喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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二話「解せぬ」

 

 

 

 13番side

 

 

 無断で会社を離れて二年。

 独りで生きるには今の社会は過酷だった。

 与えられた衣住食だけで過ごし、知識も戦術だったりしかほとんど無い俺は、もはや無知も同然である。

 

 殺さずに生きる、という選択。

 

 如何に難しいかを痛感させられた。

 でも、不思議と不快感は無かったのだ。

 まだ何も知らないのなら、知ってからこの選択の意味を改めて考えて、また自分の道を見直すべく会社には戻らないで生きると決めた。

 最初は中々に大変だったけどな。

 今では何とか情報屋で生計を立てている。

 厳密には、ちょっとした探偵業だ。

 ペット探し、お悩み相談、ストーカー調査……と幅を広げて、最近は護衛の仕事も請けたっけ。一時だが、ある事件で警察の人と絡むことになり、その過程で運良くパイプができた。以来、警察が手を出しにくい案件を、多少の端金で請けて調べ、情報を提供する。

 

 お陰で……まあ、年中不休だが生活は根無し草である以外は標準レベルだ。

 

 あー、今日もこの後二つ入ってる。

 いやあ、キツ。

 寝て休んだ方が良いんだろうな……と思いつつ、手元は止まらない。

 

 

「今日こそ仕留めてやるぜ。――クルミ!」

 

 

 俺は駐車場に停めた車の中でゲームに興じている。

 オンライン対戦形式で、内容はチェスだ。

 こういった娯楽は二年前まで触れた事が一切無かったので最初はかなり不安だったが、今ではかなり楽しんでいる。

 仕事と体を鍛える以外は専らゲーム時間だ。

 特に、最近は対戦相手が熱い。

 

 プレイヤーネーム『クルミ』。

 

 今まで戦った中で敗戦も幾つかある。

 だが、再戦してまで二度も負かされたのはコイツが初めてだ。

 そこから興味を抱いて、コメントだったりあらゆる方法でプレイヤーと個人的に接触し、今では時間を示し合わせたら指名システムを利用して対戦する仲になっていた。

 因みに、ゲーム中は会話だってできる。

 俺は素の声だが、クルミは明らかに加工された音声だった。

 まあ、真のネットゲーマーはこうかもしれん。

 

「くそ、今日も負けた……!」

 

 俺は思わずタブレットを膝に叩きつけそうになる。

 危ねえ……すぐ買い換える金も無いんだよな。

 俺がやり場の無い悔しさによる苦悶を押し殺していると、通話モードにしている対戦相手の楽しげな声が聞こえた。

 

『ボクにかかれば、この程度さ』

「可怪しいな……少し前までは勝ち筋も見えてたし、何なら詰将棋でもしてる気分だったんだが」

『それもボクが途中から誘導して錯覚させてたんだ』

 

 はああああああああ!!!?

 いつからそんな舐めプしてたんだよ。

 途中までいい気になってた過去が恥ずかしくなるだろうが口を慎め!

 

「おんぬぅぉれぇええ………!」

 

 お、おのれ……手強いヤツだ。

 すべてがヤツの掌の上だったと信じたくない。

 今回はかなり善戦していると自分で勝利にかすかな期待を抱き、目前まで迫って歓喜していたのだ。無論、勝負は最後まで分からないと膨らむ期待を抑えて慎重に手を考えた……あの時間がヤツの演出に翻弄された故の物だなんて信じたくない。

 

 だが……やはり、コイツが相手なのは楽しい。

 

 自分より強い相手から学べる情報量は、少なくとも作業となりつつある勝ちやすい相手とは比にならない。

 チェス、というよりクルミと遊ぶ事が楽しいかもしれないな。

 

「やっぱり、遊び相手はクルミ一択だな」

『……その割には昨日も女と遊んでたみたいだがな』

「ん?女??」

 

 女って、誰だ。

 昨日の黒髪のリコリスの事だろうか。

 それとも、逃げ切った後に成り行きでゲーセンを一緒に巡る事になった女子高生か。いや、もしかしたらその後に食事に誘ってくれたOLさんか。

 みんな良い人だったなぁ。

 首にキスマーク付けられたのは嫌だったけど。

 俺は一般的に男子高生と同年代なので、異性にそんな事をされると赤くなっちゃうくらいには初心なんスよ。

 ……脱線した。

 ううん、クルミの言葉は誰を指しているのだろうか。

 そもそも、クルミってば何処でそれを知った?

 ま、まさか案外近く……この京都在住のプレイヤーなのかもしれないな。

 そうだとしても、俺がプレイヤー『筋肉13』だと何故分かる……?

 まあ、深いことは考えなくていいか。

 

「それがどうかしたのか?」

『別に。気にするな』

「何だよ、気になるじゃんか……」

『女遊びも程々にな』

「女遊びて」

 

 女遊びなんて、した事が無い。

 しかも、やる度胸すらないのだ。

 仕事で浮気調査を頼まれた時に夫婦や不倫相手の関係を洗い出したが、不倫する人間というのは思いの外スケジュール管理能力が上手い傾向がある。

 妻との時間、不倫相手との時間。

 それを綺麗に分け、適度に楽しんでいた。

 比重がどちらかに傾くと露見する切欠を生む要因になるが、それができるまでの期間がかなり長い。

 

 ………俺にそんな自信は無い!!

 

 浮気した時点で即バレする。

 不倫相手ができるほどモテた事が無いし、そもそも本命の恋人が存在しない。

 いや、大前提として俺に恋人と遊ぶ余裕がスケジュール的に無い!!

 

「俺の遊び相手になるのはクルミくらいだろ」

『…………』

「ん、寝落ちした?」

『すまん。少し水分補給してただけだ』

「そうか?んじゃ、気を取り直して再戦――あ?」

 

 クルミの様子に違和感を覚えながらも再戦を挑もうとした時、スマホから着信音が鳴る。

 うげ、仕事の依頼か?

 暇が無いのは有り難い話なんだろうが、先の予定が埋まっていく感覚はいつになっても楽しいとは思えない。

 まあ、これも人生の醍醐味なんだろう。

 疲れるけどやり甲斐がある。

 何より……人を助けて、感謝されるというのは今までに無かった経験だ。

 

 仕事になれば、顔合わせた相手は殺すだけ。

 罵声が呪詛しか聞かないし、声を聞く前に相手の命脈を断ってきた。

 沢山の人の、時間を奪ってきた。

 今さらそれが返せるワケないのに後悔が湧く。でも、こう思える自分を割と素直に好きだと感じた。

 

 

 ……白髪のリコリスに感謝しないとな。

 

 

 いつか、絶対に会いに行く。

 ……リコリスだから会うのはヤバい事態なんだけどもね。

 俺はアイツのお陰で変われた。

 具体的に言うと、人格レベルでな。

 今まで誰かに抑圧された状況だったからかもしれんが、会社を離れて一ヶ月くらいしたら止め処なく溢れてきた。

 毎晩意味も分からず泣いて寝てたし。

 でも、今人間らしく在れている。

 その感謝を伝えなければ……そしてその為に今は働くのみ!!

 

「悪い、クルミ。たぶん仕事だ」

『そうか、勤勉だな』

「次の木曜の十五時半からとかいける?そこなら暇だし、練習も積めるしな」

『ああ。ボクは構わないよ』

「くー!オマエとやれないのが寂しいぜ」

『まったく……』

 

 何で呆れるんだよ、オイ。

 

『じゃあな、また今度』

「おっけー!またな」

 

 俺は通話と同時にゲームからログアウトする。

 名残惜しいが、働かなければゲームすら出来なくなるのだ。

 俺はスマホを手にした。

 …………非登録番号からだな。

 

「はい。もしもし、お電話ありがとうございます。こちら――」

『13番だな。私はDAの――ブツン。

「さーて、スマホは廃棄して河岸を変えますか」

 

 俺は嘆息し、車のエンジンをかける。

 スマホ特定されちまったよ。

 これで三度目なので慣れたものだが、これをやられる度に情報追跡の阻害と新規端末の購入と設定、加えて追手を撒きつつ拠点探しと出費が嵩む。

 ったく、DAだと?

 余計な真似をしてくれやがって。

 拠点を変えると、初期は入る仕事が少なくなる。俺の場合は単純に知名度が必要で、依頼者が口コミで情報を伝達することで広まり、新たな仕事の呼び水になっている……これは何処の仕事も同じだけどさ。

 あーあ、また地道に増やすしかないのか。

 

 コンコン。

 

 走り出す前に窓が叩かれた。

 ちらり、とそちらを見ると車内を覗いてくる黒い瞳と視線が合う。

 ……既に銃口が向けられていた。

 

「貴方の位置は特定され、既に包囲されています」

「よう、昨日ぶりじゃんかよ」

 

 俺の車を睨むのは、あの黒髪リコリスだ。

 なんだか、昨日より不機嫌だな。

 可愛い顔が台無しだぞ、とか言ってやりたいけれど包囲されていると物騒な言葉があったので、気を逆撫でしそうな言動は止そう。

 ……あれ、もう手遅れか?

 

「何の用?」

「DAから貴方に話があります」

「悪いけどDAの管理下に、とかならお断りだよ。今は自由にやりたいんだ。……休日欲しいェ……」

「……」

 

 おい、やめろ。

 何なんだ、その呆れたような目は。

 

「DAは、貴方を外部協力者の情報屋として働いてくれるなら今後は襲撃しないと」

「……外部協力者?」

「はい」

「……DAの情報収集能力で知れない事は無いだろ」

「いいえ。具体的に言うと、貴方のように巧妙に逃げ回れる連中については分かりません」

「…………」

 

 ナンバーズや会社の連中の事か。

 俺も独自で調べてはいるが、尻尾を掴めないでいる。

 俺がDAへ一方的に情報提供しているのは、いつか会社を潰してくれる事を祈ってのことだ。

 3番たちなら……どうにかするだろ、きっと。

 上層部の連中、あとは特に『クソ上司』……名前は不明だが、アイツを取り除かない限りは国内外に安全地帯は存在しない。

 だから、DAと協力関係というのもそういう面では吝かでもないんだが……。

 

 

「そういった手合への対処で、貴方が有効活用できそうだと」

 

 

 …………ウマい話なんだろうな、コレは。

 襲撃が無いのは有り難い。

 DAとの抗争で損失を被らない事など無いのだ。

 でもなぁ、連中は契約書を作ろうが関係ないくらいに力を持っている。俺が仮に何かしようと情報操作で有耶無耶に出来るし、DAに利があるとは思えない。

 

「DAにどんな利がある?」

「貴方という存在と敵対しないで済む。こちらも被害が拡大するばかりで結果が得られないのでアプローチを変える方針になりました」

「…………」

「可能な限り貴方からの条件を飲む態勢も整っています」

 

 ………………。

 まあ、口約束だろうが契約書だろうが、何をしようと破られるリスクが無視できないのなら、別にここで俺が協力関係を結んでも問題は無いか。

 最悪は土壇場で俺が裏切っても良いワケだし。

 

「了解した。上の人に伝えといてくれ」

「分かりました」

「条件はじっくり考えたいんだけど、この後仕事入ってるし……」

「少しお待ちを」

 

 黒髪のリコリスがスマホで誰かと通話を始める。

 十中八九DAだろう。……うわー、別の意味で面倒臭くなってきたな。安全は確保されるが、DAに監視されている事に変わりはない。

 それに……たまに仕事で入る護衛のヤツは、護衛対象がアウトな場合もあるからな。その時点でDAにまた狙われないかも不安だぜ。

 

「連絡取れました」

「おー」

「一週間後の同じ時間にここでまた、というのは」

「えーと……うん、そこなら暇だな……残念な事に」

「なぜ残念なんですか?」

 

 なぜって……決まってんだろ、貴重な余暇がDAで潰れるんですよ。

 これが残念じゃなくて何になるんですか。

 

「じゃあ、君も一週間後に?」

「いえ。上の指示によります」

「そっか」

「帰還命令が出たので、私も撤退します」

「お疲れ様。お仕事頑張ってな!………あ、そうだ!」

「はい?」

 

 車を離れようとしたリコリスに呼びかける。

 

「名前は?」

「私のですか。別に教える理由が――」

「俺だけ知られてるの不公平だろ。ほらほら」

「………井ノ上たきな」

 

 黒髪のリコリス――井ノ上たきなは、それだけ言って去っていく。

 俺が手を振る――けど無視して、すたすたと帰ってしまった。

 あの子、壊滅的に愛想が無い。

 もう少しにっこりした方がいい、そうすると可愛くなって俺が喜ぶ。なんて独善的な理由なんだ、幸せ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後。

 俺は変わらずゲームをして遊んでいた……のに。

 

 

 

「待って!待ってお願い!今いいところなの!やっと勝てそあ、あ、あ、あ」

「電源ここですね」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――――!!」

 

 

 

 クルミとのゲーム中、車に乗って来た井ノ上たきなに電源ごとゲームを断たれた。

 車内に響く悲鳴に、冷めた眼差しを送られる。

 くそ、何てことすんだよ!

 人間のやる事じゃあねぇ!!

 

「大事な取引の話ですよ」

「うぐぐぐぐ」

「それで、条件について考えましたか?」

 

 このガキ、いつか絶対に痛い目見せてやる……とか思いつつ、俺は用意していた条件についてまとめた紙を少女に渡した。

 ……ところで、車外で待機しているリコリスたちがちらちらと俺を見てくるけど、アレ以前に俺を狙った子たちばかりじゃね?

 手を振ると笑顔で応えてくれた。いい子じゃん。

 

「あの、一つ良いですか?」

「何?それ君の上司に向けて作ったから君に意見されても修正する気ないぞ」

「これ……」

 

 たきなが一項目を指差す。

 そこに。

 

「『定期的な情報提供にて直接会う際、受取人は井ノ上たきなを指定する』って」

「おかしい?」

「何で私を?」

「そりゃだって、折角ならリコリス一人くらいと仲良くなりたいじゃん」

「私は仲良くなる気はありません」

「そうカリカリすんなよー」

 

 うん、言葉も冷たい。

 その内、俺が凍りついてしまいそうだ。

 ツンツンしているし、愛想も無いけど幼いせいか迫力が全く感じられず、つい毎回相手にしている小学生たちと同じ感覚で接してしまう。

 我知らず伸ばした手でたきなの頭を撫でていた。

 

 

「ちょっと!……!……。……――――」

 

 

 たきなが嫌がって腕を払おうとする。

 その反応が面白くて続けていたら、最初は抵抗していたけど、やがて目を閉じてされるがままになっていた。何か警戒心を解いていく野良犬みたいで可愛い。

 

 まあ、犬猫どころか動物ほとんどに好かれた事無いけどな!!

 ナンバーズ時代も海外で野営してたら俺だけ野犬がメッチャ襲ってきたし!

 

 さて、遊ぶのもそろそろやめないとな。

 

「あ………」

「ん?」

 

 たきなの頭から手を離すと、それを何故か握って止められた。

 俺は予想外な事に思わず驚いて固まってしまう。

 たきなも、自身の行動が無意識だったのか目を見開いていた。

 

 ……気まずい沈黙が流れる。

 

 何か、車外からの視線が鋭くなった。

 え、何、怖い……もしかして、たきなってかなり可愛がられてて勝手に撫でた俺に嫉妬してるとか?

 

「たきな、どした?」

「っ!な、何でもありません」

 

 思い切り手を叩かれた。

 えー、酷い。

 たきなは条件を記した紙を抱きながら、車外へと降りる。慌てた様子に思わず何事かを聞きたくなったが、その前にたきなが離れていった。

 

 ……何だったんだ、一体?

 

 ま、取り敢えずゲームしよ。

 クルミに謝罪しないといけないな、対戦中に落ちてしまったのは大問題だ。

 

 

 

 

 

 以来、最初よりますます不愛想になったたきなと情報交換する関係になりました。

 解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たきな√はおまけ時よりイチャイチャしたり曇らせて欲しい?

  • やれ!でなければ撃つ!
  • やめて!じゃないと撃つわ!
  • 鼻の下が伸びる展開なら何でもよい。
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