ナナリーの令嬢修業   作:露草ツグミ

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このロックマンはかなり激情家です。そういうキャラだと思って読んでください。



2-8. ゼノンとロックマン②

 

 

 オルキニス、シュテーダル、トレイズと時の番人に夢見の魔物。すべてのターゲットはナナリーだった。アルウェスはナナリーを守るため、また夢見の魔物にはナナリーと共に狙われて、結果的に二人がこれらの事件に最も関わりを持つこととなった。

 

 ゼノンはアルウェスとナナリーに近い距離にいる唯一の王族として、大ごとになる前にもう少し何か打つ手はなかっただろうかと悔やむことがある。

 せめて「時の番人事件」ぐらいはアルウェスが呪いを受けるような形でなく解決したかった。

 

 

「俺はナナリーは騎士に向いているとずっと思っていた」

 

 それは紛れもないゼノンの本音である。

 

「ナナリーの心根は騎士の精神に相応(ふさわ)しい。だが、戦い方を知らない。自分の身をすぐ危険にさらす。真っ直ぐすぎて駆け引きができない。仲間との連携の経験も少ない。だからニケに戦い方を教えるよう命令したんだ」

 

 時の番人事件でナナリーは命を狙われたのに、トレイズのことを心配こそすれ怒ってはいなかった。ナナリーよりもアルウェスを慕う女性騎士たちの方が余程怒りを露わにしており、ウェルディなどは射殺(いころ)しそうな目でトレイズを睨みつけていた。

 

「ナナリーを無理やり騎士団に入れるつもりはない。だが、有事の際には協力してもらう。それは何ら理不尽なことではないだろう。そのために今は準備をしている。始祖級の魔法使いが国にとって重要なのは明白だ」

 

 ゼノンとアルウェスが騎士団に入団してから丸三年、世界は一変した。文字通り、世界は一度凍りついたのだ。始祖級の魔法使いの存在は国にとってどれだけ心強いだろうか。

 

 同時期に二人も始祖級の魔法使いがドーランに現れたのは奇跡だと言う(やから)もいる。

 だがゼノンは知っている。ナナリーは確かに生来高い魔力を持っていたが、アルウェスの背中を追いかけて必死に努力した結果、アルウェスに並び立つ逸材になった。それは奇跡でも何でもないのだ。

 

 

「…………そうですね」

 

 床下から這うような低い声がゼノンの耳に響いてきた。

 

「確かにナナリーは騎士に向いてるでしょう。僕がナナリーとブルネルを狙って演習場を火の海にしたときも、真っ先にブルネルを守っていましたよ」

「何?」

 

 ゼノンは弾けるように顔を上げた。

 立ち上がったアルウェスの周りの空間がゆらりと歪んでいるように見えた。まるで陽炎(かげろう)が立っているように。おそらくそれは錯覚ではない。

 

「火の海だと?」

「ナナリーが騎士の真似事をしていたから警告しただけです」

「お前の炎をけしかけたのか?」

「そうですよ。本気でやりました」

「どういうつもりだ? ニケがお前の炎に耐えられるわけがないだろう!?」

「驚くことですか? 僕とナナリーの喧嘩なんて見慣れているでしょう? 今回はブルネルを巻き込みましたが、ナナリーは大好きな親友を守ってましたよ。もしナナリーが望めばいい騎士になるでしょうね」

 

 アルウェスの軽口に見えて毒を含んだ声音がゼノンの神経を逆なでする。ゼノンの声も険呑さを帯びた。

 

「皮肉も大概にしろ……!」

「皮肉?」

「ニケを巻き込むなと言ってるんだ!」

 

 ゼノンは椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。自分の中で何かが()ぜている。無意識にアルウェスの胸倉を掴んでいた。

 

「……どうしたんですか、殿下。らしくありませんよ」

「お前がナナリーを守りたいのはよくわかっている。だからと言ってやり方を間違えるな!」

 

 アルウェスがゼノンの手首をぐっと掴んだ。一瞬遅れてゼノンは腕に電撃を走らせる。

 

「反応が遅いですよ。……殿下を燃やしたりはしませんが」

 

 ゼノンを見下ろすアルウェスの目には鋭く冷たい光が宿っていた。

 

「僕はナナリーが国に利用されたり国同士の駆け引きに振り回されるのが嫌なだけです。もしそうなるとしたら、どんな手を使ってでも阻止しますよ」

 

 アルウェスの手から炎は出ていない。それなのに掴まれた腕が燃えるように熱かった。ゼノンはバシッと力づくでアルウェスの手を振り払うと、アルウェスの横を通り過ぎて執務室の出口に向かった。

 

「演習場に来い、アルウェス」

「……手加減はしませんよ」

 

 

 *

 

 

 ……落雷と電撃、地を焼き尽くす炎で破壊された演習場は、防御膜の外に出たアルウェスがパチンと指を鳴らすと自動的に修復を始めた。

 フェニクスのドルドを使い魔の空間に戻したゼノンは騎士団の建物へ通じる回廊の外壁に寄りかかる。

 

「手を抜いたな」

「そんなことありません。殿下はお強くなりました」

「世辞はいらない」

 

 ゼノンは指先に灯りを(とも)すと、目の前で立ち止まったアルウェスの顔を照らした。眼鏡を外しているアルウェスの瞳の色がはっきりと見えた。

 一時は漆黒で塗りつぶされたように黒くなっていたアルウェスの瞳は、今は赤に黒色の薄い膜がかかっているような状態まで色が戻っていた。

 

「お前の目……まだ少し暗いが、ほぼ赤に戻ったな。髪も金の髪が混じっている。ナナリーの首飾りのおかげか?」

「……おそらく」

 

 アルウェスはナナリーの使い魔のクリスタルから作った魔具の首飾りをつけている。血に混ざった魔物の魔力をコントロールし、本来のアルウェスの魔力を普通に使えるのはクリスタルの魔具のおかげだ。

 

「お前の恋人は有能すぎるな」

「困ったものですよ」

 

 ゼノンが苦笑し、アルウェスは面白くもなさそうに息を吐いた。

 

「僕は今夜は公爵家に帰ります」

「ああ、その方がいいな」

 

 騎士団の宿舎ではゼノンとアルウェスは同室だ。さすがにこの後同じ部屋で過ごすのは気まずい。そろそろ個室に移ってもいい気もするが、仲違(なかたが)いしたのかと変に勘繰られるのは面倒だった。

 

 アルウェスは猫のように小さくしたユーリを肩に乗せて先に外回廊の中へ歩き出したが、何かを思い出したようにゼノンを振り返る。

 

「そういえば、ブルネルにしつこく言い寄る男爵家の騎士がいたようです」

 

 ゼノンは突き刺すような視線でアルウェスを見返した。

 

「ご安心を。もう二度とブルネルに近づくことはないでしょう」

「…………そうか」

「今後どうされるんです?」

「もう少し世情が落ち着かないことにはな、何もできないだろう」

 

 今のゼノンに私的なことに時間を割く余裕はほとんどない。

 気づかわしげな表情だったアルウェスが、揶揄(からか)うような気配に変わる。

 

「ところで、ブルネルの気持ちは確かめてあるのですか?」

「……アルウェス」

 

 ゼノンは空を仰いで目を瞑った。大きく深呼吸して目を開けると青みがかった夜空には星が瞬いている。冷気を含んだ夜気(やき)が身体中を巡って気持ちが良かった。

 顔を戻したゼノンは四歳上の美貌の従兄(いとこ)を真っすぐに見つめて言い放つ。

 

「お前こそ、早く結婚しろ」

「……ええ、そうしたいですよ」

 

 アルウェスは柔らかく頬を緩め、本当の兄のように優しく笑った。

 

 





ロックマンとゼノンで一度喧嘩してほしかったんです。
解釈違いなどは承知しています。

※閑話を書く予定なので更新が遅れます。
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