ナナリーの令嬢修業   作:露草ツグミ

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※この作品のロックマンはかなり激情家です。




2-7. ゼノンとロックマン①

 

 

 ニケがナナリーの警護を始めた頃から、ゼノンは騎士団の任務よりも公務でシュゼルク城に滞在することが増えた。

 時の番人によって魔石の存在が明らかになり、父王や大臣たちはドーラン国の騎士団のみで対処するのは得策でないと考え、大陸全体に魔石の情報を公開し、さらにゼノンを御前会議のメンバーに加えた。

 会議には宮廷魔術師長としてアルウェスが出席することもあったが、アルウェスは元々ゼノンより多くの仕事を抱えているため、城で顔を合わせても必要以上の話をする時間はなかった。

 

 アルウェスはニケと分担しているナナリーの警護を兼ねて公爵家に帰る日が増え、また、ゼノンは城の私室で寝泊まりすることが多くなった。騎士団の宿舎の部屋に埃が溜まるのも時間の問題だろう。

 

 その日、ゼノンは夕刻になって騎士団の執務室に戻ってきた。数日間騎士団から離れて城で公務をこなしていたのだ。

 急ぎの書類仕事は副官が城まで運んでくるが、執務室の机の上には未処理の書類が積まれている。一人で処理するのは時間がかかり過ぎて非効率だろう。書類仕事に長けた秘書官が欲しいとゼノンは思った。

 

 アルウェスならこういった仕事も要領よくやれるだろうが、彼に頼るつもりはなかった。本来なら護衛のアルウェスはゼノンの補佐官か副官になるべきところを、敢えてゼノンの(そば)から離し、アルウェスを彼の能力が発揮できる要職に就かせたのはゼノンだ。また、それがアルウェスの意志でもあった。

 

 その判断は間違っていなかったとゼノンは自信を持って言える。もしアルウェスをゼノンの護衛兼側近という地位にとどめていたら、オルキニスの事件やシュテーダルとの戦いを乗り越えられたとは思えない。

 

 ……要領よく仕事ができる秘書官なら、ニケを任命してもいいのではないだろうか。

 

 ゼノンは顎に手を当てて考える。秘書官の地位は高くない。末端であっても貴族のニケならば文句も出ないだろう。ナナリーの警護をいつまでやらせるか、アルウェスに相談した方がいい。

 

 

 副官が茶を運んで来たついでに、いくつか書類の複製を用意するよう指示を出した。今日の会議で決定したばかりの事項だ。明日の騎士団の会議で報告する予定である。

 

 副官が出て行くのとすれ違いにアルウェスがやって来た。銀縁の眼鏡をかけたアルウェスは白皙(はくせき)の顔に何の感情も映し出していなかった。

 これは面倒そうだな、とゼノンは息を()く。無表情とは裏腹に、アルウェスは何かを心に押し隠しているのだろう。こういうときは水色髪の友人が絡む話だとわかっている。

 

 ゼノンは応接ソファに座り、アルウェスも向かいに座らせた。アルウェスの茶を新たに頼むよりもさっさと話に入ったほうが良い。

 

「なんだ? 随分怖い顔をしているな」

「ブルネルがナナリーと戦闘訓練をしていましたが、殿下の指示だそうですね」

「そうだ。俺がニケに命令した」

「ナナリーを騎士にでもするつもりですか?」

 

 アルウェスは単刀直入に切り込んできた。

 

「そういうつもりはない。だが、ナナリーの戦力を遊ばせておくつもりもない」

「…………」

「他国と協力して魔物の巣に討伐に行くことが決まった。当然お前はドーランの代表として選ばれている。グロウブもな。副団長の俺が一時的に騎士団を掌握することになるが、ナナリーはドーラン国内の守備要員に入れさせてもらう」

「彼女はハーレの受付ですよ」

「国の守りが手薄になるんだ。ナナリーだけじゃない、ハーレのテオドアやアルケス、他にも元騎士や有力な破魔士をリストアップしてある。事前に本人の意思は確認するが、有事の際には予備役として国の守りに就いてもらう」

 

 ゼノンはひと息つき、お茶で喉を潤した。

 

「ナナリーの意思は尊重している。騎士団が取れる最善の手段を講じているだけだ」

「それは理解してます」

「だったら私情を挟むな。俺は王族だ。国の為にできる限りのことをする。騎士だってそうだろう?」

「……建前はそうでしょう」

「そうか、建前か」

 

 フッ、とゼノンから小さな笑みがこぼれた。

 アルウェスも随分と素直になったものだ。アルウェスがゼノンの護衛に選ばれたのはゼノンが七、八歳の頃だった。すでに十年以上の付き合いになる。

 ゼノンは魔法学校の寮に入ってから家族と離れて暮らしているため、共に過ごしてきた時間は妹のミスリナよりもアルウェスの方が長い。彼との付き合いの半分を占めたのが魔法学校で、そこでアルウェスは水色髪の女の子と出会った。

 

 ナナリーはアルウェスを宿敵と言っていたが、この二人が他の誰かを選ぶことはないだろうとゼノンは思っていた。それぐらい二人はお互いしか見ていなかった。

 

 下手な口出しをすればアルウェスのことだ、ますます(ひね)くれるに決まっている。周りを巻き込まないよう見守る程度が最良であろうとゼノンは(あるじ)として構えていた。

 

 身分差が問題になるなら、アルウェスから求められれば手助けをする心づもりはあった。だが、二人の身分差はアルウェスが褒賞で『婚姻の自由』を得たことで解消した。最大の難関だったナナリーの気持ちも、捻くれてはいたがアルウェスの命がけの献身が功を奏したのか、アルウェスの本心を理解したナナリーが素直になったのか、めでたく二人の恋は実った。

 

「誰か大切な人を守るためでいい。そのために国を守る。それが俺たち騎士団の役目だ」

 

 

 アルウェスがナナリーに過保護気味なことは承知しているが、杞憂で済まない場合もある。父王や大臣たちとの会議を思い出してゼノンは溜息を()いた。

 ナナリーに関することでアルウェスに隠し事はしないほうがいい。ゼノンは明日の騎士団の会議の議題について重い口を開いた。

 

「言っておくが、国の守りにナナリーを駆り出すぐらいで神経を尖らせていたら身が()たないぞ。魔物討伐にナナリーを派遣しろと名指しで要求する他国(くに)もあるくらいだ。シュテーダル並みの魔物がいたとしたら、氷の始祖級がいた方が安心だとな」

 

 アルウェスはギリッと奥歯を噛みしめる。

 ゼノンとて、他国の思惑は腹立たしく思っている。彼らはナナリーを人身御供に差し出せといっているのだ。シュテーダルとの戦いのときと何ら変わっていない。

 

 しかし、正直なところ対外的にドーランの立場は悪く、他国に強く出られないのが現状だ。

 ドーラン国民のアリスト博士(ヒューイ伯爵)がシュテーダルに憑依された事実がかなりの痛手となっていた。アルウェスが幼少期に親代わりだったアリスト博士の件で傷ついているのはわかっているため、アリスト博士の話題はできる限り避けている。

 

「もしシュテーダルの意志を共有する魔物がいればナナリーは一番の標的になる。彼女を守りながら討伐するのは効率が悪い。それにナナリーは騎士ではないから魔力が高くとも戦力としては劣る。──今のところはそう断っているが、討伐に手間取ればそんなことも言ってられない。お前がすべきことは冷静に迅速に魔物を殲滅(せんめつ)することだ」

 

 ナナリーが魔物に狙われている。その事実だけでアルウェスは期待以上の働きをするだろう。そこを疑ってはいない。他国の騎士たちも始祖級のアルウェスを頼りにしている。

 

 気がかりなのはアルウェスにかかった魔物の呪いぐらいか。

 向かいに座るアルウェスは、黒髪、黒目のままだった。外では変身魔法で誤魔化しているが、ゼノンの執務室では様々な防御魔法が施されていて変身魔法の類は無効化されるからだ。

 




ゼノンとロックマンは忙しくてなかなか話ができてません。
前話でナナリーといい雰囲気になったんですが、ロックマンは浮かれるのではなく過保護になりました。
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