悪竜退治の英雄な俺が信奉する神様は悪神らしいが、異教の神全部倒したら正義の神にアップグレードするらしい。頑張る、俺、最強チート転生者だから……。 作:風の教主より、伝聞。
「それで、この結晶が、僕の『神薬』というわけだ」
紫の半透明な結晶がテーブルの上に載せられる。
「これがですか?」
「今売っているのは、砕いて、砂糖に混ぜたものだね。向こうの国では、砂糖に混ざらないまま販路に流れてるけど」
例の『ウェイキング・シュガー』のことだろう。
よくお茶に入れて飲まれているのを見かける。
「『神薬』の中では、一番、悪名高い……」
秘書ちゃんはそう言う。何か、知っているのだろうか。
「いや、これは安全なものだよ。たとえば、効果が切れた時に、手の震えとか、眩暈とか、そういう辛い症状は起こらない」
確かに、今まで俺たちの扱っていた『ラッフィング・ミルク』に、『エンチャンティング・クリーム』は、使いすぎて、効果が切れたその時に、とても辛い症状が待ち受けていた。
「うごご、うご、うがー」
教主ちゃんが、うめいて、地面をのたうちまわっている。ちょうどあんな風だ。
神様が教主ちゃんの可愛さに理性を失った結果だ。こうして教主ちゃんは苦しんでいた。『神薬』をちょうど治るくらいに取り分けて、置いておく。
「でも、知ってます。辛い症状が起こらないけど、代わりに、頭がお砂糖のことでいっぱいになるんです。そうマカちゃんが言ってました。それに、起きてすぐは、お砂糖……神さまのお砂糖はどこ……? って……それしか……」
マカちゃんというのは、神さまが受肉してきた子の名前だ。無事、彼女は目覚めたが、頭が『神薬』にやられていた。
今は療養中だ。よくなってほしい。
「心が強ければ問題ないさ。きっかりやめられる」
神様の言うことだから、それは本当なのだろう。
「死ぬかと思いましたー!」
俺の置いた『神薬』で、教主ちゃんは復活した。
元気いっぱいだ。
しかたがないけれど、これから、少しずつ減らしていこうか。
「そういえば、向こうの、中央教会の方は『神薬』みたいなものを使ったりはしていないんですか?」
こっちでは神様一人につき、一種類、『神薬』があった。
異教の神だとしても、同じかもしれないと、そういう発想だ。
「いや、向こうはお酒だ。それを神のなんたらと崇めているけれど、魔法の薬は作ったりできない。こっちは、もともとそういう神が分裂して、それぞれが独自の方向に分化した権能を持ったっていう、少し特殊な例かな」
「へぇー」
「おかげで、いろいろなことができるというわけであるな」
風、水、地と、三つのモードが今はある。
それを使いこなしているというわけだ。
「そういえば、『聖水』なんてものがあったね。あれは異教徒にかけるとすごく痛くて改心したくなるって話を聞くけど」
「じゃあ、やっぱり、それをかけると依存状態に……」
「いや、そういうものじゃないから……」
「そうですか」
ちょっとだけ、呆れたようにそう神様は言った。
残念で、俺は落ち込む。
「まぁ、なんにせよ、お主ならば、勝てるであろう。新しい武器などはいるか?」
「え……? いえ、このナイフ一つで大丈夫だと思います。まぁ、刃渡りがあった方がなにかと便利ですけど、これはこれで取り回し易いので……」
「あなた、正直言って、強すぎるの。不完全とはいえ、顕現した私をあんな風にあっさり倒してみせた」
「私は強く生まれてきただけのことです」
チート転生者だから、当然だろう。
「あなたと戦うことになる天使には、同情しかない……」
「竜殺しの英雄さまが、異教の天使ごときに負けるはずがありませんもんね……!」
「あはは……」
神様に続いて、秘書ちゃんまでもが俺のことを持ち上げてくる。
昔を思い出して、苦笑いをする。似たようなことが、たしかあったような気がする。
雰囲気が緩い。みんなすでに勝った気でいるようだ。俺にかかっているから、俺が頑張らなくてはならない。
不測の事態が起こらないとは限らないのだから。あぁ、ここで俺が果たせなければ、俺がいる意味がない。
生まれてきた意味が――
「まぁ、お主が、バーンとやるだけでいいのである。それだけで天使なんぞ粉微塵よ。まぁ、もし負けて帰ってきたら……そうであるな……むむ……む? 浮気を一度許そう。それで慰めになるのなら、であるが……」
「へ……?」
神様は突拍子のないことを言った。
神様なりに、考えてのことなのだろうが、俺にはその理由がよくわからなかった。
「お兄ちゃんは、私とイチャイチャしたいのですか?」
「いえ、まったく」
見た目が幼い彼女は、俺の好みではなかった。
「知ってます! お兄ちゃんとそういうことするのは、〝きんしんそーかん〟なんです!」
「違いますよ。肉親ではないので」
「お兄ちゃんです! えへへ」
よくわからないが、彼女の中では、もう肉親とも思えるような間柄であるつもりなのかもしれない。
会って数日と経っていない。それなのに、そう思わせるほどに神さまの薬の力は大きいのかもしれない。
「そうですか……」
「えへへ」
とりあえず、頭でも撫でておく。
そういえば、俺には下の兄弟がいたが、あいつらは自分の人生をまっとうできただろうか。
いや、俺が心配するような資格はないのかもしれない。なんになるわけでもないが、後で村のあった場所にでも行ってみようか……。
「まぁ、それで、本格的に教会の奴らと戦うにあたってなんだけど」
神様はテーブルの上に、箱を置いた。
中には喫煙のための紙巻きが入っている。
「それは……」
「『ドリーミング・スモーク』。四つに別たれた最後の一人の『神薬』さ。完全体になっておきたい」
「居場所に、目星は……」
「うん。どこにいるかは既にわかっている。案内するから……」
***
西にあった森をかき分けて進んだ。
その先に、ようやく開けた場所にたどり着く。なんというか、集落のような小さなところだった。
「虫にたくさん刺されましたー」
「感染症とか、毒とかも心配ですね……」
対策はある程度はしたが、気休めだったか。
俺はチート転生者な能力で、近寄る虫は全て叩き落としていったが、教主ちゃんにはそれは無理だった。
「我の神の力でも、虫は防げなんだ……」
悲しそうに神様は言った。
神様も万能ではない。そんなふうに気に病む必要はないだろう。
「塩、塗っておきますね」
「ありがとうです」
気休め程度だが、なにもしないよりはマシだろう。
そんなことをしていると、村にいた人たちが、俺たちに近づいてきた。
「お前たち、何者だ!!」
なんというか、人種が違う。
肌の色からして、よくこの国で見かける人とは違った。そして、そう、女性しかいない。
見ていると、どこか懐かしいような気持ちになるような顔立ちだった。
皆が皆、ボディペイントをしているよう。人により違って、いくつかの種類に分けられそうだ。身分でも表しているのだろうか。
「あぁ、ここにいる神と会わせてはいただけませんか? 力と幻惑と火の神のことです」
「な……っ、我らの神に会いたいだと!?」
「試練だ! 会いたくば、試練を突破せよ!」
槍を突きつけられ、威嚇されながらもそう言われる。
ここにいるのは、俺と神様と教主ちゃんだ。一応、戦って強いメンバーだけを厳選してやってきた形になる。
このまま、全員制圧も可能だろう。
「試練か! 受けて立とうではないか!! 我には優秀な信徒がおるのだからな!」
「お兄ちゃん! 頑張ってください!!」
「……!? はい、わかりました」
そんなつもりはなかったが、俺が試練を突破する流れだった。
純粋な気持ちで二人が応援してくれている。応えないわけにはいかないだろう。
「あの神殿に行くのだ! もちろん、一人で! 試練の内容は、行けばわかる。さぁ、いけ!!」
「あ、はい」
促されるままに、俺は神殿へ歩いて行った。
ある程度は、力業でなんとかできるとは思うが、なにをさせられるのか、不安だった。
神殿の中を進むと、コロッセオのような場所にたどり着いた。
観客席は閑散としている。村の人が何人か見にきていた。やはり、みんな女性のようだ。
「頑張ってください!」
「頑張るのじゃー!」
二人がくつろいで、応援してくれていた。
アウェイのようで寂しかったから、その声が心に染みた。
「試練は、三つ! まず第一の試練! 己の力を示せ!!」
ガチャリと音がすると、コロッセオの奥で捕らえられていた動物が、前に這いずってくる。
「おっきいですっ。初めてみましたー!」
「西の森のアカリュウモドキですか」
懐かしい。
悪竜がどんなものかよくわからなかったから、よく修行の相手にしていたのが、このリュウモドキだ。
実際は、悪竜はこのリュウモドキたちの百倍は強大で、悪辣だった。
「きしゃー」
野生動物ながら、リュウモドキには魔法が使える。
使う魔法のタイプから、アカ、シロ、クロ、ミドリと分類わけされている。
今のは、基礎の身体能力向上の魔法だろう。
彼らの真似をして、魔法を磨いたのは懐かしい記憶だった。
「ではいきます。武器は……これでいいですか……」
森の中で服にへばり付いて、そのままだった木の枝を手に取る。
いつものナイフは神聖なもの。こんな野生動物との戦いで、使うべきものではないだろう。
そのまま、飛び上がる。
「きしゃっ!?」
リュウモドキを縦に裂いた。
鱗は、硬いが、このリュウモドキの捌き方は、慣れたものだ。
解体に時間はかからなかった。力業で工程は短縮している。
「こんなものですか……。リュウモドキの肉は固くて美味しくないんですよね……」
食べられなくはないし、殺してそのままは、流石にもったいないから、クセでこうして解体してしまった。
まぁ、後で食べるのがいいだろう。
「きゃー!!」
会場から、悲鳴が聞こえてきた。
見れば、周りに血が飛び散って血まみれだ。血抜きの工程を短縮するために、やったことだが、何人か、血を浴びてしまった村の人もいるようだった。
神様たちは……無事のようで安心する。
なんにせよ、これで試練の一つ目はクリアだろう。
俺は、さらに奥へと案内される。
「二つ目の試練はこの先だ。ここで帰っても構わない。その場合は、ここにいる好きな巫女を一人選んで連れて帰ってくれ」
村の、女性たちが並んで道を作っていた。
俺が目を向ければ、彼女たちは怯えたようにガクガクと身を竦ませた。
「そういうのは、いいんで、先に……と……これは?」
「歴代のこの第一の試練の達成者だ。言っておくが、第二以降の試練の達成者は存在しない。女を連れて帰った方が賢明だ」
肖像画と、それと共に名前が、並んでいる。
一つ、気になるものがあった。
「これは、父さん……?」
「む……たしかにお前に似ているな……。だが、ずっと昔だ」
「いえ、年代はちょうどです。これでも長く生きているので……。まさか父さんがですか……。いえ、言われてみれば、ここの人たちは、母さんに似た雰囲気ですね」
まさか、こんな場所に俺のルーツがあるとは思わなかった。
「試練の達成者の子は、我らのものではない。知らなくても当然だ」
閉鎖的な村、なのかもしれない。
「この村には、女性しかいないようですが……」
「女は宝だ。男は売る」
「えっと、じゃあ、どうやって子どもを……」
女ばかりでは、年老いて死ぬだけだ。次の世代につなぐためには、子供を作る必要がある。
「外で働く男と作る。やつらはモノを交換しにくる。売った男もそこでたいていは働いている」
「モノ……?」
「これだ。燃やして、儀式に使う」
「あー……」
例の『ドリーミング・スモーク』の原料だろう。
それ目当てに来る交易人と、子供を作っているということか。
「むやみやたらに使うものではないのに欲しがる。外の人間はろくな奴らでないのだ」
国中どこも依存症なのだから、それを否定できる材料はなかった。
「外の人間と交流があるなら、ここにいる子たちは……」
「巫女は、特別だ。生まれてから、男を知らない。試練を果たした者に選ばれたのなら、その者に尽くす。命令は必ず果たす」
この村の風習だ。
俺の常識とは少し違うが、俺がとやかく言うことはない。
「それでは、次の試練をお願いします」
「……? 本当に行くのか? 女を連れて降りるべきだろう。サナなんて、若くて最高だ」
一番若い子だろう。
彼女は、その子の肩を抱いて、俺の前へと引きずり出した。サナと呼ばれた子は一番に震えていた。
「いえ、いきますよ。それに、そこまで若い子は好みじゃないんで……」
「……? お前の連れは若かったじゃないか?」
「あれは、少し違うんですよ」
「強い男だ。女を何人も侍るのも当然だろう」
なんだか、言葉が通じている気がしなかった。
「次の試練は?」
「む、本当に行くんだな? 止めはしたぞ? ……次は幻惑の試練だ。この先は簡単な迷路になっている。抜ければ、二つ目の試練は突破だ」
「迷路? 簡単なら、どうして誰も突破できないんですか?」
「香が焚いてある。簡単とはいえ、それなりに長い。この香の煙を吸うと方向感覚が狂ってそのまま抜け出せなくなる。どうだ? 考え直す気になったか? わかったら、サナを連れて帰るんだ」
「いえ、問題ないです。それと、壁を壊すのは大丈夫ですか?」
「それは、なしだ」
「わかりました」
そのまま俺は次の試練に進んだ。
「本当に行くのだな……」
切なげな声が後ろから聞こえる。
命の危機があるこの試練を、止めたがっていた彼女はなかなかに良心のある人物なのかもしれない。
「そういえば、名前、聞いていませんでしたね……。後で聞きましょうか」
俺は、悟りの境地にいるから、香は効かなかった。鼻歌混じりに迷路を進んでいく。
結果、超迷った。迷路は普通に難しかった。
仕方がないから、右手を壁につけて、全力で走った。
「本当に突破してくるとはな……半日と経たずに……」
「いや、一度、入口に戻ってしまった時には、どうしようかと思いましたけど」
難しい迷路だった。壁伝いの攻略法を知らなければ、俺は一生、ゴールにはたどり着かなかっただろう。
「そうだ。第二の試練を突破した。最後の試練に行く前に、ここでやめることもできる。その場合は、好きな女を三人選べ」
「二人増えましたね。これって、最後の試練を突破するとどうなるんですか? 六人とか……」
「ここにいる巫女全員を、突破した者が手にすることになる。もっとも、今まで、達成した者はいないが……」
「そうですか……」
予想が外れて悲しかった。
「だが、最後の試練は……人間のやるものじゃない。三人選んで帰るといい」
俺の身を案じて、彼女はまた止めてくれるようだった。
「そういえば、あなたの名前は?」
「選ぶにしても、私はやめておいた方がいい。巫女の最年長……後数ヶ月で生贄の身だ。女としての価値はそれほど高くない」
「いえ、あなたはとても美しいと」
俺の母がこの村の巫女だったと納得できるほどの美しさだ。
顔だけでなく、スタイルも良かった。引き締まった体ではあるが、女性として豊かな肉つきをしている。均整のとれたその体は、巫女の中では一番だろう。
「世辞はよせ。若い方がいいだろう」
だが、彼女は若さをなによりも重要視するようだった。
「とりあえず、名前だけでも教えてもらいたいですね」
「クリューだ。覚える必要もない。どうせ、もうすぐいないのだから」
「生贄……」
「そうだ。生贄となって、私はいなくなるのだから。二十六の誕生日、若い時期を終えた巫女はそうなる」
女はクリスマスケーキとでも言いたげな生贄の選び方だった。
「生贄になることは、幸福なことだと思いますか?」
「当たり前だ。選ばれた人間しか巫女にはなれないのだからな。その役目を立派に果たしたということだ」
「じゃあ、申し訳ありませんね。それは叶えられそうにないですから」
「私を、選ぶのか?」
「選ぶ選ばないの話じゃない。俺が次の試練も突破するからだ」
「な……っ」
目を丸くして、彼女は俺のことを見つめていた。
「お前はずっと長生きするさ」
仮面を外す。腰に穿いた剣を抜こうとしたが、なかった。実家に置いてきた……いや、あれも時代の流れで違う人間の手に渡っているのだったか。
前へと進む。
中央に、銀色の炎が燃え盛る部屋がそこにはある。さらに奥には祭壇も見える。
「最後は火の試練だ。この松明で、あそこから火を取り、奥の祭壇につける」
「わかった」
見た限り、難しいところはないように思える。
「『白銀火』。その煙は幻覚を見せる。祭壇への一本の道から落ちれば死ぬぞ?」
「問題ない。さっきよりは簡単じゃないか」
その試練の難しさは、『神薬』の効能によっているのならば、問題はなかった。
長く細い道に、危うく普通にバランスを崩して落ちかけたが、俺はチート転生者だから、なんとか持ち堪えた。
祭壇の燭台へと火をつける。
「いひひっ、俺は力と幻惑と火の神だ。よくきたな人間。三つの試練を全て達成したことを褒めてやる」
色違いの神は、姿を俺の前へと表した。
この神が、俺たちの神様の、最後の分身なのだろう。