ナナリーの令嬢修業   作:露草ツグミ

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更新が遅くなり申し訳ありません……!
ナナリーのドレスが決まらず、ずっと悩んでおりました。キャラに似合うドレスを考えるのは難しいですね。




4-2. 夜会のドレス

 

「──で? ナナリーはそろそろアルウェス様に申し込まれまして?」

「はい?」

 

 申し込む? 

 何を? 

 

 目を瞬くナナリーに、マリス、ノルウェラ様、そしてニケの視線が集中する。

 

「カーロラ王女の結婚式に同行してほしい、とは申し込まれたけど?」

 

 パチンとマリスが扇子を閉じる。これは回答を間違えたらしい。残念なものを見るような目でナナリーを見ている。

 

「何を寝ぼけたことを言ってるんですの?」

 

 扇子の先をナナリーに突き付けてぴしゃりと言い放つ。

 

「求婚に決まってるでしょう」

「きゅ……きゅきゅ……きゅうきょっ……!?」

 

 ナナリーがブンブンと首を横に振ると、ノルウェラ様とマリスがそろって溜め息を吐いた。

 

「まぁ、よろしいですわ。夜会に期待するとしましょう」

「なんで?」

「貴女の魅力を引き出すドレスを選んでさしあげましたから、アルウェス様も観念されると思いますわ」

「観念する?」

「夜会が楽しみですわね」

 

 ほほほほ、とマリスがあでやかに微笑んだ。

 

 

 *

 

 

 既製品のドレスしか買ったことのないナナリーは知らなかったが、ドレスを作るにはとても時間がかかる。

 仮縫いはドレスとは違う布を使い、デザインとサイズの確認をする。仮縫いはすでに終わっていて、今日は本仮縫いというらしい。

 

 ノルウェラ様とマリスがデザインや生地を決めてしまったため、ナナリーはドレスの色をまだ知らない。しかも仮縫いで着たドレスは一着ではなかった。

 

 アルウェスがその場にいればなぜ何着も作っているのか問い(ただ)していただろうが、あいにく仮縫いの日は女性陣しかいなかった。笑顔のノルウェラ様と公爵家の使用人たちに囲まれてナナリーは着せ替え人形になるしかなかったのだ。

 

「ヘル様、ブルネル様、こちらのお部屋でお待ちください。奥様がいらっしゃいます」

 

 公爵家の召使に案内された部屋に入ると、数人の女性が待っていた。

 仕立て屋の女主人とお針子たちである。女主人を中心に並んで礼を取り、ナナリーたちに挨拶の口上を述べる。

 

 仕立て屋の女主人は時間がないのですぐに試着して本仮縫いを始めるという。

 

「お嬢様方のドレスは衝立の向こうに準備しております。わたくしどもがお着替えを手伝います」

 

 ニケは正式な男爵令嬢だからお嬢様だけれど、ナナリーは平民だ。ハーレの受付嬢のナナリーより貴族相手に商売をしている女主人の方が社会的立場は上であるのに、「お嬢様」と呼ばれて丁重に扱われるのはちょっと落ち着かない。

 

 そもそもドレスを注文したのはロックマン公爵家である。ナナリーとニケはそのドレスを着て夜会に出る予定だが、あくまでも借りる立場なので仕立て屋のお客様とは言えないだろう。

 

「時間がございません。どうぞお早く」

 

 さあさあ、と急かされてナナリーとニケは衝立の裏に回った。

 

 着ていた服を脱いでシュミーズも脱ぎ、上半身は裸になってドレス用の下着をつける。

 ニケはコルセットでウエストをきつく締めあげられて声にならない悲鳴をあげていたが、ナナリーはドレスで腰を編み上げて締めるためにそれほどきつくしないでいいそうだ。

 ドレスでウエストを締めるのに、それでもコルセットを着るのかと不思議に思っていたら「踊るときに殿方の手が触れるので必要です」と仕立て屋の女主人が囁いた。

 

 ニケのドレスは橙色がかった薄紅色で、ところどころに黒いリボンの飾りがある。

 腰はきゅっと締まり、胸元が大きく開いて豊かな胸が強調されているが、騎士団で鍛えているせいか破廉恥な印象はない。全体的にシンプルなデザインである。

 

「ニケ、すごく可愛い」

 

 よそ見をしている間に召使とお針子によってドレスを着せられる。大きな姿見に映る自分の姿を見てナナリーは呆然とした。

 

「……あの、これ……わたしのドレスじゃない……ですよね?」

 

 限りなく白に近い、薄い薄い水色の、真珠のような光沢を放つ滑らかなドレス。

 

 胸元は大きく開き、肩も出ていて、袖の代わりに薄いレースが胸から二の腕を覆い、後ろ身頃に繋がっている。レースには花を象った模様が編み込まれ、シャンデリアの明かりを反射して花びらがキラキラと輝く。

 

 袖は思ったより動きやすいのだが、下手に動かすと繊細なレースを破ってしまいそうで怖い。

 腰から肩甲骨の下まで編み上げて、そこから背中は開いていている。胸元も背中も防御力が低くて非常に心許ない。

 

 編み上げの部分は硬めの布を裏に縫い付けているようで、それなりの力で締め上げても皺は寄っておらず、布が破れることもないようだ。

 

 ぎゅっと編み上げられたので腰がキュッと細く、腰から広がるスカートが美しい。スカートにも花の模様を編み込んだレースが重ねられている。

 

「まあ! なんて綺麗なのかしら!!」

「ノルウェラ様!」

「ふふ、驚かせてしまったわね」 

 

 いつの間にやらノルウェラ様がいらっしゃっていた。そっとスカートを摘まんで膝を曲げて挨拶をする。

 

「とても似合っているわ、ナナリーさん。髪の色がよく映えていること」

 

 ノルウェラ様はにこにこと上機嫌で、「いい出来栄えね」と仕立て屋の女主人を褒めた。仕立て屋の笑顔は誇らしげである

 ナナリーは内心震え上がっていたが、どうにかそれを押し隠して笑顔を作った。

 

「こんなに素敵なドレスをありがとうございます。……ですが、こんなに豪華なドレスを作っていただいてよろしいのでしょうか……?」

「もちろんよ。わたくしもとても楽しかったわ。また一緒にドレスを作りましょうね」

 

 ナナリーの手を取ってにっこり笑うノルウェラ様。笑顔で「わたしも楽しみです」と言う以外ナナリーに何ができただろうか。

 

 

 *

 

 

 ドレスの本仮縫いが終了し、ナナリーとニケはノルウェラ様に晩餐に招かれた。今日はキース君以外ロックマン公爵家の男性陣は不在だそうで、女性だけでお喋りをしましょうと微笑むノルウェラ様は可愛らしかった。

 

 ナナリーの令嬢教育は頻度は減ったけれどもまだ続いている。食事の作法も身について、会話をしながら社交を兼ねた晩餐も慣れてきた。

 

「ニケさんはゼノン殿下の秘書官になったんですってね。おめでとう」

「ありがとうございます」

「……ニケさんはご存じかしら? シーラでナナリーさんのお世話をする侍女の選別は終わっているの?」

 

 侍女? 

 お世話をするって何のこと? 

 

 話の意図が掴めず、ナナリーはニケの顔を凝視した。

 

「わたしから詳しい説明はできませんが、騎士団からナナリーをサポートする女性騎士を派遣します。ご心配には及びません」

「女性騎士が侍女の代わりをするの? ……大丈夫かしら? 王宮は人手が足りないわけではないでしょうに……」

 

 ノルウェラ様の表情が曇った。頬に手を当ててしばらく考えていたかと思うと、小首を傾げてナナリーを見る。

 

「ナナリーさん、わたくしが公爵家(うち)の侍女を連れて同行してもいいのよ? わたくしはミスリナ王女のお世話係りだから肩書は充分でしょう。ミハエルに頼んでみるわ」

 

 ナナリーはぎょっとしてナイフとフォークを取り落としそうになる。騎士団の決定を覆していいのかと隣に座るニケを横目で見てみれば、ニケは貴族的な笑みを顔に貼り付けて何も言わなかった。

 

 ニケ! 何か言って!! 

 

 視線で訴えるものの、ニケは笑みを深めるだけ。「無理」というニケの声が脳内で聞こえた。

 

 このままじゃノルウェラ様が一緒にシーラへ行くことになっちゃう……! 

 

「ロウ、王宮に使いを出してもらえる? 相談したいことがあるからミハエルに早めに帰ってきてほしいと伝えて」

「かしこまりました」

 

 ノルウェラ様はおっとりした見た目と裏腹に行動が早く、にっこり笑顔で圧しも強い。

 ナナリーが絡んだときはアルウェスとしょっちゅう攻防を繰り広げているが、この二人の思考回路はよく似ている。母と息子の意見が一致したら誰も敵わないだろう。

 

「ミハエルに頼んでみるから任せてちょうだいね」

 

 にっこり笑ったノルウェラ様に、ナナリーは曖昧な笑みを浮かべるしかできなかった。

 

 





ニケのドレスはコーラルピンクです。(橙色がかった薄紅色)

ノルウェラ様はシーラに同行するのか……!?
作者にも予想外の展開となりました。
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