ナナリーの令嬢修業   作:露草ツグミ

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ナナリーとニケの戦闘シーンを加筆しました。



2-3.休日の戦闘訓練

 

 翌週、休日の午後にナナリーはニケと王の島の騎士団本部に居た。ゼノン殿下が演習場の使用許可を出してくれたので、戦闘訓練をしに来たのだ。

「気晴らしに思いっきり戦うといい」という伝言付きである。なんて気が利く王子様なのだろう。

 

 ハーレ勤務では学生時代に比べて戦闘の機会が減る。訓練ができる場所なんて限られているので大変ありがたい。

 ストレスが溜まっているのはニケも同様で、ロックマン公爵家に通うのにまだ慣れていないらしい。ニケ曰く、「公爵家で落ち着けるわけがない」とのことで、ナナリーにできるのはストレス発散の手伝いぐらいだ。

 

 公爵家の召使いたちは美人で女性らしい体型のニケに興奮し、ナナリーも目の保養とばかりにほくほくしている。

 男爵令嬢になってからマリスに貴族の教養を教わってきたニケは、ダンスも礼儀作法もナナリーよりずっと貴族令嬢らしくて、ノルウェラ様も先生役の侍女さんも、使用人たちもニケを気に入っているのがわかる。

 

 ノルウェラ様は女の子が二人もいると華やかでとても楽しいとおっしゃり、ご不在のときはわざわざ手紙を書き残して下さる。

 昨日はノルウェラ様が王宮に登城(とじょう)されていたのでお手紙を頂いたばかりだ。さすがのナナリーもノルウェラ様から頂いたお手紙はその日のうちに読むようにしている。

 

 

 ナナリーは魔物対策に常にハーレの制服を着るよう所長命令が下っているのだが、無効化衣裳で戦闘訓練をするのは卑怯である。それをニケに伝えると、海の国のように、魔法が効かない相手と戦う経験になるから構わないという。手ごわい方が訓練になるというのだから頼もしい。

 

 今日はニケと二人だけれど、時の番人の関係者なら演習場の使用を許可してもらえるらしい。

 火型とは戦い慣れているから風型のサタナースや雷型のゼノン殿下と訓練ができれば理想的であるが、そうはいかないだろう。

 

 

 

 

 ナナリーとニケは広い演習場を縦横無尽に動き回って攻撃を繰り広げた。

 ニケは水流で木々をなぎ倒し、ナナリーを追い込んで使い魔の大蛇(オビス)でナナリーとララを搦め捕ろうとする。ララの絶対防御は使わずにナナリーは魔法と女神の棍棒で応戦する。

 

 ニケと戦うのは魔法学校以来だ。魔法を繰る反射神経や魔力(パワー)は負けているとは思わなかったが、ニケは使い魔の扱いが段違いに上手くなっている。

 

 もっとララに乗って出かけようと心に決めたナナリーを滝のような水が襲う。学生時代のニケならここでナナリーを水没させるだろう。

 

 しかし、水はナナリーを直接攻撃することはなく、檻のように分厚い水の層が周囲を覆う。ララの下に見えるのは円形の地面、頭上に広がるのは丸く切り取られた空だけだ。

 ナナリーを閉じ込めた水は鏡のように反射してナナリーの姿を映し出す。水鏡の魔法である。円柱形にして完全に中に閉じ込める方法もある。

 

 通常は精神攻撃の魔法や頭上からの攻撃などを警戒する。だがナナリーの制服の能力を考えば物理攻撃の可能性が高い。水の檻を強硬突破してもいいが、突破した先に何が待ち構えているかわからない。ナナリーからニケは見えないがニケからはナナリーが見えるのだ。

 

 逡巡している間もなく、長い棒──杖とおぼしき武器がナナリーに向かって横なぎに振り払われる。ナナリーは必死で避けた。すぐさま上と下から水が襲ってくる。側面の水の檻を凍らせて粉砕し、全速力で突破した。

 

 氷と水の応酬。吹雪とともに氷の(やじり)がニケを襲い、高圧の水の槍がナナリーに降り注ぐ。氷の竜と水の竜がお互いを食い尽くす。白狼(ララ)大蛇(オビス)は流れるように高速で飛び回り、ナナリーとニケは演習場の地形を変え、全力で魔力を叩き込んで戦った。

 演習場にいた他の騎士たちは訓練を忘れてナナリーとニケの戦いに見入っていた。

 

 久しぶりの手加減なしの戦闘にナナリーの気分は高揚し、神経が研ぎ澄まされた。ピリピリと肌に魔力を感じる。

 誰かが────視てる? 

 鋭い視線と膨大な魔力を感知した刹那、ゾワッと全身が総毛立った。

 

「ニケ!」

 

 最速でララを駆り、ニケの腕を掴んで大蛇ごと防御膜を張った瞬間、周りが激しい炎に包まれた。

 

「……いい反応だね」

「何すんの!?」

「君こそ、何してるの?」

 

 アルウェスがユーリに乗って翔んでくる。ナナリーたちの前に止まると風に吹かれていた金髪の長い前髪がサラリと揺れた。不機嫌そうな顔でナナリーを一瞥し、二ケに鋭い視線を投げかける。炎が反射して赤い瞳がめらめらと燃え盛っているように見える。

 

「ブルネル」

 

 静かで冷たい声音にニケがびくっと震えた。

 

「……はい」

「どういうつもりかな? こんなところに部外者を連れてくるなんて」

 

 アルウェスの声はナナリーが聞いたことがないくらい冷ややかなものだった。ニケは青白い顔をしながらも気丈に答える。

 

「ゼノン殿下の指示です」

「殿下の?」

「そうです。時間が空いたらナナリーと戦闘訓練をするように、と」

 

 ゼノン殿下の名前が出てきて、アルウェスは微かに眉間に皺を寄せて考え込んでいる。

 彼を乗せたユーリは心配げにナナリーを見ている。大丈夫だよ、とナナリーは心の中でユーリに向かって呟いた。

 

「ナナリー」

「何?」

「悪いけど、今日はもう帰ってくれないかな?」

「…………わかった」

 

 訓練中にいきなり襲われて、ナナリーとしては文句の一つでも言いたいところだが、このままではニケが気の毒だ。何しろニケにとっては上司なのだから。

 

 しかもアルウェスはロックマン公爵子息で、フォデューリ侯爵だ。

 ニケが貴族の中でどのような立ち位置なのか、また、貴族間の上下関係が騎士団でどう関わるのか、貴族社会について学び始めたばかりのナナリーにはまだよくわからない。貴族と平民の間の越えられない大きな壁のほうがよっぽどわかりやすい。

 

 何にせよ、ここでナナリーが騒いでニケが不利になるようなことはできる限り避けたい。でも次にアルウェスに会ったときは、どういうつもりだったのか絶対に聞き出してやる。

 





氷と水の戦いの描写は難しいですね。対戦よりも共闘のほうが相性のいい型だと思います。

加筆前よりも躍動感が出てるいるといいのですが。毎度のことながら登場する魔法は私のオリジナル(捏造)です。
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