悪竜退治の英雄な俺が信奉する神様は悪神らしいが、異教の神全部倒したら正義の神にアップグレードするらしい。頑張る、俺、最強チート転生者だから……。   作:風の教主より、伝聞。

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003 旅行

「ふふ、久方ぶりの肉体であるぞ! ハハ、ハハハ!!」

 

 神様はとてもはしゃいでいらっしゃった。

 リーナちゃんが自らを犠牲にして、神様に肉体を与えたからだ。

 

 リーナちゃんの豊満な身体は上塗りされ、神様の幼女な身体に変化している。二度と元の身体には戻らない。加えて、儀式の際、神さまの薬で三日間悶え、一生分の快楽を味わい魂がボロボロとなったために、もうリーナちゃんが戻ってくることもないらしい。

 けれども、信者としての本懐と、喜んでリーナちゃんはその身を捧げていた。

 

「よかったですね。神様」

 

「みるのだこれを、お揃いだのう……」

 

「そうですね」

 

 神様は左手の薬指に付いている指輪をみせる。

 俺についている呪われた指輪と同じ形、そして同じような色、光り方の綺麗な石が怪しく煌めいている。

 

 普通はそんなことないらしいが、肉体を上塗りした際に、おまけに精製されたようなことを神様は言っていた。

 取れないらしいが、神様はそんなことを気にせずに、お揃いと無邪気に喜んでいる。

 

「ささ、お茶です」

 

「すまぬの」

 

「いえいえ」

 

 神様にお茶を献上する。

 神様自身、食べ物の味は感じられないそうであるが、お供えの心配りは美味しいらしい。

 

 神様のために心を込めて、淹れたお茶だからこそ、きっと一味違うだろう。

 神様のために尽くすこの生活はいつにもなく幸せだった。

 

「ふふ、今夜も空いておるか? 空いてないというのなら、我のために空けるのだ」

 

「神様の仰せのままに。というか、神様、私のこと好きですか?」

 

「おお、好きである。好きである。この気持ちはもう止められぬ」

 

 肉体を得てから、こんなふうに神さまは俺への好意を隠さずに表現してくれていた。

 

「神様も、そんなふうに好きになったりするんですね」

 

「そりゃそうであろう。愛人やら、隠し子やらで骨肉の争いを繰り広げる神話はあるにはあるのであるからな」

 

「たしかに……」

 

「他の神に浮気したら許さぬ」

 

 ドスの効いた声で神様は言った。

 

「私の神様はあなただけですよ。異教の神など神ではありません」

 

「そうであるな! そうであるな! さすがは我が寵愛を受けし信徒! フハハ、フハハ!」

 

「……ふふっ」

 

 高笑いをする、そんな神様を抱きしめる。

 この神様以外、この世になくたっていいと思える。今までに感じたことのない幸せだった。

 

「あぁ、そうであった。受肉した目的を忘れるところであった。我は外に出るぞ? 少し、他の神の勢力圏を確認して見て回りたい」

 

「そんな、神様が直々に……。私が代わりに」

 

「ならば一緒に行こうではないか? 我らのハネムーンでもあるか」

 

「ハネムーン……!」

 

 そんな……。

 

「どうしたのだ? そんな顔を赤くして……?」

 

「神様神様。受肉して生まれた子どもはどうなるのでしょう?」

 

「あぁ……心配せずとも、我の子であるな。肉体は完全に上塗りされておる。ふふ、ハネムーンといえば確かにそうだ。我も努力をしようではないか」

 

「……っ」

 

 神様は不敵に笑っていた。

 その肉体の元となったリーナちゃんは、可哀想であったのだが、神様の役に立てていることと思えば、本人は幸せなのだろう。

 

「そうだった。お主が出歩く際には、この仮面をつけるのだ」

 

「仮面ですか……?」

 

 目元だけ隠すような、豪華な装飾のされた仮面だった。どこでこんなものを手に入れたのだろうか。神様は不思議だった。

 

「その、お主は、見た目がの……女を惹きつけるであろ? それがあった方が良いと思ったのだよ」

 

「そうですか……」

 

 そういえば、俺にはこう、街を歩けば、女の子が一目見るためか、寄ってきたりする。そんなことがあった時代があった。それに、よく有力者の娘に街角でぶつかられ、因縁をつけられて結婚まで持ち込まれそうになったのだったか。

 

 他の相手を見繕い、その全てを躱してきたからこそ今がある。当時の権力者の全ての娘に、納得できる相手を用意するのは大変だった。

 チート転生者だから仕方がないことだが、少しだけうんざりと思った時もあったか。いい思い出だ。

 

「理解してくれるならよいのだ」

 

「では、神様も仮面をつけましょう。こんなにも美しい神様が、市井の者に素顔を晒すなどあり得ません!」

 

「言われてみればそうであるな。では、共に顔を隠しながら、仮面夫婦と洒落込もうか」

 

「その響き、なんか嫌ですね……」

 

 そうして、俺たちは、街に出る際は、仮面をつけることになった。改めて考えれば、見た目はすごく怪しかったが、素顔のまま出かけるよりは、きっと人目を引かなかっただろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

「電車……いや、汽車ですね。まさかここまで発展しているとは……」

 

 俺は神殿に篭っていたからわからないことだったが、今世の俺が生まれ育った中世風の街ではなく、時代を一つ超え、近代風の世界になってしまっているようであった。

 

 まぁ、五百年も経てば、時代が過ぎてしまうのも当然と言えば当然だろう。

 

「むむ、どうやら、魔法は廃れてしまっているようであるな……」

 

「そうですね……」

 

 魔法は個人の力によるところが大きい。

 儀式などをして、神様の力を借りればある誰でもできはするが、生贄や触媒が必要で、しかもどんなに万全を期しても神様の機嫌という不確定要素を排除し切れない。

 

 こんなふうに、誰で目使える便利な技術が発達するのは、必然だろうか。

 せっかく前世と違う剣と魔法の世界だというのに、物悲しさを心に感じる。

 

「はは……っ、早い! 早い! 馬車なんかよりずっと早いのう!」

 

「意外と、早いですね」

 

 それほどの速度が出せるとも思っていなかったが、そうでもなかったようだ。

 この汽車の出している速度といえば、神様の表現した通りだった。

 

 最初は、徒歩での長旅になるかもしれないと覚悟した目的地へも、すんなりと辿り着けてしまう。

 

「ふふ、ここが首都か……!」

 

「ええ……煙が……」

 

 空気が綺麗とはお世辞にも言えなかった。大気汚染が進んでしまい、目の前の景色はモヤがかかったように少し遠くも見通すことさえできなかった。

 排気ガスを出しながら、俺の前世だったならば年代ものと言えるような車が、道路を騒音を立てながら走っていく。

 

「見ないうちに随分と発展したものであるなぁ」

 

「えぇ」

 

 乗り物自体もそうだが、鉄道や道路……インフラの整備技術も俺が旅をしていた頃に比べたら、飛躍的に進歩しているようだった。

 

「みるのだ! これをみるのだ!」

 

「え……かみ……いえ、リーナさん?」

 

 神様と呼ぶのは控えて、リーナさんと今は呼ぶことになっている。人目のあるところで神様と呼ぶのは不思議だからだ。

 神様自体に名前はないらしいから、その肉体のもととなった彼女の名前を使わせてもらっている。

 

「これであるぞ!」

 

「あ……これは……」

 

 いつのまにか、本を手に持って、神様はこちらへと寄ってきていた。

 神様は今の一瞬でその本を買ってきたのだろう。

 

 お金に関していえば、近くの村のみんなのお布施のおかげで、今回の旅で苦労しない分は持っている。

 

 サリーさんや、信号機みたいな色をした三人娘が神殿で留守を守って、見送ってくれたからこそ、俺たちは安心して遠出ができた。

 その時にサリーさんがくれた帽子を神様は被っていた。

 

 そんなことを思い出しながら、神様から渡していただいた本の中身を確認する。

 

「悪竜退治の英雄であるな!」

 

「あぁ、昔の。著者は……リカードですか……」

 

 彼の視点で綴られた物語だった。

 やけに俺の活躍だったり、性格が誇張して書かれているように思えるが、リカードなら仕方がないだろう。

 

 最後に、俺が新たな邪悪を滅ぼすための旅に出たと綴られて、物語は締められている。

 

「『この竜退治で活躍したのは私ではない……この本の印税は真の英雄である彼か、その子孫が受け取るべきだろう。もし彼か彼の子孫がこの本を読んだのなら、ぜひ連絡をいただきたい』と書いてあるぞ? この連絡先に行ってみるか?」

 

「いえいえ、五百年前のことでしょう? 今更私が出ていったとしても、混乱を招くばかりです」

 

「ま、賢明であるな……。ほれ、続編もあるぞ?」

 

 それは『悪竜殺しの英雄と四人の姫』という題名の本だった。

 著者はリカードと全くの別人。後世の創作だろう。英雄と女性たちのラブロマンスな短編集だった。

 ただ、姫と銘打たれて出てきた四人の女性の名前には、全て心当たりがある。

 

「どうして、こんな話が……」

 

「んー、どうやら、くだんの英雄との隠し子がいたと名乗り出た四人の女性がモデルであるらしいのぅ。ある程度、親密な関係だったと周りのものは知っておったから、隠し子であると、疑われてはいないようであったそうな……」

 

「そんな……」

 

 彼女たちが、いもしない俺との子どもをでっちあげるような性格だったなんて、思いもよらなかった。

 やむにやまれぬ事情があったのかもしれないが、それでもあんまりだろう。俺は悲しくて、泣いた。

 

「む……どうやら、竜殺しの血を引く四大公として、未だ権勢を誇っているらしい。名誉も財産も、上手く利用されておる」

 

「……うぅ……」

 

「まぁ、気を落とすな……。今は我がいるであろう? 過去など気にせんでもな……」

 

「神様……! やはり私にはあなたしか!」

 

「やめい、公道であるぞ!」

 

「あ、すみません」

 

 とっさに神様から離れる。

 なにもしなくとも仮面で目立つのだから、余計に目立つことをしては人目がこちらに集中してしまう。

 失態だ。

 

「さて、本題であるが……」

 

 そうして、また神様は何枚かの紙切れをその手に持っていた。

 広告だろうか。

 

「それは……?」

 

「子供も泣き止む『ラッフィング・ミルク』。夜も働くあなたのための『ウェイキング・シュガー』。ちょっと一息『ドリーミング・スモーク』」

 

 一枚一枚、神様は広告を俺に見せてくれる。

 

「はぁ……」

 

「この三つに使われているのは、我の『神薬』と同じ……まぁ、神の作る信仰の儀式のための薬であるな。効能はじゅうぶんに薄めてあるようであるが……」

 

 神様は、そう言って、現物を道路に三つ並べていた。

 ミルクの瓶に笑顔が貼り付けられていたり、砂糖の箱にぱっちりと開いた目が描かれていたり、喫煙の紙巻きが入った箱は眠る子羊の絵柄でパッケージングされたりしている。

 

「つまり、その元締めのところに殴り込んで……」

 

「我も『神薬』を薄めて売ることにした!」

 

 目を輝かせて神様は言った。

 

 近代……産業革命による大いなる発展。そして進む科学技術。

 しかし、その栄光の影では、依存性のある薬物が、安価な粗悪品を含めて、労働階級へと蔓延していた時代でもあった。

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