喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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三話「私が管理したい」

 

 

 

 

 

 13番side

 

 

 

 仕事が一段落し、俺は車の横で缶コーヒーを飲んでいた。

 あー、苦ェ……。

 大人ぶって飲むけど、珈琲を美味しいと感じた事が一度も無い。ハンバーグとかミートソーススパゲッティとか、味が濃かったり甘めだったりの味付けが好き……………子供舌ァァッッ!!!!

 

 

「久しぶりだな、13番」

 

 

 懐かしい声に俺は振り返る。

 髪をオールバックにした筋骨隆々の大男がそこにいた。

 うん、懐かしい声だけど誰だっけ。

 俺は飲み干した缶コーヒーを手中で握り潰す。

 呼び方から察するに、どうせクソ上司の関係者だろう。

 

「どうも、ご無沙汰してまーす」

「……オレは3番だ。話があってきた」

「話?」

「帰って来い」

「うへぇ」

 

 マジかよ。

 俺は全く帰りたくない。

 だが、相手の様子からその意思が尊重されるとは到底思えない。

 こうなれば、どうせ実力行使になる。

 結局は暴力で解決か。

 ……たしか3番というと、かなり強かった筈だ。

 番号順が強さに関係していないが、3番はナンバーズの中でもかなりの実力者であった事は記憶している。手合わせもした事があるが……何で顔憶えてなかったんだ、マジで??

 たしか、格闘能力がナンバーズ内では1番を除いて随一らしい。

 こりゃ、肉弾戦じゃ分が悪いか?

 俺は車から離れて、渋々と3番の方へと歩む。

 

「他に誰か来てたりする?」

「いや、オレ一人だ」

「じゃあ、アンタを凌げば勝ちか」

「…………変わったな、おまえ」

 

 3番が苦笑する。

 

「どうして帰って来ない?」

「…………」

「21番もいない、おまえを迎えてくれるヤツだっていやしない。DAや他の組織に狙われ続ける日々だ……そうまでして何がある?」

 

 3番が両腕を顔の高さに持ち上げる。

 臨戦態勢に入ったか。

 俺も嘆息しながら、戦闘準備に入った。

 

 確かに、外に出て狙われるばかりだ。

 執拗なDAの刺客、リコリスもそうだがリリベルもいる。他にもナンバーズ時代に禍根を残した敵会社や、海外の犯罪組織からだって報復が来ていた。

 おまけに年中無休という大変な日常。

 たしかに、良い事なんてほとんど無いかもしれん。

 

 ………だが。

 

 

「悪いけど、明日も仕事が入ってる………!」

 

 

 俺の返答に、また3番が小さく笑ってから――互いに前へと飛び出し、拳を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たきなside

 

 

 

 厄介な敵は、外部協力者になった。

 それだけでDAは一旦の安心感を得たという。

 本来なら所属する者として共有すべきなのだろうが、私としては生憎と素直に喜べない状況でもあった。

 理由としては、その敵と継続的に接触していかなくてはならない立場に任命されたからだ。

 

 先日の13番が提示した条件。

 

 DAへの情報提供は、必ず関係者と対面で行う事が原則とされるので、受取人を指定する事についてDAは問題ないと承服した。

 私にとっては問題だらけだ。

 だって、その受取人こそ私なのだから。

 

 あれから三ヶ月後、私は再び青年の下を訪ねた。

 自らで探偵業に近い情報屋を営んでいるそうだが、事務所を持っていないとかで、常に車内で生活しているらしい。

 確かに、前に彼が乗っていた車の中はかなり生活感に溢れていた。

 確か、年齢はまだ十六歳……だったか。

 年齢を詐称して仕事をしているらしいが、恵まれた体格と振る舞い、時折見せる大人びた真剣な表情から周囲には自然と認識されているようだ。

 しかも、一部の警察と関係も結んでいる。

 つくづく世渡り上手だと思う。

 

 ただ、油断はならない。

 

 何故なら、彼の実態は凄腕の兵士だ。

 先月は襲撃に遭っている現場に私も居合わせた。

 武装した八人に囲まれて、一斉射撃を受けながらもほとんど無傷、しかも徒手空拳で全員を制圧していた光景には言葉を失ったほど驚かされた。

 襲撃者は■■■■■社関連らしく、全員即殺。

 情報を持ち帰らせない為にやむを得ないと彼は口にするが、やはりいざとなれば私も殺せるように心構えがあるのだろう。

 心を許してはならない。

 彼は依然として敵だ。

 

 

「こんにちは」

 

 

 車の窓を軽くノックする。

 道中で夏の太陽に散々焼かれた肌から汗が滲む。蝉の声がそこかしかで騒々しくするので、私の挨拶も届いているか少し心配だった。

 ゆっくりと駆動音を立てて窓が開く。

 ふわり、と車内を覗く私の顔を冷気が撫でた。

 私を眩しそうに見る眠たげな13番の顔が現れる。頬に湿布を貼っていた。

 

「んぁ……暑い中ご苦労さん」

「乗ります、開けて下さい」

「そだな。クーラー利いてるから涼しいぞ」

 

 許可を得て、車に乗り込む。

 外気とかなり差があるのか、やや寒く感じた。

 あまり温度差を作ると体温調節機能に異常をきたし、後の体調不良を招く原因になるので控えた方が……なんて忠告はしない。

 別に味方ではないし。

 

「少し寒いです」

「ああ、悪いわるい。汗凄いな、使ってないタオルあるけど使う?」

「……遠慮しま」

「しなくて良いから、ホレ」

 

 タオルを頭にかけられた。

 突っ返すのも失礼なので、厚意に甘えて汗を拭く。

 ……意外といい匂いだ。

 コインランドリーとかでこまめに洗濯でもしているのだろうか。

 

「あー、あと例の件のヤツな」

 

 そう言って、USBが私の前に差し出された。

 DAが依頼していた件の情報をまとめた物だ。

 私はそれをバッグにしまい、替わりに茶封筒を取り出して13番に渡す。受け取るや否や中身を検めて、彼は満足げな笑みを浮かべた。

 反応が現金な人だ。

 でも、こういう生活だから金が入用なのは分かる。

 DAに支援されて生活している私たちからすれば、13番が日頃から感じている生活資金の調達などは理解が及ばない労苦を強いられているのだろう。

 

「これで明日を生きていけるぜ」

「無駄遣いはしないように」

「はーい。……さて昼飯時だし、そろそろ行こうか」

 

 彼が無言で車を発進させた。

 運転はとても上手いと思う。

 震動をあまり感じず、同乗者への労りを感じるスムーズな発進と停車を心がけた運転には、私も思わず驚かされた。

 あと、運転している時の横顔が……。

 

「たきな、今日は何処で飯食いたい?」

「っ、いえ別に。情報交換をしに来ただけなので」

「昼時に一緒なんだから、何か美味い物でも食おうぜ」

 

 13番がそう言って店を探す。

 私は抗議しようとして、でもそれが無駄だと分かって結局は口を噤んで従う。

 いつもの事だ。

 情報交換が行われるのは昼時か夕刻で、丁度良く空腹状態を招く時間帯なので食事に誘われる。

 

「あ、知ってる?あそこの天丼が旨いらしいぞ」

「それも情報屋として得た情報ですか?」

 

 苦笑した13番が赤信号に従って車を停止させる。

 

「そういえば、DAで飯とかって出るの?」

「黙秘します」

「駄目なのかよ。……じゃあ、好きな食べ物は?」

「秘密です」

「個人情報はもっと駄目か」

 

 車の中での会話は他愛もない物ばかり。

 情報交換以外は、極力13番がその手の話題を意識的に避けている節がある。

 何でだろうか。

 

「色々知りたいんだけどな」

「DAに探りを入れても無駄です」

「DAはどうでもいいの」

「じゃあ、何です?」

「いやいや、他に何があるっての」

 

 ハンドルを離れた手が私の頭の上に乗せられた。

 包み込むような感触に、抵抗を忘れてしまう。

 視線だけ横に運べば、その先で彼は前を見据えたままだった。

 

 

「たきなの事がもっと知りたいんだよ」

 

 

 私の事を、知りたい?

 それに何の得があるのだろうか。

 悔しいが、私一人では13番に到底太刀打ちできない。殺し合いとなれば戦いは一分も保たない惨状になる。

 DA関連の情報を省けば、私を知って彼の糧になる要素が皆目見当も付かないのだが。

 

「私なんか知ってどうするんですか」

「たきなを知ると俺が嬉しくなる」

「何でです?」

「そりゃだって、たきなが好きだからだよ。撫でると大人しくなったり、ちょっと誂うとすぐ怒ったりするところが可愛いし。見ていて飽きないからな」

「……悪趣味です」

「折角こうして話す仲なんだから、もっと仲良くなりたいってのは悪くないだろ」

 

 13番は運転しながら会話を続ける。

 好き、か。

 自分を殺すかもしれない相手に正気ではない。

 大体、いつか用済みになって敵に戻るのは確実で…………あ。

 

「ん、どした?」

「い、いえ」

 

 頭から離れた手を思わず見詰めてしまった。

 私は平静を装って、前を見る。

 さっきから変だ、言葉で言い表しにくいが、フワフワする。沈黙が落ち着かない、居心地の悪さというより……彼が話しかけてくるのを期待、している?

 

「あ、たきな」

「っはい」

「あそこ、オススメあるから一緒に食おうぜ」

 

 店を決めるなり、早速駐車場へと入っていく。

 昼時なのである程度は待たされたが、その間にまた彼と会話が出来て良か……………?

 何を言ってるんだろう、私は。

 

 そうこうしている内に店員に案内され、私たちはグループ席に腰を下ろして注文票に目を通す。

 だが、13番はもう決めたようで、私にオススメを教えてきた。

 ……考えるのも面倒なので、それにしておこう。

 店員に注文してから、再び二人だけの時間になった。

 

「ふひひ、美味いから期待しとけよー?」

「はあ」

「うん、反応が味気ない!」

 

 13番が大袈裟に悲しそうな顔をする。

 

「資料には、貴方は無感情で冷徹な人間とありました」

「んー……」

「どういう変化ですか」

「なになに?俺に興味あるわけ?嬉しいねぇ」

「茶化さないで下さい」

 

 イラッとして彼を睨む。

 どうして真面目に出来ないんだろうか。

 いつも飄然としているから、どの言葉にも信憑性が欠けてしまうし、こちらを小馬鹿にされているみたいで鬱憤が溜まる。

 

「別に。昔は何も考えてなかっただけだよ」

「何も?」

「人を殺しても、仲間を殺しても……命令だからってさ。そうやって他人任せで、なあなあにして事を進めてたら……自分の気持も分からない、出し方も分かんない鉄面皮になってたんだよ」

「………」

「会社を出て独り身で世に立った時に……俺、空っぽじゃんって思った」

 

 13番が窓の外に視線を投げる。

 何を見ているか分からない。

 

「まずは泣いた。よく分かんないけど悲しくて泣きまくって、その後に超怒って、また泣いて、自分のやってきた事を笑って……んで、醒めた」

「醒めた、というのは改心したと?」

「そんな上等な物じゃない。単に、自分の出し方をやっと知れたってだけだ」

「何か切欠でも?」

「もし、アイツと、あのリコリスに会わなかったら、顔も知らない親気取りのヤツからの命令に延々と付き合ってただろうさ」

「リコリス?」

「あ、知ってる?白髪のリコリスなんだけど」

「いえ」

「そっか。そりゃ残念」

 

 心底から残念そうに彼が机に伏せる。

 いい大人がやめて欲しいのだが、その草臥れように何も言えなかった。

 本当に残念そうだ。

 

「会って、ありがとうって言いたいんだが」

 

 顔を上げて、そのリコリスについて語る。

 13番のその表情に、なぜか胸が痛かった。もう喋るのをやめて欲しい、とさえ感じた。

 理由は自分でも分からない。

 胸が苦しくて、制服の胸襟を掴む。

 彼は窓の外を見ながら話しているので、こちらの異変にも気付かない。……気付いてくれない。

 

 ……どうしたんだ、私。

 

 何をこの男の話に感傷的になっているんだ。

 冷静になれ、私と13番はDA関係者と外部協力者、それだけの関係だ。

 余計な事は考えるな。

 

「……そのリコリスに、会いたいんですね」

「そりゃ勿論!……って、どした?顔が怖いぞ」

「別に」

 

 不快感がして彼から顔を背けた。

 

「でも、名前も知らないし。顔も憶えてないんだよな」

「……恩人なのに?」

「笑えるだろ?いや、笑えねえか」

 

 自分にも呆れたような自嘲的な笑みを浮かべる。

 そこまで話した時、店員の一人が13番を見つけて話しかけに来た。

 自然な態度で応対しながら私を妹だと紹介し、会話を弾ませる。

 ……そんな風に笑うんですね。

 私の時は密かに警戒するというのに。

 好きだとか言ったくせに、未だ隔たりを感じる。DAに所属する立場としては仕方ない事だ……仕方ない、こと。

 

 13番は街でも人々によく声をかけられる。

 その度に手や足を止めて世間話をしていた。今の店員も、数ある交流の一つなのだろう。

 

「……人気者なんですね」

「そうか?」

「そうやって情報を得ているんですね」

「それもある。人から得る物っていうのも捨てたものじゃない」

 

 人から得る物、か。

 

「私からも何か得ているんですか?」

「え?あるぞ」

 

 ッ、やられた……と思った。

 知らない内に私は誘導され、何か致命的なミスを犯していたのかもしれない。13番は悟られずにDAについての情報を抜き取っていたのか。

 一体どんな内容を抜かれた!?

 

「なんですか?」

 

 少し緊張して、声が上擦ってしまう。

 すると、彼はにんまりと笑った。

 

「たきながいるから昼飯の一時が楽しくなってる」

「………それだけですか?」

「えっ。あー、えと、DAの近況とか?俺をどんな風に見てるかとか……えと……はい、頑張って探したけどそれだけです」

 

 何故か恥じるように肩を落としている。

 私がいるから楽しい?

 自分を殺しに来た相手に対して、正気ではない。私の裁量で裏切りと判断したら、その時点で処刑するというのに。

 

 やはり、この人は理解できない。

 

 いや、そんな事ではなくて!

 情報漏洩は阻止しなくてはならない。

 

「ほ、他には?」

「えーと……妹っていたら、こんな感じかな?って」

 

 …………この人、さては何も考えていないのか?

 自分の感情の出し方云々とか、昔は何も考えず人に従うばかりだが今は違うと言いつつ、実は今も流され気味で深く物事に思慮を巡らせてはいないのかもしれない。

 

 ……真面目に相手するだけ、損な気がしてきた。

 

 私は肩の力が抜けて、椅子に深く腰掛ける。

 

「それよか、聞いてよ!この前さ、浮気調査したんだけど浮気してる旦那が最低な男でさ、四股だぜ、四股!どんな事したらそうなるんだよ」

「同族嫌悪ですか、見苦しい」

「んが!?同族扱い!?」

 

 結局、その日は色んな蟠りを心の中に作るだけで終わった。

 

 

 

 

 

 

 また一月して、私は13番の下へ向かっていた。

 あれから、任務中も頭の中をグルグルと彼の事が巡っている。

 私の事を好意的に見ているなら利用できる。

 色んな情報を抜き取り、彼を始末できるなら……そう思った。犯罪者は犯罪者、何をどう語ろうが罪は消えないし、過去は戻らない。

 殺すだけ、利用するだけ。

 もう付き合い方の答えは出ている。

 

 なのに、何故か胸の苦しさは払拭できない。

 

 どうしてしまったのだろうか。

 彼の事を考えると、彼に頭を撫でられた時の感触を思い出すと思考が乱れて、いつまでも浸ってしまうような危険な甘さが蘇る。

 …………まさか。

 まさか、これがあの先輩リコリス達をおかしくしてしまったものなのか?

 私も同じように?

 いや、私は冷静だ。

 彼は犯罪者で、私はそれを処刑するDAの人間。

 答えは簡潔だ。

 

「………あ」

 

 行く手に13番の姿を発見する。

 彼はまた車で待っていた。

 ただ、いつもと違うのは車から出て誰かと話している。……なんだか楽しげだ。

 話している相手は、妙齢の女性だった。

 

「それじゃ、またね」

 

 女性が一人、青年の頬にキスを落して去っていく。

 顔を赤くした彼は、見開いた目で彼女を見送っていた。キスされた頬をさすりながら何処か嬉しそうな顔をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぃゃ……………」

 

 それを見た瞬間、鳥肌が立つ。

 

 分からない。

 自分でも何が不快に思ったのか。

 胸の苦しさが強くなって、体中が熱くなる。先刻去って行った女性の顔を思い出して、無意識に拳を強く握った。

 何なんだ。

 何なんだ!

 私は、どうしてしまったんだ。

 この感覚の、感情の正体は分からない………少なくとも原因が13番という事だけが明白だ。

 調べなければ。

 

「お、たきなか」

 

 私の気配を察知したのか、13番がこちらを見る。

 振り返った彼――のキスされた右頬を見た瞬間、私はハンカチを手渡した。

 

「え?何?」

「右の頬についてます」

「何が?」

「良いから拭いて下さい」

 

 えー、と惜しそうに拭く青年。

 何なんだ、その表情は?

 きっと私が同じことをしたって、そんなリアクションはしないくせに。

 何に自分が憤っているか分からなかった。

 ただ、青年を感情のままに睨め上げる。

 

「さっきの女性は?」

「ああ。同じ情報屋の人だよ」

「……随分と仲が良いようですね」

「おう。……どした、何か今日は一段と顔が怖いぞオマエ。腹減ってるのか?なら、まずは何処か食いに行くか」

 

 そう言って彼が笑う。

 それを見て、すっと溜飲が下がる。

 ああ、そうか。

 何て卑怯な人間なんだろう。

 そうやって、他の人間にも同じように笑顔を振り撒いているのだ。さっきの女性や、あの変わり果てたリコリスみたいな人たちを作るんだ。

 

 やはり、この人は危険だ。

 得体が知れない。

 私が見張っていないと駄目だ。

 

 

 

 私が、管理しないと。

 

「不審な密会だと私が判断した時点で執行です」

「本当にそんなんじゃないって。何なら交換した情報内容も聞く?」

「いえ。あんな人の話なんて聞きたくありません」

「え??」

 

 戸惑う彼と共に、飲食店へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ「奴隷の鑑(千束√)」〜

 

 

 千束――十二歳

 テン――十八歳

 

 

 

「リコリコが閉店したら?」

 

 唐突な店長の質問に俺は眉を顰めた。

 もしかして、遠回しな解雇宣言なのだろうか。

 喜んでお受けしたいところだが、意図によっては雲隠れしなくてはならない場合も有り得る。

 DAで勤務とか、最もお断りだ。

 それより――手元でこの前撮影した俺と千束のウェディング衣装姿の写真をじっくり眺めながらその話をするの止めて欲しい。

 真面目なのか与太話なのか分からない。

 

「何してるの、ア・ナ・タ♪」

「冗談キッツ」

「ネットに写真ばら撒くよ?」

 

 後ろから千束が甘い声で話しかけてくる。

 なんちゅー斬新な脅し方だよ。

 いつからそんな残酷なリコリスになったんだ。

 十二歳って恐ろしいな。

 

「それで、どうなんだ?」

 

 店長が再度尋ねて来る。

 まだその話は続いていたのか。

 

「それまでに店長に恩返しして……コイツの全部を見届けたって前提で話してます?」

「何でも良いさ」

「……偽造した戸籍があるんで、一般人として生活するつもりです。それか、国外に逃げます」

「オマエなら出来そうだな」

「楠木さんは絶対逃してくれないでしょうけど」

 

 是が非でも俺を捕えに来るだろう。

 最悪は、抹殺する。

 国外逃亡はタイムアタック形式になること間違いなしだ。どちらにしろ安穏とした日々を過ごせる保証は無い。

 

「……どんな未来であれ、私は応援する」

「店長……」

「私がいない後のテンか……ああ、きっと愛しいご主人様に会いたくて後を追うように……!」

 

 情感をたっぷりと込めて千束が想像した俺の未来に想いを馳せる。

 それを聞いて、俺は失笑した。

 

「それされるくらいの人望があってから言って欲しいわ」

「………」

「ちょ、無言で銃構えんなよ!?」

 

 俺が両手を挙げると、千束が引き金に絡めた指を止める。

 

「テンは寂しくないの?」

「何が」

「私がいなくなったらさ」

 

 千束が悲しげに微笑んだ。

 ……そういう顔も、そういう言葉も、オマエから出させたくなくて日々奴隷として奉仕してるつもりなんだがな。

 俺はちょっぴり痛む胸を押さえて、千束を見据える。

 

 

 

「――寂しくないワケないだろ、俺はオマエがこの世で一番大事だから」

 

 

 

 そう言うと、千束が一切の動きを止めた。

 長い沈黙……その果てに、みるみる顔を赤くさせて口の開閉を繰り返すだけの壊れた人形のようになった。

 見ていて面白い反応である。

 これだけで満足だ。

 そう、悲しい顔をされるよりよっぽど良い。

 俺は千束の肩をぽんと叩きながら、隣を通り過ぎた。

 

「――とか冗談言ってみたり」

「…………!?」

「やーい、顔真っ赤になってやんのー」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 

 

 最後に茶化しておくのも忘れない。

 千束が振り返って、またパクパクと真っ赤な顔で壊れている。

 ふ、この緩急の付け方でご主人さまを退屈させない。

 

 これぞ!

 これぞ、主人に誠心誠意仕える奴隷の鑑であぷぁアッッッ!!!?

 

 

 脳天に赤い花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たきな√はおまけ時よりイチャイチャしたり曇らせて欲しい?

  • やれ!でなければ撃つ!
  • やめて!じゃないと撃つわ!
  • 鼻の下が伸びる展開なら何でもよい。
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