喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

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八話「目が合っちゃった」

 

 

 

 

 13番side

 

 

 店の中で俺に嫌疑がかけられている。

 それは、看板娘ちゃんの台詞に端を発していた。

 

「お腹の礼って何?」

「ビルの上階、夜、運動……?」

 

 お客さんからの視線が冷たい。

 俺を赤い顔で睨んでいる看板娘ちゃんの反応が、尚更この誤解を加速させている。あの穏やかな店長すら目を見開いていた。

 9番に至っては……客とおんなじ反応!?

 ちょ、オマエは誤解だって分かってて良いだろ!

 

「責任取れー!」

「あ、あー!分かった!取る取る責任取るから!」

「本当に?怪しい……13番さんは、女の子を手玉に取る人だって聞いてるし」

「どんな伝わり方してんの俺!?」

 

 俺をそんな風に流布するなんて非道な!

 DAめ、百年後に吠え面掻かせてやる!!

 俺ほどに女遊びという言語と最も縁遠い人間はいないだろう。仮にそう誤解する人間がいるとすれば、それはたきなくらいだ。

 俺と女性との接触に過剰反応を示し、本物の殺意で対応しようとする。

 怖いよな。

 アレは嫉妬じゃなくて完全に不潔な物を処理するという類の感情だ。

 

「ちょっと、キミ!千束ちゃんに何したのよ!」

「男の子なら責任取らなきゃ!」

「千束ちゃん、そんな……!!」

「事と次第によっちゃあ署まで同行願うが?」

 

 客の中にちらほらと俺を敵対視する者が現れ始めた。

 え、今さらっと警察混じってなかった??

 何で最強と名高いリコリスと警察関係者に挟まれてるんだよ。ここって喫茶店だよね、間違えても地獄ではなかった筈だ。

 く、クソ、何て最悪な日だ!

 最近忙しかったから、せめてノンストレスな空間であって欲しかったのに!

 ええい、ここは……。

 

「ど、どう責任取ればいい?」

「え?え、えーっとぉ……」

「その顔、まさか何も考えてなかったな」

「か、考えてたよ!というか、お腹のお礼するって自分で言っておいて私任せなのはどうかと思いますぅー!」

「………なるほど」

 

 それは確かにそうだ。

 現実的に会う事は無いだろうからと問題を棚上げして、実際に会った時の事を想定して責任の取り方なる方法を考えなかったのは俺の落ち度に相違ない。

 恩人に恩返しするにしても不真面目で失礼だ。

 思い返せば全面的に悪い。

 どうすれば、彼女が納得のできる責任の取り方が出来るだろうか。

 

 これは…………。

 

「分かった。では、今からこの喫茶店の屋根上から飛び下りて昔の君と同じように肋骨を何本か折ってくる。それで構わないか?」

「ちょいちょいちょいちょい!?」

「なぜ止める?」

「そんな返し方されても私も怖いから!?」

 

 む、同等の負傷では駄目か。

 いや、償いなのだから俺はそれ以上を差し出すのが筋だな。

 それを言いたいのか。

 

「じゃあ、もう少し高い場所から――」

「すぐ飛び降りんな!」

 

 看板娘ちゃんに頭を叩かれた。

 

「高低差とか肋骨の本数じゃないから!」

「なら、どうしろと」

「えっと………」

 

 何を言っても否定されると感じたので、早急に匙を投げて看板娘に尋ねた。

 すると、赤い顔になって指をもじもじと胸前で絡ませて口ごもる。

 その反応、まさか口に出すと恥ずかしいような恥辱極まる要求だとでもいうのか?

 

「何を要求するつもりだ」

「あの、さ……13番さんの好きなタイプって」

「白髪の女の子」

「め、目の前に誰がいる〜?」

「好みの女の子。……え、これ何の質問?」

 

 反射的に回答していたが、質問の意図が不明だ。

 これが看板娘こと電波塔のリコリスが求める責任の取り方にどう影響するのだろうか。

 怖い、怖くて口を開きたくない。

 さっきからえへへ、と愛らしく笑っているが一人の世界に入らず俺にも説明してくれ。

 

「よ、よし!君の意思はよーく分かった!」

「は、はい……何が?」

「でもごめん、今の私には応える気持ちが無い!」

「はあ」

 

 ぐい、と肩を組んで引き寄せられる。

 耳元で彼女が囁いた。

 

「私ってば、今はDAを離れて忙しいの。ただの喫茶店の看板娘だし」

「今は、ただの可愛い子ってこと!?」

「その通り」

「じゃあ付き合って下さい!」

「さっき断ったじゃん」

「俺はもうこの八年で君相手にしか恋できない体になったんだ……」

「あぅ」

「責任取ってくれ!」

「し、収拾がつかない!」

 

 案外初心なのか、顔を赤くして手を激しく振る。

 

「でもぉ、私ほんとに忙しくて」

「……まあ、たしかに俺も今忙しいけど」

「あ、追われてるんでしょ」

「それもあるけど、今子供の面倒見てるから。その子が独り立ちできるまでは支えないと」

「私でしか恋できないのに子供はいるの!?」

「あ、いや、立場上の保護者って感じ」

 

 さっきと一転して顔面蒼白になる看板娘ちゃんに弁明する。

 そう、今の俺は忙しい。

 DAからの逃亡も勿論のこと、今は保護者だ。

 豆子が自立できるまで支える事が最優先であり、自分の色恋など二の次どころかしばらくはできない。

 少なくとも、あの子も嫌だろうな。

 見も知らぬヤツに自分の家族を奪われるなんて……そもそも俺が豆子にそこまで思って貰えるほど慕われているかは微妙だが。

 

「聞いたよ、いま人助けの仕事してるって」

「まあ、大体そんな感じ」

「……ホントに選んだんだね、自分の道」

「腹の礼はともかく、やってみなくちゃ始まらないからな。そこは頑張った、血の滲むような努力をして」

「最初は女の子の家に居候しまくって?」

「待て。なぜ知ってる」

 

 いや、たきなだな。

 この事を話したのは、たきなしかいない。

 お姉さんたちが話した可能性も否めないが、彼らなら事情を聴取するまでもなく簡単に情報を得られる手段がある……それがたきなだ。

 ならば、何故この看板娘ちゃんがそれを把握しているのか。

 DAを離れたと言いながら、情報共有はしているらしい。

 嘘か?

 だが、本当に敵意は感じない。

 

「DAを出た割によく知ってるね」

「だって、13番さんを止められるのが私しかいないからって」

「ああ、そういう」

「DAを離れる条件として、DAの仕事も少し手伝わなくちゃいけないんだよ」

「世知辛いことで」

「ええ、ほんとーに」

 

 俺は納得しつつ、店長の方を見た。

 看板娘ちゃん――電波塔のリコリスを擁するこの店もただの喫茶店では無いだろう。

 その店主を名乗る人物も。

 

「君、ちょっと良いかな?」

 

 店長が険しい面持ちで俺を裏へ誘う。

 抵抗しても仕方がないので従おう。

 俺が店長に案内された裏の方には、店員が寛げる座敷が待ち構えていた。

 そこに座る店長の正面に俺もまた腰を下ろす。

 い、嫌な空気だぜ。

 

「一つ訊きたい」

「何ですか?」

「君は会社と本当に離反したのか」

「ええ。会社からもDAからも追手が放たれて毎日充実してますよ」

「……そうまでして何を求める?」

「おたくの娘さんみたく生きたいんですよ」

「……」

「犯罪者が何を、って言いたいでしょう。でもね、犯罪を犯そうが何しようが人間は人間で、人間以下だったり人外になるワケじゃない……社会がそう扱うだけでね。生きてる限り望みがあり欲があります」

 

 どの面下げて、と言いたいだろう。

 だが、実際にどうだ。

 法治国家だろうと、どれだけ法律を守るべきだとか命の尊さを説こうが、生きる為、または快楽の為に人は容易く法の外側に踏み出す。

 犯罪が消えないのはそういう理由で、どこまでも彼らが人間だから起きる事態だ。

 法律は所詮、生き延びる為に集団生活を取らざるを得なかった人類が他者を極力侵害せず、皆が一定の幸福や快楽を享受できる為に作った檻でしかない。

 一定以上の欲は必ず外側にいる誰かを害する。

 法律の改定は、そういった外側に踏み出した者の声が一定数集まらなければ起きない。それまでは、ただの異端として処理されるのが社会だ。

 社会もまた、人が作り出した快楽の一つ。

 根幹からそうなっている。

 だから人間が人間である以上、犯罪は起き続ける。

 生きている限り、俺も歩みを止める事はできない。

 人間だから。

 

 はっはっはっ!

 もうこういう事を言わなきゃ自分を正当化できないんですよ!

 はー……虚しい。

 

「止めても無駄ですからね」

「……そうだな、私に止める権利は無い」

「じゃあ、話って何です?」

「いや、君の目的がDAを潰す事やテロなら私たちで対処するつもりだったが、本人にその意思が無いなら動く必要もない」

「見逃してくれるってことですか」

 

 ふ、と店長が笑う。

 あらやだ、ダンディ……。

 

 二人で話していると視線を感じた。

 物陰に隠れて……隠れてるつもりか分からないくらい露骨に、こちらをじっと睨んでいる看板娘がいる。

 

「どうした、千束」

「お話もう終わったの?」

「ああ。本人に悪意が無いのなら、13番に関して私たちが手を出す必要は無い」

「そうだね、お客さんだし」

 

 どうやら、現状は放置らしい。

 よかったー。

 もしこことDAが連携されたら、いよいよ東京自体に居場所が無くなる。豆子を回収する暇も無く、また途方もない旅が始まるだろう。

 

「じゃあ、改めまして」

「ん?」

「ようこそ、リコリコへ!」

 

 看板娘ちゃん――千束?って子が改めて歓迎の意を表する。

 

 

 

 

 

 この後、常連客に詰問されまくって夜までギスギスする時間を過ごしたのは言うまでもない。

 ………ボドゲ会楽しかった!!!!

 

 9番と車で走りながら、余韻に浸る。

 

「楽しかったな」

「久しぶりに燥いだ気がする」

「9番、米岡さんにボロ負けしてたのが面白かったよな!はははははは!」

「おまえの方が負けてたじゃん」

「きぃぃいいいい!悔じぃぃいいいいい!!」

 

 思わずヒステリックに叫んでしまう。

 もっと鍛錬を積まないとな。

 ある程度の安全が確保したら、早速あのクルミとゲームを再開しなくてはならない。でも仕事もしないと従業員が増えたので社長としてより一層の努力が求められる。

 はー、しんどい。

 しっかし、東京かぁ……。

 たきなも来てるんだよな、確かこの春から。

 

 出会ってしまえばアウトだが、久々に顔を見たい気もする。

 まあ、おいそれと簡単に会えるワケが――。

 

 

「あ」

 

 

 車窓の流れていく景色。

 その中で歩道を歩く学生服の少女を見咎めた。

 妖しい艶に濡れた黒く長い髪が風に揺れている――あ、まずい視線合った。

 あちらも、目を見開いた。

 うん……………加速ッッ!!!!

 

 急加速に助手席の9番が驚いて変な声を上げる。

 

「な、なんだ急に!?」

「すまん。一瞬窓の外にリコリスが見えたから」

「おいおい、不審に思われないよう気をつけろよ……あとマジで死ぬから安全運転な?」

 

 やべー!

 バレた、きっとバレた!

 目敏いたきながこの僅かな接触でも相手を見逃すはずがないし、というか目が合った瞬間のリアクションでほとんどアウトだ。

 俺が東京にいると知られてしまった。

 DAは俺を誘導しているからこそ把握はしているだろうが、たきな本人の口からより詳細な位置情報でも送られてしまったら蜂の巣にされる。

 

 対策練らないとな……やる事多すぎ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たきなside

 

 

 

 任務帰りだった。

 今ペアを組んでいるファーストリコリス――フキさんとの合流を目指し、歩道を歩いていた。

 任務には集中して取り組めている。

 でも、胸にはぽっかりと穴が空いていた。

 以前ほどリコリスとしての職務に対して、特に本部へと転属できた事による念願の思いが達せられた事に、私は思いの外無感情だった。

 何かが足りない。

 胸の穴から飢餓感が溢れる。

 

 でも、胸ポケットに入れた手紙に触れる度にそれは少しだけ解消された。

 

 こうやって、彼と別れて以来の『発作』は和らいでいる。

 でも、最近不安にもなっていた。

 

 先日、DAで共有された情報がある。

 それは13番が東京に逃れ、潜伏している事だ。

 本部のリコリスは任務中にこれを発見次第、手出しはせずに本部へと連絡せよと伝達された。彼を拘束できるリコリスは、あの有名な電波塔のテロを一人で解決したリコリスでしか適わないという。

 ……私の入る余地は、無い。

 私以外の手に落ちるのだろうか。

 

 まさか、今だってもう他のリコリスが報告して早速戦闘になっていたり……。

 

「私以外なんて、絶対に許さない」

 

 自分が感じている以上の怒気が声に滲んだ。

 ああ、本当に彼という毒に冒されている。

 以前ならば、一刻も早く解毒したいと危機感に焦っていただろうが、今はこの毒にやられた感覚を失う事が惜しいとさえ思ってしまっている。

 もう末期だ。

 自覚しなければ、まだ幸福だったかもしれない。

 

 でも、あんな手紙を残したのは、きっと彼もまた私に見つけて欲しいのだろう。

 殺されるなら、私に……と。

 

「願われなくても、私が必ず―――――?」

 

 ふと、視線を感じた。

 思考の海から意識を引き上げて、ぱっと直感的にその方向を見た。

 

 ―――――。

 

 すぐ傍を走っていく車。

 その運転席の男と、目が合った。

 でも、一瞬だったので誰だか分からない。車は通り過ぎて、あっという間に遠くへと消えていく。

 

「――はっ、はっ、はっ………!?」

 

 たった視線が合っただけ。

 見ただけじゃ、誰かは分からなかった。

 

 でも――体が、気付いていた。

 

 グツグツと煮え滾ったような血が巡って全身を沸騰させ、早鐘を打つ心臓胸が強く締め付けられる感覚。

 不思議と不快ではなく、むしろ『あの時間』を思い起こさせる体の異常で全てを悟った。

 

 

 彼だ。

 彼が今、私を見た。

 

 

 毒が歓喜となって全身を小さく震わせた。

 異常状態が治まるまでしばらく休み、それからフキさんの所へと急ぐ。

 彼女は街灯にもたれ掛かり、腕を組んで不機嫌そうな顔で待っていた。傍には、回収に来たDAの手配した車がある。

 駆け寄る私の足音に、彼女が厳しい眼差しを投げる。

 

「遅い!おまえ、何やっ――……?」

「すみません。遅れました……どうかしましたか?」

「……いや、おまえ」

 

 フキさんが怪訝な顔で見てくる。

 

 

「何で嬉しそうなんだよ……?」

 

 

 え?

 私は、すぐ傍の車の窓で自分の顔を確認した。

 そこには、いつも鏡で見ていたのとは違う……柔らかい微笑を浮かべた自分が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ほんのちょっぴりおまけ〜

 

 

 

 

13番「たきなってさー」

 

たきな「はい」

 

13番「恋人欲しいって思った事とか無い?」

 

たきな「ありません」

 

13番「ほんとにー?この人と一緒にいたいっ、とかキスしたいっ、とかないのかよ」

 

たきな「……一人だけいます」

 

13番「え!それもう恋だって、たきな!」

 

たきな「でも、私はその人と別にキスしたいわけではないので」

 

13番「そうなの?」

 

たきな「はい。ただ、私が管理したい……それだけなので」

 

13番「……………ほう(え、もしかして畜生以下の扱い?お気の毒に、その人……)」

 

 

 

 

 

 

 

たきな√は千束√より凄惨な物にする予定ですが、具体的にはどれくらいが良い塩梅?

  • 一匹残らず駆逐するレベルで
  • 可哀想は可愛いレベルで
  • 天国の……位置が来るッッ!レベルで
  • 地下監獄で二万年拘束レベルで
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