魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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今回からアンチルート本格化です。
苦手な方、ご不快な気分を感じそうな方はご注意ください。
では、どうぞ。


第11話「さようなら」

Side アリア

 

魔法具『風神』・・・・・・『風守(かざもり)』。

白亜の籠手の形をしたこの魔法具は、風を操る能力を持っています。

私はそれを使用し、風の壁でもってネギ兄様の魔法の矢を弾きました。

 

 

この魔法具の素晴らしいところは、ぱっと見結界魔法を装えるところです。

まだ、兄様には攻撃用を見せるつもりはないのですよ。

 

 

それにしても、何か中途半端な魔力の込め方でしたが・・・撃つ直前に迷ったのでしょう。甘いです。

今回はその甘さのおかげで茶々丸さんを守れましたけど。

 

 

「・・・アリア?」

 

 

突然の私の乱入に、ネギ兄様が戸惑った声を上げます。

まぁ、あれは後でもいいでしょう。

それより、まず茶々丸さんですね。

 

 

「・・・大丈夫ですか、茶々丸さん?」

 

 

振り向いて、茶々丸さんに微笑みかけます。

 

 

「え、あ、はい、大丈夫です」

「そうですか、よかったです。茶々丸さんの身体に傷がついたら大変ですからね」

「・・・は、はい、ありがとうございます」

 

 

・・・?

顔が赤い気がしますが、見たところ壊れてはいないようですし・・・。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』で見た限りでは、内面も大丈夫そうに見えます。

 

 

「では愚兄は後日謝罪に行かせますので、今日の所は下がっていただけますか?」

「・・・はい、わかりました。アリア先生、ありがとうございました」

「いえいえ」

 

 

ぺこりと頭を下げ、ジェット噴射でこの場から去る茶々丸さん。

・・・な、なんだかとてもシュールですね。

 

 

 

「アリア!」

 

 

ようやく茫然自失の状態から回復したのか、兄様が声を上げます。

 

 

「アリア! なんで・・・!?」

「あ、あんたもその・・・エヴァンジェリンの仲間なわけ?」

「ま、間違いねうひぃぃっ!?」

 

 

カモの方は睨んで黙らせます。

いちいち場を乱すのだからタチが悪い。

・・・まぁ、仲間といえば仲間なんですが、それをここで言うと面倒ですね、どうしますか。

 

 

「・・・生徒が襲われていたら、助けに入るでしょう、普通」

 

 

とりあえず、正論から入ってみましょう。嘘ではありませんしね。

 

 

「・・・このことは、学園側に報告せざるを得ません。修行はこれまでですね」

「そんな!?」

「ち、ちょっと待って!」

 

 

私の言葉に、ネギ兄様と明日菜さんが慌てて事情を説明しだします。

内容は、まぁ全部知っているんですが・・・。

要するに茶々丸さんは被害者なフリをしたエヴァさんの仲間で、放っておくと危ないと言う感じです。

 

 

というか茶々丸さんに手を出すってことの意味を、理解しているんですかね?

私ならエヴァさんの報復が恐ろしくてできませんよ。

 

 

「・・・それで?」

「それでって・・・」

「そんなことで生徒を襲ったことは正当化できませんよ」

 

 

溜息混じりに、そう言います。

 

 

「当然でしょう? 私たちは教師です。生徒を守ることがあっても傷つけることがあってはならない。ですから今後も彼女たちに手を出すというのなら・・・」

 

 

可能な限り冷たい視線で、ネギ兄様の目を見ます。

 

 

「・・・私は、あなたの敵となるでしょう。兄様」

 

 

兄様の目が、揺れたような気がしました。

 

 

「そ、そんなのめちゃくちゃよ!」

「・・・明日菜さんは大丈夫ですよ、生徒ですから」

「そういうことじゃなくて!」

 

 

では何なのでしょう。

 

 

「ネギは命を狙われてるのよ!? 心配じゃないの!?」

「殺されなければいいだけでしょうそんなの。・・・まぁ、もし殺されても私は別段どうもしませんが」

 

 

殺しはしないとわかってますからね。

ああ見えてエヴァさん、手加減すごくうまいんですよ?

 

 

「え?」

「なっ!?」

 

 

しかし私の薄情な言葉に、兄様と明日菜さんは言葉を失います。

 

 

「兄様が死のうとどうしようと、知ったことではありません」

「な、なんでよ!」

「それが魔法の世界の常識ですから。力がなければ死にます。才能がなければ死にます。覚悟がなくても死にます。理由もなく、理不尽に死にます。それがこちら側なんです。そこの所、わかってないでしょう、明日菜さん」

 

 

私だって、10歳かそこらでこんなこと覚えたくもなかった。

私は明日菜さんを静かに見据えます。

 

 

「どうせ子供が戦っているのが心配とか、危なっかしいとか、そんな理由で兄様を手伝っているのでしょう?」

「だ、だったら何よ」

「別に・・・ところで話は変わりますが、明日菜さん。兄様から魔力供給を受けた時、どうでした?」

「ど、どうって、すごかった・・・かな? 身体も軽くて・・・」

「力も、増していたでしょう?」

 

 

私の言葉に、こくりと頷く明日菜さん。

私は、言葉を続けます。

 

 

「貴女はそれで無自覚に茶々丸さんを殴・・・デコピンしてましたけど、あれを普通の人間にやったら、首、もげてますよ?」

「そ、そんなわけ・・・」

「ないとどうして断言できるんです? 魔法を知りたての貴女が、生まれたときから魔法を知っている私よりも魔法に詳しいとでも思うんですか?」

「それは・・・」

 

 

言葉に詰まる明日菜さん。

魔法に関してよく知らないということは、否定しがたい事実でしょう。

 

 

「・・・ネギ兄様は」

 

 

私が声をかけると、兄様はおびえたような表情を見せます。

・・・そんな情けない顔をされると、なんだか私が悪いみたいな気持ちになりますね・・・。

 

 

「あの魔法の矢が当たっていたら・・・茶々丸さんが死んでいたと、理解していますか?」

「そんな!?」

 

 

何でそんなに驚いているのでしょう?

 

 

「・・・兄様、あなた人に魔法で攻撃したこと、ないでしょう?」

 

 

思えば、当たり前の話。

ただまっすぐマギステル・マギを目指している兄様が、他人に対して攻撃の魔法を使うなんて考えたことがあるわけがありません。

なんて無自覚。

純粋もここまで来ると・・・害悪ですね。

 

 

「・・・もう少し自分の持つ力の意味を、危うさを、理解してください」

「け、けどよあの従者はロボット「喋るな、下等生物」ぐええぇえっ!?」

「か、カモ君!?」

 

 

加減なく、下等生物の胴体部分を握りしめてあげます。

カモは青を通り過ぎて紫色になりながら、もがいています。

そしてそれを見て、悲鳴のような声を上げる兄様。

 

 

・・・いい加減このやりとりも疲れてきました。

それにどうもこの下等生物が愚かな兄様をそそのかし、かつ明日菜さんを巻き込んだようですし。

やはり先日の段階で殺しておくべきでしたか・・・?

 

 

もう、いつかなどと言わず、今消しておきますか・・・?

原作が変わるかもなどという不確定な理由よりも、今後の被害のことを考えるべきでしょうか?

 

 

「・・・・・・ロボットだから? 修理すれば治るとでも言いたいんですか? なら人間も同じですね。治療すれば治るんですから」

「で、でも!」

「彼女の記憶媒体をかわして攻撃しましたか? できるわけがありませんね。なら彼女は死んでいました。絡繰茶々丸という人格は、永遠に失われていたでしょう」

 

 

少し考えれば、わかることでしょう。

何を言われてそそのかされたかは知りませんが、その兄様の無知さを利用して小金を稼ごうとするか・・・。

 

 

決めました。殺しましょう。

少々予定外ですが、どうとでもなるでしょう。

頑張ってください明日の私。

 

 

「ぐぅえっ・・・!?」

 

 

左眼の魔眼が熱を持ち始めます。

・・・・・・喰い殺します。

 

 

「ちょっ・・・」

「アリア、やめてよ!」

 

 

尋常ではないもがき方をするカモの様子に、兄様と明日菜さんの顔が青ざめます。

「まさか」、まさにそんな表情。

・・・・・・ああ、明日菜さんには見せないようにしますか。

刺激が強いでしょうし。

まぁ、どのみち殺しますが。

 

 

「アリアっ!!」

「・・・・・・っ」

 

 

するとあろうことか、兄様が私の腕を掴んで止めに入りました。

さすがに兄様を害するわけにもいかないので、いったん『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を止め・・・・・・!

 

 

その拍子に、兄様の肘が顔に当たり、カモを放してしまいました。

そのカモを大事そうに抱え込む兄様。

このっ・・・!

 

 

・・・再びカモに手を伸ばしかけたところで、動きを止めます。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』が何かに反応しました。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

周囲に視線を巡らせて、見つけました。

これは、遠見の魔法構成・・・?

 

 

「・・・監視ですか」

 

 

兄様たちに気づかれないよう、小声で呟きます。

遠見の魔法以外にも、いくつか物理的な監視の気配がしますね。

舌打ちしたい心境とは、こういうことを言うのでしょう。

 

 

無視して続けますか・・・いえ、ここでわざわざ気付かせるという点に、作為的な面を感じます。

このまま兄様ともめれば、何かしかの介入が行われるはず。

今は、必要以上に弱みを見せるわけにはいきません・・・。

それに最悪、兄様や明日菜さんにまで監視が固定されかねない・・・。

 

 

・・・兄様を見る。下等生物を胸に抱き、こちらを睨んでいます。

明日菜さんは、どうすればいいかわからない様子。

 

 

・・・・・・ねぇ、兄様、兄様はどうして・・・・・・。

 

 

「・・・兄様、兄様はマギステル・マギになりたいのですよね?」

「え、うん。そうだけど・・・」

「マギステル・マギとはなんですか?」

「それは、正しいことのために、魔法の力を使う人・・・のことだと思うけど」

 

 

なぜそんな質問をするのかわからない、そんな表情を浮かべる兄様。

私はそれに頷いて。

 

 

「では、兄様はマギステル・マギにはなれませんね」

「なっ・・・どうして!?」

 

 

聞き捨てならないと言いたげな兄様。

でもね、明らかに貴方の行動はマギステル・マギの原則と矛盾しているのですよ。

 

 

「敵とはいえ、一人の生徒をよってたかって複数で闇討ち」

「でもそれは」

「軽犯罪とはいえ、脱獄中の犯罪者を刑に服させることもせずに庇いだて」

「それは」

「守るべき一般人を魔法使い同士の戦闘に巻き込む」

「う・・・」

「お父様が見たら、何と言うでしょうね?」

「・・・・・・」

 

 

兄様の顔から、血の気が引いて行く音が聞こえた気がしました。

まぁ実際は見られてもどうもされない可能性もありますが、兄様の中のお父様のイメージはそうではないのでしょう。

あまり理解できませんが。

 

 

「さすがは俺の息子だと、言ってくれますかね? ・・・ああ、いや、お父様はマギステル・マギですから、兄様を捕まえてしまうでしょうね。そして言うわけですね。お前なんか息子じゃない・・・」

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

 

成り行きを見守っていた明日菜さんが、たまりかねたように叫びました。

なんでしょう?

 

 

「い、言いすぎよ! ネギがお父さんのこと尊敬してるのは知ってるでしょ!?」

 

 

知りませんよ。

・・・というか。

 

 

「明日菜さんも無関係ではないですよ? ネギ兄様の従者として戦い、茶々丸さんを殺そうとしたんですから」

「なっ・・・」

「晴れて貴女も犯罪者の仲間入りです。おめでとうございます」

「・・・・・・」

「・・・同情か何かで関わっていると、本当にそうなりますよ?」

 

 

まぁ、この学園内ではたぶん捕まりませんけど。

でも本当にそう言われる日を迎えたくなければ、もう少し考えてほしいものです。

 

 

「ありえない選択肢でしたが、茶々丸さんを見捨てる選択肢も私にはありました。そして今そうすればよかったと少し思いますよ。私が止めず、バラバラになった茶々丸さんを見て、あなたたちがどんな反応をするのか、見てみたかった」

「なっ・・・」

「・・・・・・消えてくれますか? ネギ兄様。正直あなたの面倒を見るのは、もう疲れましたから」

 

 

 

犯罪者の妹にはなりたくありませんから。

さようなら。

 

 

 

最後にそう言って、私はその場を去ります。

背後で何か泣いているようですが、私は知りません。

知りたくも、ありません。

・・・ひどいことをしたと、思いますか? シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

でも、アリアは少しすっきりしました。




風神:烈火の炎から、司書様提案です。
ありがとうございます。

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