ナナリーの令嬢修業   作:露草ツグミ

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長かったので2話に分けました。
修正してpixiv版よりわかりやすくなっていると思います。
※原作と違い、このロックマンは時の番人事件からずっと黒瞳黒髪です。髪と瞳の色が黒いままでも普通に火型の魔法、生活魔法は使えます。時々魔物の魔力が暴走するのでララの絶対防御のクリスタルを使った魔具の首飾りを身に着けています。



2-5. 夕闇の空を翔ける①

 騎士団での一件から数日後、もうすぐ終業時刻になろうかという頃、ハーレの扉が開いて何かキラキラしたものが入ってきた。

 

「お待たせ、ナナリー。迎えに来たよ」

 

 夜間へ引継ぎの書類をまとめていたナナリーは筆を持ったまま目を見開いて固まった。

 ギギギギギギギ……と錆びた人形のような動きで顔を上げると、それはそれはにこやかな笑みを湛えたアルウェスが目の前にいた。

 

 なんて胡散臭い笑顔…………!! 

 

 アルウェスは鉄壁のキラキラの笑顔を貼り付けている。金髪に色白の美青年が肩に乗せた黒猫(※ユーリ)を撫でている姿は本当に物語の王子様のようで、眩しさに目をやられながら女性陣は頬を赤らめてうっとりと眺めていた。

 

 みんな騙されてはいけない。社交界の馬鹿だか華だかと呼ばれる笑みだ。ユーリまで小道具に使うなんてあざとすぎる。絶対腹の内でよからぬことを考えてるに違いない。

 

「…………引き継ぎしたら終わりだから、裏口で待っててくれる?」

「邪魔にならないように向こうで待ってるよ」

 

 この男、人の話を聞きやしない。

 アルウェスが騎士団の用事でもないのに(本当は護衛だが)ナナリーを迎えに来たということで、同僚から意味ありげな視線を矢のように浴びていたたまれない。

 彼は肩にユーリを乗せたまま、依頼書の張られた壁に寄りかかって待っている。はやく終業時刻になれ、と心の中で唱えながらナナリーは手早く仕事を片付けた。

 

「終わった?」

 

 ナナリーが席を立つとすかさずアルウェスが声をかけてくる。裏口から出ると言い張るナナリーの手を引いて、アルウェスはハーレの表の入り口に向かう。

 アルウェスのキラキラ笑顔に騙された同僚たちは咎めることもない。ゾゾさんとハリス姉さんはナナリーにひらひらと手を振って、チーナはきゃーきゃー興奮してる。

 

 ニケが護衛の時は裏口で待っててくれるけれど、次からはニケにもハーレの中まで迎えに来てもらうとナナリーは決めた。

 

 ナナリーの手を引きながらずんずん進んでいく男の金色の頭を睨みつける。

 何となく気になって、三つ編みにした長い金髪を近くでよく見てみる。ほんの少し、気になる程度だけれども、生来の色に比べて色味が暗かった。アルウェスが振り返った際に瞳をじっとのぞき込むと、炎のような輝きがない。

 

「何?」

 

 キラキラ笑顔はすっかり鳴りをひそめて、怪訝そうな顔をしてナナリーを見返している。

 

「髪と目の色がちょっと暗い気がして」

「よくわかったね。まだ戻ってないよ。変身術を使ってるだけ」

 

 あれだけ変身魔法が得意なアルウェスでも元の色にならないとは。日常生活では変身魔法で何事もなかったように装っているようだ。むしろ、黒髪黒目を見た人はそちらが変身なり変装なりと思っていることだろう。

 

 アルウェスはハーレの裏庭の端に来ると、猫のように足元にまとわりついていたユーリを普通の大きさに戻した。

 

「ユーリで行くの?」

「うん」

「じゃあ私はララを……」

「君もユーリに乗って」

「どうして?」

 

 ナナリーを掴む手を離そうと引っ張るがびくともしない。怪しすぎる。ハーレを出てからはピリピリとして、一触即発の気配がする。勝負なら受けて立つが、それはそれ、今のコイツとユーリに二人乗りなんて御免である。

 

 筋力を上げる魔法を使って引き剥がしてやろうかと思った瞬間、両手の指に火が付いた。氷で相殺していると唇に人差し指を当てられた。すーと唇が長い指で撫でられる。やられた、と思ったときにはもう遅い。閉口術だ。

 

 睨みつけようとしたのに、唇がむずがゆくて片目をパチパチさせてしまった。するとアルウェスのピリピリした気配がちょっとだけ緩んだ。炎の攻撃もいつの間にか終わってる。

 

「君もユーリに乗って。いいね?」

 

 もごもごと口を動かしたが喋れやしない。悔しいけれどアルウェスの閉口術は強力だ。おとなしくユーリに乗ると、ナナリーのすぐ後ろにアルウェスが跨って空へ舞い上がる。

 

七色外套(パルティン・テートン)をかけるよ」

 

 前を向いたまま頷くと七色外套(パルティン・テートン)が掛けられて、閉口術が解かれた。ブハッと息を吐く。

 

「ちょっと! いきなり術で黙らせるなんて卑怯だと思わないの!?」

「こうでもしないと君は僕の話を聞かないでしょ」

「そういう台詞(セリフ)は言葉で説得しようとしてから言いなさいよ!」

「黙って。時間がもったいない」

 

 むっかーと頭に血が上る。ナナリーは拳を握りしめて決意した。いつかこいつの閉口術を破ってみせる。

 ハーレから公爵邸までは近い。少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。ハーレは王の島の下、北側にあり、ロックマン公爵邸は西側にある。夕陽に向かってユーリが空を翔ける。

 

 すっかり日が暮れるのが早くなった。空離れの季節までもう指折り数えるほどなのだ。茜色から薄い藍色に移り変わっていく空に、ちぎったパンのような雲がぷかぷか浮かび、橙色の夕陽が最後の抵抗とばかりに眩しい光を放っている。

 

 夕方の心地良い風がナナリーの頬をなで、水色の髪がたなびく。(たかぶ)った感情が静まっていく気がする。アルウェスがナナリーのすぐ後ろに座っていて背中が温かい。

 

「……この(あいだ)は」

 

 頭上から声が聞こえる。

 

「どうして君は騎士団に来たの?」

「ニケに、騎士団の演習場で戦闘訓練をしないかって誘われて。ゼノン殿下がストレス発散に思いっきり戦えばいいと許可をくれたって」

「そう……」

 

 あの様子だとアルウェスは殿下の許可を知らなかったのだろう。それなら怒られても仕方ない……のだろうか? 常識的に考えて、あんな物騒な警告は度が過ぎている。

 

 あの炎は本気だった。魔法学校時代だったらナナリーは即座に応戦していただろう。

 騎士団内の規律はナナリーが(くちばし)を挟むものではないが、納得はしてない。ニケに何も言わないで欲しいと頼まれたからナナリーも口を(つぐ)んでいるだけだ。

 

 あの後アルウェスはゼノン殿下と話をしたのだろうか? 

 

「騎士団から帰った後、母上とお茶会をしたんだって?」

「え? あ、うん」

「どうして? あの日は令嬢教育は休みだったはずだけど」

「騎士団を出るところでニケが貴族の騎士につかまっちゃったのよ。しつこく食事に誘われたから、断る口実にノルウェラ様の名前を使わせて頂いたの」

「へぇ……」

 

 一気に氷点下まで下がるような声に背筋がひやりとする。

 

「……ふーん。なるほど。君にしては上手く切り抜けたね」

「そこで名前を出しちゃったし、ノルウェラ様の手紙に令嬢教育抜きでお茶会をしたいと書いてあったから、ニケと一緒に公爵家に行ったのよ。ニケにノルウェラ様と親しくなってほしくて」

 

 ナナリーはひと呼吸置いて、遠く暮れてゆく空を眺めた。

 

「……それと、嘘を吐きたくなくて」

「嘘?」

「どうしても本当のことが言えない時ってあると思う。でも、子ども相手に嘘を吐いたことが何回かあって……そのときの罪悪感が消えなくて。だから、できる限り嘘を吐きたくない」

 

 後ろを振り返り、じっとアルウェスを見つめる。

 

「その子どもって、過去のアルウェスなの」

「子どもの僕?」

「わたし、何度か子どものアルウェスと話をする機会があったんだ」

 

 ちびアルウェスとアルウェス少年のことなのだが、大人の彼には何の話だかわからないに違いない。

 

「憶えてない……よね?」

「過去に戻った未来の人間に関しては記憶があやふやになるって時の番人が言ってたと思うけど?」

「うん、まあ、そうなんだけど」

 

 ナナリー自身も「ナートリー先生」が教育実習生として魔法学校に来たことはまったく覚えていない。あの頃の出来事と言えば、魔法型が判明して髪や瞳の色が変わり、アルウェスとの喧嘩が激しくなったことばかり思い出される。

 

「君、そんなこと気にしてるの? そんなんでちゃんとハーレの仕事できてるの?」

「うっさいわね! 大きなお世話よ!」

 

 アルウェスが厭味ったらしい顔で笑い、ナナリーはふん、と鼻を鳴らして前に向き直った。

 

 




更新が遅れて申し訳ありませんでした。
次の更新は明日の予定です。

ロックマンは時の番人とナナリーたちによって改変された過去のことも明確に憶えてそうですよね。
『ナナリーの令嬢修業』にはあまり関わりがないので割愛しますけれど。

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