魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第13話「闇夜の時間」

Side アリア

 

大停電の夜が来ました。

麻帆良全体が停電するこの夜、私が気にかけていたのは2つ。

 

 

一つは、停電の夜を生徒のみなさんは不便なく過ごせているかということ。

2-Aの生徒たちには帰りのHRで準備をするよう言っておきましたが、心配は尽きません。

一応管理人室の前に、懐中電灯やお湯などをあらかじめ用意してあります。

 

 

もう一つは、学園結界のこと。

学園長サイドは、今夜兄様とエヴァさんが戦うことを読んでいるはずです。

まぁ、エヴァさんの魔力が戻るのが停電の間だけですから当然でしょうが。

・・・ネギ兄様が窮地に立てば、おそらく結界を前倒しで復旧するくらいの事はするでしょう。

 

 

「・・・まぁ、そこが私にとっての狙い目なのですが」

 

 

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』を常時解放状態にして、結界を見張ります。

結界が復活する瞬間を狙って、結界の術式構成を弄り、エヴァさんからの魔力奪取機能を無効化します。

 

 

そこまでいかずとも、結界機能の掌握という形をとり後日交渉という形に持ち込むのも悪くありません。

その場合学園中の関係者が敵に回りそうですが、今のところエヴァさんの方が私にとって重要なのでそこは別に良いです。

マギステル・マギになりたいわけでもありませんし。

 

 

「ははぁ、人形に変化の魔法をかけて生徒を攫ったように見せているんですね」

 

 

なるほどなー、と、女子寮の屋根の上から下界の様子を見守りつつエヴァさんの戦法を分析します。

今のところ他にやることもありませんしね。

しかしさすがは600年生き残った吸血鬼。

戦闘後の汚名を一切気にしない戦い方、勉強になります。

 

 

「綺麗事の一切ない、現実主義的な戦闘スタイル・・・」

 

 

この学園の正義かぶれのみなさんには選べない戦法ですね。

正々堂々なんておバカさんのやることですよ。

 

 

「そして我が兄様は・・・どうやらおバカさんのようですね」

 

 

まき絵さん(に、良く似たエヴァさんの作った偽者)を追って大浴場までたどり着いたネギ兄様は、やたら重装備であるものの、一人。

圧倒的な実力差を知りながら、援軍も呼ばず、策も練らず・・・。

 

 

「・・・甘いですねぇ」

 

 

ま、殺されはしないでしょうから、別にかまいませんけど。

今回は別に、兄様の経験値稼ぎが目的ではありませんから。

 

 

その後の展開は、私が記憶している通りのものでした。

人質だと思ってた人達が偽者だと言うことにうろたえつつも、兄様が罠のある橋へエヴァさんを誘導、捕縛結界を使用しました。

・・・茶々丸さんが結界を破壊しましたけど。

 

 

「・・・まぁ、こんなものですか」

 

 

この程度では策とも呼べません。

600年のベテランであるエヴァさんに、通じると思う方が甘いのです。

兄様は結界が破壊されて驚き、その間にエヴァさんに杖を奪われ、橋の下へと投げ捨てられてしまいました。

 

 

「・・・油断しすぎですよ兄様・・・」

 

 

作戦のひとつやふたつが失敗したからと言って、無防備になってどうするんですか。

・・・ああ、泣き出しましたね。

というか、戦闘中に泣くんだ・・・。

あれが兄だと思うと、なんだか悲しくなってきますね・・・。

 

 

「・・・・・・うん?」

 

 

誰かが橋に近づいてきますね。

結界の方には・・・まだ、動きがありませんね。

ここでエヴァさんたちに余計なちょっかいを出されるのも面倒です。

・・・潰しておきますか。

 

 

「・・・魔法具、『どこでも扉』」

 

 

ぶっちゃけ、ド○えもんのどこ○もドアです。

では、行きますか。

 

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

想定外だ。

正直、エヴァとネギ君の戦いは、もっと拮抗すると思っていた。

けれど現実には、エヴァはネギ君を殺してしまいかねないほどの戦いを見せている。

 

 

学園長に頼まれてアリアちゃんを見ていたけど、こちらの方が緊急性が高い・・・!

急がなければ。

その時、突然、桃色の扉が目の前に出現した。

な、なんだ!?

 

 

「こんばんは、タカミチさん。良い夜ですね」

 

 

中から現れたのは、女子寮にいたはずのアリアちゃんだった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「こんばんは、タカミチさん。良い夜ですね」

 

 

危なかったですね。

誰かと思えば、タカミチさんですか。

まぁいざという時、タカミチさん以外の魔法先生ではエヴァさんに対抗できませんからねぇ。

順当な配置、ということでしょう。

 

 

「アリアちゃん」

 

 

タカミチさんは少し呆然としているようですね。

まぁ、突然現れましたから。

 

 

「・・・そこをどくんだ」

 

 

しかしすぐに体勢を整えるあたり、さすがですね。

焦りが見えるのは、ネギ兄様のことでしょうか。

 

 

 

・・・?

 

 

 

少し探ってみると、兄様以外に誰かがエヴァさんたちと戦っているようです。

明日菜さんあたりでしょうか? 結局首を突っ込んじゃうんですね。

まぁ、こちらはこちらの仕事をしましょうか。

 

 

「それはできませんね」

 

 

薄ら笑いを意識して浮かべます。

 

 

「そこを、どくんだ。」

 

 

すると顔をどこか辛そうに顰めて、タカミチさんがポケットに手を入れて臨戦態勢をとります。

・・・おやおや。

 

 

「それはできません。エヴァさんに怒られたくはありませんから」

「・・・それはどういう」

「そのままの意味ですよ? エヴァさんは私のマスターですから」

「なっ・・・」

 

 

ああ、驚いてますね。

その程度で殺気を霧散させるなんて、温いですねぇ。

 

 

袖に仕込んでおいた魔法具『速(スピード)』『力(パワー)』のカードを手に落とし、即座に発動。

一瞬でタカミチさんの目前に迫り、全力でお腹を殴ります。

虚を突かれたタカミチさんは、それをまともに喰らってしまいます。

さらに。

 

 

『全てを喰らう・・・』

 

 

反撃されても面倒なので、魔力と気を根こそぎ奪います。

話をするのも、鬱陶しいですし。

 

 

「<紅き翼>と言っても・・・不意を突けば、こんなものですか」

 

 

地面に横たわり気を失ってしまっているタカミチさんを見て、そう呟く。

まぁ、私のことを知っていて、油断したというのもあるのでしょうけど。

タカミチさんは魔法使いではありませんし・・・次は私も勝てないでしょう。

 

 

「・・・どうやらあちらも、佳境ですね」

 

 

その時、大きな魔力が2つぶつかり合うのを感じました。

エヴァさんと、兄様でしょう。

 

 

「・・・魔法具、『韋駄天』」

 

 

私の両足は、特殊な黒い靴に覆われました。

これはまさに、韋駄天のごとく走ることを可能にする魔法具です。

 

 

「・・・・・・仕事をしましょうか」

 

 

走り回るとしましょう。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「マスター、停電から復旧します! 予想時間よりも早い!」

 

 

茶々丸の悲鳴のような声に、愕然とする暇もなかった。

電力が復旧し、結界が発動してしまう。

魔力が、失われていく。

いきなり力の半分を失った私は、飛行の術式を乱して橋から落ちる。

 

 

(・・・アリアは、間に合わなかったか!)

 

 

責める気はないが、期待していなかったといえば嘘になる。

 

 

 

『3年たったら解きにきてやるよ』

 

 

 

落下していく中で、思い出したのはあの馬鹿のこと。

3年で呪いを解きにくると言って、結局は来なかった大ばか者。

 

 

「・・・・・・うそつき」

 

 

自然と口が開いていた。万感の想いが、その言葉を吐かせた。

そして私は重力に身を任せ、落ちていく・・・。

 

 

「・・・誰のことを、言っているんですか?」

 

 

白い翼と、誰かの温もりに包まれた気がした。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

エヴァさんを抱きとめて、空中で静止します。

そんな私の背中には、1対の翼。

・・・魔法具、『翔(フライ)』。

 

 

「アリア・・・?」

「はい、エヴァさん」

 

 

にこりと微笑んで、エヴァさんを橋の上まで運びます。

 

 

「マスター!」

 

 

そのまま茶々丸さんにエヴァさんを渡し、『翔(フライ)』を消します。

目立ちますしね。

 

 

「アリア・・・?」

「アリア先生!?」

 

 

ネギ兄様と明日菜さんが、私に気付きました。

ずいぶんとまぁ、ボロボロですね。

まぁ、エヴァさんもこんな様子ですし、引き分け、なんでしょうか・・・?

 

 

「お前、その様はなんだ!?」

 

 

かく言う私もエヴァさんが声を荒げる程に、ボロボロではありますが。

服はところどころが破れ擦り切れ、髪も乱れ、肌も薄汚れています。

 

 

「・・・ちょっと、転んだだけですよ」

「そんなわけがあるか!」

 

 

はい、嘘です。

単に学園結界の術式構成をいじる時に、半分科学ということを忘れていて電力復旧と同時に感電しかけました。

さすがにヤバかったですね・・・。

時間的にキツかったんで、慌てたのもあるんでしょうね。

 

 

だってエヴァさんが橋から落ちるのを思い出したの、感電しかけた時ですもん。

電気ショックで思い出すとか・・・ないです。

 

 

「そんなことより・・・」

 

 

いまだに何事かを言い募る皆さんを抑えて、『複写眼(アルファ・スティグマ)』を全力で発動させます。

右眼に浮かぶのは、朱色に輝く五方星。

私の魔力を吸って、『複写眼(アルファ・スティグマ)』が輝く。

 

 

「『網』を、解析・・・」

 

 

私がその構成術式を解析すると、学園都市全体を覆っていた結界が目に見える形で浮かび上がる。

それはまるで、何かを捕らえる『網』のような形をしていました。

とても複雑で、巨大な構成。

麻帆良中に張り巡らされたそれは、まさに『網』。

 

 

「これは・・・」

「きれい・・・」

 

 

兄様と明日菜さんが、呆然と呟く。

・・・学園長サイドに介入される前に、コトを終えてしまいましょう。

 

 

「・・・『網』に、介入、構築式を改竄」

 

 

あらかじめ書き込んでおいた術式を、遠隔で始動させます。

きぃん・・・という耳鳴りのような音と共に、『複写眼(アルファ・スティグマ)』の輝きが増していきます。

 

 

「く・・・」

 

 

大方は、タカミチさんを沈めた後にやってきたんですけど・・・。

そのままやると学園結界そのものを解除してしまうので、さすがにそれはマズい。

解除した方が早く終わるんですけどね。

 

 

「あ・・・」

「ちょっ・・・」

「おまっ・・・アリア! 大丈夫なのか、それ!」

「・・・心拍数が上昇、危険です」

 

 

というか、なんですかこれ。

エヴァさんから魔力奪う前提で術式組んでますね。

さすがは学園長、やることがえげつないですねぇ。

 

 

右眼の視界が、朱色に染まります・・・。

ぶつん、という音が聞こえた気がします。

 

 

 

 

・・・よし、できました!

・・・・・・あら?

 

 

「・・・なんで、私は倒れているのでしょう?」

「気付いとらんかったのか、この馬鹿が!」

 

 

耳元で怒鳴らないでください、エヴァさん。

 

 

「アリアさんは学園結界が露出した後、すぐに倒れました」

 

 

私に膝枕してくれているのは、茶々丸さん。

というか、解除作業に入ってすぐに倒れたんですか私。

それにしても・・・。

 

 

「視界が半分ないのはなぜ・・・」

「あんたの右目から血がいっぱい出てたから、押さえてんのよ!」

「ああ、そうですか・・・」

 

 

私の顔にどこから持ってきたのかタオルを押し当てながら、明日菜さんが叫ぶように言います。

おそらく、『複写眼(アルファ・スティグマ)』の使いすぎですか。

まぁ、そのうち視力は戻るでしょう。

・・・・・・戻りますよね?

 

 

「ああ、エヴァさん、魔力は・・・?」

「・・・完全に戻った。結界も変わらず機能している・・・お前の、おかげだ」

「・・・そうですか・・・良かった」

 

 

なら、父親の清算はとりあえず終わったと見るべきですか・・・。

・・・でも・・・。

 

 

「・・・眠いです。茶々丸さんの膝枕は最高です・・・」

「そ、そんな・・・」

 

 

プシュー、と音を立てて、真っ赤になる茶々丸さん。

褒められ慣れてないんですかね・・・。

あ、だめです・・・意識、が・・・。

 

 

「・・・今は休め、ちゃんと後の面倒は見てやる」

「・・・あ・・・」

 

 

あたたかい、です・・・。

誰かに頭をなでられるのは、いつ以来でしょうか・・・。

 

 

・・・そう言えば、さっきからネギ兄様が何も喋ってませんね・・・。

・・・まぁ、いいですか・・・。

・・・眠いです、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

・・・おやすみ、なさい。

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます。
学園結界を弄り、エヴァさんに魔力が完全に戻りました。
次回、おそらくいろいろ後始末、でしょうか?

それでは、また次回に。

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