――戦闘終了。
床にナイフと突き刺さっていたラビと、両断されたラビが空気に溶けるように掻き消えていく。
そして、消えた後には少量の小さな光を放つ石のようなものが残った。
クサカベは担いだ元気系少女を床におろし、その光る小石のような物を拾い上げる。
そして、近場にいた黒髪少女に手渡した。
「ほれ。……よくやった」
「え? あ、ありがとうございます」
今の石はAzと呼ばれる万能に活用できる資材だ。
なぜマモノから落ちるのか、マモノのどこで生成しているのかもわかっていないが、ムラクモ機関では重要視されている物だった。
それを見終わったガトウが、元気系少女に拳骨を落としながら、候補生全員に告げる。
「今ので分かったように、自分の武器が無くなるような事、大きな隙は見せンじゃねェ。
適当にやらなきゃ、お前らの能力なら安心して勝てる相手だ。いいな?」
「ぅう……。いたいー」
コクリと神妙な顔で頷く、候補生一同。
それを確認したガトウのおっさんは、じゃあと声を出す。
「とりあえず、全員マモノを討伐しながら3階まで来い」
そして、背を向けて先程ラビが飛び出してきた階段に向かって歩き出す。
「おい……じゃなくて、あの! 3階までたどり着けなかったらどうなる、……んです?」
パーカー男子がガトウに質問する。
ここに集められた人材の能力を鑑みるに、そんなことは決してないと思うが……とクサカベは首をかしげながらガトウの背を見る。
横目にめんどくさそうに振り返ったガトウが、片手をひらひらと振りながら……ニィと凄む。
「――根性ねェやつは、そこで『バイバイ』だ。それじゃ、先に行くぞ」
最後のはクサカベに対しての声掛け。了承してクサカベは頷く。
そうして、ガトウは階段を駆け上って行った。
そこからは、少々楽しげな声が聞こえてくるのであった。
……ギィ!? オラァ! ギギギッ!? 邪魔だァ! ぎー!? 集まんなカスどもォ!!
きっちり出入り口のマモノも間引いているみたいだし、エントランスはしばらく安全っぽいな。
ざわざわと、ガトウが居なくなったことでエントランスは喧騒に包まれた。
パンパンッ!
クサカベは手を叩いて注目を集めさせる。
ガトウが先に行ったのはマモノが下りてくるペースが予想よりも早かったからだ。
実践皆無な候補生が行っても安全な程度なエンカウント量に間引く必要があった。
本来ガトウが行うはずだった説明を、クサカベが継続する。
「こほん、じゃあ試験を開始するぜー。
……っといけね。マモノを倒した時に落とす光る石は拾ってくるよーに。
それで、どれだけマモノを倒したかどうかも分かるからな?
あと、もしほかの候補生から奪うようなことがあれば、奪われた側も奪った側も失格だ。
――いいな?」
全員に説明が行き届いたのを確認して、手を階段の方に向けた。
「じゃあ、動けー。早く着いたやつも石を稼いだ奴も、どちらも優秀って扱いになるからな。
正面きって倒す自信のない奴は、敵が油断している今が楽だぜ?
まぁ、総合評価してくからマモノ討伐0でしたってのは弾くけどな!」
クサカベのその台詞に、顔を見合わせて仲間と頷きあった数チームが駆け出して、階段を上っていく。
そして、それを見た残りのチームもメンバーと話して戦闘方法を確認し、動き始めるのだった。
❀✿❀✿❀✿❀
「あのっ! ありがとうございましたっ!」
「ん? ああ、次から油断しないようにな」
元気系少女が、とてーと駆け寄ってくる。そして、ぶんっと音がする位勢いよく頭をさげた。
クサカベとしてもこんな安全係数を確保しているエントランスで、あんな事態になったとしては不祥事レベルだ。
――何より、正義感の強い自衛隊員までいるのだ。
……想像はしたくないが、もしも守れなかったら、ぼろくそに言われるじゃすまない。
「――強いですね、貴方」
黒髪少女がクサカベの目を見ながら、ぽつりとこぼした。
クサカベは面倒くさそうに頭を掻きながら、適当に流して試験に行かせようとするが、先にパーカー男子が反応する。
「……ん? この人最弱って自分で言ってなかったか?
少なくともあのガトウって教官のほうが覇気あるぜ?」
パーカー男子の疑問には、元気系少女が指先をつんつん、と合わせながら答えた。
その様子はどこかがっくりとしている。
「んー、あたし、クサカベ教官殿に担がれたから分かるけど、一瞬だったよ……。
あたし、トリックスターって言われて舞い上がってたけど……、じしんなくした、かも」
「十メートル近くの距離を一瞬で詰め、なおかつその速度で体制維持し、一人を怪我なく担ぐ技術力。……おみそれいたします」
「……確かに。よく考えたら化け物じゃねぇか。アンタ凄かったんだなっ!!」
クサカベが候補生達のべた褒めに、思わずたじろぐ。
「い、いや、まぁ教官としては当然だろ。
分かったらお前らもさっさといけっ! また遅刻になんぞ!!」
しっしっ、とそっぽを向きながら手を払う。
パーカー男子がその様子を見てニヤニヤと笑って何か言いそうだったが、遅刻という言葉に大げさに反応した黒髪少女がハッと顔を上げて元気系少女とパーカー男子の腕をつかんだ。
「ち、遅刻はダメです!!」
そして、
「えっ? ――きゃあああぁ……!?」
「うぉ!? ――だぁあああ……!?」
ダメですー!! と声を出しながら走り出していった。
何となく、あの黒髪少女どこか抜けてるのかもしれない……。
「ああいうのを、天然って言うんだろうな……。
てか、名前はシラハだっけ。……、いい刀捌きだったな、ちゃんと覚えておこうかね」
ふと、クサカベは思った。
「人間二人の腕を掴んで、宙に浮かばせながら階段上るって……」
それ以上は考えないことにしておこう。
時折、この世界では不可思議なことが起こる。
例えば、ギャグのような場面で、人体に大きな影響が出ないとか。
例えば、S級能力者のように基礎能力の高い人間が生まれるとか。
例えば、屋内で炎系の超能力を使って火事にならないとか。
例えば、屋内なのに暴れ回れるくらいスペースが広いとか。
例えば――、都庁の中で見たこともない『赤い花』が咲き誇っている……とか。