音楽の島エレジアでの事件から一年。
ウタの去った島にはゴードンが一人で暮らしていた。
伝説となった彼女のライブ。彼女の『新時代』は人々を幸せにするものだと彼女は信じていた。それは、結果的に間違いであると彼女自身も認めたのだが、彼女の歌が素晴らしかったことには間違いないのだ。
だが、彼女の『新時代』の種はまかれた。ウタの思惑を離れ、彼女の『新時代』は暴走を始める。



完結させられるよう頑張ります。若干曇らせかもしれません、ご了承ください。

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完結できるよう頑張ります…
少し曇らせかも


後日譚の始まり

 その島は音を失っていた。

 音楽の島「エレジア」は、かつての活気を失い、ただそこにあるのは人々の暮らした跡と、その破壊跡である。

 崩れかかった遺跡のように静まり返ったこの島には、人の気配などなく、一際大きな城が、その島の象徴であるが如く崩れかかった街を見下ろしているのみである。

 エレジアは、音楽を文化としての極みに昇華していた珍しい島である。いうなれば、音楽の聖地ということである。世界中の音楽家たちが、自らの磨いた手腕を持って、それぞれの楽器を手にこの島を訪れるのだ。

 そうしてお互いの技術を称え合い、磨き合う。この場はまさに、音楽家にとっての楽園であったのだ。

 

 

 そう、十数年前までは。

 何とも変わらない日常。他の島からやってきた船に乗った音楽家たちがこの島を訪れる。ただし、今回は違った。訪れたのは海賊であった。島の人々は一抹の不安を覚えた。

 もちろん、海賊にも音楽を楽しむ権利はある。音楽は生けとし生けるすべてものに平等に与えられるのだ。音楽に限らず、芸術というものはそういうものなのではないかと私は思う。

 この島にもたびたび海賊が訪れていた。だが、いつも問題を起こしていた。野蛮で粗暴な連中。エレジアの民衆に限らず、世界のほとんどの人々の抱く海賊への印象だろう。

 「赤髪海賊団」もその一つに違いない。民衆は彼らの動向を注意深く観察していた。

 腹の膨れ上がった巨漢が、飲食店の一日分の食糧を食い尽くし、いかつい顔の男はメンチを切り、小さな女の子が興味津々に楽器を見ていたり、なぜかその場にいるサルがほかの船員にちょっかいをかける。船長と思しき人物に至っては、町内の子供に自身の冒険譚を聞かせている。

 民衆は他の海賊との違和感を感じ始めていた。この海賊、ほんとに海賊か?と。

 疑い始めた矢先、船員の小さな女の子が歌い始める。瞬間、その場にいた民衆は女の子―――ウタに釘付けとなった。この年齢で、この歌唱力。与えられた天賦の才。透き通っているようで、感情の乗った声質。初めて耳にした時の衝撃は今でも覚えている。

 

 

 

 

 ゴードンは、ピアノの前から立ち上がった。

 いなくなってしまった女の子に思いを馳せながら、一人になってしまったこの島の街を見下ろす。

 その時、視界の端にライブ会場が映り、10年を超える年月の記憶を呼び覚ましてしまう。あの子の才能を潰さない一心で、彼女を育ててきたつもりだった。だが、同時に彼女の才能と、その身に宿る、その実に宿る力を恐れ、世界に開放することをためらった。

 彼女はいつも、海を見ていた。

 

 

 

 階段を降りる。

 地下には、かつて封印されていた忌まわしき楽譜があった。この楽譜は、人々の負の感情が詰まった異形を生み出す鍵となるものだった。

 ほかにも数々の貴重な譜面が地下には保管されていたが、崩落のため、地価のほとんどの資料は読むことのできないものとなってしまっている。

 いくつかの譜面を手に、再び階段を上る。

 ふと思い立ち、口ずさむ。彼女は、この歌は幼いころに歌っていた歌から着想を得たのだと、ライブ前に私に語っていた。

 

 

 

 

 ゴードンはどうしてもこの島から離れられない。

 娘のようにも思っていた彼女と過ごした日々は、もうここにしかないのだ。たとえ彼女がいなくとも、彼女と過ごした12年は、この誰もいない島にある。

 彼女との日々を何度もリフレインする。そんななかいつも思う。どうすればよかったのかと。ふさぎ込んでいく彼女に、何ができただろうか。親である「赤髪」に利用され、捨てられたと思い込んでいる彼女に何をしてあげられたのか。世界の不条理を知ってしまった彼女に対して、何か諭すことができたのではないか。もっと早くから、彼女の才能を世に出すべきだったのか。だが、彼女の力は強大だ。海賊はその力を欲し、海軍はその力を恐れ、屠ろうとする。この場にかくまうことは正しいのではないか。いや、だが・・・。

 同じことを幾度となく考えてしまう。彼女がいなくなった今、まったくもって意味を持たないのに。

 

 

 

 

 

 何気なく、ピアノ室への道すがらの窓から街を見下ろす。そして驚愕する。何者かがこちらに歩いてくるではないか。この島には人は私以外いない。何度も目をこすり、見間違いじゃないか確認する。

 しかし、私の驚きをよそに、かの人物は、こちらの城へと歩み続ける。私の存在は気づいているわけではないようだが、この城に用があるのは間違いない。

 久方ぶりの久方ぶりの人とのコミュニケーションを前に、私は少しパニックになってしまった。もともと人とのコミュニケーションは得意ではない私は、外から来た人に対して威圧感を与えてしまうようだ。この長身もその一役をかっているのだろうけれど。

 

 

 

 

 

 

 城の玄関前で、客人をもてなそうと思い、大扉の前で待つことにした。

 おそらく漂流でもしたのだろうと相手の身の上に思いを巡らせ、せわしなく玄関前で歩き回る。

 やがて大扉がゆっくりと開く。

 扉の隙間から見えたのは、優しげな風体をした男だった。ゆるくうねる焦げ茶色の髪、ベージュやブラウンのカジュアルなファッションをしている。

 

 「私はゴードンというものだ。ここは音楽の国エレジア。歓迎するよ」

 

 大事なのは第一印象である。相手を受け入れる姿勢を見せることは大事だ。

 

 「ご丁寧にどうも。僕はペサディラというものです。一人で旅をしながら航海していたんですけど、嵐のせいで、ここまで流されてしまったんですよ」

 

 ペサディラはやはり漂流してきたようだ。詳しく話を聞いてみたいので、応接室に案内することにした。ペサディラは階段をのぼりながら、よくしゃべっている。無口な私は相槌を打つことに精いっぱいで、会話の内容はそこまで入ってこなかったのだが。

 応接室にたどり着く。

 紅茶を入れ、一息つく。

 ペサディラはここまで流されてきた経緯を語ってくれた。

 

 「あ、紅茶ありがとうございます。ちょうどほしいと思っていたんですよね。こちらの島に人影が全く見えなかったもんで、これが世にいうゴーストタウンというものかと、内心びくびくしながらこちらに足を運んだんですよ。人がいてよかったです。え、音楽の国ですか?なるほど、どおりでこの国にはそこかしこに拡声電伝虫がいるわけですよ。楽器もたくさん見受けられるし。なになに、元国王ですか。もしかして何か楽器をたしなんでおられるのですか。なんでもいける?これまた大きく出られましたね。一番得意な楽器は…」

 

 「ピアノです」

 

 「ピアノですか!いいですね。これも何かの縁。聞かせてもらえないでしょうか?」

 

 「…ピアノは今調律に不具合があって人に聞かせられるような状態ではないのです。フルートなどどうでしょう?」

 

 「ピアノはダメ、と。なるほどなるほど――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

               ――――――ウタウタの実はピアノ室かな?」

 

 「……は?今、なんと――――」

 

 「あー、別に答えてほしいわけじゃないよ?手荒なことしたくないし、ちょっと寝ててよ」

 

 

 問いただそうとした次の瞬間、ペサディラから有無を言わせぬ圧力を感じた。

 意識を保つことが難しくなる。

 

 「これはっ…、覇王色の、は…き…」

 

 そのままゴードンの視界は暗転してしまった。

 

 

 

 


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