第六駆逐隊をエレン・イェーガーが指揮したらどうなるのか? 作:なおちー
その日の訓練には提督が立ち会うとのことで、
いつもの練習海域に第六駆逐隊のメンバーが集められた。
朝ご飯はしっかりと食べたがまだ眠い。
昨日はみんなで夜更かししてトランプに熱中してしまったのだ。
朝日がまぶしく、海の青さが目に痛いくらいだ。
雷が嫌そうな顔をしながら言う。
「あの司令官が現場で直接指導してくれるのは初めてね。
今日はいったいどんな訓練をするのかしら」
「さあね。あの人の考えは私には分からないよ。
なにせ、あの司令官だからね……」
響はどこか冷めた様子だった。
第六駆逐隊の中での提督の評価は、得体の知れない異常者だった。
考え方によっては深海棲艦よりも恐ろしい。
彼は突拍子もない作戦を考える愚か者にも見えるが、
長門や陸奥にはこれほど鋭い戦略眼を持つ司令官は
大本営にも存在しないとまで言わしめる。
瑞鶴にはただのバカだと酷評されている一方、
金剛や榛名からは「男らしい」と慕われているなど、まさに賛否両論だ。
やがて件の提督がやって来て、駆逐艦達に軽く挨拶を済ませる。
どういうわけか、彼の服装は白のタンクトップに
半ズボンというラフな格好だった。
提督はさっそく小舟に移り「俺を目標にして撃て」と言った。
今ので説明は済んだのか、それ以上は何も言わない。
提督は、吹けば飛ぶようなボロ船の上で腕組みをしている。
謎の余裕。不動の姿勢。まさに洋上の良い的だ。
電や暁は激しく動揺し、提督の正気を疑うわけだが、
なぜだか響だけは冷静にこう言った。
「あの人が良いって言うんだから、試しに撃ってみようか」
「響ちゃん!?」
電が止めにかかるが、響は聞かず、速力を上げて
自らの司令官へ向けて主砲の照準を合わせる。
12.7cm連装砲が火を噴き、提督の後方へ着弾。水面が荒れる。
提督はその方向をちらっと見るが、腕組みの姿勢を崩さない。
響は、今度は動きを停止して射撃した。今度は提督の胴のあたりに命中した。
「うっ。マジいてえ」
提督は左腕がごっそりと持っていかれ、
付け根から骨まで見えているわけだが、
身体全体から謎の蒸気が発生して左腕が復活する。
ナメック星人もびっくりな再生能力だった。
他の姉妹たちは恐ろしさのあまりガタガタ震えているが、
響だけは冷静に提督に話しかけていた。
「やはり君は普通の人間ではないようだね」
「まあな。ちょっと鍛えてるからな」
「鍛えてる……? フフッ。面白い冗談だね。
そんな言葉ではもう誤魔化されないよ。
君の正体をそろそろ教えてくれてもいいんじゃないのか」
「進撃の巨人だ」
「巨人?」
「ああ。俺は人じゃなくて巨人だ」
「巨人って何のことだい。古い本とかで語られる伝説上の生物のこと?」
「そんなところだな。話すと長くなる。
それよりも今は訓練の続きをしようじゃないか」
「……分かったよ。私だって時間を無駄にするつもりはない」
響は魚雷を発射した。61cm3連装魚雷発射管から発射された魚雷の内、
提督に命中したのは1発だったが、彼の乗る小舟を木っ端みじんに
吹き飛ばし、提督もまた空高く吹き飛んだ。
彼は今度こそ即死するはずだったがまだ生きている。
傷ついたことよりも溺れそうになっていたことの方が
大変だったので雷と電が救助してあげた。
「すまねえな。俺は泳ぐのは得意じゃねえんだ」
彼の両足の膝から下が失わており、海面にはおびただしいほどの
血が流れているために電は直視できず、
雷は「こ、困ったことがあったらなんでも私に頼りなさいね」
と弱弱しく言う。雷の場合はただの口癖だ。
本当は今すぐこの無意味な訓練もどきを中止して欲しかった。
それを代わりに口にしたのは暁型駆逐艦の一番艦、すなわち長女の暁だった。
「こんな訓練に何の意味があるのよ!!」
「暁……」
「生きた人間を撃てだなんて、そんなバカな命令をする司令官なんて
全世界を探してもあんただけよ!! あんたはどんだけ撃たれても
死ぬことはないにしても、もっと自分の身体を大切にしたらどうなの!!」
「俺は経験を重視する。君達の火力をこの身で受け止めることによって
君達の戦闘力を体感してみたいと思ってな。正気じゃないのは自覚している」
「あんた……やっぱりどうかしてるわ……」
「そうかもしれないな。だが響はためらいなく俺を撃ってくれたぞ。
なあ、響?」
「君が撃てと言うから指示に従っただけだよ」
「そうだ。艦娘はそれでいい。だけど君達にも君達の考えがあるだろう。
これから説明したいことがあるんだが、まずはその前に……」
提督は陸に引き上げてもらった。
失われた足の回復にはまだ時間が掛かると言うので車イスを
持ってきてもらう。不思議なことにもう出血は止まっていた。
切断部から筋肉や骨が見えていてグロいので
応急処置は自分でやると言い張るが、気の毒になったのか
響と暁が患部にガーゼを当て、包帯を巻くのを手伝ってくれた。
雷と電は吐き気をこらえるのが大変なので見ないことにした。
イェーガー司令官は「ふぅ」と息を吐く。
「訓練は以上だ。次の作戦を説明する」
――敵の潜水艦隊をぶっ殺すぞ。
つまり対潜を強化したいわけだが、彼の説明の仕方が
いきなり殺人級の強面で始まったものだから、
電が声を出して脅える。まるで自分が殺されるのかと錯覚してしまう。
暁が動揺しながらも言う。
「ぶ、ぶっ殺すってそんな軍事用語はないわよ。
敵の潜水艦を沈めるってことでしょ」
「そうだ。前のブリーフィングでも説明した通り、最近は
ショートランド近郊で我が国の商船や輸送船が
敵の潜水艦によって多数沈められている。
実は補充の陸軍兵が乗った輸送船まで沈められてるんだ」
「ひどいわね。陸軍の人まで犠牲に……」
「これはマジでシャレにならない事態だ。
その一件で陸軍は激怒し、海軍の責任だと言い張って俺の胸ぐらを
掴んできた。むかついたんでぶっ飛ばしてやったけどな」
「……ついに陸軍に手を出しちゃったのね。大丈夫なの、それ?」
「すまん。少し話がそれたな。
君達はすでに対潜戦に関してはベテランだと聞いているから
あえてテストはしなかった。これから実戦でさらに鍛えていこうと思うんだ。
さっそくだが午後から出撃しよう。
ソロモン海域周辺にて敵潜水艦の捜索、および通商破壊任務を行うぞ」
「ええ!? ちょっと急すぎない?」
「今から焦ってやらないと我が方はジリ貧になって最後は負ける。
皆も大変だと思うが国のためだと思って我慢してくれ。
この作戦には俺も参加する」
「司令官も参加するの!?」
提督は、艦隊編成を発表した。
第六駆逐隊の響を旗艦とし、暁、雷、電が続く。
重雷装艦の北上と大井、
前線指揮官として提督を加えた計7名の編成となる。
その案を聞いて、旗艦に任命された響自身が
「君は一度医者に行って頭の具合を見てもらった方がいい」
と真剣な顔で言った。
提督は足の膝から下が失われており、車イス生活の状態だ。
新しい足が生えるまで三日ほどかかるらしい。
これではどうやっても海上戦闘に付き添うことはできないし、
仮に空から支援するにしても自慢の航空機の操縦も絶対に不可能だろう。
「心配すんな。俺にはこれがある」
と指さした先にあったもの。それは『イルカの浮き輪』であった。
まさかとは思うが……浮き輪に乗って戦場へ行くつもりなのか?
その浮き輪は小学生がプールなどに持ってきそうなオモチャである。
響はもう転属したくなった。姉妹の中で一番気性の
おとなしい電でさえも頭に血が上る。
暁が思わず怒鳴り散らしたくなる衝動に駆られるが、
その前に雷が怒声を上げた。
「死にたいの!? あんたは!!」
「うおっ。びっくりしたっ」
「司令官は戦争を遊びだと思ってるの!?
私達艦娘は命を懸けて深海棲艦と戦っているのよ!!
潜水艦は姿が見えないんだから、あいつらと戦うのは
すごく大変なのよ!! それなのに浮き輪ってどういうこと!!」
「まあ待て。落ち着け。
つーか雷が俺に話しかけてくれたのは初めてだな」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!
いい加減にしないと執務室のイスに縛り付けておくわよ!!」
「分かったよ。さすがに浮き輪はまずそうだな。
俺は陸地で生まれ育った人間だから実際の海のことは
そんなに詳しくねえんだ。悪いな」
「だったら一緒に来るのは諦めなさい。
司令官は司令官らしく執務室にいるべきだと思うわ」
「待て。俺だって浮き輪を断られた場合のために
別の手段を考えてあるんだよ」
提督が用意したのは、陸軍の将兵から借りたクルーザーだった。
このクルーザーは漁船を兼ねている。モーター式で稼働する上に
ガラス張りの船内にこもれば雨風を防ぐこともできる。
提督はクルーザーの中から無線で指示を出すと言い張るが、
雷を余計に怒らせるだけだった。
「そんな弱い船で前線に出るなんて危険すぎるわ!!」
「やっぱりダメか?」
「ダメに決まってるでしょ!!
司令官を守るために私達が戦いに
集中できなかったら本末転倒になっちゃうじゃない」
「……」
うなだれるイェーガー司令官。さすがの彼でも
第六駆逐隊のみんなから嫌われたくないので
ここはおとなしく引き下がろうと思った。
それになぜだか雷ちゃんに叱られると
ムカつくどころか胸の奥が暖かくなる感じがした。
「だったら提督の護衛はあたしと
北上さんが代わりにやってあげるわ」
大坪由佳の得意げな声が聞こえた。
そこにいたのはレズカップルと噂される大井っちと北上さんだった。
「ね? 北上さん」
「うん。今回の作戦の目的は第一に第六駆逐隊の練度向上なわけだから、
駆逐艦の皆には対潜戦に集中してもらいたいよね」
「そうそう。さすが北上さん」
「それに提督の護衛なんて適当にやっておけばいいんだよ。
この人って結局は不死身なわけだから
敵の弾に当たったとしても私達は気にしなくていいんじゃないかな」
「北上さんの言う通りよ。提督なんて別に守る必要もないし、
全線で指示だけ出してくれたらいいわ。
もちろん変な指示だったらガン無視するけどね」
大井は口ではそう言うが、一部の艦娘の間では提督の
作戦立案能力は決して悪くないという噂を小耳にはさんでいた。
北上さんは、この男が司令官として使い物になるのかどうかを
今回の作戦でテストしたいと思っていた。