真打7thD ‐2020-   作:唯のかえる

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第9話

 ガトウとナガレがエントランスに到着して予定通り動き出そうとした時、それは起こった。

 

 グラッ……!

 都庁全体が震えるような振動を感じ、危険を告げるアラームがビィイイイと叫びを上げる。

 

「何が起きてやがンだ……?」

 

「とにかく外へ!!」

 

 エントランスで待機していた自衛隊員たちも慌てたように外へと向かって駆け出していく。

 

 

 ――そこには。

 

 

「オイオイオイッ、何の冗談だこりゃ!!?」

 

「なんて……ことだ……!」

 

 

 ――存在感を無尽に放つ。

 

 

『都庁上空に生体反応有っ! 高速で接近中!!』

 

『緊急事態発生! 都庁内にいる生存者は直ちに帰還せよっ!!

 繰り返――ざざっ、直ちに帰還を、ザザザザーッ!!』

 

 

 ――幾百、幾千……、幾万ものの幻想種。

 ドラゴンの空を翔る姿があった。

 

 

『こちらザザッ班、クサカベ! 何が起きて――ザザザザ』

 

 呆然と事態を見守っていたガトウとナガレのインカムが、都庁内にいるクサカベの声を雑音まみれで届ける。

 

「クサカベ!? オイ、返事しやがれってンだ!!」

 

 聞き取るためにガトウは一度聞き返したが、ズンッと振動と共に都庁内で戦ったのと同じ蒼いドラゴンが目の前に降り立つ。ガトウは舌打ちをして、拳を握り――、吠えようと口を開いたその長い頭をぶん殴る!

 

「ウルセェ! 連絡の邪魔だァ!」

 

 文字通り、ドラゴンを拳で黙らせたガトウはもう一度インカムに向かって声を出そうとする。

 が、先に――ノイズにまみれたクサカベの大声が聞こえてくる。

 

『――ザッ、ザザザッ! ――格者を、……ひろ……ます!! う、しん、オワリッ!!!』

 

「……っ。任せたぞクサカベ!!」

 

 聞きとれた内容を頭の中で反芻し、無理やり合格者を回収してくるという内容に落ち着ける。

 ナガレもガトウの援護に既に入っており、のけ反った蒼いドラゴンの口腔内や瞳に向かって、ハンドガンを正確に打ち込み始めている。

 

 広場の中央へと、自衛隊員たちと共に広場への道を切り開きながら、ガトウとナガレは都庁を少しだけ振り返る。その視線には、クサカベへの信頼と先ほど交わした拳の思いが籠っていた。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

 ――~~ッ!!!

 

「――なんだ!?」

 

 クサカベは激しい警報音と都庁全体に強い揺れを感じる。

 先程までの嫌な予感を思い出し、外の広場が見渡せる窓に急いで駆け寄る。

 

「な、なにが起きた……これは!?」

 

 空には、大量の――ドラゴンが飛び交っていた。

 クサカベは、あまりの光景に呆然と眺めていそうになったが、――都庁の広場にもドラゴンが降り立つのが見え、意識を覚醒させる。

 素早くインカムに手を走らせ、本部に確認を取ろうとした時、逆に本部から伝令が入った。

 

『き――……? ただちに……撤退……ザ、ザザザザザザアアァ!!』

 

 しかし、それは狂ったように甲高いノイズが走り耳が痛くなるような音量での物だった。

 

「つっ!? 遂にガタが来たか? もしもし! おい、キリノ……!?」

 

 インカムからは盛大なノイズが響く。

 何度も呼びかけるクサカベの声に対する回答は帰ってこない。

 

 いや、帰ってきているのかもしれない――と言うのが本当のところか。 

 時折、言葉めいたものが聞こえるが、要領を得ない。

 ……なんとか聞き取れたモノの中に『撤退』という言葉があったような気がした。

 

 もう一度、クサカベは外の慌ただしい広場と降り立ったドラゴンを見る。

 瞬間――、吠えようとしたドラゴンの首が大きくのけ反る。

 それをやったのはガトウのおっさんの様だ。

 

 ……まぁ、外の状況を鑑みるに今更試験も糞もないと頭の中で決めつける。

 クサカベも、自分が出来ることをやろうと聞こえていないだろうが一度インカムに向かって予定を叫ぶ。

 

「……ちっ、ガトウさん! ガトウさん聞こえますか!!

 俺は合格者拾ってきます!! 通信オワリッ!!!」

 

『――ざざっ、たの、ザザザ、クサカべ!』

 

 ガトウはクサカベの声を拾えたのか、インカムから怒鳴り声に近い声が響いた。

 だが、唯一はっきり聞こえたクサカベの名を呼ぶその声には、信頼のニュアンスが籠められている気がした。

 

 クサカベは屋上行きのエレベーターの場所まで走っていく。

 

「……くそっ、動かない!」

 

 先程まで動かせたエレベータはすでに電力が回っていないのかうんともすんとも言わない。

 試験用に覚えていた都庁内の地図をざっと思い出す。

 そして、階段のある場所に向かって駆け出したのだった。

 

 ズン……!

 

 再び都庁全体が揺れるような振動を感じる。

 

「間に合ってくれよ……?」

 

 払拭したはずの嫌な感覚をその身に味わいながら、クサカベは速度を上げた。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

「ありゃ、ハントマンじゃーん」

 

「……奇遇だな」

 

 階段のあるエリアにようやくたどり着き、階段を駆け上ろうとした時に背後から声が聞こえた。

 その気の抜けた声は聴き覚えがあり、驚いたクサカベは思わず振り返る。

 しかし、その声はこの場にいることがあり得ない奴らの声だった。

 

「ネコとダイゴ!? 何でここに……!」

 

 棒つきキャンディーを加えた猫耳フードと尻尾飾りを付けたメガネ少女と全身にタトゥーを刻んだ褐色の大男が階段を駆け上って来ていた。

 

「お前ら、ここは危ないからさっさと降りろ。と言うか何でいるんだよっ!

 ムラクモ嫌いだろお前ら!? ていうかその呼び方をするんじゃねぇ!!」

 

「こっちだってネコじゃねぇし!! 寧子(ねいこ)だっつってんだよ!

 ここにいるのはほら、タケハヤに言われてきたからだし?」

 

「ああ、タケハヤにドラゴンを一度見ておけと言われてな。

 特等席から見ることにした――、とネコが先ほど言っていた」

 

「アタシのせいにするんじゃないよ!」

 

「む、なら俺と言う事にしておこう」

 

「そのダイゴの言い方だとアタシが実は……! って感じじゃん!」

 

 ふむ、と顎に手を当てた褐色のタトゥー大男――ダイゴが違ったか? と言った風に首をかしげる。ネコと呼ぶのを止めろと言っている割にはネコをリスペクトした格好のメガネ少女――ネコはそんなダイゴにむきー! と突っ込みを入れた。

 二人とも普段からそんな風にじゃれ合っているのか、嫌悪な感じは一切ない。

 むしろ、何を言っても許される気安さがあった。

 

 だが、この状況でそんな気安さを出されて漫才されて困る男もいる。

 

「だー! 漫才につきあってられるほど暇じゃねぇんだよ! 上に行くなら足動かせ!」

 

 急いでんだよ!! とクサカベは火車切広光を頭の上で振り回しそうになる。

 このまま、先程みたいに候補生たちを物言わぬ骸に変えてしまう可能性があるのだ。クサカベはこの突如として表れた乱入者に構っている暇なく走り出したい位だった。それをしないのは、ネコとダイゴと言う二人がクサカベにとって知り合いだと言う事に他ならない。

 

「……なに? 上になんかいるの?」

 

「ふむ、俺たちで良ければ付き合おう」

 

「危ないから降りろ。お前らに何かあったらアイテル姉に合わせる顔がない――。

 だーかーらー、降りろって言ってんだ!!」

 

「ふむ、俺たちが走っている方向をお前が走り出したのだ。仕方あるまい」

 

「そーそ、だからハントマンがアタシたちの行きたい方向を走ってるわけ。わっかるー?」

 

「あー、そうか。それならしかたない……ってなるかぁ!! ……もう勝手にしやがれ」

 

 もはや構っていられないと、後ろを見ずに上り出したクサカベにネコとダイゴが追従する。

 クサカベは、どうなっても知らんぞ状態で屋上に向かって駆け出すのだった。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

 ――危ないところだった。

 

 クサカベは気絶した少女の前で火車切広光を切り上げるように振るい、迫る剛火球を切り払って、そのまま襲ってきた赤い巨竜に力技の太刀をおみまいした。

 何とか間に合うことは出来たが、内心は冷や汗ダクダク状態である。

 

『突如現れた知り合いと、漫才してて助けようとした人命を見殺しにシマシター! てへぺろ♪』

 とか絶対に許されるわけがない。

 

 先に到着したクサカベの後ろから、息の荒れた様子のない漫才二人組が入ってくる。

 

「ハントマン速いよー。いやー、やっと着いた。エレベータ使えなくなってんだもんなー」

 

「運動不足のお前にはちょうどいい」

 

 ふひー、と大して疲れてもいないくせに愚痴を吐くネコ。

 ダイゴは屋上の状況を確認する様に、視線を走らせつつ軽口を返す。

 

「……それ、遠回しにデブって言ってない?」

 

「そんなことより――」

 

 ダイゴが何かを言う前に、しびれを切らしたクサカベが吼える。

 

 

「いいから――、さっさと逃げろォオオオオオオオ!!!」

 

 ――ガァアアアアアア!!

 

 クサカベの体長の数倍以上ある赤い巨竜を火車切広光で無理やり抑えつつ、仲良く漫才している二人組にブチ切れる。額に青筋が走っているのは絶対に気の所為ではない。

 

 珍しく切れているクサカベの様子にネコがビビった顔をして、焦りながらダイゴに告げる。

 

「ハントマン怒ってんじゃん……。ダイゴ用事すんだし帰ろうよ……」

 

 さすがに相方のダイゴも、ネコの周りの見えなさっぷりに呆れ気味だが――、クサカベの方に歩を進めながら言葉を返す。

 

「……ネコ、アイツの足元も見ろ」

 

「え!? ……んー? アレ、生きてるよね……?」

 

 ようやくクサカベが必至な形相で巨竜を押さえている理由を把握するネコ。

 先ほど急いでたのと、今まさにドラゴンと刀で相撲しているのはその為か……と分かったようだ。

 

「でも、助けるギリも――……あるか。ハントマーン、その子たちでいいのー?」

 

「すまん、正直ありがたい……! ダイゴ頼んだ!!」

 

「目の前で死なれるのは目覚めが悪い。それに、お前とは浅からぬ縁だ。――任せておけ」

 

 ヌンッ!! と体中の筋肉を盛り上げるダイゴ。

 

 そして、クサカベが抑えていた巨竜を思いっきりぶん殴る――。

 それはガトウのおっさんに負けずとも劣らない膂力を含んだ一撃であった。

 

 クサカベと拮抗していた巨竜が叫び声を上げながら、よろめく。

 今が最大のチャンスだ! と思い、二人で踏み込みながらさらに一撃を加える。

 

「「ウゥオオオオオオッ!!」」

 

「……ってか、これが『ドラゴン』かー。でっかいねぇ」

 

「「ネコ!!」」

 

「わ、分かってるよー!!」

 

 ネコの気の抜けた声に思わず怒鳴る。

 焦った声で、ダメ押しのネコの得意超能力である氷系の技が飛んでくる。

 そして、大きくバランスを欠いた赤い巨竜は――屋上で跳ねるようにしてクサカベ達から距離を開けられるのだった。

 

「うしっ!」

 

「――抱えたぞ」

 

「重ーい……」

 

「いいから――、逃げるぞぉォオオオオオオオ!!」

 

 ――ォオオオオオオオッ!!!

 

 怒り狂った咆哮を背にシラハをクサカベが抱きかかえ、元気系少女とパーカー男子をダイゴ、ゴスロリ少女をネコが重そうに担ぎ、逃げ出すのであった。

 

 

 

 ❀✿❀✿❀✿❀

 

 

 

 何とか、都庁の広場に到着した三人。

 そこでは、広場に降り立ったドラゴンを処理したガトウとナガレの姿。

 そして、複雑そうな表情でクサカベと共に降りてきたネコ、ダイゴを見つめるナツメ。

 

 ナツメに言いたいことを言って、突如として現れた漫才二人組は立ち去って行く。

 彼らは、彼らのグループでこの壊れ始めた世界で生きていくと決めたのだ。

 

「すぐに撤収します、急いで!」

 

 そのナツメの一言で都庁に残っていたムラクモ機関の黒いバンが、色々な意味で荒れた道を無理やり走り出す。

 

 

 

「……」

 

 クサカベは、バンの中から背後を――、都庁を振り返る。

 そこらじゅうに咲き誇り始めたフロワロの赤い花を見つめながらポツリとこぼした。

 

「……おいおい。神様、現代的な暮らし……出来るんだろうな?」

 

 その声への回答はなく、誰にも聞きとられることなく消えていくのだった。

 

 




 これで0章は終わりです。
 駆け足感たっぷりなのは気のせいだと……じゃないか。

 チラシの裏でも目を通してくださった方、ありがとうございました。
 毎日更新……って難しいんだなァと思いつつも結構頑張れた気がする。
 
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