真打7thD ‐2020-   作:唯のかえる

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第6話

 ――試験開始より30分経過。

 

 

「そろそろ早い奴は、ガトウさんから指示受けて屋上かなぁー」

 

 クサカベは、候補生が誰もいなくなったエントランスで伸びをする。

 時折、耳に付けたインカムからガトウのおっさんと上層で敵を間引いてるナガレの旦那から定期報告が来る。

 

 成果は上々、優秀な子たちが多いみたいだ。

 

 そんなことを考えていると、ガトウのおっさんから通信が入った。

 

『ガトウだ。そろそろ3階での待ち受けを終える。

 自衛隊の連中を回して、脱落者たちを回収、マモノの殲滅をさせろ』

 

「りょーかい。そういや、シラハ……最後にエントランスに入って来たチームは来ましたか?」

 

『まだだな。……いや、見えてきた。報告以上、切るぞ』

 

 ガトウのおっさんが切る前に、クサカベは少々口添えをする。

 彼女たちのことを気に入ってしまったのだ。

 

「――そいつらを、よろしくお願いしますね」

 

『……フン、少しは考えといてやンぜ』

 

 ブツッ!! と、ガトウとの通信が終わった。

 

 クサカベは整ったその顔に、少しだけ笑みを浮かべる。

 そして、自衛隊員たちに指示を出し始めた。

 すぐに自衛隊員が編成された部隊で、上階に進み始める。

 

 その直後――。

 

『ザザッ! ……こちらナガレ! ガトウさん、クサカベ君、聞こえますか?』

 

 活力に満ちた男性の声がインカムから響く。クサカベの恩人の一人、ナガレの旦那だ。

 既に結婚もしていて、美人な奥さんもいる能力S級のイケメン。

 きっと勝ち組とは彼のような人間のことを指すのだろう。

 

『……どうした? 何か問題か?』

 

「何かありましたか?」

 

 インカムからガリガリッと、ひっかくような音が聞こえる。

 そして、大きな何かが暴れるような音も。

 

 思わず大丈夫ですか? と声を出そうとした時、息を荒らげたナガレの旦那の声が響く。

 

『ぐっ、やたらデカいマモノが入り込んでますっ!

 俺一人ではとても……!! クソ、コイツ……ッ!!』

 

「旦那……? ガトウさん!」

 

 戦闘に集中し始めたのか、インカムがブツリと音を拾うのを止める。

 大丈夫だと思うが、少々心配になったクサカベはガトウに声をかける。

 

『やれやれ……。教官が苦戦してたンじゃ、候補生の連中に示しがつかねェだろうが……』

 

「おっさん、俺もエレベーター使ってすぐ向かいます!」

 

『いや、今ちょうどお前のお気に入りたちと一緒にいてな。そいつらと向かう……』

 

 少々口ごもったガトウのおっさんが何かを考えるように、口を止める。

 

『……どうもキナ臭ェ感じがする。

 お前は先に屋上行けるエレベータ使って候補生を頼んだ』

 

「……了解。急ぎます」

 

 ガトウの危機管理能力は相当なものだ。

 勘で自分の状況を把握できるのもS級として必要な能力なのかもしれない。

 その会話で二人は通話を切った。

 

 あのガトウのおっさんがキナ臭いと言ったのだ。ガトウに信頼を寄せているクサカベは早足で移動を開始する。――意識を、戦闘の出来る状態に切り替えたほうがいいだろう。

 

 候補生たちが使えない様にロックをかけてあったエレベーターを、マスターキーで動かしエントランスに呼ぶ。

 

 クサカベはパキパキと指を鳴らして、エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

 

『ザザッ――。エマージェンシーコール』

 

 クサカベの乗ったエレベーターが最上階に到着した時、キリノ補佐官の声がインカムから響く。

 

『……緊急事態です。

 巨大なマモノが、都庁屋上に先ほど降り立ったと観測班から報告が入りました』

 

『ちっ……、本命は屋上かよ。クサカベ分かってンな!』

 

「急ぎます! いつ降りたんだ!!」

 

 ゆっくりと開く、エレベーターを無理やりこじ開けた瞬間――。

 

 ――キッ!

 

 ラビの集団が跳びかかってくる。

 チッ、と舌打ちをして素早く懐から符を抜き放つ!!

 

 

「『火焔呪(かえんじゅ)! ――急々如律令ッ!』」

 

 

 轟ッ!! とパーカー男子が放った火焔とは比べ物にならない密度の巨大な炎が勢いよく突き抜ける。その炎は、断末魔を上げさせることなく多量のラビたちを一瞬で消し去ってしまった。

 クサカベは消し炭になったラビたちを見ることもなく、廊下を走り抜ける。

 

『つい先ほどです。急いでください、候補生たちの実力を考えるとあまり持ちません』

 

『俺たちは、ここが終わったらほかのフロアで候補生の回収をやる。……まかせたぞ!』

 

「了解!」

 

 ブツッ! と、激しい音でインカム途切れる。

 ここから屋上に昇るには、非常用シャッターの先を回り込むようにして進まないといけない。

 試験用に設定した順路がここに来て邪魔をする。

 

「……なら斬るか」

 

 足を動かしながら、――祝詞を唱える。

 

 「 『牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門 七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢』 」

 

 かざした手に着けていた白い手袋が、空気に溶けるように消える。

 その五指の爪にはそれぞれ不可思議な文様が浮かび上がっている。

 

 ――人差し指の爪に、朱で描かれた呪印が光り輝く。

 

 「 『巨門零零(こもんれいれい)、急ぎて律令の如く成せ』 」

 

 呪印の刻まれた爪から、左腕全体に気が充溢していくのを感じる。

 そして、ここに在り、ここに在らざるものを、心の内でしっかりと思い浮かべ――。

 左腕を鞘に見立て、掌からその刀を引き抜く!!

 

 

 「 『千歳(ちとせ)(ともがら)小烏丸(こがらすまる)天国(あまくに)!!』 」

 

 

 草壁五宝の内の一、小烏丸天国。

 烏の濡れ羽のような艶やかな漆黒の刃が特徴の、美しい鋒両刃造(きっさきもろはづくり)の刀だ。

 

 クサカベは小烏丸を疾走しながら振り抜く。

 まるで紙切れのように防火シャッターを袈裟に切り裂き、返す刀で道を切り開いた。

 そして、屋上につながるエレベーターに乗り込んで、ボタンを連打する。

 扉が閉じたとき、目を閉じ、フッ! と力強く呼吸。熱くなった頭を冷静に、クリアにする。

 

 チーン。と現状に合わないエレベーターの落ち着いた音が響き、扉が開く。

 クサカベは目を開け、ダンッと床を蹴って屋上に飛び出した。

 

 

 ――グォオオオオオオオオオッ!!

 

 

 屋上には、一面に赤く幻想的な花たちが咲き乱れ――、

 候補生たちがうつ伏せに倒れ伏していた。

 圧倒的な存在感を放つ蒼いマモノは大きく吼える。それだけで、空気はビリビリとふるえた。

 そして、その巨体を武器にしなる様にソレを振るう。

 

 クサカベは悲痛な面持ちで駆けつけ、今に振るわれそうだった『長い尾』を受け流すようにして反らす。ビリビリッと流しきれなかった衝撃が体に走る。

 それだけで、どれ程の膂力を持った敵か手に取るようにわかる。

 

「生きてるのはお前だけか?」

 

 クサカベは絶妙のタイミングで助けることが出来た、唯一立っている金髪の妙な兎の人形を持ったゴスロリ衣装の少女に確認する。

 

「……遅いぞ教官。ああ、私以外手遅れだ」

 

 伏せた覇気のない目で少女は、クサカベに告げる。

 彼女は起こってしまった物は仕方ないと言った然で首を振り、蒼いマモノから大きく距離を取る様に下がった。

 

 ゴスロリ少女の周りに、マナで構成されたと思われるキーボードとバイタル計測器、ディスプレイが浮かび上がる。それで情報技能系(ハッカー)のS級能力者と判断出来る。

 

 どうやら、クサカベの援護をしてくれるようだ。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

「――報告。合格者、1名を残し死亡」

 

 クサカベはインカムを押さえながら、すっと漆黒の小烏丸を蒼い巨大なマモノ――『ドラゴン』に向ける。その声は、普段の能天気さから考えられない位、平坦な声音だった。

 

「――標的。ドラゴンと呼ばれるものに酷似。戦闘跡より、炎を使うと推測する」

 

 保険に相手の特徴を告げておく。

 運が良ければ、観測班のナビゲーターが過去に類似したマモノの情報を上げてくれるだろう。

 

 

「叢雲十班、草壁狩人――戦闘を開始する」

 

 

 気の抜けない戦闘。

 散った候補生たちの無念を晴らすべく、クサカベはドラゴンに斬りかかった。

 

 

 

 




 ハントマン。無印ではそう呼ばれるそうですね。
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