第六駆逐隊をエレン・イェーガーが指揮したらどうなるのか?   作:なおちー

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戦争は過酷だぜ。


水雷戦

敵の潜水艦をぶっ殺せ。輸送船も沈めろ。

ただし、駆逐艦以上の大型艦艇との勝負は避けろ。

 

以上が提督から渡された指示書に書いてあった内容だ。

作戦海域は具体的に示されていたが、なんとも適当な内容である。

 

細かいことは現場で判断し臨機応変に対応するべし。

作戦内容は単純に限る提督が言い張る。

 

実際の戦闘が開始されたらその時の状況は

安全な場所で待機している司令部には把握できないものだ。

イェーガー提督はその誤差を無くすために自らが戦場に出る。

 

第六駆逐隊(大井と北上含む)はショートランド泊地からから北東へ進んだ。

本国からショートランド泊地への輸送路はすでに敵に把握されていているから、

その線に沿って部隊を展開すれば、いずれ敵が警戒網に引っかかると思われた。

 

「ソナーに反応ありです……」

 

周囲を警戒していた電が言う。艦隊に緊張が走る。

 

響が提督に指示を仰ぐために通信する。

 

「カ級潜水艦と思われます。数は3隻」

 

「よし。ぶっ殺せ」

 

「……了解。第六駆逐隊は爆雷を投下します」

 

各艦娘が三式爆雷投射機が発射態勢に入った時だった。

大井に突然、敵の魚雷が命中して大爆発を起こす。大井は盛大に吹き飛んだ。

北上さんにも命中し、右舷の魚雷発射管が爆破された。

 

「何が起きたの!!」

「待ち伏せしていた別の潜水艦によって攻撃された模様!!」

「あれは……レーダーに別動隊の反応あり。潜水艦カ級エリートがいるわ!!」

 

第六駆逐隊は戦闘経験が豊富なために緊急時の対応は早かった。

雷、電、暁からの報告を聞いた響は、いったん回避行動を取るよう指示を出した。

 

「お前ら逃げんじゃねえよ。ようやく敵さんが自分から居場所を教えてくれたんだ。

 我が艦隊の全力をもってカ級エリートに対して雷撃を開始しろ」

 

そうは言われても、目標が見えない。

すでに魚雷を撃ち終えたエリートらは潜行している。

潜水艦は攻撃のために浮上した後に海の底へ逃げるのが常だ。

 

とにかく反撃しないとやられる一方だ。

第六駆逐隊の有する三式ソナーには敵潜水隊の大まかな位置は

分かるが、詳細は不明。よって適当な位置に爆雷を投下するしかなかった。

 

その数秒後、爆雷が点火して海面が一斉に盛り上がる。

はたして倒せたのかどうかも分からない。ソナーにはまだ敵の反応がある。

 

「敵が顔を出したよ!!」

 

その時、ちょうど第六駆逐隊を狙うために浮上したカ級潜水艦を

補足した北上さんが、敵が魚雷を発射したのとほぼ同時に撃ち返した。

 

これは常軌を逸した反応速度だった。

例えるなら漁師に銃で狙われたことに気づいたキツネが、

自分が撃たれるより前に噛みつきに行くようなものである。

 

北上さんの左舷から一斉に魚雷が発射される。

同艦は61cm魚雷発射管を左右各舷4連装5基20門、両舷合計40門搭載している。

右舷はすでに損傷しているので左舷から合計20発を発射した。

 

海面を無数の白い波が行き交う。

 

「きゃぁあ!!」 大井がまた被弾。足が大爆発を起こして転んだ。

「ぐええええ?」 カ級にも命中。一撃で沈んだ。

「ぐおぉぉ?」  もう一隻のカ級に命中。大火災を起こし、こちらも沈んだ。

「あぶなっ!!」 雷はギリギリで回避した。

「おっと」    響は三連装砲を海面に斉射して魚雷を破壊した。

 

双方に被害が出て戦場が混乱した。

 

「反撃するなら今しかないわ!!」「了解なのです!!」

 

ここで第六駆逐隊の四隻が、にわかに動きの鈍くなったカ級艦隊に

対して全速で接近し、彼女らがいると思われる海域に爆雷を投下した。

 

爆雷投下後、急速でその場から離れる。祈るような気持ちで見守ると。

 

「ぐごぉぉぉぉぉぉ!!」 1隻のカ級を撃破。

海中で爆発が起き、断末魔を上げてるのが海上からでも聞こえた。

 

第六駆逐隊の艦隊運動はサーカスを見ているように鮮やかであり、

その後に別の敵が撃って来た魚雷6発を、取り舵一杯で簡単にかわしてしまう。

全速で海を駆ける駆逐艦隊はこの状況で一発も被弾していない。

これに比べたら鈍重な戦艦は歩いてるようにも感じられてしまう。

 

ちなみに運よく無事だった提督のクルーザーも

最大船速で航行し、第六駆逐隊の雄姿を近くで見守っていた。

まるで好きな芸能人を追いかけてる熱狂的なファンのようだ。

 

ここで形勢が逆転した。

深海棲艦の潜水艦隊は勝ち目が薄いとみて各自散会し、退却を始めた。

潜水艦は一度逃がしてしまうと補足が大変に困難だ。

 

こいつらをここで全滅させないとまた輸送船に被害が出る。

輸送物資が減れば、その分だけショートランドの防衛は困難になる。

ここで逃がした一隻が、最後は自分の首を絞めることになる。

 

「戦いは気合いだ。敵に致命的な打撃を与え、立ち直れなくなるくらいの

 ダメージを与えることができたら、それは戦術的な勝利を超えた

 戦略的な勝利になり得る。あの艦隊の旗艦はエリートだ。エリートを狙え」

 

しかし、敵は広範囲に散っているのだ。

仮にどれかに狙いを定めようにもどれが旗艦なのか判断がつかない。

 

「あの方角だ」

 

とイェーガーが指す方角があった。南南西の方角だ。確かにそこに潜水艦が一隻いるが。

 

「第六駆逐隊に命じる。最大船速で目標を追撃。

 目標のいる海域に達したら爆雷を投下だ。弾を惜しむなよ」

 

「ヤー。了解したよ」

 

響を先頭に小柄な駆逐艦隊が敵へ突撃する。単縦陣だ。

一糸乱れぬ見事な体形であり、その速さは風を切り、大きな白波を発生させる。

 

目標が潜行している周囲をぐるりと回りながら全爆雷を投下した。

筒形の形をした爆弾は、ゆっくりと海の中へ落ちていき、閃光になる。

海面がいくつも盛り上がり、波が荒れる。

 

よし。これだけ撃てば倒せただろうと思われたが、ソナーにはまだ敵の反応がある。

この海域は浸水が深く、エリートは海底でおとなしく待機して爆雷をやり過ごしたのだ。

もちろん一斉に発射された爆雷が当たらなかったのは奇跡に近いが、

その奇跡が実際に起きてしまった。

エリートは第六駆逐隊が去るのを待ってから逃げればいいだけだ。

 

響が帽子を深くかぶり、提督に告げる。

 

「司令官。今回の作戦はもうここまでだ。私達は持ってる爆雷を使い果たした」

 

「まだ終わってねえ。俺がいるだろ」

 

「何を言ってるんだ司令官……?」

 

「いいから黙ってみてろ。俺が海に潜ってる間、

 艦隊には周囲の警戒を怠らせるなよ」

 

提督は潜水服に着替えていた。そして躊躇いなく海面へ飛び降りた。

 

このショートランド付近の海域は水深が深く、

最大で4000メートルに達するところもある。

敵のカ級エリートも水圧で装甲が破壊されるリスクを起こしてまで

潜行し続けていることもあり、やはり浮上を始めていた。

 

水深2400メートルあたりで両者が顔を合わせた。

一番驚いたのは深海棲艦の方だ。目の前に人間がいるのだ。

 

人間がこの水深まで降りてくることがまず異常であり、

しかもあろうことか、そいつは自分に対して敵意を持っている。

潜水服のヘルメット越しにイェーガー提督の目つきを見てしまった

エリートは戦意を失い、その水深のまま回れ右をして逃げ出した。

 

「お前は絶対にぶっ殺す」

 

この提督、完治に三日かかると言っていたはずの足が

すでに復活しており、全力で泳ぎながら敵を追いかける。

手にはモリ(突くためのヤリ)を持っている。

 

提督はモリを片手で突き出した。

 

「うぎぃぃぃいい!!」」

 

しかし狙いが外れてしまい、敵の左の足首に刺さった。

顔を狙ったはずだが海中なので思うように体が動かない。

 

「うぅぅぅぅぅぅうぅぅぅうううう!!」

 

エリートはうめく。足から流れる血の量がすごく、

美しい海を赤く染めていく。やがて彼女は潜水してることが

困難になっていき、どんどん浮上していく。

 

彼女の苦悶に満ちた声は、海上で待機していた艦娘達にも聞こえており、

ついに海面に姿を現した潜水カ級エリートに対し、

第六駆逐隊の四隻は一斉に魚雷を発射する。

すでに負傷している北上と大井は主砲で援護した。

 

主砲弾と魚雷を同時に食らったエリートは一瞬で炎に包まれ、

断末魔の叫びをあげながら海の底へ沈んでいく。

 

彼女と入れ替わりで潜水服の提督が海面に浮かんできた。

しかしどういうわけか、彼はまた沈んだ。

次にまた浮かんできては沈む。それを繰り返した。

 

一体何をしてるのかと艦娘達が呆れていると、雷が叫んだ。

 

「司令官は泳げないのよ!!」

 

そう言えばそうだった……。皆がそう思いながら提督を

雷が提督を引き上げるのを見守っていた。

 

「すまねえな雷。まじで海の底まで沈むかと思った」

 

「泳げないくせに無茶するからよ。私に感謝しなさいよね?

 バタ足すらできないカナヅチのくせによくエリートを倒せたものだわ」

 

「あの時はなんていうか、必死だった。

 人間は死ぬ気でやれば何でもできるもんだなって思ったよ」

 

「いやあなたはもう……人間じゃないと思うけど」

 

とにかく困ったときは私が助けてあげるんだから、

もっと私を頼りにしていいんだからね?と雷に言われ、

感動した提督は涙を流しそうになった。

 

(雷ママ……)

 

やはり第六駆逐隊には幼馴染のミカサ・アッカーマンとは

異なる魅力がある。決してミカサのことが嫌いなわけではないが。

 


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