真打7thD ‐2020-   作:唯のかえる

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第15話

 ――グゥオオオオオオオオオオオオォッ!

 それは世界を揺るがす咆哮と共に。

 

 ――ダレカの鮮血が舞った。

 

 大量の硝煙のにおい。

 紫電と灼熱の焦げ跡から煙が上がる。

 

「誰か、応答をッ!! 本部ッ! 応答してくれ!! 」

 

「ウソだろ……っ!? あれでまだ死なないのかよっ……!!」

 

「撃てッ!! 弾が尽きるまで撃つんだッ!! 動きを止めればムラクモの彼が、トドメ……?」

 

 

 非現実の(さかさまな)セカイで、彼の紅い長髪が大きく広がる。

 体の一部を大きく欠損させた、モノに変わりかけたソレが愛刀すら手放し、やけに軽い音と水音を響かせて、地に伏す。 

 

 

「あ……」

 

 

 思考が追いつけない。

 なんだ、何が起こった?

 

「ナガ、レのだん、な。まだ、……わって、ないっ……、はやく、がと、のおっさん……と」

 

 僕の目の前で、彼が自分で作った血溜まりに、壊れた人形みたいに何度も、何度も何度も立ち上がろうとして失敗する――。

 最後は、痙攣して――。

 

「あ、あ、アア、アァア゛ア゛ァ゛――――ッ!!!!」

 

 動けなかった僕を庇って、対して役に立たないボクを、庇ったせいで……!

 

「はや、く、ていりゅ、たおさ……」

 

 最後に呟いて、クサカベ君(・・・・・)の痙攣が、止まってしまった。

 まるで――死んでしまったように。

 

 あのガトウさんが信じられない物を見た様に、目を見開いている。

 ぼくは、ボクは、僕がっ! 僕の所為でッ!!

 

 

「――く、クサカベェエエエエエ!!!! ッ、ガフッ!!?」

 

 

 その時、帝竜討伐の決戦場――都庁の屋上で。

 ムラクモで、討伐隊で誰もが心の支えにしていた、(クサカベ)が折れていた。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

 ――帝竜ウォークライへ、討伐隊派遣の日取りが決まった。

 

 現在の状況は、都庁に蔓延るマモノの群れが大幅にムラクモ10班と新設の13班の活躍により、自衛隊の武装でも対処が可能なレベルに落ち着いている。一番の問題であるドラゴンだが、ムラクモ13班の目覚ましい活躍により都庁内に出現するドラゴンはほぼ片付いてきて、資材として扱えるようになってきているのだ。

 

 そんな活躍に、戦う人間達の士気も高く、この状況を逃せば――正直後はなかった。

 

 

 討伐日。

 クサカベのテンションは無駄に高かった。 

 

「へーいっ! 自衛隊諸君ッ! この戦いが終わったら、俺けっこ――へぶっ!?」

 

「クサカベェ……、あんまフザケてんなら一人でカチコマせんぞ?」

 

「すびばぜんでじたーっ!!」

 

 ガトウのおっさんからいい拳をもらい、一回地面で跳ねてビターンと壁に張り付くクサカベ。

 不思議なことに、物凄く頬が晴れてプクーと赤く膨らんでる以外に外傷はない。……物凄く痛そうではあったが。

 

 呆れたガトウと土下座するクサカベの漫才を見て、戦闘準備していた自衛隊全員が呆気にとられる。それもそうだ。こんな決戦前の空気をぶち壊されると思っていなかったのである。

 

 この先の廊下を突き抜け――、屋上へ出れば帝竜ウォークライがいるのだろう。

 ここにいる全員は、奥から感じる圧倒的な存在感を身に受けていたのだ。

 そんな中で、このふざけた雰囲気。

 

 自衛隊員の一人が口を開く。

 

「これから決戦って時にッ、あんたらっ………!」

 

 その顔は、鬼気迫って、

 

「気合入ってますねッ!!!」

 

 グッ! と拳を握ってガッツポーズをする。

 ほかの自衛隊員たちも、帝竜の威圧の所為で開けなかった口を開き始める。

 

「クサカベさんはいつでも自然体だなぁ」

 

「……ハハッ、あんたらに着いていったらちゃんと生きて還れそう」

 

「うんうん、なんだかんだでみんな10班の方々にはお世話になってますからねぇ」

 

 本来ならブチ切れされても、可笑しくない行動だというのに自衛隊員の表情は逆に軽くなる。

 都庁内の攻略を進める時と、シェルター防衛の時に実力を発揮してきた10班だ。そして、持ち前の明るさで崩れかけた士気を何度も持ち上げ、勝利へと導いているクサカベの実績もある。

 

 ――何より、10班がほとんど休むことなく戦いを続けていたのを知っているのは、共に戦っていた自衛隊員たちなのだ。

 

 討伐隊のモチベーションが上がったことを確認した討伐隊リーダーのガトウは、インカム越しに聞いてる13班と場をまとめるために気合の入った声を出す。

 

「さてと……俺たちはこれから、帝竜のやろうとランデブーする。

 ――なーに、地獄の底までエスコートしてやるよ。

 帝竜から都庁を奪還して、人類の反撃開始と行こうじゃねェか!」

 

 

「「「――――オオッ!!」」」

 

 その場にいる全員で拳を振り上げ、気合を入れる。

 討伐隊全員が、一つになる。

 

「前衛は俺とナガレがやる。後衛の自衛隊は銃で応戦。クサカベは遊撃だ。やれンな?」

 

「りょーかい。ガンガン働きますよっと」

 

「おう、期待してンぜ。――、ナガレが帰って来たな」

 

 帝竜がいるであろう屋上の方から、気配が完全に消えたナガレが姿を現す。

 普段はニコニコと笑っている顔だが、今日のナガレの旦那は完全に無表情で気迫がすごい。

 

「帝竜は屋上の先に確認できました。先にムラクモ隊が交戦を開始。

 ……引き付けを行い、後続である自衛隊を投入するが望ましいかと思われます」

 

「そォか……。それで行くか」

 

 ガトウが目をつぶって思案をし、頷く。

 そして、インカムからナビのミロクの声がする。

 

『コール10班。これから作戦を開始する。

 俺は、帝竜の影響でモニタリングが出来なくなるけど――』

 

 心配そうな――、いつも小生意気なミロクが精一杯考えて、小さく声を出す。

 

『――お前らなら、やれる。いつもナビしてる俺が言うんだから、バッチリだ』

 

 普段ならおちょくるクサカベも、ふふと笑みをこぼしてミロクの言葉に大きく頷く。

 そして、彼の主戦力になる愛刀を呼ぶ。

 彼は、一度帝竜と交戦しているので、――相応しい獲物を選び抜く。

 

 「 『牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門――七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢――……』 」

 

 ……クサカベの脳裏に、ナツメ総長の言葉がよぎる。

『帝竜はまだいるわ。戦えなくなることが無いように。

 貴方たちを、今失うわけないはいかないの』

 

 クサカベの薬指の赤い呪印を輝かせる。

 

 「……。 『 文曲零零(もんごくれいれい)、急ぎて律令の如く成せ――千歳(ちとせ)(ともがら)雷切(らいきり)』 」

 

 いつもの所作で、落ち着き払って抜き出したのは一本の刀身の根元が折れ曲がるような形をした基本的にはシンプルな日本刀。その銘は、立花道雪と呼ばれる武人が雷を切ったとされる所から来ており、この雷切は紫電を纏うことさえも可能だ。

 遠距離、近距離でも高火力を叩きだせる点で、この愛刀を選び抜いた。

 

(『真打』を抜くべきだったか?

 でも、後に繋げるために、……今抜くわけにはいかない。

 『真打』は使用者の肉、――命を食らう。

 一度、死んだ身とはいえ、この世界のためにまだ死ねないしな……)

 

 思考を打ち払うべく、雷切を見つめて首を振って……気がついた。

 

「……雷切が安定かな? ってどうしたんだ? そんなに見つめて」

 

 気がつけば、自衛隊員から視線を一身に浴びていたクサカベ。

 戸惑うクサカベに、自衛隊員が顔を見合わせ、――士気がどんどん上がっていく。

 

「お、おい!! 見たよ、遂に見ちまったよっ!!」

 

「まじ、すげぇ……!」

 

 ナガレが、そっとクサカベによってきて耳打つ。

 

「……自衛隊員の中で、クサカベ君の武器召喚は『見れば生き残る』と言うジンクスがあります」

 

 実際、クサカベが草壁五宝を抜いた戦闘で、まだ自衛隊員での死者は出て居ない。

 

 クサカベは、それを聞いて――雷切を天にかざす。

 本来のリーダーであるガトウも、ソレを気に入っているのかニヤリと笑い、インカムにもこっそり声掛けを行う。無表情のナガレも今回使う短剣を同じように掲げた。

 

「――全員でやんぞ」

 

 その動作を見かけたことのある自衛隊員はもちろん、自分の武器を同じように天に掲げる。

 クサカベが、いつものふざけた雰囲気を消して、凛とした空気を纏う。

 それだけで、そこに居る全員がクサカベのカリスマ性に惹かれ、見入る。

 

「……俺たちに、負けはない。

 負けたらそれは、少なくとも日本は終わるってことを意味するからだ」

 

 その言葉に、極度の緊張感が漂う。

 

「だが、俺たちはその重みを全員で背負う。

 ――俺の重みはお前らに預ける。お前らの重みは俺の物だ」

 

 ふっ、と息をついて――彼は笑う。

 そこに居る誰もが、クサカベに魅入った。

 それは、ムラクモ10班のガトウとナガレも例外ではない。

 

「お前らは、戦場に立つ友だ。

 俺が命をかけるのは友のため――」

 

 力強く雷切を握りしめ、吠える。

 上げていた腕を、全員がなおの事力強く天に掲げる。

 

 

「――かけがえのない、明日のためだ!!」

 

「「「『「「――友と、明日のためにっ!」」』」」」

 

 

 そうして、彼らは決戦に臨む。

 何を見るのか。この戦いで、何が起こるのか……。

 ――彼らはまだ、知る由はない。

 

 

 

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