喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます   作:布団は友達

72 / 77
リコリココラボで続々発表されたちさたきの衣装に脳漿が止まりません。


十一話「なーる、これが地獄の分岐点」

 

 

 

 

 

 

「社長?」

 

 仕事の準備をしていたら、豆子に話しかけられた。

 昨日の夜、ひっそりと銃器等を用意していたのだがバレていたのだろうか。

 今回の仕事――ウォールナット暗殺。

 俺が一人で請け負うつもりだ。

 社長が汚職をした時点でアウトだが、少なくとも直接的な咎が二人には降らないように手筈は済ませてある。二人用の新しい戸籍は二日後に自動的な作成が行われ、俺が後で事の次第をメールすれば問題無い。

 9番は恋人との新生活。

 豆子には明るい未来。

 俺の方は、二人より取り返しが付かないから今更どうでもいい。

 好きな事はここ数年で出来た。

 千束ちゃんに教えてもらった新しい人生は、これまで生きてきた中で21番に出会った時の輝きを取り戻したような素敵な時間だった。

 

「どうした、豆子?」

「社長。お仕事なら今日は無いんじゃ」

「急用だよ。今回は俺一人で適う仕事だから、豆子は好きに過ごしてな」

「………」

「ちょちょいと終わらせて来るから」

 

 俺は重いボストンバッグを担いで立ち上がる。

 やべっ、がちゃりと銃器の音がしちゃったぜ。

 

「銃……」

「そうそう。依頼人はちょっと裏の人だけど、銃器の扱いをご教示願いたいそうだ」

「大丈夫、なんですよね?」

「心配なさんな。相手方とも面会して、入念に調べてそこまで危険じゃないと分かってるから」

 

 豆子の頭を胸に抱いて、後頭部をわしゃわしゃと掻き乱すように撫でる。

 こうすると思考力が低下?するとか何とかたきなが言っていたので、歳の近い豆子にも通用するかもしれない。

 案の定、目論見通り豆子は腕の中で溶けてる。

 

「じゃあ、行って来るわ」

 

 最後に豆子の肩を叩き、事務所を後にした。

 相手は正体不明のハッカー。

 ただのネットの住人と甘く見てはならない。

 ダークネットで何度か死んだり現れたりを繰り返している人間だから、恐らく裏の世界での生き方をある程度は把握している筈だ。

 今回も、何処ぞから怨みを買ったのも理解し、刺客を差し向けられることも承知の上で既に行動している。

 依頼主は俺の情報を知っていた。

 ならば、トップハッカーも俺の襲撃を想定した護衛でも雇っているに違い無い。

 まあ、DAが支配してる国内で俺やナンバーズ以上に物騒な連中を調達できるとは思えないが。

 

 俺は車を走らせる。

 スマホを起動し、依頼主と連絡を取った。

 

『よう、13番!準備は良いか?』

「ああ、全然できてない!」

『しっかり殺れよ!オマエに拒否権なんか無いんだからな!』

「ああ」

『ふん、それで良い』

「ただ、勘違いするなよ。こっちは信念捨ててここに来てるんだ……後は形振り構わん」

『え?』

 

 そうだ。

 俺にはもう退路なんぞ無い。

 

 

「俺を利用したんだからな。依頼が終わったら――次は貴様だ」

 

 

 俺の脅迫に、電話の向こう側で息を呑む声がした。

 依頼だけには従う。

 その間にでも逃げるといい。

 ただし、地の果てまで追い詰めるつもりだ。

 DAに捕捉されてリコリスやらリリベル、会社のクソ連中やナンバーズに追撃を受けても実行する。

 俺が派手に暴れる程、9番も逃げる時間が出来るしな。

 

 それに……依頼はやるけど、成功させるつもりは無い!!

 

 適当に戦って護衛だけ無力化したら別働隊も壊滅させて失敗を装う。

 ふはははははは!!

 舐めるなよ、こう見えてもゲームでクルミに負けた数だけ失敗した時の言い訳のシュミレーションは脳内で何パターンも出来ているのさ。

 しかし、ただ失敗しただけでは9番や豆子の情報まで流出されてしまうので、護衛という犠牲は出すしかない。

 

「そんで?目標はどちらに?」

『スーパーマーケットの廃墟に潜伏してる。そこなら人目も無いし、大暴れできるぞ』

「護衛は居るの?」

『手強いヤツが二人。目標は着ぐるみ着てるからな!』

「何の着ぐるみ?」

『リスだ。写真送ったろ』

「ええ?アレはクマじゃん……本当に情報は正確なのかよ、不安になってきた」

『僕をバカにするなーー!』

 

 手練が二人か。

 たしか、別働隊はそこそこ経験を積んだ連中らしいな。

 手筈通りスーパーまで追い詰めてくれた所はそこそこ実力を感じる。

 まあ、これ第三プランだけどな。

 第一プランの逃走者を海に誘導して沈める作戦もアウト、それを阻止した瞬間に包囲して仕留める第二プランも失敗……結果として俺が推奨したスーパーマーケットの廃墟に誘導して集中砲火という策になった時点で心配になる実力の布陣だ。

 

 しかし、たった二人でここまで躱すか。

 

 手練というのは案外間違いじゃないようだ。

 心してかからないと、俺もポンコツ扱いだな。

 

「よーし、着いた」

 

 スーパーの裏側に車を停める。

 近くには既に到着した別働隊の車があった。

 俺も手早く拳銃一丁と手斧二本を腰に携帯し、スーパーへと入っていく。

 一応、顔バレしないように頭巾とマスクを装着して裏側の通路を走っ――……銃声がそこかしこで響いている。

 俺が到着したら始めろって話だったのに。

 やれやれ、手の掛かる子だこと。

 姿勢を低くして走っていくと、男二人が通路で構えていた。

 

「状況は?」

「お、おまえか。レジの方で銃撃戦だ」

「よし。なら加勢してく――おぇ?」

 

 俺は銃撃戦の方へと足を運ぼうとして、ひょっこりと離れた入口から裏側の通路に顔を出した少女と目が合う。

 薄暗い通路でも煌めくような白髪と、無邪気にこちらを見詰める赤みがかった瞳。

 激しい銃撃戦が行われた方向から現れたとは思えない無傷な白い肌と、赤い制服。

 …………。

 …………何で千束??

 て、手練の護衛って……。

 

「ヤツだ!」

「っ、テメェら下がってろ!」

 

 俺は後ろ足で男を蹴り飛ばす。

 すると、男のいた箇所で赤い粉が炸裂した。

 やはり、昔と同じで低殺傷性の弾丸か……当たるとかなり痛いんだけど死ぬ事は無い。

 ただ急所に貰えば意識を一瞬で持っていかれる代物だ。

 当たると超痛い!!

 一度戦ったからその威力はよく知ってる。

 同じ武装、ならば戦術も読める。

 俺は拳銃――ではなく、手斧一本を引き抜いた。

 射線と射撃タイミングを瞬時に察知する異常な洞察力を発揮する『目』と、視覚情報を繊細に反映して即時実行する高度な身体能力。

 銃で戦う方がむしろ悪手。

 おまけに、この狭い空間じゃ相手の方が小回りが利く。

 ならば、速攻!

 反応できない至近距離での肉弾戦にのみ懸ける。

 

「そいやっさ!!」

 

 俺は通路の端に置かれたワゴンカートを千束ちゃんへと強く蹴り飛ばす。

 俺の背丈に近い高さのそれが道の中央を爆走した。

 

「よ、っと!」

 

 それであのリコリスは止まらない。

 千束ちゃんは身軽に壁へと跳んでワゴンカートを躱すと、壁面を蹴ってもう一度跳躍する。

 流石は千束ちゃん。

 この程度は足止めにならないとわかっている――から!

 

「うぉっ!?」

「ふん!!」

 

 壁を蹴って飛んだタイミングに合わせ、俺も千束ちゃんへと接近していた。

 壁際から離れたばかりの彼女に突進しながら胴体をするりと片腕で抱き込み、勢いを利用して床へと投げ捨てる。

 素早く受け身を取って転がり、起き上がった千束ちゃんの肩へ間髪入れずに突き足を入れる。

 

「うっ……!」

 

 目のいい相手。

 そんなヤツへの対処は簡単だ。

 見る隙を与えなければ良い。

 蹴られて倒れた千束ちゃんの顔を鷲掴みにして床に押さえ込む。

 これで視界は塞いだ。

 後は手斧の峰を両肩に叩き込んで戦闘不能状態にすれば俺の勝ちだ。

 手斧を振りかぶり、俺は躊躇わず千束ちゃんへと――。

 

 

「くふッ!?」

 

 

 千束ちゃんの振り上げられた靭やかな脚が俺の顎を跳ね上げる。

 流石は東京最強のリコリス。

 体の柔軟性も素晴らしい物で、俺の下で小さく畳んだまま鋭く力を束ねて踵へと集約させており、一瞬だけ俺の脳が致命的な震動に襲われる。

 体が揺れて、頭を掴む握力が緩んだ。

 空かさず千束ちゃんは顎を蹴り抜いた足を曲げて俺の首を抱き込むように捕まえると、構えた拳銃で俺の耳の後ろに一発撃ち込んだ。

 容赦ない。

 脳に畳み掛けるような大打撃だ。

 でもな――。

 

「ぬぅうんッッ!!」

「な、頑丈過ぎ――がっ!?」

 

 俺はその状態で勢いよく立ち上がる。

 逆さまに首から吊り下がった千束ちゃんの腰に突き上げた拳打を叩き込む。

 首を縛る脚の力が緩んだので、間髪入れずに俺はそのまま体を振って千束ちゃんを壁に叩きつけた。壁面に衝突する寸前で腕を掲げる防御姿勢を取ったようだが、衝撃を殺せなかったのかそのまま力無く床に落ちた。

 

「く、あ……!」

「悪いな、後で謝る!」

 

 今度こそ、俺は手斧を振り上げた。

 千束ちゃんは危険だ――迅速に無力化せねばならない。

 それでも冷静に、斧の刃のない部分を構えた。

 しばらく店番が出来ないだろうが、これで勘弁してくれ!

 

「千束さん!」

「痛っ!?」

 

 手斧の平と、持ち手の掌に二発銃弾が命中した。

 衝撃で片腕が後ろに引かれて、俺は千束ちゃんの上から飛ぶように退く。

 もう一人の護衛か、と視線で射線を辿り―――――――――嘘じゃん、今度はたきなじゃん!!

 後ろに気味の悪いぬいぐるみを引き連れている。

 床に倒れて動かない千束ちゃんに呼びかけつつ、油断なく俺に銃口を向けていた。

 たきな、たきなだとぅ……!?

 いいいいいいいかん!

 これこれこれこれバレたら確実に誅殺どころじゃ済まなくなるタイプの現実じゃん!!

 

「っ!」

 

 たきなが次々と発砲する。

 俺は片腕を掲げ、極限まで力ませて固めた筋肉の鉄壁を発動し、皮膚上で弾丸を止めた。

 ふ、硬いだけしか取り柄のないゴリラに許された技だぜ!!

 因みに、それを見るたきなさんは唖然としていた。

 射撃の腕が良い分、銃口や視線の向きから射線が容易に読み取れるから防御も容易だ。

 ふははは、お兄ちゃんも負けてないよ!

 でも、厄介には変わりない。

 

 

 こうなったら、千束ちゃんを人質に…………ってあれ?

 

 俺は足元を見て、何もない床に驚く。

 おかしい、十秒前まで戦闘不能の美少女が転がっていた筈だ。

 何もない、ただの床のようだ。

 って呑気に言ってる場合かァ!!

 

 

 一体何処に行っ――――ばばばばば!!!?

 

 

 後頭部に五発、凄まじい威力で何かが炸裂した。

 背後から漂って視界を汚したのは赤い粉塵……千束ちゃんの非殺傷弾の欠片だ。

 まさか、一瞬の隙をついて後ろに……!

 視界が揺れて思わず倒れそうになるのを踏ん張って堪える。頭を押さえながら、俺は後ろへと振り返った。

 

「くぉんのぉお……!」

「――――」

「はぇ?」

 

 そして、後ろを見て間の抜けた声が出た。

 何故なら、さっき俺が千束ちゃんの猛威から守った筈の仲間たちが、いつの間にか床に伸びていたからだ。

 う、嘘だろ!?

 一瞬、俺がたきなに気を取られている内に三人も片付けていたのか!??

 今度は、たきなからバトンを受け取って唖然とする俺に対し、千束ちゃんも銃を構えたまま、信じられない物を見るような目でこちらを見つめている。

 頭巾が似合ってなかったかな!?

 

 

 

 

「13番………さん?」

 

 

 

 …………。

 いや、あの、人違い、です。

 く、くそ、台無しだ。

 折角顔まで隠して……でも銃弾受けても平気な生き物って、たしかに錚々いないから俺って身バレしても仕方ないのかもしれない。

 抜かった……俺もポンコツだったらしい。

 仕方無い、こうなったらプランDだ!

 せめて着包みだけは殺し、任務の最低条件だけ達成して離脱する!

 呼ばれて「あっ」て出そうになった声を噛み殺し、俺は背後の千束ちゃんの足元に向けて手斧を投擲しつつ、たきな目掛けて引き抜きた銃を構えつつ突進。――ができなかった。

 

「待ってよ」

 

 がしり、と片手を握られた。

 かかったなアホが!サンダースプリ――じゃなくて、戦場で不用意に敵の手を握る物じゃ無………。

 俺は千束ちゃんの手を引き、そのまま捕獲して人質にしようと瞬時に機転を利かせたつもりだったが、握られた手が震えている事に気付いて思わず止まってしまう。

 それが、良くなかった。

 千束ちゃんが俺を見上げている。

 青褪めた顔で、目尻に涙まで浮かべて。

 

 

「嘘だよね……嘘って言ってよ」

 

 

 い、いやべぇ〜〜〜……!

 せ、セーブポイントまで戻してくれクルミ、仕切り直そうぜ。いやアイツそんな優しかった事無かったわ、普通にゲームで容赦なかったわ。

 いや、そうじゃなくて。

 完全にバレてしまった、誤魔化しようが無い。

 

「殺しに来たの?」

「…………」

「辞めるって言ってたじゃん。もうしないって、人を助ける人生って……騙してたの?」

「なっ、いや違」

「じゃあ、銃を下ろして」

「…………」

「下ろして」

 

 千束ちゃんが強い語調で指示する。

 いつも聞いていた可愛い看板娘の声ではない。

 俺は思わず銃把を握る手から力を抜き、しかし慌てて握り直す。

 たしかに、許されない事だ。

 実質、千束ちゃんを裏切るような行為で、これまでの行いを台無しにする事でもある。あれだけ同朋(ナンバーズ)を殺して置きながら、だ。

 

 それでも……豆子と9番の未来が懸かってる!

 

 俺は再度、千束ちゃんの手を引き、そのまま後ろから片腕で抱き締めるように捕まえて、その側頭部に銃口を突きつけた。

 

「動くな!でなければ撃つ!」

「………」

「う、動かないでください。じゃないと撃たなきゃいけません……」

 

 たきなの眼光が凄すぎてつい弱気になる。

 もう少し出力高まったらレーザービームにでもなるのではないかという剣呑さを俺を見る瞳に孕んでいた。

 若干怖じ気付きながらも、俺は脅迫を続ける。

 すると、千束ちゃんが自分を拘束する俺の腕を優しく撫でた。

 

「撃ってもいいよ」

「っ、え、は?」

「でも、約束して。今後殺すのは、(これ)で最後にしてね?」

 

 腕の中の少女を見下ろすと、優しく笑っていた。

 …………。

 無理か。

 俺は千束ちゃんを拘束する腕を解く。

 そのまま彼女をたきなの方へと強く突き飛ばした。

 こうなったら、プランEである。……選びたくはなかったが。

 

 

「え、13番さん?」

 

 

 着ぐるみはどうにか殺せるだろうが、俺には千束ちゃんを殺せる覚悟が無い。

 でも、このまま躊躇ってても9番と豆子にロボ太が余計な事をするだけだ。二人は正直、会社も特に注目していない人材だろう。

 現に、追手が集中的に狙うのは俺だけで、別行動で俺と二人に分かれた時は、俺にしか襲撃しなかった程である。

 ならば、憂慮すべきはロボ太のみ。

 任務失敗という形でも、9番や豆子に被害が及ばず、会社ならもロボ太からも穏便に守れる最大にして最悪の方法は――。

 

「こうするしかなかったな」

 

 俺は、自身のこめかみに銃口を付けた。

 そして、迷いなく銃爪を引―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?私以外の手で死ぬんですか」

 

 

 …………んぇ?

 拳銃がピンポイントで命中した銃弾によって手中から弾き飛ばされた。

 そちらを見る暇も無く、立て続けに発射されたワイヤーで全身が絡め取られる。……どうやら、千束ちゃんの物らしい。

 胴も足も縛られ、イモムシ状態になった俺は立っていられず、床に倒れて痛い顔面から打った!!

 

 うつ伏せで苦悶していると、襟を掴まれてぐいと上に引き上げられた。

 

 ……泣きそうな千束ちゃんのご尊顔。

 う、痛い……推しの泣き顔、それも自分がこうさせたとなると辛い。

 

「命を粗末にするヤツは嫌いだ!」

 

 至近距離で叫ばれた台詞に、何も言い返せず黙る。

 ……因みに、この時に強く揺すられて頭巾とマスクがズレてしまい、もう何も見えない上に体勢の所為で呼吸が苦しいです。

 

「こんなので、顔、隠して!」

 

 がばりと頭巾とマスクを乱暴に奪われた。

 はぁっ、酸素ォ!!

 再開できた快適な呼吸で思わずホッとしていたら、今度こそ頭巾とかいう小賢しいフィルター無しで千束ちゃんと目があってたじろぐ。

 千束ちゃんは唇を噛み、そのまま俯いた。

 色んな感情を必死に抑えているようで、体は震えて耳は真っ赤になっている。

 

 

 

「私が好きじゃ、ないの?」

 

 

 …………え、あっ、はい。

 え?

 

「好きなら、死なないでよ……」

「ち、千束ちゃん……」

「お腹の責任、取って貰ってないじゃん!」

「それはもう謝ったじゃん!!」

「足りない!」

「一年以上は店に通い詰めてお金落としてるよ!?あ、あと毎日毎日褒めてる!」

「足りない!」

「え、えぇ……」

 

 極大のワガママを言い始めた千束ちゃんにどうして良いか分からなくなる。

 

「……ぅ」

 

 二人で喚いていたが、後ろから聞こえた呻き声にはっとした千束ちゃんが俺を床に下ろしてそちらへ向かう。

 その途中、立ち止まって。

 

「後で説教だから」

 

 それだけ言って、何やら呻き声の方へと駆けていった。

 ………え、放置?

 いや当然なんだろうけど、せめて仰向けにして。

 床にキスした状態で待機していると、すぐそこで千束ちゃんとは別の靴音がする。

 ジタバタと暴れて、どうにか仰向けになった先で――こちらを見下ろすたきなと視線が合った。

 

「あ、あの…………」

「ッ…………!」

 

 俺が声をかけた瞬間、たきなが俺に向かって銃を構える。

 銃爪を引こうとするのを必死に堪えているようだ。

 いつもの鉄面皮が嘘のような冷たい怒りの形相で俺を睨んだ後、銃をゆっくりと下ろして少し離れた位置から静観している着ぐるみの方へと歩んでいく。

 ……何で俺の着用してた頭巾とマスクを持っていくんでしょうか。

 あの、どうしてそれをカバンに仕舞うんですか?

 物的証拠としてDAに引き渡すつもりかな?

 

「………はあ」

 

 ………取り敢えず、任務失敗。

 死ねなかったが、敵の手に捕まった……となれなロボ太も呆れるだろうし、自身が握る情報も意味を成さないと理解して9番たちに手出しはしない、かもしれない。

 俺はこれからDAに引き渡されるのか、ソレを待たずしてたきなに処刑されるのかは分からないけど………。

 

 

 

「ほんっと、ロクな人生じゃないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ×      ×       ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は拘束されて床に転がる彼から背中で隠すように持ったカバンを抱き締める。

 落ち着け、落ち着け、落ち着け。

 私と敵対した事については、きっと何か事情があったんだ。

 

 あの日、店を出ていく時に何か思い詰めた顔をしていたから、きっと今日の事を思い悩んでいたに違いない。

 

 そして、私たちというイレギュラーに遭遇して更に混乱していた。

 しつこく口説いていた千束さんに手は上げたが、私という『特別』にまでは攻撃しない程度に冷静さと判断力が残っているようだから、まだ交渉の余地がある。

 彼を思い直させるか、殺すか。

 どちらも、私の役目だ。

 

 それまでは、この怒りを堪えなくてはならない。

 私は彼の頭巾とマスクを入れたカバンを強く抱く。

 

 

 

 

 

「……タダじゃ、済まさない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が終わる日に何したい?

  • 吉松シンジとホテル
  • ミカとゲートボール
  • クルミとボードゲーム
  • ミズキと婚活
  • ヤンデレたきなに殺される
  • ヤンデレ千束とワンナイト
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。