魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第18話「京都修学旅行編・初日」

Side アリア

 

点呼も終わり新幹線に乗り込んでしまえば、後は自由時間です。

生徒の皆さんも、各々好きなことをして過ごしているようです。

ごく一部、やたらとテンションの高い生徒がいますが。

 

 

エヴァさん、外の景色がすごいのはわかりましたから・・・!

さよさん、新幹線の存在に驚かないで。

60年前になかったのは知ってますから!

茶々丸さん、録画してないで注意してください!

チャチャゼロさんは死んでも動かないでくださいよ・・・?

 

 

・・・閑話休題。

 

 

私は教師ですから見回りもしなければなりませんし、他の先生方との定期連絡もせねばなりません。

・・・ネギ兄様は、なぜか明日菜さん達のグループで騒いでいますが。

 

 

「では、向こうにつき次第そのように・・・」

「はい、わかりました」

 

 

結果として、新田先生などから通達されるクラスの移動などの連絡は私が受け取ることになります。

 

 

「しかし、ネギ先生にも困ったものですな。生徒と一緒になって・・・」

「はは・・・まぁ、ネギに、いえ、ネギ先生もこういう旅行は初めてですから」

 

 

私もですけどね。

新田先生のぼやきにそう答えつつも、数両離れたこの車両にまで聞こえてくる3-Aの声に頭を抱えたくなります。

 

 

「・・・すみません。すぐに戻って静かにさせますので・・・」

「困ったものですな。3-Aの生徒は・・・」

「・・・・・・申し訳ありません」

「いえ、アリア先生はよくやってくれていますよ」

 

 

そう言ってくださると本当に救われます。

新田先生に別れを告げ、3-Aの車両に急ぎます。

まったく、仕事を増やすことにかけては天才的なクラスなんですから・・・。

 

 

「・・・・・・あら?」

 

 

3-Aの車両の方向から、微細な魔力にも似た気配を感じました。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』が完全な状態なら、この距離でも解析できるのですが・・・。

 

 

まぁ、無いものをねだっても仕方のないことです。

というか、ネギ兄様は何をやっているのでしょう・・・?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

車両内は騒乱の渦中にあった。

突如車両内に式神らしき蛙が侵入したのだ。それも大量に。

生徒たちが悲鳴を上げて蛙から逃げ惑っている。

おそらく関西からの妨害だろうが・・・。

 

 

「・・・なぜ、蛙・・・?」

 

 

竹刀袋の中の夕凪を手にしてはいるが、なんとも対応に困る。

しかし、攻撃の意思は無いように思える。

 

 

アリア先生は不在だ、教師としての仕事で車両を離れている。

一方ネギ先生はというと・・・。

 

 

 

「・・・正直、ネギ兄様に過度な期待はしないでください」

 

 

 

それは、車両を離れる前にアリア先生が私に囁いた言葉だった。

でもネギ先生も子供とはいえ魔法先生だ。

この程度のこと、どうにでも対処してくれるに違いない・・・。

 

 

そう思っていた時期が、私にもあった。

 

 

(・・・まさかこんなにあっさりと、親書を奪われるとは――!?)

 

 

どういう考えがあったかは知らないが、ネギ先生は親書を懐から取り出したのだ。

こんな、あからさまな妨害の最中で、だ。

そして警告する間もなく鳥の形をした式神が、ネギ先生の手から親書を奪い私がいるのとは反対方向の車両へと逃げたのだ。

 

 

ネギ先生は呆然とただ立ち尽くすだけで、何もできないでいる。

 

 

「なっ・・・くっ・・・!」

 

 

舌打ちしたい気持ちを抑えつつネギ先生の脇をすり抜け、式神を追いかける。

ネギ先生たちが怪訝そうな顔で見ているのがわかったが、今は術者よりも先に親書を取り戻さねば!

そう思い、私は式神を追って、隣の車両への扉を開いた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

どういうわけか親書をくわえていた紙の鳥を、すれ違いざま左手で握りつぶします。

 

 

『全てを喰らう・・・』

 

 

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で魔力を奪い、ただの紙くずに戻す。

流石にこれだけ人のいる前で、魔法具は使いたくありません。

 

 

親書は、しわひとつない状態で、私の手の中に。

 

 

・・・・・・兄様・・・・・・。

親書を奪われるという失態に、溜息をつきたくなります。

 

 

いっそのこと、私がこれを保管しましょうか?

 

 

・・・いえ、兄様の仕事に首を突っ込むのも面倒です。

返してあげましょう。

そう考えて3-Aの車両に戻ろうとした時、目前の隣の車両へ通じる扉が勢いよく開きました。

 

 

「・・・アリア先生?」

「おや、刹那さん」

 

 

そんなに慌てて、どうしたのですか?

 

 

「そ、その書状は・・・」

 

 

刹那さんが私の手元の親書を見て、驚いたような顔をします。

・・・ああ、これを追いかけてきたのですね。

では、これは刹那さんに届けてもらいましょうか。

 

 

「・・・はい、今度はなくさないように注意しておいてくださいね」

「は、はい」

 

 

そう言って親書を受け取った刹那さん。

・・・その、キラキラした目で見られている気がするのは、気のせい・・・ですよね?

 

 

 

 

 

 

京都に着いて最初の観光地は清水寺です。

ここは「清水の舞台」という、有名な場所があるのですが・・・。

 

 

「京都おおぉぉぉぉっ!」

「これが噂の飛び降りるアレ!」

「高いですエヴァさん!」

「何ィ!? 誰か!! 誰か飛び降りれっ!!」

「では拙者が・・・!」

「貴重な文化遺産が壊れますから、やめなさいっ!」

「そうで・・・アリア先生、それ以前の問題ですわよ!?」

 

 

3-Aも修学旅行という事でかなりハイテンションになっているようですね。

そしてその筆頭は10年単位ぶりに外に出た二人の生徒でしょう。

というか、綾瀬さんの蘊蓄がすごいです。

そして、それをニコニコ聞いてる宮崎さんもすごいです。

 

 

ここまではまだ良かったのですが、ここからが大変でした。

 

 

雪広さんとまき絵さんが恋愛成就の占いとかいうものをやろうとしたところ、落とし穴の存在に気付いたのでそれを回避したり。

というか、ここでも蛙仕込むとかなんですか。

関西圏では蛙が恐れられているのでしょうか?

 

 

「アリア先生!? まさか私とネギ先生の仲を・・・!」

「あんな兄様いくらでも差し上げますから、ぐいぐい押すのはやめてください!(私が落ちたら最悪でしょう!?)」

「先生、それはネギ君かわいそうだよ~」

 

 

次に、縁結びの効果があるという、音羽の滝の水がお酒にすり替えられていたので、それを飲みたがる生徒たちを抑えたり。

 

 

「いーじゃん先生のケチ!」

「なんとでもいいなさい! あ、新田先生、ちょっといいですか!?」

 

 

後続から新田先生やしずな先生がやってきましたので、事情を説明したり。

その後、瀬流彦先生も加わって、今後の方針を話しあったり。

 

 

・・・その際、ネギ兄様はほとんど役に立っていませんでした。

それ以前に、クラスのみなさんと旅行を楽しんでいるようですね・・・。

・・・・・・もう帰りたいです。

 

 

 

 

 

Side フェイト・アーウェルンクス

 

「な、なかなか、やるやないか・・・」

「・・・そうだね」

 

 

式神を通じて向こうの様子を見ている千草さんが、わなわなと震えている。

それに適当に答えつつ、僕は僕の仕事をする。

 

 

「い、一般人にダメージを与えて動きを鈍らせる、うちの作戦がことごとく・・・!」

「・・・まぁ、一般人を狙うのは一理あると思うよ」

 

 

どう見ても、捌き切れていないように見えるしね。

というより、あれだけの人数を抱えているのに配置されている関係者の数が少なすぎる。

どういうつもりなのかな?

 

 

千草さんの出している映像を見てみれば、白い髪の女の子が右往左往している姿が見てとれる。

 

 

・・・アリア・スプリングフィールド。

サウザンドマスターの娘。

息子の方と並んで、今回の最重要人物の一人。

 

 

「・・・しゃあない、こうなったら今夜あたりうちと月詠はんで・・・・・・フェイトはん?」

「・・・・・・聞いているよ」

 

 

適当に答えつつ、僕は彼女・・・アリア・スプリングフィールドを観察する。

情報では、魔法が使えない、できそこないの英雄の娘。

でも一方で、気になる情報もいくつかある。

 

 

そしてなにより、彼女は、僕と同じ匂いがする。

 

 

 

 

 

 

作られたものの匂い。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

その後は特に何事もなく――3-Aのテンションの高さに振り回されつつも――宿泊先のホテルに到着することができました。

そして。

 

 

「・・・癒されます・・・」

 

 

今、私はホテルの露天風呂で、癒されています・・・。

疲れているだろうから、先に入るようにとの新田先生の好意に甘えさせていただきました。

その優しさに思わず、「お背中、お流ししましょうか」と言ったのですが、「妻子がいるので」と断られてしまいました。

そしてその後、「淑女のなんたるか」を小一時間ほど語られてしまいました。

 

 

・・・まぁ、そうは言っても・・・。

 

 

「・・・癒されます・・・」

 

 

寮の大浴場とはまた別の醍醐味があります。

と、そんな風に私がリラックスしていますと、露天風呂の扉が開く音がしました。

他の先生でしょうか・・・?

 

 

「・・・ネギ兄様?」

「あ、アリア!?」

「あ、姐さん!?」

 

 

やってきたのは、ネギ兄様と・・・カモ。

ネギ兄様は・・・まぁ、兄妹ということで許容しましょう。

しかし、カモは許しません。

 

 

「ぐべらぁっ!?」

「カモ君!?」

 

 

 

「・・・なるほど、この露天風呂は混浴だったのですか・・・」

 

 

カモにお仕置き(内容は秘密です♪)をした後、ネギ兄様の弁明を聞きました。

しかし、混浴ですか・・・日本人は大胆なのですね。

一応、バスタオルを身体に巻いておきましょう。

 

 

「・・・ねぇ、アリア」

 

 

しばらくすると、ネギ兄様がこちらをチラチラ見ながら、話しかけてきました。

 

 

「なんでしょう、兄様?」

「あ、あの、その・・・」

 

 

なんなんでしょう、この小動物ちっくな兄様・・・。

素直にイラつきます。

生まれる性別、間違ったんじゃありません?

 

 

「桜咲刹那はスパイなんですぜ!」

 

 

突然復活したカモが何か叫びました。

しかも内容が馬鹿です。

なんで刹那さんがスパイなんですか。

 

 

「姐さん、気づいてなかったんですかい!?」

 

 

事実が違うので、さすがにその考えには至りませんでした。

 

 

「名簿を見れば一目瞭然! 京都出身でしk「黙りなさい」へぶふぉっ!?」

「か、カモくーんっ!?」

 

 

ああ、私の癒しタイムが光速で失われていきます・・・。

というか、ネギ兄様とカモは、真名さんと仕事している刹那さん見てませんでしたっけ・・・?

それでどうしてスパイ疑惑が出るのか理解ができません。

 

 

と、その時、さらに露天風呂の扉が開きます。

・・・今度は、誰ですか?

 

 

入ってきたのは、話題の刹那さんです。

ほっそりとした肢体が眩しいですね。私はネギ兄様の目にタオルを巻きつけました。

今は岩の陰にいますから、あちらからは見えないでしょうが、まぁ倫理的に。

 

 

「困ったな・・・魔法先生であるネギ先生なら何とかしてくれると思っていたのに・・・」

 

 

すみません、刹那さん・・・兄様のせいで余計な心労をおかけします。

 

 

「・・・これでアリア先生がいなければ、どうなっていたことか・・・む!」

 

 

気付かれましたか! 何故!?

・・・って、カモ!? 何殺気出すほど凝視しているんですか! 殺しますよ!? いや殺す!

 

 

次の瞬間、刹那さんにより岩は粉砕され(新田先生になんて言えば!?)、ネギ兄様が拘束されました。

むぅ、なかなかの動きですね。

刹那さんは右手で兄様の首を、左手で・・・ひだり、て、で・・・。

 

 

「な、ななな、何をしているんですか! 刹那さん!?」

「ふぇ!? すみません! って、あれ? あ、アリア先生・・・ネギ先生?」

 

 

私の姿を認めると、刹那さんはネギ兄様から離れました。

こ、この子、今、何をしましたか!?

左手でネギ兄様の・・・その、なんというか、その・・・き、急所を・・・!!

 

 

「刹那さん! ちょっとそこに座りなさい!!」

「ち、違うんです、これは・・・!」

「いいから座りなさい! 貴女には今から新田先生直伝の「淑女のなんたるか」を語ってあげますっ!!」

「き、聞いてください~」

 

 

ひゃぁあああ~!

 

 

と、その時、女性用の脱衣所の中からでしょう、木乃香さんと思わしき悲鳴が聞こえました。

ち、仕方ありません。刹那さんへのお説教はまた後です!

 

 

「何事ですか!」

「お嬢様!?」

 

 

刹那さんと共に脱衣所へ行くと、そこには・・・。

 

 

「・・・猿?」

 

 

大量の猿が、木乃香さんと明日菜さんの着衣を脱がそうとしていました。

たぶん、関西の妨害・・・なんでしょうか?

 

 

「・・・刹那さん、関西の方って・・・?」

「・・・言わないでください」

 

 

身内の恥をさらしたくないのか、刹那さんが小さくなっていました。

まぁ、そうは言っても、なんとかしなければいけませんね。

刹那さんが刀を抜きます・・・今、このタイミングで国家権力の介入があれば、言い訳できませんね・・・!

 

 

「え、ちょ、ちょっと待ってください! 可哀想ですよ」

「寝言は寝ていいなさい」

 

 

バカな発言をして邪魔をしている兄様を止めている間に、刹那さんが行動します。

 

 

「神鳴流奥義、『百烈桜華斬』!!」

 

 

刹那さんの放ったやたらとかっこいい技が見事に決まり、木乃香さんたちが窮地を脱します。

お見事です。

 

 

「あ、せっちゃんや~」

 

 

木乃香さんが刹那さんを見て、嬉しそうな顔をしますが、一方の刹那さんはと言うと、一礼しただけで、そそくさと去って・・・って。

 

 

「・・・どこに行こうというのですか? 刹那さん?」

「え・・・?」

「まだ、お説教は終わっていませんよ?」

「え、えぇぇぇっ!?」

 

 

そのまま何事かを叫んでいる刹那さんを私の部屋まで運び、小一時間ほどお説教しました。

 

 

「良いですか?そもそも女性とは・・・」

「で、ですから、違うんです~(涙)」

 

 

こういうことは今のうちにしっかりしておきませんと。

そうですよね? シンシア姉様。

 

 

 

 

 

そういえば、アリアはこの世界で性教育なるものを受けたことがありません。

 




アリア:
初めまして、アリア・スプリングフィールドと申します。
なにぶんこちらの常識にはまだまだ疎いところもあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。


さて、次回は修学旅行編初日の夜のお話です。平和的に話が進むことを祈りますが、状況がそれを許してはくれません。

それでは、また次回にお会いしましょう。

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