喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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二度と車には乗るもんか

 

 

 

 千束side

 

 

 弁当、食べきれなかった……。

 二人で電車を降りて、町を歩いている。

 そういえば、説明されていた気がするけれど、これから何処へ向かっているのかさっぱりだ。

 それにしても美味しそうに食べてたな、たきな。

 

「それで、そのハッカーさんと羽田までどうやって行くの?」

「ほんっと何も聞いてないじゃないですか……」

「あっれ、ゴメ〜ン!もっかいお願いたきなサマ!」

 

 メンゴメンゴ。

 これから頑張るので許して。

 

「店長が駐車場に車を用意してくれているようです」

「ええ!マジ?はいはいはーい!千束が運転しま――」

「私が運転します」

「んえぇー、何でぇ、たきな運転できんのかよぅ」

「できなきゃリコリスになれないでしょ」

 

 うう、後輩の呆れ顔。

 笑顔は無いのに、この顔ばっかりだよ。

 千束さんはそろそろ、先輩!って慕ってくれる可愛い後輩の笑顔が見たいよ。

 でも、本当にたきなはよく仕事ができる。

 この真面目さでDA本部で活躍したんだろうな。

 セカンドもそうなれる物じゃない……らしいし?昔からファースト一直線だった私には苦労が上手く語れないから烏滸がましいんだろうけど。

 

「あそこですね」

 

 進行方向に駐車場が見えてきた。

 先生が用意した車か。

 先生って少し味のある風の物を好むから、車もそんな感じなのかもしれない。できればスピードのあるやつとか………お?

 

 私は驚愕に思わず目を見開いた。

 駐車場で一際輝く赤いフォルムを目に捉える。

 この住宅街の中にぽつんとある駐車場にて異彩を放つその車は、明らかに普段からここには無い物だとすぐに理解できた。

 ま、間違いない……!

 

「スーパーカーじゃんっ!?すっげー、すっげー!」

「目立ちますねぇ……」

 

 興奮してきた!

 良いよいいよ、こういうの運転したかったんだ!

 やっぱり私が運転するぅ!

 

「ぅん?」

 

 興奮の最中にあった私は、ふと近づく騒々しい音のした方へ振り向く。

 そこには、大胆に公園の敷地から飛んで車道に現れた車があった。……明らかに様子が尋常じゃない。

 そのまま見事な動きで私たちの前まで移動するや急停車し、ドアが開け放たれる。

 

『ウォール!?』

「――ナット」

 

 突如、車内から顔を出した不穏な……き、着ぐるみ?の謎な発言に対し、たきなが冷静に返す。

 

『速く乗れ、追手が来ている』

「え、あ、え、今の合言葉?カッコ悪!てか、え、あ、ちょ、え!?スーパーカーは!?」

「速く乗って下さい」

 

 颯爽とたきなが車に乗り込む。

 ええええ!

 スーパーカーが良いのおおおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤宮天side

 

 

 

 

 

 どうも、藤宮天です。

 今日は良い天気ですね、視界が狭いけど青空が窺えます。流れる風も当たらないけど、そろそろ夏が来る頃ではないでしょうか。

 

「何で守られる側が颯爽と車に乗って現れるのよ、フツー逆でしょ?」

『………』

「あぁ、スーパーカー……」

「目立つし、こっちの方が良いですよ」

 

 さて、今日も今日とて俺は任務です。

 今回は護衛になります。

 何でも、命を狙われた凄腕ハッカーの国外への逃走幇助です。

 相当危ない橋を渡ったのでしょう。

 護衛任務にはリコリコ総出で当たるのですが、俺の役目はなんと――。

 

『――予定と違ってすまない。ウォールナットだ』

「はいはい、千束です。こっちはたきな」

 

 何と着ぐるみを着て運転中です。

 慣れない車の運転に加えて、着ぐるみ装着!

 これ襲撃以前に俺の運転で全滅しても仕方がない。後部座席の二人は辛うじて生き残るだろうが、俺と横のケースに収納された護衛対象がご臨終する。

 え、大損害じゃない?

 

 ミズキさんによると、作戦らしい。

 俺が着ぐるみを着た『ウォールナット』を敵前にて囮として演じる。

 それを護衛する二名に不自然さを悟られず、敵の手によって討たれ、死亡及び任務失敗を装って体を回収させ、本体を安全に敵の注意から逸らす。

 さすがはミカ店長。

 ハッカーも一枚噛んでるらしいが見事な作戦だ。

 まあ、俺が危険なこの役の差配には異を唱えたいが。あと、このイヌの着ぐるみで体が重ェ!!

 

「てか、何か思ってたハッカーさんと違いますね」

『底意地の悪い痩せた眼鏡小僧とでも?だとしたら映画の見すぎだよ』

「ほら、やっぱり」

「いやいやいや、だとしても着ぐるみじゃないでしょ」

 

 着ぐるみ着てるのは俺だけどな!

 痛い目見る予定なのも俺だけだけどな!

 後で事実公開したら謝ってもらうからな!ついでにリコリコ辞めて退職金も出して貰うからな!

 

『ハッカーは顔を隠した方が長生きできるってだけだよ。――それよりJKの殺し屋の方が異常だよ、リコリス』

 

 俺も同意です。

 思わず喋るマスクの音声に頷いてしまった。

 それより、勝手に顔面から別人の肉声が響いてくるこのマスクが凄く違和感あって苦手です。

 

「クマのハッカーよりは合理的です」

「たきな、イヌだよ!」

 

 げ、千束が正解かよ。

 そういうのは、賢いたきながする流れだろ。

 

 

『――リスだ』

 

 

 ぬぁぁあにぃいいい!!!?

 り、え、これ、リス?

 あ、ウォールナットって……胡桃、だからか!

 

 着ぐるみの中で密かに驚嘆しながら、後部座席で同様に驚いている彼女たちの顔に思わず笑う。

 

 たきながリコリコに派遣されてから一月。

 その距離は、わずかではあるが縮まりつつある。

 最近は俺が教える事もだいぶ減った。

 たきなが優秀であるのも認めるが、千束が積極的に先輩として立ち回って喫茶店員としてのノウハウを惜しみなく教授しているからだろう。

 普段からそう優しければ俺も苦労しないんだけどね。

 

「いやいやいや」

『ん?何かおかしいか?』

「当たり前でしょ、そんなデカいリスがいるか!」

 

 千束が思わずツッコミを入れた。

 いや、それは着てる俺の体格の所為だ。

 ミズキさんが俺用に用意してくれたのだが、中身の大きさが隠せないレベルに達している。

 すみません、疑われても怒らないで。

 

『……生憎と発育が良くてね』

「ふーん、テンとおんなじくらいかな。ウォールナットさんって男?」

『詮索は無しだ。――それより、どう合理的なんだ?』

 

 ウォールナットがフォローで話題を逸らす。

 ありがとう。

 でも、あんまり口数多く喋らないでね。

 マスクのせいで背筋がゾワゾワする。

 

「つまり、日本で一番警戒されない姿ってことですよ」

『……JKの制服は都会の迷彩服って事か』

「ふふ、可愛いは罪だよねっ」

 

 黙れ、オマエは黙れ。

 可愛い女の子に油断するのは認めるが、可愛い女の子の皮を被ったバケモノにそれを言う権利は無い!

 ……言ったら殺されるよな、考えるのやめよ。

 

「それよりコレ、何です?」

『ボクの全て。国外逃亡には、身軽な方が良いだろう?』

「いや、あんたの姿が既に身軽じゃないですけどね!」

『ふ』

 

 お、今笑ったな?

 オマエを逃がす為にこちとらこんな姿なんやぞ。

 後でオマエも謝罪させてやる。

 

「……でもいいなぁ」

 

 千束が少し羨むように声を漏らす。

 え、着ぐるみが?正気?

 

「私も海外行ってみたい」

『一緒に行くかい?』

 

 え、ホントに?

 連れてって持ってって、地の果てまで。

 ご主人様がいなくなれば主従関係解約だよね!……あれ、もしかして地の果てまで俺も巻き込まれるのかな。いや、まさか、まさかね?

 

「いや私たち、戸籍が無いんでパスポート取れないんですよ」

『…………』

「だから旅行も、定休日にテンが県外に少し連れて行ってくれるくらいしか許されないし」

『テンとは?』

「あー、協力者です。今回も何かしてるそうですよ、知らんけど」

『男か?二人で旅行とは随分仲が良いな』

「温泉も行ったよ!楽しかったなー」

 

 勘違いでもやめて欲しい。

 仲が良いワケではなく、単なる同情だ。

 ……千束が良い思い出というのなら悪くはないが、少なくとも意図は違う。

 

 アレは、大型連休で旅行などを話題にして楽しむ客たちの会話を楽しそうに、寂しいのを隠して耳を傾けていた彼女を放っておけなかったのだ。

 店長に頼み込んで、DAにも許可を貰って敢行した。

 任務でもなく、義務でもない。

 そういえば……初めて目的の無い旅行に誘った時は、結構喜んでいたっけ。

 たしか、恥ずかしい写真も撮ったよな――。

 

 

「ほら、コレ写真!二人でウェディング衣装借りて撮ったやつ!」

 

 

 回想していると、後部座席から千束が身を乗り出す。

 その手には、俺と十二歳の千束がウェディング衣装を着て腕を組みながらピースサインをしている写真を画面に映したスマホがある。

 うおおおおおおやめろおおおおお!!!!

 あのときは色々あって撮ってやっただけなの!

 

『……ギリ事案か?』

「どうよ、私の旦那のウブな姿は!」

『ま、まあ……楽しそうで何よりだよ』

 

 やめろ。

 やめてくれ。

 しれっと旦那とか言った小娘は後で粛清するとして、全力で誤解しないでほしいと訴えたい。

 それは旅行先で泊まったホテルが結婚式会場になっており、賑やかに祝われた新郎新婦を千束が羨ましそうに眺めていた。

 

 ――お嫁さん、良いなぁ。

 

 そんな独り言を偶然耳にしてしまったのだ。

 そして、ちょっと興味本位に近場のレンタル業者に頼んだだけなのだ。

 おかげで千束一人にドレス着せようとしたら巻き込まれたんだよ。

 案の定、凄く喜んでいたが。

 あと、ウブとか言うな!色々と消耗して変になってたんだよ。

 写真をよく見てくれ、俺の疲れた笑顔を。

 それが全てだ!

 

 俺が着ぐるみの中で悶々としていると、千束が後方の窓から追跡者の影が無いか確認する。

 たきなも窓を覗き、警戒していた。

 

「……追っ手来ないね」

「そうですね」

「このまま羽田?」

「いえ、一度車を乗り換えます。ウォールナットさん、ここへ移動して下さい」

『了解した』

 

 事前に位置情報は把握している。

 さあて、安全運転、安全運転。

 このまま高速に乗って、警戒しながら目的地まで移動だなー………ってアレ?

 

 く、車、アレ?

 何かハンドルを切った方向を無視し、車は直進している。

 んん?

 ちょい、やめてよトラブルとか。

 ん……ま、まさか。

 

「あれ、高速に乗るのでは?」

『どうした?』

「いや、それはこっちのセリフ」

 

 動揺する車内。

 俺は嫌な想像が脳裏を過った。

 まさか……と思いながらハンドルからそっと手を離す。ついでに、アクセルからも足を退ける。

 すると――ハンドルは勝手に動いていた。

 

 

 

『………乗っ取られたか』

「うえええ!?ちょっとちょっとちょっと!?」

 (うえええ!?ちょっとちょっとちょっと!?)

 

 

 

 心の中で思わず千束と声が重なる。

 車は俺の許しも無く速度を上げた。

 だからトラブルはやめてって言ったじゃあああああんんん!!!!

 

 車のフロントに設置された画面が乱れる。

 何かロボット的なマークが映し出された。

 

『ロボ太か、腕を上げたな』

 

 オマエの知り合いの仕業かい!

 あとオマエより分かりやすいのな、ロボだからロボ太て!

 

 車は更にスピードを上げていく。

 どうやら、早速第一の死線を迎えたらしい。

 

 はは、二度と車なんか乗るかよ!

 バイクが恋しくなってきた。

 

「これ、何処向かってるの?」

『加速している。……このまま海に突っ込むつもりだ』

「回線の切断を……!」

 

 止めろ!何としても止めろ!

 ハッカーなんでしょ?お願いしますよ!

 

『いや、制御を取り戻しても直ぐロボ太に上書きされるだろう』

「うええ。じゃあ、どうすれば?」

『こちらの作業完了と同時にネットを物理的に切れれば良いんだが』

「ルーター何処よ」

『知らん。ボクの車じゃない』

 

 頑張ってね、オレタダノキグルミダカラ。

 

「千束さん。――あれ」

 

 たきなが何事かを察知したらしい。

 彼女の視線が促す方向を千束も振り返った。

 俺もバックミラーで確認するが――車体の後方を一定間隔で飛行するドローンを発見する。

 いつの間に……アレか。

 たきなと千束も察したらしい。

 どうやら、あれを介して車を操作しているようだ。

 ドローンを排除しないと車を正常な状態に戻すのは不可能だが、勝手に動く車、それも離れた飛行ドローンの排除というのは些か以上に難易度が高すぎる。

 

 千束もドローンを見て渋い顔だ。

 恐らく難しさを把握している。

 ウォールナット殿も制御権奪還の為の作業を開始している。画面に表示されたパーセンテージの満ちていく速度から、やはり技術力の高さが窺い知れる。

 頼もしいなアンタ!!

 

「いやあ、アレは自信ないよ。そっちはたきなに」

『よし、制御を取り戻すぞ』

 

 お願いしますよ、御三方。

 俺はただの着ぐるみだからね!

 

 車はもはや車道を逸れて、海まで一直線に向かっていく。

 もう既にすぐそこだ。

 間に合うか……!?

 

 

『三、二、一…………!』

 

 

 ウォールナットの指示に合わせ、千束が窓ガラスを銃撃して破壊する。

 ある程度の損傷を与えた瞬間、入れ違いになるようにたきなが窓ガラスを体で破り、車外へと上体を晒した。

 彼女の手に持つ銃の照準が――ドローンへと向けられる。

 車は段差にタイヤを引っ掛けて跳ね上がった。

 宙を舞い、車体が回転する。

 体勢は不安定、敵は動く物体。

 不利な条件が容赦なく降りかかる最中で。

 

「―――!」

 

 それを物ともしないように、たきなが発砲する。

 弾数にして三発。

 それらを一発たりとも無駄にすることはなく、ドローンに命中させた。

 同時に、回転する車体が運良く着地する。

 制御を取り戻した車、俺はもう必死でブレーキを踏み込んだ。

 

 

 

 

 止まれオラァァァァァァァア―――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………生きてた。

 ギリギリで車は停止した。

 慣性に抗い、車体は左の車輪が浮いた状態で何とか留まっている。

 いやいや、落ちるって。

 

「みんな、取り敢えず動かないで。せーので降りますよ」

 

 いや、それ体格のデカい俺が出たら一気に軽くなってアウトじゃね?

 

 く、仕方ないか。

 

 千束を無視し、俺はドアを開けて半身を車外に乗り出す。

 そのまま重心を車外の方にしながら、車内にまだ残した片足で強く踏み込んだ。更に、ドアを開けた後の車体上部の縁に引っ掛けた手で車体を引っ張る。

 すると、半身が落ちていた車体が平衡になった。

 乗り込んでいる二人も驚いている。

 

 ふんぬぎぃいいいいいい!!

 重い重い重いおもいおもいおもいおもいおもいおもい!

 速く降りてくれぇええええ!!

 

『す、スーツケースを……限界だ』

 

 ナイス、ウォールナットさん。

 慌ててスーツケースを抱えながら、たきなと千束が降りる。

 俺は早速とばかりに車から離れた。

 俺という支えを失った車は、容赦なく海へと落下し、大きな飛沫を上げて沈んでいった。

 

 さらばだ、俺は車になぞ二度と乗らん。

 

「えー、リスっていうよりゴリラじゃん」

「ハッカーって凄い、ですね」

『日頃鍛えてはいたが、自分でも驚きだよ』

 

 オイ、調子に乗るなよハッカー。

 もう腕とか足とか腰とかイくレベルだったぞ。

 

「ん……あれ、敵か」

 

 千束が見た方向に、こちらを俯瞰するように高所で車が停車していた。その傍に武装した人物たちの影がある。

 俺たちの無事を確認した彼らが、再び乗車して動き出した。

 

 どうやら、これで終わりとはいかないようだ。

 もう終わってくれていいのに。

 

「……とりあえず場所を変えよう」

 

 うん、そうして。

 出来れば休めるところに………。

 

 

 

 

 

 

 

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