真打7thD ‐2020-   作:唯のかえる

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第8話

 ――強い風が吹く。舞い上がった赤い花弁は天空に吸い込まれるように消えて行った。

 何かを呼んでる。

 

 ――風に乗ってウタが聞こえる。誰かが悲しい歌声で歌っている。

 それは抗いの唄。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

 微かな歌声を耳にしたクサカベは、風に靡く自分の紅髪を押さえながら辺りを見回す。視認できる範囲には何も確認できず、強い風がピタリと止まるとその声も聞こえなくなってしまった。

 

 歌声はどこか懐かしく、遠い……今世より以前に聞いた歌声の気がした。

 

「なぁ、なんか聞こえ――」

 

 ザザッ――。

 クサカベの言葉を遮るようにインカムから通信が入る。

 

『犠牲者が、出てしまったのね。

 でも、私たちはもう立ち止まって――。いえ、これはあとで考えましょう。

 ムラクモ十班に告げます。屋内にまだマモノがいるかもしれないわ。

 マモノの殲滅を開始しなさい、大きなマモノには気をつけて。以上よ』

 

「りょーかい。……ナツメ総長、間に合わなくてすまんな』

 

『ふふ、クサカベからそんな殊勝な言葉が出るなんてね。

 ……責任を感じる必要はないわ。誰にも予測できない事態よ』

 

「……行くぞクサカベ。今立ち止まって、また間に合わなくなっても知らねェぞ」

 

「クサカベ君。僕たちだけだったら……言いたくもないけど一人も助からなかったんだ。

 君は良くやったよ」

 

「……はい」

 

 かぶりを振ってクサカベは候補生たちの物言わぬ骸に、黙とうを捧げた。

 

 それを見届けたガトウは、連れてきたシラハチームと情報操作系(ハッカー)のゴスロリ少女に屋上で待機の指示を出す。正直、十班が揃っている状態での候補生は連携の邪魔になるのだ。

 

「――ていう訳だ。俺たちは、他にもそのデカブツがいないかもう一度フロアを確認してくる。

 お前らは、ここで待機してろ。あとで出迎えを来させる……いいな?」

 

「了解しました。……お気をつけてくださいね」

 

「ガハハ! ガキどもに心配されるほど、柔じゃねぇさ。それじゃ行くぞ」

 

 不安げな候補生の心情を吹き飛ばすように、ガトウが力強く笑う。

 ゴスロリ少女は相変わらず、ウサギの人形を抱きしめて座り込んでいたが、不安そうだったシラハチームの暗い雰囲気が一蹴されていた。

 

 そして、クサカベ達は信頼の視線を背に、屋内に向かって走り出すのだった。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

「……おかしいな」

 

「そうですね」

 

「……マモノが、いない?」

 

 屋内に入って早速疑問が湧き上がる。

 

 ――マモノがいないのだ。

 屋上に向かうまでの間、歩を進めればエンカウントしていたマモノ達の姿が一切見えない。

 ガトウのおっさんが、いらだって舌打ちをする。

 精鋭であるムラクモ十班に嫌な予感めいたものが、胸の内に広がっていた。

 

「ちっ。……ムラクモ十班だ。都庁内のマモノがいねェ。

 どうにも嫌な予感がするが――観測班どうだ」

 

『――こちら観測班』

 

 各自のインカムから若い少女の声が響く。

 演算能力S級の伝令役の少女だったはずだ、とクサカベは思い出した。

 

『マモノの観測データは、都庁の各階の端に集中しています。

 ――巨大なマモノのデータは今のところありません……が、一応気を付けておいてください』

 

 その言葉に、ガトウは悩むように考え込む。

 

「そぉか。……んじゃあ、分かれるか。通常のマモノは各個撃破。

 デケェマモノは尻尾巻いて逃げて、合流のち撃破――いいな? 早まんじゃねぇぞクサカベ」

 

 先程、クサカベの様子から一応釘を刺しておくことにしたガトウ。

 その隠れた気遣いに、同じ班のナガレとクサカベは気がつき苦笑いをする。

 

「僕は既に勝てないことを理解してますからね。

 それに足なら自信ありますから、そうしましょうか」

 

「りょーかい。守る奴がいなけりゃ、普通に勝てると思いますが――、

 いえ、増長はなしで行きましょう。全力で逃げさせていただきまっす!!」

 

 びしっ! と笑いながらクサカベは敬礼した。

 その動作に、嫌な予感を少しでも払拭できるようにおどけた要素が入っていたのはクサカベなりの気遣いだろう。

 

「――俺とナガレは下から回る。クサカベは上から一人だ。クサカベもその方がいいだろ?」

 

「正直、僕は一人だと戦闘面が怪しいですから。ガトウさんが一緒なら助かりますよ」

 

「まぁ、十班のメンバーなら問題ないんですけどね。……そうですね、そうしましょうか」

 

 エレベーターの前に陣取って話し合いをしていた面々は、頷いてこれからの行動に焦点を合わせる。分かれる前に、クサカベは思い出したように、――拳を突きだす。

 

 ガトウとナガレもやれやれと言った風に、そのクサカベが出した拳に拳を合わせた。

 

 

「「「友と明日のために」」」

 

 

 悪い緊張感に支配されていたムラクモ十班は、完全に平時のひょうひょうとした雰囲気を纏い、動き始めるのだった。

 

 

 

 エレベーターに乗ったナガレとガトウは、クサカベがいない間にぽつりと話す。

 

「……ああいうクセェのも、案外悪くねェな」

 

「ふふ、クサカベ君のいいところ。ですね?」

 

 フン、と息を吐いたガトウ達を乗せたエレベーターが開いたとき――、

 

 

 ついに七竜の物語は始まりを告げる。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

「――んーっ!!

 案外、ノリに乗ってくれるガトウのおっさんとナガレの旦那が好きだァー!!」

 

 ブンブンと腕を振って子供の様にはしゃぐクサカベの姿がエレベーターの前にあった。

 そして、ふぅー……と上がり過ぎたテンションが一週回ったのか落ち着きを取り戻す。

 

「さて……」

 

 両手を顔の前にかざす。

 

 「 『牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門――七惑七星(しちわくしちせい)が招きたる由来艸阜(ゆらいそうふう)の勢』 」

 

 白い手袋がすぅ……と消え、呪印が印象的な爪が晒される。

 前回のドラゴンとの戦闘を考え、クサカベは小手先の技より火力で押しつぶすことに決める。

 

 カッ! と中指の呪印が光って浮かび上がり――。

 

 「 『廉貞零零(れんじょうれいれい)、急ぎて律令の如く成せ――千歳(ちとせ)(ともがら)火車切(かしゃぎり)広光(ひろみつ)!』」

 

 青白く輝く左手を鞘に見立て、小烏丸天国よりも武骨で長い野太刀を引きずり出す。

 

 三尺を超える大太刀。あまりに太い刀身のため、尋常な刀に見えない見た目。

 通常の刀を基準に、刀二本を重ねたほどの太さ。

 

 ――バランスを欠いた無骨な太刀。

 

 この刀に込められた思想は、端正な機能美に留まることを拒み、結果――。

 ――禍々しいほどの異形として表れている。

 

 クサカベは火車切広光をうっとりとしたふうに眺め……、はっと意識を戻して肩に担いで走り出すのだった。

 

 ……しばらく走り続けて、ぽつりと一言。

 

 

「……鉋切(かんなぎり)にしとくべきだったかなぁ。ちょっと走りにくい」

 

 

 建物内を走り回るこの状況で、火車切広光は少々大きく、ぶっちゃけると嵩張るのであった。

 

 




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