悪竜退治の英雄な俺が信奉する神様は悪神らしいが、異教の神全部倒したら正義の神にアップグレードするらしい。頑張る、俺、最強チート転生者だから……。   作:風の教主より、伝聞。

6 / 8
006 権能

「たしかこれは、私の信徒から聞いた話だった……」

 

「…………」

 

 そんなふうに、神様は語り始めた。

 今は心と酩酊と水の神のモードだ。固唾を呑んで、俺と、あと戸籍ロンダリングに成功した秘書の信者が聞き入っている。

 

「私たちは、当時海運会社をやっていたのだけれど、貿易で『ラッフィング・ミルク』を売ることにしたの。当然ながら、ミルクは足が早くて持っていけないから、『黄金水』の原液を持っていくことになる」

 

「…………」

 

「聖竜国というのは知っているでしょう? 海を越えた先にある大きな国なのだけど……」

 

「……はい」

 

 話だけなら聞いたことがある。

 五百年前から、滅びたり再興したりと忙しい国だった。この国とその国を往復するような人間は、五百年前は少なく、そこで作られた豪華な装飾の調度品が、物珍しさで高額で売られていたくらいだった。

 

 内政の不安定さで、今は終わらない内紛をしているのだったか。

 

「ええもちろん、現地で『黄金水』をミルクで薄めて混ぜるという作業をするのだけれど、その現地にいた私の信者はあることに気がついたの」

 

「あること?」

 

「ええ、持ってきたはずの量と比べて明らかに少なくなっていたの。これは誰かが横流ししていると違いない。そうして調査が始まったけれど……」

 

「…………」

 

「えぇ、現地で原液を買った奴らはどうしてか、横流しされた『黄金水』を水に混ぜて販路に乗せていたの。『黄金水』自体は、飲みやすい方じゃなくって……ミルクに混ぜると劇的に良くなる。けれど、奴らは水に混ぜていた」

 

「ミルクが手に入らなかったとかですかね?」

 

 販路を確保できていなかったというのなら、わからなくはないだろう。水の方が安価ならば、正規品よりも貧乏人に安く売れる。

 

「ええ、まぁ、それもあるのかもしれない。けれど、奴ら……こう、特殊な器具で、血管に打ち込む方法を、推奨していたの」

 

「あ……っ」

 

「別に私の『黄金水』は、原液を一気に飲んだって死んだりしない。魂を眠らせるのにも三日三晩必要だし……。ね?」

 

「はい……」

 

 実際に原液を飲んだ秘書の子が頷く。

 思い出したせいか、体が震えて、目がうつろになっているような気がする。フラッシュバックしているのかもしれない。

 

「でも、そんなふうに直接は無理。たしかに効果は少ない量で凄まじいかもしれないけど、死ぬ量も個人差があるし、その時の体調によっても違う。一回一回、死ぬか否かを天運にかけているようなもの。それに、生き残ったとしても、すぐに頭がおかしくなる」

 

「あー……」

 

 この時代の、それも裏社会のようなところの技術では、安全な量を割り出すのも不可能だろう。

 

「まー、それで、私の『黄金水』で、聖竜国の労働可能な人口が三分の一になったの……。死ぬか、廃人ね。あと、血液を媒介とする病気が流行ったのも大きい。横流しをしていたやつは生贄にしたけど、聖竜国の抗議にあって、『ラッフィング・ミルク』は売れなくなった」

 

「それは、それは……」

 

「人間って怖い……。だから、『黄金水』の管理は厳重にしなさい。国が滅ぶ。それにしても、他人を地獄に引き摺り込んで、自分の利益を得ようとする汚い心の持ち主がいるの。あなたたちも気をつけなさい」

 

 そんなふうに、神様は俺たちへとありがたい教訓を語ってくれた。

 危ない薬だとはわかっていたため、『神薬』の管理は徹底されている。帳簿を確認してもそこに異常はない。完璧だろう。

 

「次は我の話……これは最近なのだが」

 

 いつものモードへと変わる。

 今日も美しい神様だ。

 

「最近というと……」

 

「心と酩酊と水の神の教団に、我も神であるぞー、と、挨拶周りに言ったときの話である」

 

「あぁ!」

 

 たしかに、そんなことをしていた。

 名前こそ違うが、同一の神だったと、そういう路線で行くという話だった。俺も一つ恐れながら進言させていただいたことを覚えている。

 

「あれである。こう、パッと変わって、名乗ってみせたのだが、信者どもの反応がいまいちでの……」

 

「そうですね」

 

 突然、違う神と同じだったと言われても、あまりすぐは理解できないだろう。

 

「それで、そう、教主と名乗るやつが前に立って言ったのよ。異教の神に犯されてしまったのではないかとな」

 

「それは……」

 

 正解でもあった。

 我々の神様に吸収されてしまったのだから。正しい認識だ。

 

「それで我、懐から、まぁ、我の『神薬』を薄めたやつを出して置いたのであるよ。我の信者でもあるから、この『神薬』を月に一度、無償で提供すると」

 

「……ええ」

 

 物で釣る作戦だ。

 俺の考えた作戦だったが、実行していただけているなんて、とても感激だった。

 

「それで、教主と名乗った奴が、まず手を挙げたわけじゃ。それが邪悪な物であるかどうか確かめますと……。であるから、まぁ、薄めた売り物よりも少し強いくらいの『神薬』を飲ませたわけである」

 

「…………」

 

 売っている物を使っていれば慣れがある。ただ、自分の信じる神の作った『神薬』以外が禁止されているらしいから、未知との遭遇だっただろう。

 

 まぁ、『神薬』自体は儀式に用いる神を感じるためのものらしい。儀式で多量に使えば、悟りの境地にいなくとも、神のその姿を垣間見ることができるという。

 あの『黄金水』の神様のモードのときに教えていただいたが、最近まで、俺は知らなかった。

 

「それで、教主は……見目麗しい娘であったが……我の『神薬』を飲むなり言ったのじゃ。ぷるぷると震える声で、涙しながら……『こ、これ、これは……、あ……、じゃ、じゃ、じゃあく……、あぅ……い、いえ……とても、……んあ……いいものです……』と。こんな感じじゃったか」

 

「……おいたわしや……あね様……」

 

「そうして瞬く間に我は受け入れられ、そこからは宴であった。たくさんの生娘を閨に集めて、寵愛を与えたわけであるな……」

 

「そうですか……」

 

 一人寝で、俺が枕を濡らしている夜に、そんなことがあったとは思わなかった。思い出して悲しくなる。

 

「お主の寂しさはわかっておる。というか、帰るなり、次の日、我でもきついほどに愛してくれたじゃろうて……。それは良いとして、まぁ、なんというか、人間は……勝てぬの……欲に」

 

 神様が、そんな感想を持ってしまうくらいに、教主の姿は哀れだったという。

 売っているものの用法を超える量を与えたら、そんなものだろう。

 

「後で、適正量まで減らせるように、訓練を施さないとですね」

 

「そうであるな」

 

「そうですね」

 

 ちらりと、秘書ちゃんを見た。

 一気に量を減らすと地獄のような苦しみに遭う。少しずつ減らして、なるべく負担を軽くしてあげるのがいいだろう。

 

 ちなみに、二つの『神薬』を合わせた新製品は、秘書ちゃんを実験台に、鋭意開発中だった。『神薬』は、ほかの『神薬』の依存状態の解消に効果を見せる。ベストマッチな配分が見つければ、依存が軽く、効果の高いものが作り出せるだろう。

 

「というか、この国おかしいのであるよ。容量を守れば、ちょっと楽しいだけの薬であるぞ? ボトルにもこれ以上はいけないと書いてある。なのに、なぜ、すぐに守れず頭がおかしくなるのじゃ! 依存が問題というのはそういうことであるのに……我には理解できぬ……」

 

「遠くの国では、わざわざ危険な使い方をして滅びかけてるの……。そもそも人間がおかしい。それで、どうしてこっちが責められるのかわからない」

 

 神様の言い分はわかる。けれど、人間はできることはやってしまう生き物だ。

 

「他に楽しいことがないんですよ……。というか、そういえばお酒とか見ませんね……」

 

 昔は、飲み物といえばお酒だった。

 気候や地理的な要因から、水はとても汚く、飲めたものではなかった。その代わりに、みんな果実酒や麦酒を飲んでいたのだ。もちろん当時は醸成技術が未熟であり、アルコール度数も低かった。

 

 ただ、俺はアルコールを分解できない体質だったから、水分の多く含む果実から水分をとっている。

 

「お酒? 私は見たことがありませんけど、あれは悪竜の好んだ邪悪な飲み物です。竜殺しの英雄も言ってました」

 

「え……?」

 

 そんなことを言った覚えはなかった。

 もしかしら、俺が一滴も飲まなかったことを後世が曲解して、そう伝えたのかもしれない。

 

「『神薬』には、魔力のない脳に異常を与える物質の影響を打ち消す効果があるの。だから、お酒は効かなくなる。お酒の持つ魔を打ち払える。それに『ラッフィング・ミルク』で同じように酔えるから」

 

「あぁ、なるほど……それで廃れたと」

 

「でも、くだんの英雄の影響力で、お酒を避ける機運が高まったのも事実。一度目は失敗したけれど、そんな過去の歴史に目をつけ、東聖竜海会社は戦略を展開。全ての酒造工場が、ミルク加工所に変わった。あれはたしか、三百年前のことだった……。お酒じゃなくてミルクを飲もうキャンペーン」

 

「やっぱり……そんなふうに言った覚えはないんですけどね……」

 

 意図しないことだったが、自分が原因で産業が一つ潰れたと思うと、なんとも物悲しい気分だ。

 

「……え? まるであなたが竜殺しの英雄みたいに言うんですね」

 

 そういえば、秘書ちゃんには、俺のことを言っていないのだったか。

 

「あぁ、私がその竜退治の英雄です。本人ですよ?」

 

「おかしなことを言うんですね。だって、五百年の昔の話の人物ですよ? 御伽噺では、悪竜の血を浴び、不死身になり、きっとこの世界が再び危機に陥ったときにまた現れるだろう、なんて書かれてますけど……そんなの眉唾でしょう」

 

「うむ、であるが……この男は五百年前の人物であるな。まぁ、我が直接、竜退治の瞬間を見たわけではないが、我の信徒であるから、嘘でないことくらいわかるよ」

 

「え……、本物!」

 

「本物です」

 

 秘書ちゃんはまじまじとこちらを見つめている。なんとなく、有名人と持て囃された昔のことを思い出した。

 

「若いままですねー。やっぱり竜の血を浴びたからって、本当?」

 

「それは我の権能である。我の持つ美の権能……我を信ずる美しき者を美しき状態で保つことができるというものである」

 

 得意げに神様は答えた。

 なるほど、よく美と親愛と風の神と神様は言っていたが、神殿にいたみんなが歳を取らなかったのはその権能のおかげだったのか。

 

「じゃあ、私も信徒ですから歳を取らなく……」

 

「む? お主、美しくないから範囲外じゃ」

 

「え……!」

 

 そういえば、サリーさんも、リーナちゃんも、改めて考えてみたら絶世の美人だった。

 神様の権能は、強力なものだが、その分、範囲が狭いのかもしれない。

 

「安心せい。今の我の信徒の一人は、自らの肉体を改造する邪法で、我の権能の範囲内に収まったのである。お主がその気になれば、そやつはお主にそのすべを授けるであろう」

 

 意外と融通が利くようだった。

 整形美人でも大丈夫ということか、今の信徒だからサリーさんのことを言っているのだろう。リーナちゃんは、神様の体になっているわけだから伝えることはできないわけだし。

 

「えー、じゃあ、英雄さまのその綺麗なお顔は権能のための作り物? 今は仮面で隠れてるけど」

 

 仮面に手をかけ、外す。言外の要望に応える形だ。

 

「私は、生まれた時からこの顔ですよ」

 

「うわ……」

 

 秘書ちゃんは、明らかに俺から距離を取った。

 

「どうしましたか?」

 

「英雄さまはそういう手口で、女の子をたらし込んだんですかー?」

 

 顔を背けて、こちらをみてくれなくなった。改めて仮面をつける。

 

「いえいえ……私は女性は得意ではなくてですね……」

 

「四人の妻の話だってあるじゃないですかー?」

 

「あれは、後世の作り話ですよ。私はひとりの女性とも愛し合うことはありませんでしたから。私の心には神様しかありません」

 

「神様……そうなんですか?」

 

 尋ねる先を神様へと彼女は変えた。俺のことを信用ならないと思ったのだろうか。

 

「そうである。そうである。でなければ、我の寵愛を受け取る資格はないしの……」

 

「人間の女に手をつけられてるのとか、無理……汚い」

 

「意外ですね。英雄といえば、女の子にキャーキャー言われて、同じ女は二度と抱かない、とか、そんなこと言ってそうなイメージでしたけど」

 

 それは、恋愛の物語を見過ぎではないだろうか。

 よく読んではみなかったが、後世の創作のあの本で、俺のイメージが捏造されているのかもしれない。

 

「心外ですね……。まぁ、それはいいとして、思ったんですけど、美の権能があるんだったら、心についても……」

 

 今は美と親愛と風の神様と、心と酩酊と水の神様が融合しているわけだ。心についても、権能があっておかしくない。

 

「私は心の権能……私を信ずる心の透き通る者は心の汚れを見抜くことができるというもの」

 

「心の汚れ……?」

 

「あなたは曇りのない心だから、できる」

 

 なるほど、俺にはできるらしい。

 試しに隣の秘書ちゃんを見る。

 

「ふふふ、私はなにせ、心と酩酊と水の神から司祭の位を賜った女です。心の綺麗さを認められたものこそ、大きな位につけるからこそ、私の心は快晴の青空のように……」

 

「穢れています。沼地の泥水のように穢れています」

 

「うえ……!?」

 

「はぁ……。昔はこうではなかったのに……。どうして私欲ばかりで、私のためを常に考え続けられないの? はぁ……」

 

「いえ、私の心は綺麗なはずです。他と比べたら相対的に!」

 

 この後、社員を見て回ったが、皆が皆、心に曇りがある。

 けれど、秘書ちゃんほど澱んだ心を持った人間はいなかったとだけ言っておこう。

 

 たぶん、ストレスのかかる会社と教団の橋渡しの役割がいけなかったんだろう。

 行われた儀式により、彼女の心の澱みはリセットされた。

 

 

 

 

 

 








 秘書ちゃんは、名前が変わって面倒だったので、主人公の心の中ではあだ名で呼ばせることにしました。実は、もう一つの候補が飲尿ちゃんだったり……さすがにやめましたけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。