たきなside
13番が逃げ遂せたという情報を得た。
それを聞いて、京都支部のそこかしこで安堵の声が上がっている。
なぜ、犯罪者の無事を喜ぶのだろうか。
そう思いながら、張り詰めた胸が弛緩していく感覚に私は彼女らの同類なのだと痛感して歯噛みする。
本当に、この数年間でどれだけ毒されたのか。
忌々しい、本当に……。
私は寮部屋へと戻る最中、スマホを取り出した。
それで日付を確認……している自分にはっとする。
いつものクセだ。
13番と会う日までどれくらいか、毎日ふとした時に数えている事が多く、すっかり自身に定着してしまった悪習慣である。
「はあ……ん?」
ポケットにスマホを戻す。
その時、何かが引っかかった。
ポケットの中で何かがスマホを阻んでいるのに気づいて中を手で確認すると、丁寧に折り畳まれた一枚の紙が入っていた。
これは…………?
私は寮部屋へと颯爽と戻り、相部屋しているリコリスも無視して紙を開いた。
中には、私に宛てた13番の文章が記されていた。
『たきな様へ
ごめん、急だったので手紙ってほど丁寧じゃないし、色々と言いたい事があったけどここでは大事な部分以外は省く。
たきなと会った頃は色々と必死だったので、しっかりと顔を見て、人柄を見てやれたのはここ最近だったかもしれない。
立場上としては決して許されないが、俺にとってたきなは可愛い妹のような存在だった。正直に打ち明けると、たきなと会う事が最近の中で最も楽しみだったと言っても過言ではない。
たきなとしては遺憾かもしれないけど、たきなとの時間は俺にとって、とても大切なものになりました。
どうか体を大切にしてくれ。
たきなは俺にとって特別でした。では、さよなら』
呼んでいる途中で、手紙に血が垂れた。
誰の……?
私はふと、自身の呼吸が荒くなっていることに気づいた。口元に手を伸ばして、その指先にまた血が落ちる。
…………あ、鼻血か。
そういえば、心臓の鼓動が早い。
苦しい。
もどかしい。
文書の、最後の方を見るとそれが一層酷くなる。
私は彼の特別……私は、彼の特別………私が、彼の特別………私だけが、彼の特別…………
「……………欲しい」
変な言葉が、口から漏れた。
13番side
俺は東京に来ている。
何故かって?
愛しの豆子に会う為に、助手席に乗せた9番と共に何年か振りの東京の街並みの中を走る。
ここに辿り着くまでも色々とあったな。
ちょっとヤバい事案に巻き込まれてリリベルに襲われてしまい、命からがら逃げ果せたものの、逆に追い詰められた感がある。
クルミの援護もあるが、やはり逃げ場所が東京しかなかった。
誘導の危険性はまだ否めない。
俺たちも早く豆子と合流したいが、連中の目が何処にあるか分からない以上は容易に動けないのだ。クルミに確認して貰いながら、慎重に奴らの意識下から逃れる。
はー、肩が凝る。
「ったく、ホントにしんどい」
「さっき昼飯食ったばかりたけど、休憩してえな」
「何処かに入るか?」
俺は車で墨田区の街を走っている。
確かに商店街とかは色々あるけど、どれも落ち着いて過ごせるとは思えない賑わいだ。ネットで調べたが、どれも盛況で今のところ入って一息とは程遠そうだ。
もっと静かな場所はないのか……。
街の賑わいを離れたところをそぞろ走っていたところ、喫茶店の看板を見つけた。
名前は……喫茶『リコリコ』。
へー。
外装は、意外と好みだ。
雰囲気が良さそうだし、ここで休憩していこうかな。
「9番、あそこにしないか?」
「喫茶店か……甘い物ねえかな」
「あるんじゃね?」
俺は近くの駐車場に車を停めて、喫茶店へと入った。
「いらっしゃいませ!」
その先で、白髪の女の子に迎えられる。
それを見た瞬間、俺の時間だけ凍りついた。
店の入口で固まってしまい、後ろから9番の苦言が聞こえるが今は動けない。
この、白い髪に……赤い……赤い……赤い……………………………着物か、リコリス制服じゃないから人違いか。
何だよ、驚かせやがって。
危うく、あのリコリスと勘違いするところだった。
もし本人だったら、この場で床に額こすりつけてあの時の腹の件を詫びた事だろう。
動揺で滲んだ額の汗を袖で拭う。
「お一人様ですね」
「はい」
「いやいや、後ろにもう一人います!」
「あはは、カウンター席にご案内しまーす!」
俺は少女に案内されるまま、カウンター席に腰を下ろした。
隣に9番が腰掛ける。
「おい、さっきはどうした?」
「いや、別に」
「……まさか、一目惚れか?」
「遠いようで遠い」
「普通に不正解って言えよ」
まだ動揺から立ち直れていない。
電波塔のリコリスに似ているが別人だろう。
だって、リコリスが飲食店で働くか普通?たしかに類稀な白髪と赤みがかった瞳、それに髪を留める赤いリボン、と特徴は色々と重なっているけど、きっと似過ぎてるだけだ。
そう!
似てるだけ、似てるだけ、似てるだけ……!
「ん?」
「どうぞ」
すぐ目の前で店長と思しき和装の男性が淹れてくれたコーヒーが差し出される。
いやー、俺は苦手なんだけど。
9番は颯爽と飲んでいるが、俺の手元は躊躇いにカップに触れるか触れないかのところで止まる。
し、失礼だよな店長に。
ここは一口飲んで、当たり障りの無い感想、反応をするだけだ。
一口啜る。………おお?
二口目。…………おお。
三口目。…………おお!
四口目。おおおおおお!!!!
「美味……!!」
思わず口をついた感想に、店長が柔らかく微笑む。
やべ、感情のまま子供みたいな反応をしてしまった。
しかし、この珈琲……今まで飲んでいた物が俺に合っていなかったのかと気付かされる一口、まさに青天の霹靂だ。
これは隠れた良店を見つけてしまったか?
中々に味わい深くて美味しい。
素人でも分かるが、これは淹れ方が上手い人の出せる味だ。
合流したら豆子も連れて来てあげよ。
「お客様、今日は初来店ですよねっ?」
「ん?ああ、そうだね」
9番と反対側の隣に、看板娘の子が座る。
眩しい笑顔だ。
なんだが、21番を彷彿とさせる。
「どうです?」
「良い店だよ。世辞抜きで通いたいな」
「良ければ他も注文して下さい。先生……店長の作るお菓子も美味しいんですよ〜」
「ほう」
言われた通りに、色々と注文した。
何なら昼食時よりも食ったかもしれない。
「う、うま~……!」
「おにーさん、東京の人?」
「ん?ああ、昔はね。今まで地方を転々としてたけど、最近になってこっち側に戻ってきたんだよ仕事で」
「へー、どんな仕事?」
「ふ……探偵さっ」
「ふはーっ!カッコイイ!」
俺と看板娘ちゃんで会話が弾む。
隣で黙々とおはぎを食べてるヤツは知らん!存分に味わって食いやがれ!!
それから看板娘ちゃんにこの店の色んな事を聞いた。
少し特殊で愉快なお店だが、彼女が太鼓判を押した通り提供される甘味もまた絶妙である。
うわ、ここにいつまでもいたい。
最近の殺伐とした空気を忘れてしまう空間演出に、俺はもう心の底からリコリコの床か壁にでもなりたいと思えるほどだった。
「13番、おい」
「んー?」
「そろそろ出ようぜ、長居しすぎだ」
「えー、でもさぁ」
9番が俺の肩を掴んで引っ張ろっとする。
もうちょっと、もうちょっとだけ!
看板娘ちゃんとの話がまだ盛り上がってる途中なんなよ。
9番を無視し、看板娘ちゃんの方へと振り返――。
「じ、13……」
何故か看板娘ちゃんが真っ赤になっていた。
え、今の一瞬で何があったんだ?
まさかズボンのチャックが開いて……ない。おかしいな、俺が何か粗相でもしたのかと思ったのだが。
「どしたの?」
「あー……い、いえ、ちょ、ちょい休憩入りまーす」
フラフラと看板娘ちゃんがホールから退却していく。
え、折角いいところだったのに……まあ、体調悪そうだし仕方ないよな。
さて、看板娘ちゃんはいなくなったけど、もう少しくらい良いではないか。
最近は移動しながら仕事ばかり。
油断は禁物……なんだけど、あと二時間くらいゆっくりしたい。
「しっかりしろよ、13番」
「えー、でもぉ」
「早く車に戻るぞ」
9番に急かされる。
………嫌だけど、そうするしかないか。
店を出た瞬間に包囲網が、なんて事も有り得る。ここは日本でも中々に強いリコリスが揃っているらしい東京だしな。
「仕方ない、帰――」
「え!おにーさん帰っちゃうの!?」
「うおビビったぁ」
「もうちょっと、ゆっくりしてってよ」
急に再出現した看板娘ちゃんに驚かされた。
俺の両肩を上から押さえるように手を置いてきて、再び席に着かせる。な、なんだ随分と強引じゃないか、この子?
これは店として良くない対応じゃないか?
ま、まあ気に入ったから別にいいけどさ。
訝しむような9番の視線に俺は首を横に振って、もう少しだけ居座る意思を伝える。
彼には迷惑になるかもしれない。
「リコリコは閉店後も楽しいですよ」
「閉店……後??」
「実はボードゲーム会も開催してますけどよかったら参加しません?」
「ほう……?」
そんな行事も執り行っているのか。
少し興味が湧いて、ちらりと9番に目配せする。
心底呆れた顔をした彼だったが、もう勝手にしろと手を振っていた。席を立って店を出て行かない辺り、どうやら付き合ってくれるらしいなツンデレこの野郎。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
「ぜ、是非是非!」
看板娘ちゃんが凄く乗り気だ。
嬉しい。
とても嬉しい。
嬉しい……………んだけど。
「あの」
「ん?な、なに?」
「髪、ど、どうしてさっきと変えたの?」
「あ、いや〜?き、気分?」
「そ、そか。似合ってて良いね」
俺が指摘すると、えへへと看板娘ちゃんが笑う。
俺も、引き攣った笑みを浮かべた。
なぜって?
それは、看板娘ちゃんは今まで一房を軽くリボンで留めるだけだったのに、今は左側で人束に髪をまとめているのだ。
その髪型は……あの……。
コイツ、やっぱり電波塔のリコリスじゃん!!!!
もはや他人の空似どころじゃねえよ。
何でここにいるんだよ!!
わざわざ髪型まであの時と同じにして俺にアピールしてくるのが意味わからない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!
もしかしなくて、もうすでにDAに包囲されてたんじゃないのか!?
ど、どうやって9番にこの危機を伝えようか。
「あのさ、おにーさん」
「ひっ、え?」
「その……私と何処かで会ったこと、ない?」
…………いやああああああああああああああああ!!!!
いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!
いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
もう確信めいた問を投げてくる看板娘ちゃんに、もはや俺は悲鳴しか上がらない。
何だか期待を込めた眼差しで見上げてくる看板娘ちゃんこと電波塔のリコリスだが、俺は視線を逸らして精一杯惚けるしかなかった。
「え、えーと……どど、何処かで会ったかな?」
「え!?え、えーと……ほら、ビルの上階でさ、夜にちょっと一緒に運動したじゃん?」
「ビル、の、上階?い、いやー、行ったっけか?」
「お、お腹の件がどう、とか」
「おおおおおお腹?い、痛いの?」
駄目だ、動揺しすぎで取り繕えてない。
そうやってはぐらかしていると、不機嫌そうに頬を膨らませた看板娘ちゃんが俺の肩を掴んで揺すってきた。
どうやら、限界に達したらしい。
「お腹の礼をするって言ったじゃ〜〜〜ん!!!!」
………ハイ、言いました。
観念しました。
こうして、俺は運命の人――『電波塔のリコリス』に再会するのだった。
ぶっちゃけ、戦闘描写わかりにくい?(以下の物は読んだ時の反応)
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学べ……書き方を学ぶのだ……!
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嘘だ、コイツ……読めるぞ……!?
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フィーリングなんで別に気にしてないっス。