい。
  • 別で書けよ、見にくい。
  • 貴様に委ねる、責任は持たん!
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