真打7thD ‐2020-   作:唯のかえる

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第19話

 帝竜、叫喚――。

 都庁の大気が、屋上の床が――真っ赤な帝竜を中心にして放射状にひび割れていく。 

 膨大な音撃が津波となって、敵を押しつぶさんとうねりを上げながら迫ってくる様を幻視する。

 

 帝竜のスペックをフルで活用したこの力技に、名前を付けるとするなら恐らく……。

 

『幻視叫喚のタイフーンハウル』

 ――この名が相応しいのだろう。

 

 文字通り、『音速』で音撃の津波は、相対したクサカベに向かっていく。

 

 

 だが。

 

 

鬼牙(きが)絶刀(ぜっとう)ォオオオオオッ!!!」

 

 対する彼の、真紅の長髪が黒い月に照らされる屋上で神速で煌めく。

 いつの間にか、脇構えに構えられていた童子切(どうじぎり)安綱(やすつな)は振り抜かれている。

 

 童子切安綱の刀身は、たしかに反りのある長い刀身である。だからといって童子切を振るったクサカベの位置から、十メートル以上離れている帝竜ウォークライに剣先が届く訳もなく、ただくうを切っていただけだ。

 

 ――……そう、空を切っていた。

 

 振り抜かれた童子切安綱の刀身から奔る光の刃を、地に伏すムラクモのメンバーは見た。

 

 その刃、衝撃波はすべてを切り裂いていく。

 幻視されていた圧倒的存在感の音撃の津波を、上下に()ち切って掻き消し――。

 音撃の津波によって巻き上げられ、吹き飛んでくる瓦礫などを斬り裂き――。

 すべてを切り裂き、帝竜ウォークライに到達する!!

 

「………。」

 

 音が死ぬ。

 空間ごと、世界が断たれたのか。と、その技を見たメンバーは思わずに居られなかった。

 カラカラと、巻き上がっていた瓦礫が、地面に落ちて小さく音を立てる。

 

 ズルリ――。

 一拍して、すべてが左右にズレた。

 

 帝竜ウォークライの姿のなかに、突如として斜めに線が入る。

 ボロボロの兜が傾ぎ――ズゥン……と音を立てて真っ二つになった上半身が地に沈んだ。

 正真正銘、不死身にすら思えた帝竜を滅ぼした瞬間である。

 

 もっとも、ムラクモメンバーが息をのんだのはそんなところではなかった。

 

 いや、視界に映る光景に、思考の処理が追いついていないと言うべきか。

 帝竜ウォークライの作る世界で、燦々と照らしていた黒い月が――ズルリと帝竜ウォークライと同じようにズレ……掻き消えた。

 

 草壁五宝、最強の一振り。

 その名を背負う童子切(最強)の一閃が、帝竜の生み出した世界ごと帝竜を絶ち切っていたのだ。

 

 

 ピシリッ!

 

 

 唖然とする帝竜討伐隊を尻目に、ウォークライの体が砕け散っていく。

 そして――世界が揺らぎ『逆サ都庁』と呼ばれた異界の光景が、元の世界の光景へと戻っていくのだった。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿  ❀

 

 

 

 竜の花。

 視界の内の至る所に咲き誇っていた、その花たちが風に揺られる様に大きく揺れた。

 

 赤い花弁を持った竜の花(フロワロ)は、ゆっくりと力を無くすように花弁を散らす。

 ハラハラと、それは空に巻き上がり、光となって消えていく。 

 

 ――それは、帝竜・叫喚(ウォークライ)の支配域。

 『新宿』一帯を人類が取り返したと言う事の証明であった。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿

 

 

 

『――ザザッ。通信状態、回復! ガトウ、ナガレ、クサカベ、応答せよ!』

 

『13班、状況を報告してください!』

 

 ガトウ達ムラクモ10班のインカムとシラハ達13班のインカムから二人の声、ミロクと少女――ミロクと同じナビゲーターのNAV3.7、ミイナの声がかかる。今まで聞こえなかったナビの声が聞こえると言う事は、帝竜の巻き起こしていた電波障害が消え去っていると言う事だ。

 

『……あ、れ? 帝竜の反応がない……、こ、これって……!!』

 

『まさか……!』

 

 ナビから困惑するミロクとミイナの声。

 だが、帝竜の消滅に困惑しているミロクとミイナに対しての返事はない。

 何故なら――。

 

 ドサッ……。

 

「クサカベェ!! おい、シッカリしやがれェ!!」

 

「クサカベ、クサカベ君ッ!!」

 

 童子切を振りかぶった姿勢のまま、不動の構えを見せていたクサカベが、まるで役目を終えたと言わんばかりに体を傾がせ、地面に伏したからだ。

 

『――ガトウッ、ナガレッ! そっちで何が起こっているの!? 報告をしなさい!!』

 

 切羽詰った10班のメンバーの声と、未だ聞こえないクサカベの声に、ナビゲーター二人と一緒に本部にいるナツメ総長が怒鳴る。彼女の脳裏に浮かぶのは、現在ムラクモ最強の戦力を誇るクサカベの――。

 

「救護班を呼べッ! 今すぐだ!!

 ……オイ、クサカベッ。いい所ばっかとって勝手に死ぬンじゃねェぞ!!」

 

「応急処置をします! 回復剤(メディス)を余らせている人は急いで処方を!」

 

 ガトウとナガレが叫ぶようにインカムに声かける。

 キズの痛む体を無理に動かし、倒れたクサカベの元へと近寄る。

 

『分かったわ!!』

 

『はぁ!? うそだろ、あのクサカベが……!? オイ、ガトウ何とか言えよ!!』

 

『ミロク、落ち着いて。こちらでも処置をナビします。――状況を!』

 

 フロワロが散り、天からハラハラと舞い散り始めても、屋上にいるムラクモのメンバーの焦りは止まらない。逆さ都庁が、元の姿に戻ったことに対する感想すら口から出ない。

 

「……クサカベさん、さっき冷たくなっていたのに……いったいどうやって……。

 いえ、こうして今また死にかけている状況を何とかしないと……!!」

 

「み、みいなちゃん! ど、どーすればいいのぉ!!」

 

「……、人類の希望のような彼にここで消えてもらうわけにはいかん」

 

 ムラクモメンバーは、彼ら自身ボロボロの体を引きずり、地に伏したクサカベを取り囲む。

 そして、仰向けにさせ、致命傷になっている胸の傷に対して応急処置を施す。

 そのとき――、ぐちゅり。と、彼の右手にある童子切が蠢く。

 

「が、がああああァアアぁアアアッ!!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 ビクンッ!!

 と、クサカベが目を見開いて、故障したロボットのようにガクガクと痙攣し始める。

 それに伴い、童子切安綱の小さく不気味にドクドクと、淡い黄色のこぶが脈動し始めたのだ。

 

「く、くさかべさん!?」

 

 思わず、一番動揺したユーリシャが童子切から発生している棘と小さな手に触れようとした瞬間――。

 

「ッ!! 触るなッ!!!」

 

「キャッ!?」

 

 クサカベが、その瞬間に覚醒したように体を弾く。

 そして、無理にふらつきながら立ち上がる。

 

「くそ、だから童子切は――。いや、童子切、力を貸してくれてありがとう……っっつ!」

 

 クサカベが、剣印を作り童子切安綱の前で振るう。

 意志のある様に、童子切安綱が震え――虚空に掻き消えた。

 その後には、使い物にならなくなったような棘によって穴だらけになり、血を噴き出す右手。

 

 童子切安綱は、最強の一振りである。

 そして、使用者の命も蝕む諸刃の剣でもあるのだ。

 クサカベは、暫くまともに刀を振るうことが出来ないだろう。

 

「クサカベッ! オマエ、死んでなかったのか……!」

 

「まだ、安静にするんだ。すぐに、救護班が来る……ってクサカベ君!?」

 

「……。」

 

 童子切安綱に貫かれた右手を押さえながら、再び座り込むクサカベ。

 意識は、ないようだ。

 

「おい、ナツメッ! 救護班はまだなのか!!」

 

『急いでるわよっ!

 今控えの13班に急がせているけど、都庁内のマモノが消え去ったわけではないのよ!!』

 

「くそ……」

 

 そんな時、フロワロの舞う都庁の屋上に一陣の強風が吹いた。

 細かい砂埃や塵を巻き上げ、それはムラクモメンバーの顔に飛んでくる。

 思わず全員が腕で顔を覆い、目を瞑っていた。

 

 そして。

 ――ザザザザアアアアアアッ!!

 

『うわっ、ザザッ! ――ノイ、ザザ、ザザザザアッ!!』

 

 突如として、使い物にならなくなるムラクモ本部との連絡を繋ぐインカム。

 風が止まり、ゆっくりと目を開けるときには、ノイズすらなくなりインカムからは無音しか返ってこなくなっていた。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿

 

 

 

 シラハは塵を孕んだ強風から目を守った後、ゆっくりと目を開ける。

 

「……? くさかべさん?」

 

 そして、片膝をつくように気絶していたクサカベの姿が無くなっている事に気がつく。

 まさか今の風にさらわれた!?

 と、周囲に急いで目を走らせ――クサカベを、抱える人影を見た。

 

「クサカベさん! ……誰っ?」

 

 首から広がるようなゆったりとした黒いファーのついた白のストール。

 白を基調とした上品なシャツ。

 そ黒に金の美しい刺繍のされたローライズデニムを着た、長い青髪の美しい女が立っていた。

 

「……急にごめんなさい。でも、彼は連れて行くわ」

 

 そして、鈴が鳴るような耳に優しい声で、慈愛に満ちた顔をムラクモメンバーに向ける。

 唐突に現れた彼女に、全員が警戒する。

 この場にいる全員が、唐突に現れた彼女の気配に驚愕していたのだ。

 

「そんな……! クサカベさん、今すっごい怪我なんだよっ!!

 知らない人に連れて行かせるわけないじゃん!」

 

 ユーリシャがボロボロの体に無理をさせながら、軍用ナイフを構える。

 その彼女の姿を見て、ムラクモメンバー全員が攻撃の構えに出る。

 

「……本当にごめんなさい。

 でも、彼を連れていくことに同意してほしいの。

 彼を、……ハントマンをここで死なせるわけにはいかないわ」

 

「ハント、マン? それって、クサカベさんが嫌がるあだ名じゃ……」

 

「お願い。これは、私のハントマンの――義姉(あね)としてのお願い」

 

「「お、おねえさん!?」」

 

 その言葉にシラハとユーリシャがハモった。

 目の前にいる上品な青髪の女性とクサカベはあまりに似ていない、その言葉を疑ってかかる。

 

「それにこんな状態のハントマンを見過ごしたら、エメル姉さんがきっと怒るわ。

 ――いえ、物凄く怒るわ」

 

 なぜか、思い出したようにブルリと震える上品な青髪の女性。

 

「――連れてけ」

 

 エメルという単語が出た瞬間、ガトウは迸らせていた殺気を収めた。

 その様子に、他のムラクモメンバーは驚愕するのだった。

 いや、ナガレだけはハッと何かを思い出したように動きを止めている。

 

「前に、エメルっていう『はた迷惑そうな姉』の話ならクサカベから聞いたことがある」

 

「……ありがとう。ハントマンの事は任せて」

 

 ガトウは、頭を抱えて思考する。

 

(それに、今のクサカベをムラクモに置いとくのは正直危険だしな。

 もともと、コイツの技術は得体がしれねェ。案外、渡りに船だ。

 ついでに、クサカベの姉ならそれ相応の技術を持っていてもおかしくはねェ)

 

 ガトウは、クサカベの常識にとらわれない戦い方や、武器召喚を思い出す。

 ムラクモの研究者たちは、嬉々として治療という名の研究を行ったり、サンプルを頂戴するのが目に見えている。

 だが、一つだけしっかりと確認しとかないといけないことがある。

 

 

「――クサカベは、生きるんだろうな?

 じゃねぇと、俺は地獄の底までテメェを追いかけてブッコロス」

 

「――任せて。決してハントマンを死なせたりはしないわ」

 

 

 そう告げるとクサカベの姉を名乗った青髪の上品な女性は、再び吹いた強風と共に消え去っていた。この後、通信が回復したムラクモ本部からガトウはナツメから強い叱責を受けるが、左から右へと受け流すのだった。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿

 

 

 

 かくして、日本で生きる人類はドラゴンという名の脅威に対し、人間の居場所を取り戻すのだった。帝竜ウォークライによって支配されていた都庁は解放され、残った皆で協力しすぐさま元の姿を取り戻していく。

 

 そこに生きる全員が新しい家のために、汗を流して必死に働いた。

 そこには歴史上、幾多の苦難を乗り越えてきた人類の強さがあった。

 

 

 そして、都庁の改修が終わった日。

 その日、集められた資源で精一杯の宴が行われた。

 最前線で戦った戦士たちを囲み、人々は宴を楽しむ。

 

 それはかつての生活からすれば、あまりに粗末な宴でしかなかったが、人々の顔には喜びが満ちていた。

 

 ――最後に、全員で抱負を語る。

 手に入れた人間の拠点でドラゴンと戦いながら、それでも生き抜くという覚悟を決めた証である。

 

 

 

 ……だが、そこには最大級の貢献をしたクサカベの姿はなく。

 その事柄だけが、全員の心に言いようのない不安の影を落とすのであった。

 

 

 





 ちょっとだけ、世界が変わっていきます。
 あんまり大きくは変わらないですが、助けたい人たちの救済へと。

 あれ?? クサカベ=サン?
 雷切はどうしたんデスカ??
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