試験開始――。
そうナツメが告げた後、ガトウがどう動けばいいか困っている候補生たちに声をかける。
「じゃあ、まずは言われた通り3名チームを組め! それが終わった奴はエントランスで待機だ」
「――かくして、ガトウのおっさんはぼっちに対する死刑宣告をするのであった……!」
「いいこと? クサカベは黙っていなさい」
ガトウのセリフに随分と深刻な表情で告げるクサカベ。
もちろん、チーム分けに対する一つのお約束ネタだ。
ナツメは呆れ顔で、クサカベに注意をして、慌ただしく動き出した候補生たちを眺めはじめた。
候補生は、初めは戸惑っていたが緑髪のキリノ補佐官がターミナル前で編成を勧めているのに気がつき、移動を開始した。
――早い話。ここで、チームを組むことが出来なければ、『ほぼ落第』であると言っておこう。
教官であるガトウのおっさんが組めと言ったのだ。
組まないやつはクサカベが、点数をはねる。
都庁の内の戦闘で最上の成績を上げれば合格の余地はあるが、それでも難しいものだ。
そして、合格の点数以外の意味も、もちろんある。
「……それじゃ、俺は先に行くぞ。
エントランスに自衛隊がいるとはいえ、マモノが下りてこない保証はねぇンだ」
「はいよ。……ガトウのおっさんも気を付けて」
「おう。テメーはチーム編成のチェックしてから中に入れてこいよ? いいな!」
それ以外の意味とは、3人で組ませるのは候補生の協調性も見るが、演習での安全性も考慮されているのだ。前衛ばかりで偏ったチームや後衛のみで偏るチームなどの適度な配分も最低限はこちらで指示をしてやらねばならない。
犠牲者を出すために、この試験を受けさせているわけではないのだ。
ガトウは紫色のバンダナをたなびかせながら、都庁のエントランス内に突入していった。
クサカベはそれを見送りつつ、エントランスの入り口前に立ち、チーム編成を終えた候補生たちを中へ送り出し始めるのだった。
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「んー、前衛後衛後衛、おっけー。通っていいよ、健闘を祈る」
「前衛兼後衛、前衛ー、後衛。いいよ。怪我に気を付けてね」
「はいー、ダメー。え? 超能力至上主義? 連戦で脳の回路ぶち切れてもいいなら。
……あ、そう。組みなおしておいで」
「うーん、有名なデストロイヤー三人衆?
しらないなぁ、筋肉削げても戦えるなら別にいいぜ?
……あ、そこの超能力者チームで困ってる人いたから上手い事分かれておいで」
極端な編成のみを跳ねて、その組み合わせを適当に話し合いさせ、組み直しさせていく。
ニヤニヤ笑いの根暗たちに華麗なポージングを決める筋肉マッチョを押し付けるクサカベに容赦はなかった。
と、そんな中で――。
「あのー、えーっと、クサ、カベ教官殿?
あのですね。あのですねっ! ちょっとよろしいでしょーか!」
「うん? 編成決まった感じ……って二人しかいないじゃん」
橙髪の活発そうな女の子がブンブンと手を振りながら、クサカベに声をかけてきた。
その横には、フードを目深に被っているのにイケメンだと分かるダルそうな顔をした男が立っている。おそらくペアだろう。
クサカベは、質問のために手をブンブン振っている少女に内容を話すようにうながす。
「あのですねー、先ほどから組む人を探しているのですが、見つからないんですよー」
「……ちゃんと数あってんのか? ……あってます、です、……しょうか?」
「ちゃんと人数は3人で組める数のはずだけどな。あと、俺に対しては無理に敬語使わなくていいぜー。ただし、他の人には礼儀正しくな?」
「おお、話せる教官じゃねぇか。
……少なくともあのガトウっていう教官にはフランクに接せれる自信ないぜ」
「うんうんっ!
なんというか、歴戦の傭兵って感じ! ってちーむどうすればいいのー?」
ガトウの強烈な雰囲気を思い出したのか、うんうん。と頷く候補生の二人。
クサカベは、そんな候補生のチームを組んでやるべく、近くを見渡す。
候補生で残っている者は二人以外おらず、辺りを見回してみるが自衛隊で警備をしている人たちしか見当たらない。
「んー?」
――そして思い出す。
はて、そういえば初めに遅刻してきた少女は来ただろうか?
来ていれば、内心チェックマークを入れていたので分かる気がするが……。
クサカベは先ほど候補生が集まっていた、少し離れた広場を眺めた。
……いた。
何かを一心不乱にメモ取っている黒髪の少女がいた。
彼女はいったい何をメモ取っているのか……。
メモ帳と思われる小さな手記の中身がとても気になるクサカベだった。
クサカベが少女を見つめているのに、元気系少女とパーカー男子も気がつく。
「……なんだありゃ。あいつは確か最後に来たやつだよな?」
「うーん、なにしてるんだろ? とりあえず、呼びに行ってみよー!」
そういって駆け出す元気そうな少女。
……かなり、走るのが早い。
さすがは能力S級だと、こんなところで感じてしまった。
クサカベは残ったパーカー男子に告げる。
「良かったな」
「なにがだ? あの女、アンタの知り合いか?」
違う違う、とクサカベは手を振った。
軽く笑みを浮かべて――。
「あの子、俺とガトウのおっさんが目をつけてた候補生だぜ? よかったな、一緒に組めて」
「……なんだよそれ、嫌味かよ」
パーカー男子はすごく嫌そうな顔をして、元気系少女の方に合流する様に歩き出す。
クサカベは思わず首をかしげた。
クサカベは良い意味で目をつけてたと言ったつもりでも、教官二人がこの時点で目をつけるということはあの遅刻が響いてるんだろうという推測しかできず、問題児を抱えてしまったという解釈をしたようなのだ。
元気系少女が近づいて声をかけたのに気がついたのか、はっと顔を上げて辺りをきょろきょろ見回した黒髪少女。まったく、状況の変化に気がついていなかったようで、すこし顔を赤く染めていた。
そして、しばらく話し合っていたと思うと、おずおずと握手をする様に手を合わせた。
パーカー男子もたどり着き、クサカベの方を指さす。
どうやら話はまとまったようだ。
クサカベはチームを組んだと思われるその三人を、急いでエントランスに押し込む。
そこでは、待ちくたびれてイライラしたふうなガトウが、太い腕を組んで立っていた。
ガトウのさっさとしろという視線に慌てた三人は駆け出し、クサカベは乾いた笑みでアハハとこぼす。たしかに、今回の遅れで目をつけられた可能性はあるなぁ……と、心の中で元気系少女とパーカー男子に合掌するのであった。
「あ、チーム内容確認してないや。……ま、まぁ大丈夫だろ」
相変わらず、しまらないクサカベであった。