魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第19話「初日・夜の戦い」

Side アリア

 

修学旅行初日の夜です。

私はホテル内を見回りながら、各所に探知魔法を仕掛けていきました。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』があればもう少し効率よく警戒できるのですが、仕方がありません。

 

 

ネギ兄様達が防衛隊がどうとか言ってましたから、中の方は大丈夫でしょう。

それで一応、私は外部からの侵入を気にしているというわけなのですが。

 

 

「手が足りませんね……」

 

 

瀬流彦先生にも警戒をお願いしてはいますが、それでも二人。

ネギ兄様を数に入れたとしても、三人。

とてもカバーしきれない……。

相手が物量作戦に出てこないことを、祈るしかありませんね。

 

 

(……刹那さんと……木乃香さん)

 

 

お説教の合間に事情を聞いた限りでは、なんでも幼少時のいざこざで距離を置くことになったのだとか。

なんとも、やるせない話ですね。教師としてはなんとかしたいのですが……。

木乃香さんには、兄様のことで迷惑をかけてしまっていることですし。

 

 

(とはいえ、第三者の私がとやかく言うのも……)

 

 

悩ましいですね。

 

 

「……まぁ、基本は、二人次第ですが…………む」

 

 

探知結界の一部に反応。

反応のあった方角へ走り、窓から外を見ます。

すると今まさに外へと逃げる敵、が……?

 

 

「着ぐるみ……?」

 

 

今度は猿の着ぐるみですか……関西って……。

って、木乃香さんが攫われているじゃありませんか。

兄様…………私は一人しかいないんですよ?

 

 

と、ネギ兄様と明日菜さん、刹那さんが後を追っていますね。

ん~……。

いえ、ネギ兄様に任せるのは不安すぎますので私も後を追いましょう。

 

 

「アリア先生、ちょっといいです?」

 

 

そして、このタイミングで声をかけられる私。

相手は、綾瀬さんと宮崎さん。

いつも一緒で仲がよろしいですね。

 

 

「もうすぐ就寝時間ですが、近衛さんが部屋に戻っていないです」

「そ、それに、ネギせんせーがどこにもいないみたいで……」

 

 

申し訳ありません、今しがた誘拐された木乃香さんを助けに行きました。

そう言えたらどれほど楽か……!

しかし、そんな私に救世主が現れました。

 

 

「あ、いたいた二人とも。ネギ君、なんか明日菜達と一緒に外行ったみたい……って、アリア先生」

「早乙女さん。ナイスな情報です」

 

 

そして、その私を見た瞬間の「あ、やば」みたいな表情はなんですか。

この人達、兄様に何するつもりだったのでしょう。

 

 

「では私はこれからネギあ、ネギ先生達を連れ戻してきますので、綾瀬さん達は部屋に戻ってください。就寝時間は守るように」

 

 

そう言って、颯爽と去ります。

まだ何事か言っているようでしたが、緊急事態につき聞こえなかったことにしておきます。

ネギ兄様の後を追う前に、私にあてがわれた部屋に向かいます。

 

 

「む、やっと来たなアリア、お前も混ざれ!」

「マスター、アリア先生はまだお仕事の時間です」

「やった、あがりです!」

「ケケケ、アガルマエニウノッテイワナキャダメナンダゼ」

「私の部屋でウノやらないでください! あとチャチャゼロさん、なんで動いてるんですか!」

 

 

エヴァさんたちが私の部屋で楽しくウノをやっていました。

私も混ざりたいですが、残念ながら茶々丸さんの言う通りまだ仕事中です。

そして私は、40センチ程の六角形の物体を創り出します。

その中心に、一回り小さな画面が付いています。

 

 

「なんだ、それは?」

「『ヘルメスドライブ』という魔法具です。レーダーのようなものと考えてください」

 

 

瞬間移動もできる優れモノです。

これで兄様達を探しつつ、後を追います。

さすがに、人通りのある場所でこれは使えません。

 

 

では、行きます。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ざ~んが~んけ~ん!」

「くぅ……っ!」

 

 

月詠とかいう剣士の斬撃を、夕凪でなんとか受け止める。

この女、ふざけた格好をしているが強い!

 

 

神鳴流を名乗る割に、禍々しい気を隠そうともしないこの女。

二刀の小太刀による連続攻撃は、相性が悪い……!

 

 

「うふふ、たのしいな~」

「この・・・っ!」

 

 

一刻も早くお嬢様を救わねばならないというのに、できない自分がもどかしい。

お嬢様……!

 

 

視線を動かせば、お嬢様を誘拐した女が呼びだした式神と、ネギ先生と神楽坂さんが戦っている。

その女の腕の中でお嬢様は眠っている、捕えられているのだ。

ネギ先生が拘束用の魔法を放ったが……お嬢様を盾に取られて失敗していた。

早く、行かなければ……!

 

 

「お嬢様!」

「すきありです~」

「なっ、あぐっ!?」

 

 

お嬢様の方に気をとられた一瞬の間に、月詠がすぐ目の前に迫っていた。

一刀で夕凪を抑え、一刀が顔面に……。

 

 

「…………くぅっ!」

 

 

無理やり身体をそらし、かわした。

だがバランスを崩し、無様に地面に転がってしまう…………しまっ。

 

 

「おしまいです~」

 

 

月詠が、私目がけて刀を振り下ろして―――。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

付近に転移後、『翔(フライ)』のカードで上空から様子を見ています。

駅に停車している車両の中が水没した時には焦りましたが、なんとか追い詰めてはいるようですね。

 

 

明日菜さんはアーティファクトらしきハリセンで、相手の式神を消滅させています。

刹那さんは、敵の神鳴流と思わしき剣士と切り合っているようです。

2人とも、前衛としてまずまずの働きぶりですね。

それに対して兄様は・・・。

 

 

「あっ・・・曲がれ!」

 

 

相手の眼鏡の女性が木乃香さんを盾にすると、拘束用の魔法をわざと外しました。

えー……兄様―……。

その魔法拘束用だから当たっても大丈夫でしょうに。

それに、そんなことをしてしまうと……。

 

 

「はは~ん、なるほど、甘ちゃんやな。人質がおったら攻撃できひんのか?」

 

 

とか言って、相手の女性が木乃香さんを盾にし始めました……。

ダメダメですね……。

 

 

「お嬢様!」

「すきありです~」

「なっ、あぐっ!?」

 

 

そしてそれに気を取られた刹那さんが、その隙をつかれて窮地に陥ってしまいます。

明日菜さんも援護に行きたいようですが、式神に邪魔されて動けませんね。

…………ちぃ。

 

 

 

 

 

「おしまいです~」

「くっ……!」

 

 

地面に転がった刹那さんが、やられる! とばかりに目をキツく閉じます。

しかし…。

 

 

「な、なんや、あんたは!」

 

 

そうは、させません。

 

 

「……大丈夫ですか? 刹那さん」

「あ、アリア先生……?」

 

 

呆然とした表情を浮かべる刹那さん。

その目の前で、私は敵の神鳴流の剣士……ゴシック・ロリータファッションに身を包んだ、小太刀と短刀を備えた少女の剣を受け止めていました。

私の手には、一本の刀。

 

 

ぎぃんっ!

 

 

金属音を発して、距離を取る剣士。

…………ずいぶんと血の匂いのキツい方ですね。

 

 

「だれどすか~」

「何、ただの副担任です。名乗るほどの者ではありませんよ」

「せんぱいもたのしかったけど・・・あんさんもおもしろそうやね~」

 

 

そう言って頂けるのは、嬉しいのですけど。

 

 

「あいにく、剣術には自信がありませんので」

 

 

ひゅん、と刀を目の前にかざして、言います。

 

 

「散りなさい……『千本桜』」

 

 

次の瞬間、私の刀の刀身が消え無数の桜の花びらとなって散ります。

しかしそれは、ひとつひとつが刃。

それにこもる殺気に気付いた時には、もう遅い。

 

 

「きゃ……!」

 

 

花弁が消えた後には……切り刻まれた、神鳴流剣士の姿。

殺してはいませんよ?

……そういえば、名前も聞いていませんでしたが……。

 

 

「そ、そんな、月詠はんが一瞬で……」

 

 

月詠さんと言うらしいですね。

次いで私は指にはめた魔法具、『黒叡の指輪』を振りかざします。

 

 

「『闇よ……有れ』!」

 

 

影から生まれた無数の獣が、明日菜さんと切り結んでいた式神を一瞬で切り刻みます。

そして。

 

 

「ぐぅっ……!?」

 

 

木乃香さんを抱えていた敵の腕に影獣が喰らいつき、木乃香さんを奪い返します。

地面に落ちそうになった木乃香さんを、他の影獣たちが優しく受け止めます。

 

 

「……確かに、返していただきました」

「な、何者や……あんた」

 

 

腕を喰い千切りこそしませんでしたが、結構な血の量ですから軽傷ではないでしょう。

それでも体勢を崩さないあたり……プロですね。

 

 

「ど、どうしてこんなことをするんですか!?」

 

 

ネギ兄様が空気の読めないことを言いますが、ここは無視しま……!

 

 

「兄様!」

「えっ・・・うわ!?」

 

 

兄様めがけて、土……いえ、石の属性の槍が殺到しました。

とっさに袖に仕込んでおいた『速(スピード)』のさ○らカードを発動、兄様の前に立ちます!

 

 

『全てを喰らう……』

 

 

左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で石の槍に込められた魔力を吸収、隆起してきた岩は影獣で相殺します。

……なるべく手札は残しておきたかったのですが。

しかし、とにかく新手のようです。そちらに……。

 

 

「…………今のを受け止めるとは、やるね」

 

 

 

 

胸が、締め付けられるような感覚。

懐かしい何かに出会った、そんな気持ち。

 

 

 

 

……そこにいたのは、白い髪の少年でした。

動かない表情に、感情の色の見えない瞳。

彼は私のことを、じっと見つめていました。

 

 

「ふぇ、フェイトはん、助かりましたわ……」

「……ここは分が悪いね。一度退くとしよう、千草さん」

「そ、そやな・・・覚えとき!」

 

 

分が悪いとは、どういうことでしょうか。

貴方なら、ここにいる全員を簡単に殺せる。

それが、私にはわかる。

どうしてわかる? ……わからない。

 

 

ずぶずぶと地面に沈んでいくフェイトさんと……千草さん……。

……月詠さんも、どうやら同じようです。

その中にあって……フェイトさんの目は、私を見つめているように思えました。

 

 

「待て!」

 

 

刹那さんが追いかけようとしますが、転移されてはどうしようもありません。

普段の私ならどうしたかはわかりませんが、今の私はどこかおかしい。

心が、ざわついて止まらない。

これは、この気持ちは、何?

 

 

「くっ……お、お嬢様!?」

 

 

悔しそうな顔をする刹那さんですが、すぐに木乃香さんの方へ。

私はとりあえず刹那さんに木乃香さんを渡すと、影獣を消しました。

 

 

「……早めに戻るようにしてくださいね」

 

 

まぁ、一度撃退した以上、帰りは襲ってくることはないでしょう。

私は先に帰って、他の生徒のみなさんを見なければ……。

 

 

「あ、あの、アリア先生!」

「はい?」

 

 

木乃香さんを抱えた刹那さんが、私を呼びとめました。

 

 

「あ、あの……ありがとうございました。アリア先生がいなければ、どうなっていたか……」

「……大したことは、していませんよ」

 

 

では、と言って私は足早にその場を去りました。

何か言いたそうな顔でネギ兄様がこちらを見ていましたが、いちいち相手をしていられません。

面倒ですもの。

そんなことよりも……。

 

 

そんなことよりも、ざわついたこの気持ちを鎮めるのが先です。

いつだったか、私はこの気持ちを何度か感じたことがあるはずなのです。

いつ? ……わからない。

 

 

フェイトさん。

私は彼の事をどれだけ知っていますか?

原作では、どういう立ち位置にいましたか?

最近は記憶が曖昧で自信がありませんが……敵、として存在していたことは確か。

 

 

けれど、彼は敵ではないと叫ぶ自分がいます。

状況からすれば、明らかに敵。

そもそも、直に出会ったのはこれが初めてのはず。

なのに……。

 

 

………………やめましょう。

私は考えることを一旦やめ、ざわつく心を無理矢理抑え付けます。

考えても、おそらくは意味のないことです。

 

 

私は教師、理由はどうあれ生徒を襲う彼らは敵。

それでいい、他のことは全て後回しです。

それでも私は確信を持って、断言できることがあります。

・・・シンシア姉様。

 

 

 

 

 

アリアは彼に会わなければならない、そんな気がします。

 




アリア:
初めまして、そうでない方はこんにちは。アリア・スプリングフィールドです。
数名の方が、本文中で登場する「シンシア姉様」を気にしている様子。
私にとって、どんな存在なのか。それをここで説明することはできませんが、本編で詳しい説明が出る時期を、少しだけお教えいたします。

今のところ、ネギ兄様が過去を話すことになる弟子入り試験編~悪魔襲撃編のどこかで、と考えています。
理由は、そこが私の過去に最も近付く場面だろうと考えられるからです。


また、今回のお話の中で私が使用した魔法具「ヘルメスドライブ」は、元ネタを「武装錬金」と言います。
水色様、月音様、元ネタ紹介とアイデア提供、ありがとうございました。


さて、次話は修学旅行編2日目に入ります。
多少の問題はあるものの、生徒のみなさんが旅行を楽しめるよう、微力を尽くしたいと思います。

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