悪竜退治の英雄な俺が信奉する神様は悪神らしいが、異教の神全部倒したら正義の神にアップグレードするらしい。頑張る、俺、最強チート転生者だから……。 作:風の教主より、伝聞。
「フハハハハ! 金、金、金!!」
神様はたくさんのお金をばら撒いて楽しそうに遊んでいた。
俺のチート転生者な能力を活かして企業したのだった。
俺たちの売り出したかったものは魔術的な薬であるから、化学的な解析は通用しない。一応カムフラージュのために、方向性は似ているが明らかに薬効の弱い化学物質で特許を取り、それを混ぜている。その物質の効果を強める独自の方法があるというていで、周りには説明をしている。
俺たちが売り出しているのは、『夜のお供に』をキャッチコピーにした、男女の仲が円滑に深められるような薬だった。
「神様、神様。依存性や乱用が社会問題です」
「ふん、そんなものボトルに書いた用法を守れば問題ないであろう。ちゃんと考えて効果は薄めてあるのだからな。書いてあることも守れない人間どもが悪いだろう」
「神様。我が社の薬を悪用した凶悪な強姦殺人が……」
「ええい! 包丁を作ったものが悪とでも言いたいのか! この下衆な新聞社どもめが! 貴様らも、販売をやめたら困るだろうに!! うがー」
そして、こんな調子だった。
製品は一本であるが、経営自体は順調だ。販路を他国にまで広げるという話さえきている。我が社の栄光は約束されたものだろう。
それほどまでに我々の薬の需要は圧倒的だった。
ちなみに、一般用の薬に混ぜる『神薬』は、儀式に使った際の数千分の一にも満たない濃度だそう。
あれは、それでも満足できる効能が出せる凄まじいものだった。
「神様、神様。生産速度をもう少し上げられませんか?」
「うむ……であるが、信仰のパワーを薬に変えているのだ。まぁ、この『神薬』を使うという行為が、我を信仰することでもあるわけであるから、このままシェアが広がっていけば、それに応じて作る速度も上がっていく。そう焦るでない」
神さまが薬を広めようと言った狙いも本来はそこだった。
世に蔓延していた『神薬』を見て、その信仰を集めるという狙いをすぐに神様は見抜いたのだった。お金を稼ぐというのは、主目的ではなかった。
では、なぜ神様がお金で遊んでいたかというと、それは俺が貢いだからだ。
稼いだお金は俺からのお布施ということで、信仰パワーを底上げしている。もらったお金で神様は楽しく遊んでいた。
「ふふ……お金、使わないんですか? パーっと、使って神殿でも増強したらいいかもしれません」
「む……。そなたからのプレゼントでもあるからな……もったいなくて使えぬ」
床にばら撒いたお金の上に寝そべりながら、神様はそんなことを言った。
神様は、信者からの贈り物を大切にする神様だった。
「今度は形あるものとして御供えしましょう」
「そうであるな……それがいい。あ、そうだった。これを伝えようとしていたのだった!」
「これは……」
新聞のスクラップのようだった。
どの記事も、殺人事件についてが書かれていて、それらを一つにまとめたものだった。
犯人は捕まっていたりいなかったり、刃物での残虐な殺し方だったり、薬物での毒殺だったり、無差別殺人というところ以外は、共通点はあまりないように思える。
「まぁ、見ておれ? これはこの街の地図であるが……」
神様は事件の起こった場所を点で記して、それを起こった順にか一筆書きになぞっていく。
幾何学的な文様が浮かび上がった。
「何かの儀式ですかね……?」
「魔法陣である。神の降臨を目的としたもの……これが完成すれば、この街には悪神が降りてくるであろう」
「悪神ですか……」
「わずかな時間ではあろうが、神の本体が顕現するのだ。今の我の受肉とはわけが違うよ。現れてしまえばやつらの信仰も高まり、我らと大きく差をつけられるであろう」
「それは大変だ」
異教徒については調査中だが、その存在はいくつか確認できている。この国自体は、今は精霊信仰のような形だった。昔は違ったと思うが、五百年も経てば、まぁ、変わるだろう。
その中で密教のような形でいくつかの宗教が地下に潜んでいた。
「そして、ここは最後の一点。もはや猶予はないと考えてよい。向かうぞ?」
「はい! 行きましょう!」
仕事を全て部下に任せて、神様の示した場所へと向かう。
チート転生の力で作った会社は、代表がいないくらいでどうにかなるやわな作りではなかった。
ついた先は、大通りから一つ逸れて、寂れた裏路地のようなところだった。
覗いてみれば、ふらふらと、老齢で、やけに身綺麗な男が歩いている。隣には若い女性が付き従っていた。
俺たちは隠れて様子を窺う。
「社長さんよ。こんなところに何のようですか?」
待ち構えていたのか、着慣れたスーツでやけにカッコよくハットを被った男が、その裏路地の中で壁にもたれかかっていた。知り合いか、ふらふらと歩いていた身綺麗な男にそう話しかけている。
「いやはや、お久しぶりですね。あなたこそ……昼間とはいえ……こんな人の目の届かない場所は危ない。最近は、連続殺人事件も起こるほどに物騒だ」
「ええ、そうです。言ってましたよね? 俺はその連続殺人事件の調査を依頼されたんだ」
それを聞いて、老齢な男は肩をすくめた。
「やれやれ、それで私を
「いいや、俺はここで待っていたんだ。アンタらがノコノコとここにやって来るのをな。ほら、これを見ろよ?」
地図だ。神様がやったのと同じように、殺人事件を線で繋いで、魔法陣が描かれかけた地図を、ハットを被る男は広げて見せる。
「これが、なんでしょうか?」
「今までの連続殺人事件は、繋がっていたんだ。犯人が捕まらないこともあったが、それは次の地点でその犯人が別の犯人に殺されていたからだ。そして、俺はあえてこう呼ぶが……この魔法陣連続殺人事件……旧き神の降臨を狙い、裏で手を引いた黒幕。心と酩酊と水の神の司祭はお前だ……!」
「…………」
「東聖竜海会社代表取締役……専属秘書、エレナ・イーダ」
「どうして……私……!」
今まで、社長と呼ばれていた人物の影に隠れていた女性を男は指さした。
「東聖竜海会社……聖竜海の利権を一手に担う大会社だが、それは表の姿。裏では儀式と称して多くの人間を攫い邪神への生贄に捧げるカルト集団だ」
「私は、社長だぞ! そんなカルトは一切知らない! 我が社とも何の関係もない。イーダくんだって、無関係なはずだ……!」
「そうですよ……っ、私」
「いや、社長なんて、お飾りだったんだろうな。今回の連続殺人事件は、被害者も加害者も、東聖竜海会社となんらかの関係を持つものだった」
「さすがにそれはこじつけだろう! 我が社ほど大きければ、関係を持たない方が難しい!」
「いや、事件の影でアンタの秘書が関わっていたっていう証言もある。社長さんよ、わからないか? 次はアンタが殺される番だと言ってるんだ」
帽子を片手で抑え、クールに男は言い放った。
「なぜ、私が……!?」
さらに男は、秘書の女性へと、その鋭い視線を向ける。
「言っておくが、もう、ここには俺以外こないよ? すでにお前の呼び寄せた殺す予定だった取引相手は、こっちで回収してある」
「……っ」
「さぁ、時間制限があるんだろう? 殺しと殺しの間には、一定期間以上はあいてはならない。そして、もちろん殺しはここでなくてはならない。お前たちの儀式の完成の場所がここだからな……厳戒態勢でここは見張られることになるさ」
「……なっ」
大きく女性は動揺していた。
「今を逃せば、お前は二度とここへはやってこれない」
「くっ……しかし、そうだ! ここでお前たち二人を殺せば儀式は完成する!! ハハ……ッ、全ては神の意志のまま! 全ては水へと沈んでいく!! 死ねぇえええぇえ」
水が、彼女の周りを浮遊していた。
ゴボゴボと空気の音を立てながら、大きく水が集まって、空中で、彼女の背で、水はいくつかの球を作る。
「い、イーダくん!? うが……っ」
彼女の動かした水が、社長と呼ばれていた人物の顔面を覆っている。窒素死をさせるようだ。
「古代魔法。それはこの前の事件で見せてもらった。対策は終わっている」
彼が指を鳴らすと、男の顔を覆う水が、重力に従い、地面に落ちる。
溺死しかけていた男は、気を失うように倒れた。
確かなことはわからないが、予想をするに事前にカウンターの術式が書いて用意がしてあった形だろう。
魔術師が手の内を晒した上で、罠のある場所に誘い込まれるとこうなる。
「ま、まだ……!」
「どうやら、証拠はなかったが……俺の推理は合っていたようだな」
被ったハットをおもむろに脱ぎ捨てると、腰に佩いた剣に男は手をかける。
「……くっ……」
ゆっくりとした動作のまま抜いた剣を、男は彼女へと向ける。
「この竜の牙は、お前の虚偽の全てを貫く。さて、真実へ向き合う時間だ」
「くぅ……!! お前さえ……っ! お前さえ、いなければぁあぁあ!」
やけに小慣れた決め台詞と共に、二人は戦闘に入った。
「む、あれは儀式魔法……。条件は相手の虚偽を暴くこと……そして効果は相手が嘘をつきづらくなる……嘘をつきづらいということは、戦闘の駆け引きも単調になる。勝負は見えておるな……」
なんとなく、二人のやり取りを見て、何かを思い出しそうだった。
「あ、そうです。きっと、彼は名探偵です。あぁ、そうか、元祖の探偵もののモデルはこの時代かぁ……」
私立の探偵が、警察では解決できない難事件を解いて回るのが探偵もののスタンダードだが、その元祖にはモデルがいる。そのモデルが活躍したのが、前世では、ちょうど近代……この時代だ。
異教徒を追い詰めているこの男は、きっと警察では解決できない難事件をばんばん解決しているような名探偵なのだろう。
「決着はつきそうであるが……」
「神様。儀式を乗っ取ることはできますか?」
「いや、できぬよ? これは心と酩酊と水の神専用であるゆえな……。あぁ、ただ、あの女が生きていれば、利用してやることはできるやもしれぬ」
「そうですか、なら決まりです」
男たちの間に、俺は飛び出していく。
探偵の男の振るう剣を、俺は生贄の儀で生成されたナイフで止める。
「お、お前は……何者なんだ……!?」
「レディが一人、暴漢に襲われているように見えたので、助太刀に……ね?」
ちらりと後ろに庇う彼女を見る。
訳の分からないとでもいいたげな表情で、こちらをみていた。
「愛憎、そいつはレディなんて気遣われるべき女じゃないぜ? なんてったって、多くの人間を理解不能な神のためにと生贄にしてきた殺人鬼だ」
言葉の途中にも切り結ぶ。
彼の得物は、竜の牙の剣……というか、見覚えがある。俺が実家に置いてきた剣だった。
長い間、実家には帰ってはいなかったが、空き巣に入られていたとは。
盗品をつかまされたなんて彼も災難だろう。
「さて、彼女はもらっていきましょう」
ナイフで相手の剣を大きく上に弾き、がら空きの胴体に蹴りを入れる。
「しまっ……がは……っ」
そのまま彼は壁へと背をぶつけた。大きく距離が空いたため、全力で逃げれば追ってはこれないだろう。
「こんなものですね」
倒れている彼女を姫抱きにする。激しい戦闘をした後に、助けがきて気が抜けたせいか、彼女は気を失っていた。
「ま、待ちやがれ……仮面男! お前、なにもんなんだ?」
「何者……名乗るほどのものではないですが……そうですね。悪竜退治の英雄……とでも言っておきましょうか」
「悪竜殺しの英雄……!? 四大公の関係者か……?」
「では、失礼させていただきます」
そのままに、女性を運んで、名探偵とはおさらばする。
少し目立ちすぎたかもしれない。
おそらく、すぐに捜査網が敷かれるであろうが、力技で突破する自信はある。
仮面で顔は見られていないから、ある程度は惚けられるだろう。それほど長く匿う必要はないか、何人も殺した極悪犯なら見捨てることに躊躇いもない。
後で確認したが、一つ前の殺人事件は偽装されていて、事前に防がれているようだった。もし、女性が探偵たちを殺せていても、儀式は失敗する。完全に女性はてのひらで踊らされていた。
あの探偵はなかなかに切れ物なのかもしれない。