幻想的――。
きっとこの場は、そのように称されるのであろう。
その建物に入ると、まず咲く場所を選ばない竜の領域を示す花。
『フロワロ』が赤い燐光を放ち、薄っすらと花弁を散らしながら揺れている光景が人間を魅せる。だが、その光景に魅せられた人間は……ハッ、と我に返るだろう。
――すべてが、上下反転しているのだ。
本来入り口と称される玄関は天井へと繋がっており、床は頭上に存在する。
『天井』は『床』に『床』は『天井』に――。
最後に都庁の周囲には瓦礫が浮かび上がり、重力まで反転してしまったかのようだ。
現在の都庁のはそんな有り様になっていた。
これが、一匹のドラゴン――、帝竜が引き起こした事象なのだ。
根城を好きに変えてしまう厄介さ。
……何よりその力の絶大さを、人間へと知らしめていた。
ここは『逆サ都庁』
赤き暴君――帝竜ウォークライの住まう場所。
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……パーカー男子こと、たけし君に愛刀を抜き放とうとした事件後、キリノ補佐官とナツメ総長に軽い説教を食らったクサカベは、あまり休憩できずにムラクモの地下シェルターから移動する。
「くっそぉ、たけし君のやろぅ……、次調子に乗ったら鬼牙絶刀の刑に処したる……っ!」
「冗談言えるくらい元気なら全然問題ねェな。
――ムラクモ10班、帝竜の住処の攻略に入る。ナビは頼んだぜェ?」
『分かった。――クサカベは覚悟しとけよっ!』
図体のデカいガトウのおっさんがフゥーと気合を入れながら、ナビ――ミロクに一言入れておく。……クサカベにミロクから辛辣な言葉が飛んでくるのは、どう考えても日ごろの行いの所為だ。
「と、ミロクは言いつつも、一度も杜撰なナビをしたことはないのであった」
『語り口調止めろ!!』
「あはは、本当に元気がいいねぇ。僕も見習おうかな? ――特にクサカベ君を」
『ナガレ!?』
「オメェまで、不真面目にしたらナツメの胃に穴が開くぞ……」
ナガレも楽しげに、自身の装備の点検を行いながらインカムに向かってしゃべる。
ガトウもあきれた様にヤレヤレと首を振る。
既にマモノが跋扈する外なのに、じゃれ合う様に話をしながら3人は進む。
これが、現在のムラクモ10班の空気。緊張しすぎず、力を抜いた状態で歩む感覚。
はたから見ている自衛隊員たちには、地雷原にピクニックに来たようにも見えるだろう。
――だが、実際のところは。
「ん、ミロク。なんかいるぜ?」
唐突にピクリと気配に反応したクサカベから、確認の声が上がる。
『うん? ――っとこの先、生体反応有。
規模的にドラゴンだな。……気をつけろよっ。
くそぉ、なんでいつもナビより早く分かるんだよぉ……』
凹むミロクの声がインカムから聞こえてくる。
そして、ガトウが獰猛に口角を釣り上げた。
「――テメーら、行くぞ」
「あいよー。後進のために講義といきますか!」
「はい、……じゃ、今回も生き残りましょうね」
――瞬間。
クサカベとガトウのおっさんが恐ろしいほど濃密な
クサカベはニヤリ、ガトウはニィと。最後に姿を消したナガレがニコニコと――。
ムラクモ10班の職場は、笑顔が絶えない良い職場と評判である。
――ただし、相手からしたら悪魔の微笑みであることは間違いない。
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『さて、ムラクモ10班が今からドラゴンの狩り方をレクチャーしてくれる。よく見ておいてね?』
インカムからキリノ補佐官の声がする。その説明口調のキリノがイキイキと楽しげだ。
その後ろには、ムラクモ13班のメンバーでもいるのだろう。
今回の戦闘は、既存の兵器があまり効果をなさないドラゴンの処理の仕方を教えるためだ。
――グルゥウウル。
頭に巨大な鉱物を装着した羽のない後ろ足の発達したドラゴン――『ドラゴハンマード』が、ゆったりと歩み寄るクサカベとガトウに気がつく。ドラゴハンマードはガンガンッ!! と地面に頭のそれを叩きつけ、威嚇したかと思うと――その図体からは考えられない速度で二人に向かって突進してきた。
常人がそんなドラゴンに突進されれば轢かれた後に、その名の由来である頭のハンマーでミンチにされること間違いなしだ。
そう、常人であれば。
「ハッ、アホみてー突っ込んでくるじゃねェか!!」
ドゴンッ!! と突進していたドラゴンの巨体に、筋肉をミチミチと膨れあげさせたガトウが力強いアッパーを放つ。高速で突進してきているその巨体に対し、強烈なアッパーを放てる時点でガトウの技量の凄まじさを物語っている。
――グゥッ!?
驚愕に呻くドラゴハンマードが……冗談みたいに浮かび上がった。
そして、アッパーを放ったガトウの上を突進の勢いをそのまま飛んでいく。
『……相変わらず、すごいな。
――見ての通り、マナで強化したガトウさんの拳でダメージが入ったね?
でも、これにマナが籠っていなければこうはならないんだ』
誰もが考えたことはないだろうか。
ドラゴンが強敵ならば、大量破壊兵器で襲えば良いのではないか? と。
『ドラゴンやマモノには具体的な理由は解明されていないけれど、通常兵器が決定打と為り難いんだ。ただ、そこにS級が操れる気――マナが籠れば話は別になる』
もっと具体的な例を上げれば――火炎放射器で出した炎と
見てくれは同じものでも、ドラゴンやマモノに対して効果が出るのは後者だ。前者では焦げ跡程度が関の山だろうが、後者であれば殺傷まで容易い。
『――だから、君達みたいな超人的なマナを籠めたり、操ったりできるS級能力者じゃなきゃこの世界を救うことは非常に難しい……』
ゴッ、と都庁の壁にぶち当たり、ドラゴハンマードが再び地に落ちた。
帝竜の住処になっているせいか、都庁全域の壁や床、天井に至るまで通常では考えられないような強度になっており、今の勢いでも全く崩れた様子がない。
容赦なくガトウの追撃が、地面でもがくドラゴハンマードにドドドドドッ! と激しい振動がするほど加えられる。その拳に鋼鉄製のナックルがついていることを考えると、殴っている部分がどの様になるか……想像にたやすい。
「……俺いる意味ないんじゃないか、なっ!!」
ヒュンッ! と、圧倒的なガトウの存在感の所為で存在を忘れられそうだったクサカベが、頭に追撃しているガトウの邪魔にならない様に尻尾の付け根を漆黒の小烏丸天国で切り裂く。
彼の気分は某狩りゲーである。
……ただし、オトモ側の気分であることは確かだ。
「さて、もういいんじゃない?」
さり気なく帰ってきたナガレが、呟きながらマモノの血で濡れたナイフを拭く。
――彼は周囲から寄ってきたマモノ達を駆除していたようだ。
いつの間にか、ドラゴハンマードは一部ミンチな死骸と成り果てている。
これがムラクモの精鋭と呼ばれる10班の腕前だ。
『……うん、容赦……ないな。
っと状況終了、ドラゴン素材は自衛隊と一緒に持って帰ってきてくれ』
「りょーかい」
インカムからぽつりと、ミロクの声が聞こえた。
ミロクの指示に特に活躍する機会がなかったクサカべが返事をした。
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「ガトウさん。ありがとうございました」
クサカベが、自衛隊員たちを待っている間にぺこりとガトウに頭を下げる。ほぼ一人で、ガトウがドラゴンを倒したようなものなので、何か言っておかなければ申し訳なかったのだ。
ガトウは、ドラゴハンマードの潰れていない部分に腰掛けながら……ダルそうに呟くように答える。
「チッ、……帰ったら、二人とも仮眠取れ」
ただ、それだけを告げてフゥ……と大きく息を吐くのだった。
そのガトウの様子にナガレとクサカベは顔を合わせ、参ったな……と声を合わせて苦笑いする。
リーダーであるガトウは、道中軽口を叩き合っていた二名が疲労を溜めているという言う事に、気がついていたのだった。
「ま、『友と明日のために』って奴だ。次はテメーらが俺を支えやがれ」
「りょーかいっ!」
「うん、そうだね……!」
その合言葉をガトウが口にしたときクサカベは一瞬目を瞬かせた後、快活に笑い、ナガレも口の中で合言葉を転がして、大きく頷く。
――こんな世界だからこそ、その合言葉はムラクモ10班に活力を与えるのだ。
マナ云々の下りは、既存の兵器が効くならば自衛隊で十分な気がして加えました。
S級能力者である必要性を出したかったと言う目的。
ゲームで言ってたかなぁ。何も説明がなかった気がする……?